【東京・西荻窪】BAR「三人灯」店主 水越強さんインタビュー 揺れる再開発と反対運動「地域から国家を解体する」
資本主義の延命のために都市再開発が繰り返される中、東京都杉並区のJR西荻窪駅周辺でも駅前再開発の計画が進む。だが駅から北の青梅街道まで続く、区道補助132号線の道路拡張計画への反対運動が高揚している。これを背景に、昨年の杉並区長選挙で再開発に慎重な岸本聡子氏が当選。今春の区議会議員選挙でも新人議員が当選。注目すべき動きだ。
そこで、西荻窪駅近くの「三人灯」で店主を務めながら、再開発反対運動をしている水越強さんに、開店のきっかけ、地域の自治運動のあり方、国家や資本主義の解体について聞いた。
――お店を始めた経緯を教えてください。
水越 大学3年生だった2000年、批評家の柄谷行人らによる「ニュー・アソシエーシエーショニスト・ムーブメント」(NAM)が始まった。
当時、俺はマルクス経済学を勉強していて、いかに資本制をストップさせるか、みたいなことしか考えていなくて、国家への視点がなかった。そこにNAMから、国家か資本制のどちらかだけを廃棄するのではなく、「キャピタル(資本)―ネーション(民族)―ステート(国家)」ってトリニティ(三位一体)に対して働きかけないと駄目だ、という視座が入ってきた。資本制と国家を否定しつつ、違うものを創っていくことを目指すという、倫理に基づいたプロジェクトに可能性を感じた。
それで、俺も自分で何かカウンターアクションをやろうと思った。とりあえず飲食店を始めてから、NAMに入るつもりだった。人が交差する場、実際に人が出会う場がないと話にならないから、商店商売というパッケージを選んだ。それが俺にできることだった。
――お店を出す駅になぜ西荻窪を選びましたか?
水越 西荻窪駅は中央線で一番乗降客数が少なくて、地域の人がその地域のことにわりと関心が高いエリアだった。
それによくわからない場所や人が、前はもっとあった。つまり、資本制にとっては無駄な場所や人がいて、隙間があった。そこにローカルなポイントになるようなバーを作ろうというのが一案だった。そこに出入りする連中と、何か共有したり、刺激し合ったりできるのを期待していた。それで西荻窪という町を選んだ。
――店を始めた後は何をやっていましたか?
水越 店の切り盛りと、店の2階で勉強会、読書会をずっと断続的にやっていた。3・11原発事故の後には「西荻評議会」ってのを立ち上げて、「デモでもやるか」みたいな感じでデモを始めた。
俺が初めて行ったのは02~03年のイラク反戦デモで、熱があった。2~3万人ぐらいが銀座の道路を、瞬間的に決壊して埋め尽くした。デモってすげえなって思った。あの時の雰囲気だとこれがどんどん広まるだろうって楽観的に見ていた。当時から、資本制はもうどんづまりだっていう認識があった。もう死滅させる方向に行くだろうっていう機運が今よりあった。
でもその後は、市民社会のカウンターパワーがどんどん衰退してきたっていう危機感を持ってる。
西荻窪再開発問題
西荻窪駅の南北にまたがる132号線の道路計画は、1966年に設定されたが実施されてこなかった。だが、2016年に策定された都市計画道路の第四次事業化計画で、優先整備路線となったことで測量が始まった。駅の北側に続く道と駅前の南側の一部を対象として、道路拡張にむけた用地買収などの交渉が始まっている。
計画は災害時の防災機能向上と地域拠点へのアクセス向上を目的として挙げている。これに対し、計画実施が拙速で住民の同意を得ていないこと、道路拡張自体の合理性が疑わしいこと、道路拡張により駅前に巨大建築が可能になることや大規模資本の参入が増えうること、など様々な理由から反対運動がなされている。
市民派市長誕生でも止まらない再開発
――再開発計画が西荻窪で問題になったのはいつ頃からですか?
水越 それはつい最近で、コロナの前。まず道路の地権者が再開発問題に直面して、相談された。
話を聞いてみると、「それはとんでもない、一緒に戦おう」ってなった。とりあえず俺はみんなに知らしめることをやりますわ、ということで「西荻アピール」を立ち上げて、毎月のデモとミーティングを始めた。
――それから4年、去年は再開発慎重派の市長を当選できました。議会はどうでしょうか?
