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「ゲイ・テック・マフィア」の真相|The Big Story

ゲイの男性たちがシリコンバレーを動かしている──。そんな噂は長年、業界の内外でまことしやかにささやかれてきた。その実像に迫る。
Beefy man posing with the Salesforce tower
ILLUSTRATION: SAM WHITNEY; GETTY IMAGES

ゲイの男性たちがいつからシリコンバレーを仕切り始めたのか、そもそもそれが事実なのかを確実に言える者はいない。しかし、少なくともここ5年ほど、あるいはそれ以前から、彼らが業界の上層部で大きな影響力をもってきたように思える。

Xなどのプラットフォームを覗けば、手がかりはあちこちに見つかる。プライベートアイランドでの合宿の噂、テック幹部が「権力目当てにゲイになる」といった話、「シードラウンド」という言葉には、資金調達以外の意味も込められている──そんな含みをもたせた冗談まである。

実際、こうした話はすっかり当然視されている。業界内で「ゲイ・テック・マフィア」とも呼ばれるものの存在について、人脈の広いヘッジファンドのマネージャーに電話で話を聞くと、彼はあからさまにあくびをしたほどだ。「もちろん、そんなの昔からですよ」と彼は言った。

彼が2012年にあるベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をしていたころには、その状況はすでに始まっていたという。そのVCのオフィスには、数十人の「魅力的でたくましい若い男性」が働いており、全員が「30歳未満」で、まるで「高校のディベート部」を出たばかりのような印象だったという。「みんな、互いと寝ながら会社を立ち上げていました」と彼は言った。

それはいまも間違いなく同じで、現在ではゲイの男性たちがシリコンバレーの大手企業を率い、社交会にストレートの男性はほとんど招かれず、まして女性はまったく見当たらないと彼は語った。「ゲイ・テック・マフィアはもちろん存在します。これはイルミナティみたいな陰謀論じゃない。それに、同性愛者じゃなくたってマフィアの一員にはなれます。ゲイと寝るストレートの男なんて、むしろ好かれますよ」

「チャンスを掴む唯一の方法」

17年にシリコンバレーを取材し始めて以来、この噂はさまざまなかたちで耳にしてきた。AI企業創業者のエメット・チェン=ランが「この界隈はゲイが仕切っている」と冗談めかして言ったのも一例だ。

一見すると、ゲイ・テック・マフィアなる集団が存在するなどという馬鹿げた話をわざわざ調査する価値はないように思えた。確かに、ピーター・ティールティム・クックサム・アルトマン、キース・ラボイスなど、高い地位にあるゲイの男性は多い。それでも、彼らが秘密結社のような組織を運営しているなどという考えは完全に同性愛嫌悪の産物のように思えた。そんな発想に乗れば、24年に「ハイテクVC業界はまるで、巨大で搾取的なゲイ・マフィアだ」とXに投稿したローラ・ルーマーのような保守派の陰謀論者の思うつぼだと。

しかし時が経つにつれ、この噂は消えるどころか、むしろある種の常識として扱われるようになった。

25年春、南カリフォルニアで開かれたVCのパーティーに参加したとき、ある中年の投資家から、自身の新しいファンドの資金集めに苦戦しているという愚痴を延々と聞かされた。彼いわく、問題の根本にあるのは差別だという。

話を聞きながら、わたしは彼の姿を観察した。いかにも典型的だ。白人男性で、髪はクルーカットに刈り上げ、小金持ち感のある体型にぴったり張りついた趣味の悪いボタンダウンシャツ。そして、AIこそが次なる大波なのだという確信をよどみなく語る。シリコンバレーが優遇してきたタイプの人間そのものだ。

にもかかわらず、彼は自分に不利な仕組みが出来上がっていると言う。「わたしがもしゲイだったら、こんな苦労はしていませんよ。最近のシリコンバレーはそれがすべてなんですから。チャンスを掴む唯一の方法は、ゲイであることなんです」

