“消滅時効”でも被告に損害賠償請求したのはなぜかーー名古屋主婦殺人事件の夫の思い
提訴は受理されたが、この民事訴訟は通常の法解釈では難点があると見られている。 不法行為に基づく損害賠償の請求権は、発生から「20年間」という期限が設定されており、事件から26年後に逮捕されたこの事件では除斥期間として該当しない可能性があるからだ。
20年で消滅する民事での請求権
2010年4月、刑事訴訟法の改正で、死刑になり得る犯罪(殺人罪、強盗殺人罪など)について、従来25年と定められていた「公訴時効」が撤廃された。そのため、今回の事件でも事件発生から26年が経過していたが、安福は殺人容疑で逮捕、起訴されている。 一方、高羽さんが安福に対して行う損害賠償請求は私人間における民事訴訟であり、刑事訴訟とは事情が異なる。民法第724条はこう記している。 <第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。 二 不法行為の時から20年間行使しないとき。> 要は、不法行為の責任について「いつまで損害賠償を請求できるか」という有効期限を定めている。前段の「知った時から3年間」は主観的時効、後段の「不法行為の時から20年」は客観的時効と解されている。
高羽さんの事件では、26年間、加害者が誰かわからなかった。724条前段の「損害及び加害者を知った時から3年間」という条件では、加害者を知ったのは昨年だが、損害を知ったという部分になると27年前のことと時期が大きくずれている。ただ、「損害及び加害者を知った時」はセットで、両方の要件が満たされる必要があるという。また、後段に基づくと、不法行為(殺人)から20年以上経っており、請求権が消滅していることになる(消滅時効)。 この請求権の問題こそ、高羽さんが今回損害賠償請求に踏み切った理由だという。 「この事件では誰が加害者なのか長い間わかりませんでした。これでは妻の逸失利益を請求しようにもできません。犯人の逮捕まで26年間かかっていますので、20年で除斥期間が満了、つまり時効となるのは社会正義的におかしいのではないか」 沖縄県で「犯罪被害者支援〜ひだまりの会okinawa」の理事を務める沖縄弁護士会の河井耕治弁護士(59)はこう話す。 「高羽さんの事案では、遺体は事件直後に発見されているため、民法724条の“20年”の規定を機械的に適用してしまうと、著しく正義・公正の理念に反することとなることは言うまでもありません」 実際民法724条を前に、この民事訴訟はどの程度有効なのか。私がかつて取材した足立区の女性教師の事件が酷似している。