百度、端到端OCR「Unlimited OCR」をオープンソース化、SOTAを達成——技術責任者はDeepSeek出身の中心人物か
視覚言語モデルが数千億パラメータ規模を競う中、百度はその流れに逆行し、アクティブパラメータがわずか5億という「深海魚雷」を投下した。6月22日、百度は端到端OCRモデル「Unlimited OCR」を正式にオープンソース化。文書解析の主要ベンチマーク「OmniDocBench v1.5」において、総合スコア93.23%を叩き出して世界記録を更新し、GPT-4oやQwen3-VLといった巨大モデルを一気に抜き去り、端到端のSOTA(最先端性能)を獲得した。さらに業界に衝撃を与えたのは、このモデルが標準的な32Kコンテキストウィンドウ内で、数十ページに及ぶ文書の一気通貫の連続解析を初めて実現した点だ。これにより、従来のOCRシステムがページ単位でしか処理できなかった工学的な制約を完全に打破した。
その驚異的な性能とは対照的なのが、極限までの軽量化である。Unlimited OCRはMixture of Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、総パラメータ数は30億だが、推論時に実際にアクティブ化されるパラメータはわずか5億にとどまる。しかし、この「端数」レベルの小型モデルが、OmniDocBench v1.5において、2350億パラメータを誇るQwen3-VL(スコア89.15)を引き離しただけでなく、そのベースラインモデルであるDeepSeek OCRの87.01%をも6ポイント以上も上回った。最新のv1.6ベンチマークでは、Unlimited OCRはSOTAをさらに93.92%にまで押し上げている。
1回のフォワード推論で本を1冊読み切る
これまで、OCRシステムで長文文書を処理するには、外部スケジューラによるページ単位の分割が不可欠だった。モデルは1ページ認識するたびにメモリをクリアし、外部プログラムが機械的に結果をつなぎ合わせる。この「Forループ」パラダイムは、意味的な連続性を分断するだけでなく、工学的な弥縫策に過ぎなかった。その根本原因は、デコード段階の致命的な欠陥にある。生成テキストが長くなるにつれて、標準的なアテンション機構下のKVキャッシュが雪だるま式に膨張し、GPUメモリ使用量が線形的に増加し、生成速度が持続的に低下するのだ。
Unlimited OCRの中核的なブレークスルーは、このデコード側の歴史的難題を直接解決した点にある。百度の研究チームはエンコーダを再構築することなく、DeepSeek OCRで卓越した性能を示したDeepEncoderをそのまま継承した。このエンコーダは、1024×1024の文書ページをわずか256個のビジュアルトークンにまで極限圧縮できる。その上で百度は、標準的なマルチヘッド・アテンション(MHA)を、「参照スライディングウィンドウ・アテンション(Reference Sliding Window Attention、R-SWA)」に革新的に置き換えた。
R-SWAの設計は、人間が文書を書き写す際の認知パターンから着想を得ている。人間が長巻を書き写す際、過去に書き写した数百ページの内容を完全に思い出すことはなく、目は元の書面を追いながら、脳内には書き終えたばかりのごく短い文章だけを保持している。百度はこの「ソフトな忘却」能力をモデルアーキテクチャに組み込んだ。モデルは常に全ての参照情報(元文書のビジュアルトークンとプロンプト)を見ることができるが、出力側では、デコーダは直近に生成された128トークンのみを作業記憶として保持する。これは、出力シーケンスがどれほど長くなろうとも、KVキャッシュが固定容量のキューにロックされ、計算オーバーヘッドとGPUメモリ使用量が出力長に応じて無限に増加することがなくなることを意味する。
技術報告書の実験データは、この変更の効果を如実に示している。Flash Attention v3カーネルのレイテンシテストにおいて、DeepSeek OCRの標準MHAはデコードステップの増加に伴い、1回の呼び出し時間が着実に上昇した。一方、Unlimited OCRのR-SWAは最初から最後までほぼフラットなラインを描いた。出力長が6000トークンに達した時点で、DeepSeek OCRの推論速度はUnlimited OCRより35%も遅れていた。長文書解析テストでは、20ページの文書を同時に入力した場合、Unlimited OCRの転写編集距離はわずか0.057。40ページを超える入力でも、編集距離は0.11以下に抑えられ、出力の多様性を示すDistinct-35指標は97%に達し、超長距離タスクにおいてモデルが繰り返し出力の罠にほぼ陥らないことを証明している。
9つの文書タイプ全てに死角なし