サウナの写真が火を付けた憶測

25年を通して、Xでも似たような感情が拡がった。

シリコンバレーのテック企業で働く者たちは、「大物ゲイの下で非常勤の参謀でもやろうかな」などと冗談を言い合った。複数の匿名アカウントは、シリコンバレーにはゲイの権力者たちが若手起業家に近づいて「育てる」裏社会があるとほのめかした。ロサンゼルスで開かれたAIカンファレンスでは、エンジニアがある大手AI企業のオフィスを「トウィンク・タウン[編註:細身のゲイ男性が集まる場所]」と軽い口調で何度も呼んでいた。

秋になると憶測はさらに加速し、やがてXに1枚の写真が投稿された。Yコンビネーターの支援を受けた創業者たちが、同社代表のギャリー・タンとサウナのそばに集まっている様子を捉えたものだ。その写真自体は何の変哲もないものに見える。若く地味な男性が数人、水着姿でカメラに向かって目を細めているだけだ。しかしこの写真をきっかけに、VC文化における奇妙なまでの親密さを巡る噂が爆発的に拡がった。

それからまもなく、ドイツ出身の創業者ヨシュア・ズテーが、共同創業者の男性たちと一緒に裸でシーツにくるまっているように見える写真を撮り、性的な目線を向ける男性層にわざと媚びるようなその写真を、Yコンビネーターへの応募書類風に仕上げて投稿した。「いま行くよ、@ycombinator」とキャプションには書かれていた。

Yコンビネーターが男性起業家をグルーミングしているという噂は、さまざまな理由から筋が通らないが、とりわけ大きな理由がひとつある。「ギャリーは完全にストレートですよ。サウナの効用を信じているだけの」と、タンを知る人物は言う。

わたしがタン本人にコメントを求めると、率直な答えが返ってきた。数人の創業者を夕食に招いた際、設置したばかりのサウナと水風呂を使ってみたいと言われたのだという。Yコンビネーターに「落とされた人たち」が、そこから勝手に「話を膨らませてミームをでっち上げたのだ」とタンは言った。

それでも似たような噂は消えず、むしろ増幅していった。発信源は内部の人間である場合もあれば、(ときに怪しげな政治的動機をもつ)外部の人間であることもあった。長年の業界関係者たちにゲイ・テック・マフィアについて電話で尋ねると、皆、その噂を知っているどころか、その仕組みについて非常に具体的なイメージまでもっていた。みな信頼できる人物だが、そうした人たちが、にわかには信じ難がたい話を本気で信じているのだ。

サンフランシスコのある投資家は、ティールのフェローシップはゲイの業界リーダーを養成する訓練機関なのだろうと語った(この考えを元ティール・フェロー数人にぶつけてみると、彼らがティールに会ったのは夕食の席で一度きりだと話した。そのときのティールは「少し退屈そうだった」と、ストレートの男性である元フェローは言った。「むしろピーターにグルーミングしてもらえたら楽でしたよ」)。

ゲイ認定の流れは過熱している。シリコンバレーで大成功を収めた人間はみなゲイなのではないか、という憶測は何度も耳にした。

不思議じゃないか、とサンフランシスコのベンチャーキャピタリストは言った。ある防衛テック企業の幹部が、比較的若いうちに大きな成功を収めたことについてだ。「ゲイじゃないのか? きっとそうだろう」と彼は自問自答した。その幹部は女性と結婚しているのでそれはないだろうとわたしが伝えると、彼はこう答えた。「そうか。でも、その夫婦が一緒にいるところを見たことは?」

一方、ふたりの著名なゲイ投資家から資金を調達したある起業家は、自分の性的指向について詮索されることに慣れてしまったと語った。「みんなにゲイなんだろうと言われます。『おい、どうやって金を手に入れたんだよ?』って冗談交じりに言われるのも、もはやお決まりですよ」

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ILLUSTRATION: SAM WHITNEY; GETTY IMAGES

さらに、匿名のXアカウントがこうした不正の噂を増幅している場合もある。投稿は注目を集めるよう巧妙に計算されている──シリコンバレーの内部事情に詳しいことを匂わせる程度には具体的でありながら、より危うい解釈を誘うほどには曖昧でもある。わたしはあえてその釣り針に乗り、11月下旬のある午後、そうしたアカウントの所有者と1時間近くにわたってSignalでやりとりをした。その人物はアカウント名を伏せることを条件にインタビューに応じた。

