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教育基本法改正20年 かつての与党協議の議事録を入手

教育

“教育の憲法”とも呼ばれる教育基本法が改正、施行されてことしで20年です。改正にあたって教育の目標にいわゆる「愛国心」を盛り込むかどうかで大きな論争を呼びましたが、今回、NHKは当時の与党の政治家や文部科学省の幹部らが非公開で行っていた協議の議事録を入手しました。かつて文部科学省が「作成していない」としていた議事録には、愛国心をめぐって激しい対立から合意に至るまでの複数の政治家の発言が詳しく記されており、専門家は法案成立までの過程を知る重要な資料だとしています。

教育の理念や目的を定めた“教育の憲法”とも呼ばれる「教育基本法」は、1947年に制定されましたが、今から20年前の2006年に、教育を取り巻く環境が変化したことなどを理由に改正されました。

改正にあたって最大の焦点は、それまで記載がなかった「愛国心」を教育の目標に盛り込むかどうかで社会的に大きな論争を呼びました。

今回、NHKは2003年から2006年にかけて当時の与党の政治家たちが法案作成のために非公開で行った協議について、文部科学省の職員が作成した議事録などあわせて622ページを入手しました。

文部科学省は20年前、この議事録についての情報公開請求に対し、「文部科学省の主催する会議でないことから、作成していないし、保有もしていない」として不開示の決定をしています。

今回、入手した議事録には自民党の議員らが「今のままでは日本を否定する子ども達になりかねない」とか、「外国から攻められたときに日本を守るのだという気持は誰が教えるのか」、「愛国心についてはきっちりと謳うべきと思う」などとして愛国心を明記するよう強く求めているのが伺えます。

これに対し公明党の議員らは「『国を愛する心』を書き込むことは非常に問題がある。たいへん危険な話であると言わざるを得ない」とか、「時の為政者の都合のいいように利用されかねない」などとして慎重な姿勢を取っています。

あるときには、公明党の議員が愛国心を法律に明記することを「絶対にやめてほしい」と発言したのに対し、自民党の議員が「絶対に入れてほしい」と応じるなど、激しく対立するやりとりもありました。

こうした議論を踏まえて、自民・公明両党は「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」とする最終報告に合意し、第一次安倍政権時代の2006年12月に改正・施行されました。

議事録について文部科学省は、「改めて省内を確認したが、該当の記録は見つからず、作成・保有していないという認識に変わりはない」とコメントしています。

教育政策に詳しい信州大学の荒井英治郎准教授は、「愛国心をめぐってぶつかり稽古というか、政治家たちの率直な国への危機感がみてとれる。政治的な産物として法案成立するまでの過程を知る極めて重要な資料だ。教育の憲法と言われる法律だけに、歴史的な検証をする意味でも透明性を担保するため議事録を公開すべきだ」と話しています。


議事録の詳報

今回、入手した議事録は教育基本法の改正にあたって設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」とその下に設置された「与党教育基本法改正に関する検討会」のものです。

2003年5月12日から2006年4月13日までに協議会は10回、検討会は70回、開催されていて議事録などは622ページに上ります。

改正にあたっての意義や位置づけについて、出席した政治家たちは次のように述べていました。

(自民党議員)
「戦後は、平和主義、民主主義、文化国家の建設を理念としてやってきた。そのことについては否定できないが、21世紀に入ってもなお、そのままの指導理念で日本は大丈夫かということを問い直さないといけない。世界のリーダーとしての日本の理念は何か。これは教育基本法の前文に掲げられるべき」

(公明党議員)
「教育基本法は、憲法に準ずるたいへん重要な法律だ。教育基本法についても、もっと大がかりに政治家たちが議論する必要がある。教育基本法が誤っていることが本当に諸問題の原因なのかについて考えなければいけないし、不登校やいじめはなぜ起きているのか、社会の諸問題も視野に入れながら広汎な議論を行うことも必要であると考えている」。

