“消滅時効”でも被告に損害賠償請求したのはなぜかーー名古屋主婦殺人事件の夫の思い
時効後に犯行を認めた加害者への損害賠償請求
1978年、東京都足立区内の小学校で当時29歳の女性教師が突如行方不明になった。殺害されたのか、拉致されたのか。女性教師の行方はわからないまま時間が経過した。 26年後の2004年、ある男がその女性教師を殺害し、自宅の床下に埋めたと警察に自首した。男は事件当時その小学校に勤めていた警備員だった。2004年当時、男の自宅を含む周囲一帯が区画整理事業の対象となり、自宅が解体されることになった。そこで男は殺人罪の公訴時効の25年が過ぎていることを確認したうえで、遺体が発見されることを恐れて自首したのだった。 警察は男から事件の経緯を聴取、白骨化した遺体はDNA鑑定でも女性教師のものに間違いないことがわかった。だが、公訴時効は成立しており、刑事裁判で殺人や死体遺棄の罪を問うことはできなかった。そこで、女性教師の遺族は2005年、男と男を雇用していた足立区に対して、計約1億8600万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。 当時、遺族は私にこう語っていた。 「加害者は一生罪を背負わなければならない。何もかも時効で済んでしまうべきではない。悪いことをした以上、何年経っても罰せられるべきで、賠償金を払う目に遭うことを示さなければ、この日本は変わらない」 この民事訴訟は意外な結果となった。東京地裁では民事時効(除斥期間)が成立しているとしたが、東京高裁は一審判決を破棄したのだ。
高裁は「相続の発生がわからない原因をつくった加害者が20年で賠償義務を免れるのは、著しく正義・公平の理念に反する」と判断。一定の条件下では、除斥期間の効果は生じないと結論づけた。結果、加害者の男に4200万円の支払いを命じ、この判断は上告審でも変わらず、殺害行為の賠償責任も認めた。 先の河井弁護士は、この判断には民法160条の根拠もあると指摘する。 <相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。>(民法160条) つまり、女性教師の遺族は加害者の男が自首した時に初めて女性教師の「死」を知り、自身らが相続人になることを知った。その後、条文どおり6カ月未満に提訴を行ったから、724条の後段の効果はない──との主張を、最高裁が認めたのである。 この160条に関して、高羽さんのケースでは相続財産は奈美子さんの財産および逸失利益が対象となるが、相続財産を請求する相手がわからなかったという事情がある。 「この女性教師事件の判例に倣えば、高羽さんのケースも同様の判断となる余地は十分にある」と河井弁護士も指摘する。 ただ、高羽さんが今回民事で被告の女を訴えたのは、慰謝料やアパートの賃貸契約料などの逸失利益の請求もあるが、本当の狙いは制度の問題だという。