この人物は、シリコンバレーを「エクスタシーや幻覚剤にまみれたゲイセックス文化の街」と表現した。自身で体験したのかと聞くと、それはないが、体験した人たちを知っているという。その者たちは「めちゃくちゃ若くて」、「相当怖がっている」とのことだ。誰の名前も出せないし紹介もできないと言いつつ、シリコンバレーのゲイ男性についてわたしが聞いたネガティブな噂はすべて本当だと断言した。

さらに彼はQアノン級の巨大な陰謀論をもち出し、米政府全体も関与していると示唆した。そして、「簡単に見つかるよ。Googleの2ページ目とかにあるような情報だ」と、報道のためには曖昧な助言をくれた。

最後に、彼の回避的な態度に業を煮やしたわたしは、あなたが知っていることをここで話したらどうなると思うかと尋ねた。彼は「本気で殺されると思う」と答え、それからひとつ提案をした。この大スクープを暴く唯一の方法は、「プロジェクト・ヴェリタス[編註:潜入調査を行なう米国の右派報道団体]風にやることだ。20歳くらいの男を用意して、Xアカウントをつくり、サンフランシスコの正しい場所に送り込む。深く潜れば真相は暴かれるだろう」とのことだった。

シリコンバレーに広がるゲイの人的ネットワーク

陰謀論の厄介なところは、たとえ人を不快にさせる内容であっても、ほとんどの場合完全なつくり話ではないということだ。たいていは真実のかけらから生まれ、人間の想像力がそれをねじ曲げる。

今回の噂の難しさは、とりわけ黒い疑惑についての裏付けはとれなかったものの、話の一部には確かに響くところがあるという点だ。51人に取材をして話を聞くなかで(うち31人がゲイ男性、多くが影響力ある投資家や起業家)、シリコンバレーに拡がるゲイの影響力の輪郭が浮かび上がってきた。それは複雑かつ多層的で、時に矛盾もはらんでいる。権力と欲望と野心が目に見えるかたちでも見えないかたちでも入り組んだ、ある意味では噂されるよりもはるかに豊かでややこしい世界なのだ。

今回取材に応じた人のほとんどは、名前を伏せることを条件に話をしてくれた。その理由の一部は、ごく普通の用心である。「こんなパーティーの話を記者にするなんて賢明じゃないでしょう。おいおい、なんでこいつを呼んだんだ? ってみんなから思われてしまいます」と、ある人物は言った。

一方、もっと裏事情を匂わせる理由もあった。「あまり詳しく話すのは安全じゃない。関わっている人はみんな起業家かVCだから、誰が特別な優遇を受けているのかって詮索されかねないですから」と、AI関連の創業者は言った。こうしたはぐらかしや囁きのなかにも、否定しがたい真実があるように思えた──ゲイの男性たちは、確実に台頭しているのだ。

「テック業界で働くゲイは本当に成功しています」と、ゲイのエンジェル投資家は言った。「ゲイの創業者グループがあって、みんなよくつるんでいます。ゲイは群れるからね。そこから友達になって、休暇も一緒に過ごすようになる」。さらに重要なことに、「みんな互いに支え合うんです。社員の採用でも、エンジェル投資でも、投資ラウンドを主導するときも」

こうしたネットワークの一部は、すでに公の場に姿を見せ始めている。Robinhood(ロビンフッド)でかつて広報を担当していたジャック・ランドールが執筆するSubstackの「Friend Of」は、ゲイ男性たちが権力の中心へと台頭していく様子を記録している。「テック・マフィアを動かしているのはわたしたちだ(アップルやOpenAIを見てほしい)」とランドールは書く。

「政府の要職にも就いている(財務長官を見よ)。ゴールデンタイムのニュース番組の顔にもなり、年越しのカウントダウンの司会も務める。ゲイ向けのマッチングアプリの株価はストレート向けのアプリよりも好調だ。さらに米国では、ゲイ男性は平均して一般人口よりも学歴が高く裕福でもある」

Sector(セクター)という新興企業は、こうしたネットワークを仕組みとしてさらに整えようとしている。Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)でかつてデザイナー・イン・レジデンスを務めたブライアン・トランが創業した同社のウェブサイトには、ビーチや薄暗いディナーの席でくつろぐハンサムな男性たちの写真が並ぶ。