水越 とはいえ、全部ひっくり返すところまでは行っていない。区議会の多数派は自公。それに都市計画道路という、東京都が認可を出す事業だから、区長がやめますと言っても止められない。議会で反対派が多くなって、都にやめますって返上することもできるんだけど、それができるほどの議会構成でもない。区長が変わっただけでは無理。
それよりも、本当に住民がもっとでかい声で意思表示をし続ければ、行政もさすがに手を出せない。みんなギャンギャン言っていたら、用地の買収とかできない。
そういう理由もあって、俺は今まで、選挙で現実を変えるという手段には興味がなかったんだ。今はもちろん区長選や区議選とか、いろいろ肩入れはしているけど、結局それも投票っていう匿名の意思表示に過ぎない。
日々、どういう意思表示をするかという方が肝。
倫理的なメディアとしての地域通貨
水越 今、いわゆる市民社会の力がどんどん落ちている。それで改めて、景気の善し悪しに左右されない武器としての地域通貨の導入を考えている。杉並には色んな市民運動をやっている人がいるけど、経済活動は基本的にバラバラ。物的に共有するものがないと、それはすごく脆い。
区長選や区議選も経て、政治運動や団体に多少広がりが出てきた。でも、結局みんな、あとは各自で頑張ろうみたいな感じになっている。それを包摂できたり、アソシエイトするようなメディア(媒体)が必要だと思う。そこに地域通貨の可能性を見いだしていいんじゃないかな。
――地域通貨を、運動を繋ぐメディアとして始めたいということですか?
水越 そうしたい。地域通貨って、経済を活性化するためのものじゃなくて、あくまで倫理的なメディアとしてなんだ。
地域通貨は基本的に市民の方から発行して回す。行政からのものは区内でどう回すかみたいな話になり、どうしても地域クーポンになっちゃう。地域振興券じゃ駄目。景気に左右されない自治、そういうプロジェクトのために地域通貨をやりたい。
――今、水越さんたちは、住民のミーティングも、街宣スタンディングも、最近だと入管のデモもやっていますね。デモって、東京なら国会前というイメージがあります。それ以外の地域でデモをやるのは少ないのではないですか? その意味では、政治をローカルな場所で表出してきたように思います。
水越 そうね。まずは自分の住んでる周りから変える。それをやるには、自分のいるエリアで、まともな主権者が増えないと話にならない。他人を変えるのは一番難しいことだけど、自分のこととして色々引き受けられるやつを増やすべきなんだ。
国家を否定する運動を
水越 今の市民運動に共通してるのは、「民主主義を守ろう」みたいなワードなんだよね。それだと、ちょっときつい。資本制と国家に対してのスタンスが、どこもしょぼいんだよ。「人間の顔をした資本主義」なり、「人間の顔をした民主主義」ならいいとかさ、国家と資本制が前提になっている。
現実的に、目の前のダメな法案に対して抵抗するっていうのはいいけど、理念がありますかといった時に、それが「人間の顔をした〇〇」だと、ちょっとまずいよ。
――結局、福祉政策だって、国家への批判と否定なしに超福祉国家を求めると、大きい政府と積極財政になる。反緊縮であろうが、いろんな流派があろうが、それは国家と資本制を前提としています。そして国家に依存していたら、つまるところそれは選挙に依存することになる、と。
水越 岸本区長も言っている「地域自治・地域主権」からは、絶対に国家の拒否が出てこざるを得ないと思う。国家に何か作ってくれっていうんじゃなくて、まずはそこを否定するところから入るんだ。
今更、また「民主主義守ろう」みたいなのはちょっと勘弁してくれよ、っていう感じがするんだよね。「じゃあ、どうすればいいんだ」ってなるけど、そんなものすぐ出せるわけがないんだ。あくまで大きい理念が重要。それがあって、目の前のことをちょっとずつやっていくっていう両輪でやんなきゃ。
だから、どうやって国家をまともにするかっていうんじゃなくて、国家なんて昔からくそだからと、国家を前提にしない。目の前で実際に、いろんな国籍とか関係なくみんなが関わりあっている以上、これを現実にしてしまえばいい。この関係性があるのになんで国家主義に行くんだよ。それを考えてみても、資本や国家から自律したネットワークを維持するための武器にもなりうる、倫理的メディアとしての地域通貨ってのは、可能性があるんじゃないかな。
(人民新聞 2023年10月5日号掲載)
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