OmniDocBench v1.5の細分類解析において、Unlimited OCRは極めて高い汎化能力を示した。レイアウトが複雑なPPT、新聞、雑誌であれ、構造が厳密な学術論文や書籍であれ、このモデルはテキスト認識と読み順の復元という2つの核心指標において、DeepSeek OCRを全面的に上回った。
具体的なデータを見ると、Unlimited OCRはテキスト編集距離をDeepSeek OCRの0.073から0.038へと大幅に低減し、数式認識のCDMを83.37から92.61へと急上昇させ、表解析のTEDSも84.97から90.93へと引き上げた。これは、R-SWA機構が単純なプレーンテキストだけでなく、カラー教材から研究報告書に至るまで、高度に複雑な文書解析シーンをカバーできることを示している。
謎の技術責任者「YY」とDeepSeekの深い関係
Unlimited OCRの発表後、その技術報告書の文体と著者名はたちまち業界内で大きな話題を呼んだ。報告書内ではDeepSeek OCRへの言及が40回にも及び、その表現は通常の競合ベンチマークというよりは、むしろ自身の先行研究に対する反省と改良のように読める。
HuggingFaceのプロジェクトページの謝辞欄で、百度はDeepSeek-OCRとDeepSeek-OCR-2を筆頭に明記している。また、中核著者リストでは、実名を使用しているプロジェクトリーダーのHuanhuan Liu氏らを除き、技術責任者の欄には「YY」とのみ署名されている。この謎めいたイニシャルは、外部で広範な憶測を呼んでいる。この技術のキーパーソンは、DeepSeek OCRシリーズの中核著者その人なのではないか、と。
公開情報を整理すると、DeepSeek OCRは初代から2代目まで、中核著者は一貫して魏浩然、孫耀峰、李宇琨の3氏であった。中でも魏浩然氏は、それ以前に端到端OCRとして最も早く実用化されたオープンソースのベンチマークであるGOT-OCR2.0の開発を主導し、DeepSeek加入後はOCR技術ライン全体をゼロから構築。DeepEncoderとMoEデコーダはいずれも同氏のチームによる成果だ。今年4月にDeepSeekがV4モデルを発表した際、魏浩然氏の名前は既に退職状態と記載されており、その後の去就は今日に至るまで公表されていない。
中国国内のOCR分野の技術コミュニティは極めて狭い。DeepSeek OCRのアーキテクチャに対して「自ら手がけた」レベルの熟知度を持ち、その上でR-SWAレベルのブレークスルーを達成できる研究者は数えるほどしかいない。「YY」と署名した技術責任者が魏浩然氏であるとすれば、Unlimited OCRとDeepSeek OCRの間のほぼ継ぎ目のない技術的連続性は、もはや驚くに値しない。
産業基盤と先端研究の「双向奔赴」
今回のUnlimited OCRの発表は、百度のOCR分野における技術路線の大きな転換点も示している。過去数年間、百度のPaddleOCRは業界トップの座を長期にわたり維持し、オープンソース、軽量、幅広い産業実装で知られ、スマートフォンから組み込み機器まで主流のアプリケーションシーンをカバーしてきた。しかし、これまでの百度は工学的な安定性と導入コストの抑制をより重視しており、「先端研究の理念でOCRのパラダイムを再構築する」ことは、その主たる訴求点ではなかった。
Unlimited OCRの登場は、このギャップを埋めるものだ。GOT-OCR2.0の端到端の一括解析から、DeepSeek OCRの極限的な視覚圧縮、そしてR-SWAが駆動する長距離解析に至るまで、百度は「大規模展開が可能でありながら、パラダイムを継続的にリードし続ける」という完全な道筋を切り開きつつある。百度は今年、AIDU人材計画をグループレベルのプロジェクトに格上げし、報酬に上限を設けていない。研究の実装サイクルを追求する技術人材にとって、百度が長年かけて敷設した産業基盤は極めて強い魅力を持つ。
論文の展望では、次のステップとして、チームはコンテキストウィンドウを128Kまで訓練し、モデルが自動的にページをめくれるようにする「prefill pool」の構築を計画していることが明かされた。この目標が実現すれば、OCRはもはや単にページ上の文字を認識するツールではなく、本一冊全体を真に理解できる汎用長距離解析フレームワークとなる。百度は報告書内で、R-SWAは汎用的な解析機構であり、OCRはその第一歩に過ぎず、今後は自動音声認識や機械翻訳など、より多くの長距離シーケンスタスクへの展開が期待されると明言している。
現在、Unlimited OCRのモデルウェイトとコードはGitHubおよびHuggingFaceで同時に公開されており、世界中の開発者がダウンロードして利用できる。