会員のひとりはこのサービスについて、共通の関心をもとに裕福なゲイ男性同士の紹介が行なわれる、厳選されたネットワークだと説明した。「仕事の出会いなのか、友情か、恋愛なのか、判断するのはその人次第です」と彼は言った。ランドールとのインタビューでトランは、「今後数年でGrindrの地位を奪うこともできると思います」と語っている。

サンフランシスコでは、毎週のようにPartiful(パーティフル)を通してイベントの招待がコミュニティ内を飛び交っている。「普通のハロウィンパーティー」がある一方で、「ゲイは自分たちのハロウィンパーティーを開く。そこにはサム・アルトマンもいます」と、テック文化について配信するポッドキャスターのジェイデン・クラークは言う。

彼はストレートで、そのゲイ向けハロウィンパーティーには招待されなかった(アルトマンはスパイダーマンの仮装で参加していたという。同役を演じたアンドリュー・ガーフィールドが、公開予定の映画でアルトマン役にキャスティングされたことをほのめかすものだ)。『ホワイト・ロータス[編註:高級リゾートを舞台に歪な人間関係を描く人気ドラマ]』をテーマにしたテック業界のゲイ向けパーティーがひとつならずふたつ開かれたことがあり、どちらも同じくらい派手だったという。

「女性はいない。本当にいないんです」と、前出のエンジェル投資家は言う。また、「Gay VC Mafia」というグループチャットも存在し、あるメンバーによればその内容は「60%が仕事」で、「40%はいかにもゲイらしい話題でのくすくす笑い」だという。

ゲイ向けのテック業界イベントが絶えず開かれているため、社交のメリットは積み上がっていく。人間関係の境界は曖昧になり、「仕事、体の関係、ときには恋愛」が重なり合う、とあるAI創業者は言う。このコミュニティの引力は非常に強く、「むしろストレートの人たちとの付き合いがしんどく感じます」と彼は続けた。

友情か、縁故か、それとも欲望か

こうしたことは、シリコンバレーの閉鎖的な仲間内文化では必ずしも珍しいものではない。賢く、成功し莫大な富を得た人々が、昔から内輪のグループをつくってきた世界だ。

巨大企業の出身者が次のスタートアップの波を資金面で支える構図なら、OpenAIマフィアやAirbnbマフィアと言えるものは存在し、以前にはPayPalマフィアもあった。だから、一見すれば特定の人に対する優遇に見える現象の一部は、よく観察してみれば構造的なものであって特に驚くことではない。

サンフランシスコでは、全米でも最大級のゲイ人口と、世界の権力構造を作り替えたテック産業というふたつの要素が、異常な高密度で共存しているのだ。

「確かに、この界隈でゲイの男性は過剰なほど多く、ベイエリアで信じられないほどの成功を収めてきました」と、AIスタートアップを率いる起業家でゲイのマークは言う。「世界で最もベンチャーキャピタルが集まる都市で、その資金がゲイに流れているのは驚くことじゃない」(ただし、この認識は統計とは一致しない。データが存在する00年から22年までの間、スタートアップに流れたベンチャー資金のうちLGBTQ+創業者が受け取ったのはわずか0.5%である)。

「ゲイ・マフィアみたいな組織があるわけじゃありません」とマークは続ける。「でも、わたし自身が友人のなかで投資したい人を挙げるなら、多くはゲイです。子どもがいないから週末もひたすら働ける人は誰か? それはゲイなんです」(この記事でマークのようにファーストネームのみで登場する人物は、仮名の使用を希望した)

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ILLUSTRATION: SAM WHITNEY

「想像してほしい」とマークは言う。あなたは若くてオタク気質の、まだカミングアウトしていないゲイの男性だ。子どものころから周囲にはどこか馴染めず、やがて親からはどうして彼女をつくらないんだと聞かれる。恋愛してる暇がないんだ、とあなたは答える。そしてあなたはサンフランシスコに移る。ある人物が言ったように、「ゲイ男性にとってのディズニーランド」のような街だ。

