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フリーライター、鈴木智彦氏が絶賛する、ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』ガイド。
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鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

違いをはっきりさせるには、『囀る鳥は羽ばたかない』3巻の書影とともにリリースされた、版元の公式なあらすじをみるのが最適です。 bs-garden.com/system/comics_… 大洋のBL総合サイトなんだろうか。長いので2分割して引用してみます。

2015-05-20 23:23:44
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

真誠会若頭の矢代は、男なら誰でもいい淫乱と噂される男だったが、部下には手を出さないと決めていた。けれど、付き人兼用心棒の百目鬼だけは例外だった。性的に不能で感情を見せない百目鬼の存在は、何をしても性的対象として見られることのない安心できる存在のはずだった。(続く)

2015-05-20 23:24:26
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

一方、何者かの銃弾に倒れた矢代を目にした百目鬼は、自分の矢代への想いがなんであるのか、はっきりと理解した。矢代のために変わることを決意した百目鬼と、そんな百目鬼に戸惑う矢代。ふたりの関係が変わり始めた──!?(引用終わり)

2015-05-20 23:25:11
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

これを読むと、なるほどここがファンに対するセールス・ポイントなのかと推測できる。編集は読者への窓口であり、作品のプロデューサーです。そこが萌えと言い換えていい。でも俺がこのパブを書いたら、まったく違うものになるんです。試しに最初の一センテンスを同じにして書いてみたいと思います

2015-05-20 23:27:09
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

真誠会若頭の矢代は、組長と若い衆の間に挟まれながら、掛け合いをこなし、企業舎弟の経営も行う硬軟揃った切れ者だ。業界筋で「笑っているようにみえても切れている」と恐れられる反面、異常性欲者でもあり、性癖がマゾ志向のケツ受けのため「ドMで変態で淫乱ネコで幹部の公衆便所」と噂される(続

2015-05-20 23:30:25
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

矢代は謎のヒットマンに銃撃されるが一命を取り留める。運転手兼ボディガードで末端組員の百目鬼は盾になれず、けじめを付けるため小指を詰めた。血眼になって真犯人を追いかける真誠会は特殊な拳銃から武器ルートを辿り、犯人に凄惨なリンチを加えて殺害する。血飛沫の向こうに見えた黒幕とは──!?

2015-05-20 23:36:09
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

こんな形です。これが俺の萌えです。3巻のネタバレは避けました。ヤクザ読み物が好きな方にヤクザ劇として斬新な『囀る鳥は羽ばたかない』を読んで欲しい。言葉はそこに撃っている。でも『囀る~』の人気が高いのは2つの要素が相乗効果を生み、類型のない作品になっているからだと思います。

2015-05-20 23:41:12
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

最終的には『囀る鳥は羽ばたかないって』面白いよね!!!でいいんですけども。たぶん。

2015-05-20 23:42:51
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

『囀る~』を読み込んだのは、これまで書いたほかにも理由があります。BLらしい1巻の冒頭を終えると(コミックでは実質的な2話が1話になっているのでプロローグ)、BL要素ベースにして、本格的なヤクザ群像劇へと変貌していきます。幼なじみの医者とかその彼氏とか、以降は完全に脇です。

2015-05-20 23:48:45
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

ヨネダさんにも予想外だったらしい。プロローグは元々読みきりで矢代が主人公ではない。「あの読み切りの中では描いていないけど自分の中では『矢代はどうみても景山を好きだな』と思っていて、オチで矢代が実はネコ、というのが出てきたとき、『このキャラ面白いかな』と思ったんです」(美術手帖)

2015-05-20 23:58:03
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

百目鬼は設定の必然から生まれた。「矢代にはどういう相手にしようか考えていたんです。(中略)ある朝、ふっと、『……そうだ、インポだ』って思いついたんですよ。『淫乱にはインポです!』って担当さんにもメールしました(笑)。そこからマンガの執筆を再開することになったですが」(美術手帖)

2015-05-21 00:02:52
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

ヨネダコウさんは「萌えを表現できる手段はなんでもよかった」と明言していて、引用した美術手帖のインタビューをみても分かるように、俺と交わる要素がみじんもありません。ではなぜ『囀る~』が回を重ねるごとにヤクザ群像劇としても成立するようになったのか。デティールを詰めたからだと思います。

2015-05-21 00:09:45
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

そう考えながらみていくと『囀る~』にはヤクザの本質をえぐるような場面がちりばめられている。極端な話、矢代が銃撃されたのさえ、ヨネダさんには萌えの体現だったのかもしれない。でも、そこは避けて通れぬヤクザ劇の核心です。BL要素とヤクザ劇が融合し、みたことのないような啖呵も生まれる。