改正の最大の焦点だった「愛国心」を法律に明記するかどうか、激しく議論している様子がうかがえます。

【平成16年5月26日】
(自民党議員)
「今のままでは日本を否定する子ども達になりかねない。法律できちんと謳うことが重要である」

(公明党議員)
「法律に書いたからといって、そのような子どもが育つわけではない」

(自民党議員)
「教師の態度や学習指導要領に反映されることにより変わる」

(公明党議員)
「教育とは、一人一人の精神性を育てるものであって、人間の中身を膨らませることを強調すべきである。愛しうる国家を作るのは、教育の力ではなく、政治の責任である」

(自民党議員)
「しかし、子どもは教えないと分からない。デタラメな教育のせいで今のようになった」

【平成16年6月9日】
(公明党議員)
「今日は、統治機構云々の時代ではないが、愛と結びつくと愛国心につながるので、戦前を思い起こす年寄りがいる間は「国を重んじ」とか「国をなんとか」など、何かいい代わる言葉はないか」

(自民党議員)
「愛国心を強制するのではなく、肯定的に涵養することが大事。国を愛する心については、長い間否定的な感覚があったが、国のために仕事をするという思いは大事であり、肯定的に考えることが大事というのが自民党の大体の思い。天皇中心の国家をつくろうというのではない」

【平成17年6月1日】
(自民党議員)
「日本だけならばいいのだけれど、外国から攻められたときに日本を守るのだという気持ちはどこで誰が教えるのか。伝統や文化を大事にするだけでなく、そういう気持ちを教えなければ、自分たちの国を存続することができないのではないか」

(自民党議員)
「一つの価値観を教えるのが教育である」

(公明党議員)
「その価値観を法律で定めて教えるというのか」

(自民党議員)
「そうだ。それがダメならどうやって価値観を教えていくのか。国民の代表である我々が決めるのである」

議論が対立する中、妥協点を探る発言も。

(自民党議員)
「我が党的にいうと、『国を愛し』というと引っかかる人もいれば、『国を愛しで何がダメなのか』という強い信念の方も多く、頭が痛い。そういう人たちをどう説得していいものか苦境に立っている。党内の問題でもあり、『愛し』とするか『大切にし』とするか、それとも第三の道になるのか我々も勉強する必要がある。こんなことを言っては「愛国」派に叱られるかもしれないが、どこかでは結論を出す必要があろう」

最終的に、「愛国心」という言葉を使わず、「我が国と郷土を愛する」と表現し、政府などの統治機構を含まないように表現することで合意に至ります。

【平成18年4月12日】
(自民党議員)
「『国』ではなく『我が国』としているのは、統治機構を含まないということや、○○先生のおっしゃる「patriotism」の匂いを出すためということである。「他国を尊重し」とあるのは、「我が国を愛し」だけ入っていたのでは自国の利益ばかりを優先すると思われてしまうためである。「国際社会の平和と発展に寄与する」というのは、漠然としているが、他国にもいろいろな文化があり、伝統があるということを理解することなしには、平和を築くことはできないという意味もある。「尊重」という言葉が二回出てくるため、語呂の問題はあるが、これが思いを一にできる案と考える」

そして最終的に自民・公明の双方の主張を取り入れる形で、教育基本法第2条に次のように明記されました。

「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」


間近で見た元文科官僚は

かつて文部科学省の事務次官を務めた銭谷眞美氏は、当時の与党の協議を間近で見ていました。

銭谷氏は、「国会の先生方は時代が変わっても普遍的に変わらない規定もあるんじゃないかと、毎週のように真剣に議論していたと記憶している。いわゆる愛国心についても、自分が生まれ育った日本の歴史や文化、伝統を理解したうえで国際協調の精神に立って、国を愛する心情を養うのは自然なことだ。結果的に新しい時代にふさわしい教育基本法ができたと思っている」と話していました。