あなたの世界は一気に拡がる。自分と同じような人たちに出会う──その地で人生初めて堂々と同性愛をカミングアウトしている男性たちだ。彼らは影響力ある企業で働き、素晴らしい技術を生み出している。そして、あなたはゆっくりと気づき始める。もしかすると、自分も──これまでずっと注目されず、過小評価されてきた自分にも、何かすごいものをつくり出せるのではないかと。「ゲイにはね、証明したいものがあるんです」とマークは言った。

これは、多かれ少なかれ、太古の昔からネットワークのなかで権力と金が動いてきた仕組みそのものだ。とりわけゲイのネットワークは、既存の富と新しい才能が出会うベンチャー投資の力学と自然に噛み合っているように思える。

「理解しておくべき重要な点は、ゲイは多くの面でストレートの人たちとは違うということです」と、長年ベンチャーキャピタリストをしているゲイの男性は言った。「ゲイのネットワークは世代をまたぐんです」。ストレートの人々は同年代で集まりがちだが、「ゲイ男性はそうじゃない。例えばわたしはイベントで18歳の若者と一緒にいたりもするし、そこにピーター(・ティール)がいるなんてこともあります」

極端に男性的な閉じた文化

テック業界で働く同性愛者だからといって、いわゆるゲイ・テック・マフィアの一員であるとは限らない。ゲイの創業者向けのイベントでは、さまざまな種類の性的マイノリティのうちの大半はほとんど見当たらない。

「コミュニティの内部にも壁があるんです」と、LGBTQ+のビジネスパーソン向けネットワーキング団体アウト・プロフェッショナルズの代表ダニー・グレイは言う。「シスジェンダーのゲイ男性はLGBTQ+という頭字語のなかでの最大勢力で、他の文字がイベントなどに参加するのはずっと難しいんです」

レズビアンは脇に追いやられがちだ。テック業界に広い人脈をもつジャーナリストのカーラ・スウィッシャーにゲイ・テック・マフィアについて尋ねると、そんなものがあるとは知らなかったと彼女は答えた。そして、たとえゲイ男性であってもそこに入れるとは限らない。「わたしがあのグループに入るのは難しいと感じています」と、あるゲイの投資家は語った。「10kgくらい痩せないといけないでしょうね」

外部の人々がゲイ・テック・マフィアとみなしているものは、テック業界で働くゲイ全体でも、ましてゲイ男性一般でもなく、政治観や感性を共有する小さく自己選抜的な集団なのかもしれない。彼らは美的感覚や男性的な肉体を重視し、アイデンティティ政治を嫌い、DEI(多様性・公平性・包摂性)ではなくMEI、つまり「メリット(能力)、エクセレンス(卓越性)、インテリジェンス(知性)」を掲げ、右派寄りで、場合によってはMAGA寄りでもあるとされる。

ストレートの起業家たちが彼らを「グレコ=ローマン的なゲイ」と表現するのを耳にしたことがある。つまり、「女性が全くもって不要な存在として扱われる、極端に男性的な閉じた文化」ということだ(かつてゲイの共和党系スタートアップ創業者の下で働いていた女性はこう語る。「ミソジニーの度合いはだいたい他と同じ。でもセクハラはないから、そこはいいところですね」)。

では、そうした圧倒的な権力をもつゲイたちは、いったいどこで自然な姿を見せるのだろうか? これは今回の取材の核心的な問いのひとつだが、その答えはどうしても掴みどころがなかった。あるゲイの投資家に、そうしたパーティーにこっそり潜り込めないかと尋ねると、無理だと言われた。なぜなら、この取材においては不都合なことに、わたしが女性だからだという。「みんなから『あれ、きみの妹?』って聞かれちゃいますよ」と彼は言った。

そこでわたしは編集者に、男性に変装してパーティーに参加するという案をもちかけてみた。変装のための予算について話し合いませんかと。編集者もいくらか興味は示してくれたが、別の提案をしてきた。自身もゲイである彼が「安全のために」同行するのはどうか、と。結局、この件をわたしたちが再び話題にすることはなかった。

「みんな腹筋が割れている」

ただし、取材のなかで何度も名前が挙がる場所がひとつあった。フィットネススタジオの「バリーズ」だ。著名投資家のキース・ラボイスが熱心な常連で、時には自らクラスを教えるほどで、そのおかげもありそこはゲイの聖地のような場所になっている。