2015-05-21 00:13:57
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

啖呵は劇の決めゼリフです。暴力の実践者でも、もめ事のたびに殺し合うわけにはいかない。そのためまるで前戯のように掛け合いが行われます。暴力を匂わせ言葉で殴り合うわけです。実際の掛け合いは案外ワンパターンで『アウトレイジ』のように馬鹿野郎の応酬になりがちです。あれは大変リアルでした。

2015-05-21 00:18:59
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

関西ヤクザの啖呵には時折優れたユーモアを見つけることが出来る。掛け合いは詰まった側が負けです。ラップのバトルと同じです。論理に整合性がなくても相手より強い言葉を繰り出し、揚げ足の取り合いになる。もしそこでクスッと笑ってしまったら、これも一本です。ただしそのユーモアはブラックです。

2015-05-21 00:23:36
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

ブラックなユーモアのベースになるのは侮蔑・差別語です。そのまま書くとクレーム必至の表現が多い。それでもやり尽くされていて、啖呵は定型的になる。でも限界と感じていた掛け合いが、BL要素を取り込むとさらに広がる。簡単なところでは、以前引用した竜崎の「雌が!」です。新鮮でした。

2015-05-21 00:30:47
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

実を言えば「雌が!」という啖呵は荒唐無稽じゃない。刑務所の中では女の代表品として男とのセックスが日常化する。受けをアンコ呼ぶんですが、刑務所で女にされた男が出所後、男の元を訪れ若い衆になることがある。両者にあったホモ行為は前述したように女の替わりなので、娑婆では双方ノーマルです。

2015-05-21 00:36:23
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

刑務所で女にされていたというコンプレックスは、娑婆のアンコを武闘派にします。見た目は優男なのに簡単に暴力に走る。戦後の伝説のヒットマンの中にはこうした人間が少なからずいる。その事実が矢代という「笑っているようにみえて切れている、ドMで淫乱ネコで公衆便所」というキャラに繋がります。

2015-05-21 00:40:39
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

百目鬼「ムショでは何度か誘いがありました」 矢代 「へーっ、いいな!俺も1回入ってみてぇんだよなぁ。慰問っつって入り込めないかなぁ」 百目鬼「頭があそこにいたら死人が出ます」 矢代 「あーあれな。腹上死?まだやったことねぇんだよな」 百目鬼「…俺はたぶんホモじゃないです」

2015-05-21 00:46:55
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

『囀る~』の1巻にある矢代と百目鬼の会話は、コミカルに描かれてはいてもリアルです。あり得ない話ではない。だからきっと現実のヤクザ社会には、俺が知らないだけで「雌が!」に似た侮蔑の啖呵があるんじゃないか。というより、ヤクザは精神的にはホモなんです。当人たちもそうはっきり言う。

2015-05-21 00:54:15
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

組長の平田に、嫌がらせとして連れて行かれた松原組(真誠会と1次団体は同じです。山口組の別の組といった感じ)で矢代はこうため息をつきます。 「男、おとこ、オトコ。兄貴だの親父だのと、まるで仮性ホモの集まりだ」 これはまったく正しい。リアルなのは『囀る~』かもしれません。

2015-05-21 01:01:52
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

最後にヤクザとBLが融合し、重層的になっている代表的な場面を。1巻の1話目(実質的なン2話)の早い段階で出てくるシーンです。最初に、おおおおおお!!と思ったところです。ヨネダコウさんは、登場人物に心境をほぼ喋らせません。『囀る~』は読み手を弛緩させるような物語ではありません。

2015-05-21 01:09:24
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

先代組長の三角に呼び出された矢代は、料亭でざっくばらんに膝を交えます。三角は矢代の昔のオトコです。ここには松原組はうちの下位団体とあり、ということは道心会で真誠会と松原組は同じ2次団体ではなく、道心会(1次)真誠会(2次)松原組(3次)なのかもしれません。重要な話ではないです。

2015-05-21 01:22:55
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

三角「お前にはこれから俺の下で働いてもらうんだからな」 矢代「本当なんですね。跡目争いにアンタが絡んでるって話」 三角「会長の様態が目に見えて悪ィな。今の上層部の中には俺を煙たがってる連中もいるから、実際はどう動くのか俺にもわからん」 矢代は三角をアンタと呼ぶ。過去の暗示です。

2015-05-21 01:25:45
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

本来はここ、親分とか、先代とか、組長でも若頭(三角は1次団体、道心会の若頭。矢代はその下部団体である真誠会の若頭)でもいい、とにかく敬称です。ヤクザは厳格な縦社会です。だから”アンタ”の一言はそれだけで両者の特別な関係を匂わせます。人目に触れない料亭の密室というとこがまたいい。

2015-05-21 01:30:40
まとめたひと
倉沢 繭樹 @mayuqix

ペンネーム:倉沢繭樹。ミメーシス体質の言語奏者。

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