独自カリキュラムで愛国心を

独自のカリキュラムで国を愛する心を育もうとする学校もあります。

おととし、福岡県北九州市に開校した私立の小中一貫校「志明館」です。

現在、小学校1年生から4年生までの66人が通っています。

学校の教育方針の1つが「自国の歴史・伝統を正しく学び、美しき母国語を語る」。

教育基本法の改正を踏まえて国や郷土を愛する心を養うことを大切にした独自の授業や行事を行っています。

例えば毎年、入学式では新入生ははかまを着用して出席したり、外部の講師を招いて1年生から本格的な茶道を学ぶ授業を行ったりしています。

さらに週1回行われている独自の科目「寺子屋」では、世界で活躍した偉人の功績などを子どもたちに伝えています。

取材に訪れた日の3年生の授業では、大手自動車メーカー・ホンダの創業者、本田宗一郎氏がテーマになっていて、失敗と挑戦を繰り返して世界に影響力のある日本人となった功績を教えていました。

世界で活躍できる人材の土台として国を愛する心を育むとともに、国際性を伸ばすために英語教育にも力を入れています。

小学1年生から週4時間、外国人の講師が英語の授業を行うほか、台湾やオーストラリアの姉妹校との交流も定期的に開催しています。

八尋太郎校長は、「国際化が進み、さらにはAIが発展し、たくさんの情報がある中で、子どもたちには土台が必要で、そのために自分の国の伝統や文化、郷土などのルーツを重視する教育を行っている。価値観や考え方を押しつけるという意識はまったくない。今の子どもたちに何が必要なのかというのを考えて常にやっている。右でも左でもなくうちの学校は“真ん中”の学校だと思っている」と話していました。

外国人急増の学校は

教育基本法が改正された20年前から教育環境が大きく変化する中、愛国心とどう向き合うのか、学校現場では模索が続けられています。

文部科学省によりますと公立学校に在籍する日本語指導が必要な外国籍などの子どもは、昨年度8万4759人で過去最多となっていて、20年前と比べておよそ3倍に増えています。

東京・豊島区の池袋小学校は、外国人の児童が増えていて、全校児童のおよそ3割を占めています。

日本での暮らしをサポートするため、ことばの指導や文化を伝える日本語学級に力を入れています。

また、児童の国籍が多様化する中、日本を愛するということだけでいいのか、試行錯誤を続けていて、日本だけでなく母国への理解も深めてほしいと、「国際理解週間」と名付けて、生まれ育った国の民族衣装を着て踊りを披露するなどの催しも開いているということです。

池袋小学校の梅津恵美子副校長は「日本の学校なので日本のことを教えるのは当然だと思う。学校で友達や先生と過ごすことが楽しいと感じることが、日本の文化を愛することにつながると思う。一方で母国を愛する気持ちを消し去れということはありません」と話していました。

専門家「愛国心 社会や国をよりよくしていく1つの表れ」

教育政策に詳しい武蔵野大学の貝塚茂樹教授は、「愛国心というと戦争につながるスローガンになるのではないかと考える傾向にあるが、社会や国をよりよくしていくという1つの表れだ。グローバル化が進み、みずからのアイデンティティーが問われる時代の中、愛するに値する国づくりをしていくために、愛国心のあり方を追求していく必要がある」と指摘しました。

そのうえで「教育基本法に明記されているにもかかわらず伝統文化を教えることで愛国心の一端に触れるようなやり方が一般的になっているが、過去の失敗を乗り越えて、より明確に愛国心と向き合うことで、今後の社会をどう築くかを考える方向に向かうべきだ」と話していました。

専門家「排外主義のようなリスク 常にある」

教育政策に詳しい信州大学の荒井英治郎准教授は「学校現場で日本的な価値観の指導が過度に強調されると、自分の国を優先するあまり他国や他者を虐げてしまういわゆる排外主義のようなリスクは常にある。愛国心は教員にとっては真摯に向き合えば向き合うほどジレンマを感じるものだ」と指摘しました。

そのうえで「外国籍の子どもたちが増えて、学校の多国籍化が進んでいる中、日本的な価値観だけを強調すると、外国籍の子どもにとってアイデンティティや価値観が揺らぐことにもなりかねない。異質な考え方、多様な考え方を交換し合うことで私たち人間は作り上げられていくことを、子どもたちに伝えていくことが求められる」と話していました。

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