なかでも、繰り返し話題に上る店舗があった。「カストロ地区のバリーズは最高峰です」と、前出のゲイのエンジェル投資家は言う。「客は男ばかり、しかも全員ゲイ、そしてみんな腹筋が割れている」(「ここで働いていてわかりましたが、ゲイの男性は本当にトレーニングが好きですね」と、カストロのバリーズで働く女性スタッフも認める。)

実際のところ、取材をした多くの人は積極的に話を聞かせてくれたので、わたしが何か策略を使う必要はなかった。曖昧な問い合わせにも、ほとんどの人がすぐに返信してくれた。さらに驚いたのは、長時間にわたる話も厭わなかったことだ。

電話取材は数時間に及ぶこともあり、男性優位の文化に支配された世界に対する冷静な分析と、わたしが記者になって以来最も刺激的な業界ゴシップが入り混じった。そのゴシップには、時に棘があった──シリコンバレーで権力を得るために最も確実な道のひとつは、寝室を経由する方法かもしれないという含みだ。

なかには、自分についてわたしがすでにどんな話を聞いているのか確かめるために電話をしたがる人もいた。あるゲイの創業者は、自分についてこんな噂が広まっていると話してくれた(実際、その噂は確かにわたしも耳にした)──彼と夫が、家の頭金と引き換えにゲイの投資家と寝た、というものだ。「わたしたちがコンドミニアムも買えないって、みんな本気で思っているんですかね」と彼は言った。

取材した人のうち、同じ部屋にいたことさえない相手との恋愛関係を疑われた経験がある人も多かった。投資家で、グーグルの初期の社員でもあったベン・リンに電話をし、彼がティム・クックとお似合いなのではないかという長年の噂について尋ねると(『The Atlantic』誌でも言及されたことがあるほど世間の興味を引いているペアだ)、彼は笑った。「みんな、ほかにやることがないからそんな噂をつくるんでしょう。ティム・クックはわたしのことなんて知りませんよ」

彼らの一部が少なくとも社交の場で顔を合わせることがあるのは確かだが、それが必ずしも恋愛に発展するわけではない。キース・ラボイスの友人は、彼が何年も前にあるイベントにサム・アルトマンを同伴者として連れていったときの話をよくすると話した。「サムは携帯をふたつもってきて、ずっと両方でメッセージを打っていたらしいです」とその友人は言う。「人生で最悪のデートだった、とキースは言っていますよ」(なお、「デート」という表現については当事者の間で異論がある。)

サム・アルトマンとの“デート”

有力な業界リーダーのゲイと本物の友情関係を築いた若手にとって、成功にはときに代償が伴う。つまり、その成功は自力で得たものでなく借り物だとみなされることがあるのだ。

業界リーダーのひとりでゲイのブラッドは、ピーター・ティールとの友情を巡る噂に長年付きまとわれてきた。その噂は彼のキャリアが進んでもなお付いて回った。「ずっと昔にピーターと仕事を始めたころは、『で、彼と寝たの?』とかよく聞かれましたよ」

彼によれば、答えはノーだ。それでも、「なぜかみんな、そういう質問を平気でしてきました。ストレートの人たちも普通に興味を示すけど、本当に興味津々だったのは他のゲイの男たちでしたね。『こいつにあって俺にはないものって何なんだ?』って感じで。それで結局、どうせピーターからかわいいって思われたんだろう、って勝手に結論づけるんだ」(ティールはコメントの依頼に応じなかった。)

とはいえ、権力者と親密であることに何の利点もないと言い張るのはさすがに現実的でない。アルトマンの元恋人で、Stripeの初期の社員だったラッキー・グルームが、20代にして単独で2億5,000万ドル(約400億円)規模のベンチャーファンドを立ち上げたとき、その成果を並外れた才能というよりも人脈の産物だと解釈した人もいたという。

しかし、その時点でグルームはすでにふたつのファンドを連続で立ち上げており、ふたつ目のファンドは1億ドル規模を目指すものだった。したがってその解釈は完全にフェアではないと、グルームとアルトマンの双方に近いゲイの投資家は言う。

「ラッキーと付き合っていたころのサムは、ある程度有名ではあったけどいまほどじゃなかったし、ラッキーも彼自身として評価されていました。わたしは彼を、(グルームのファンドに出資したある投資家に)こう推薦したことがあります。『確かに彼は投資家としてはまだ実績がないし、年齢も若い。しかしこのネットワークのなかにいるし、サムの元ボーイフレンドでもある』。それでも、ラッキーはこういうことのためにサムと付き合っていたわけじゃありません」(グルームは記録に残るかたちでのコメントを控え、アルトマンの広報担当者も同様だった)

一方、ストレートの男性がゲイのネットワークに入り込もうとすると、ゲイの投資家たちは裏でそのことを話題にする。サンフランシスコでゲイのテックコミュニティ向けのディナーパーティーやイベントを主催しているマークは、自身のイベントに毎回のように出席を表明する男性がひとりいることに気づいた。「別にゲイ審査みたいなものがあるわけじゃない」と彼は言う。「でも、誰かが言ったんです。あの人は絶対ゲイじゃない、いい案件を得るためにゲイのイベントに来ているだけだ、と」

ストレート男性が完全に排除されているわけではないが、ゲイ投資家のネットワークの世界で特別歓迎されるわけでもない。ストレートの創業者がイベントに行くときのお決まりのジョークはこうだ──自分がストレートだということは誰にも言わないように。

「ストレートの男たちがおかしなことをするのを見たことがあります」と、あるゲイの投資家は言う。「名前を出すほどの大物じゃないストレートの男がいて、あらゆるゲイの投資家にピッチをして回っていました。あるVCのパートナーシップのミーティングで、彼はわたしの知っているゲイのゼネラルパートナーと話していました。するとその男は、会議中にテーブルの下でゼネラルパートナーの脚に手を置いたんです。まったく不適切ですよ。それ以来、またあいつがいるよ、っていう笑いのネタになりました」

キャリアに有利に働く

また、ゲイであることがキャリアに有利に働くというイメージをとりわけ強めた者がひとりいる。Varda Space Industries(ヴァルダ・スペース・インダストリーズ)の共同創業者で31歳のお騒がせな人物、デリアン・アスパルホフだ。

彼はかつてラボイスのチーフ・オブ・スタッフとして働いていた。ティールと共にPayPalの創業に関わり、その後ティールのベンチャーファンドFounders Fundのパートナーとなったラボイスは、その数年前に社内調査の対象になっていた。Square在籍時、ラボイスは男性の同僚からセクハラで訴えられ、この件は最終的にラボイスの退社につながった(ただし調査の結果、会社はラボイス側を支持していた)。

18年、ラボイスはジェイコブ・ヘルバーグと結婚式を挙げ、式には約100人が出席した。ヘルバーグはPalantir(パランティア)の元顧問で、現在は米国務省の経済成長担当次官を務めている。結婚式は数日にわたる大規模なもので、招待客リストにはテック業界の大物がずらりと名を連ねていた。最後はビーチサイドでの挙式で締めくくられ、司会はサム・アルトマンが務めた(ラボイスとアルトマンの最悪の「デート」は、どうやら親しい友情に発展したらしい)。

式ではアスパルホフがスピーチをした。テック業界で長年活躍するゲイのフレッドは、実際に会場で聞いたその内容についてこう語る。「デリアンはこんなことを話していました。『わたしはインターンとしてキースに雇われ、Squareではいつもショートパンツとタンクトップを着ていました』って」。そのときフレッドは有名なテック企業幹部ふたりと同じテーブルに座っていたという。「わたしたちは思わず眉をひそめました。人の結婚式でそんなことを言うなんて、本当に気まずかったです。だって、キースがジェイコブと結婚する場なんですよ」(他の出席者はスピーチの内容を覚えていないとのことだったが、アスパルホフなら言いそうだという声はあった)

アスパルホフとラボイスの恋愛事情に関する噂は、アスパルホフ自身がネット上で火をつけてきたこともあり、業界内で長く語られてきた(「デリアンはグレッチェン・ウィーナーズ[編註:映画『ミーン・ガールズ』内のゴシップ好きのキャラクター]みたいなものです」とフレッドは語る)。

22年、匿名の人気テックインサイダーアカウントRoonが、「ベンチャーキャピタリストたちが古代ローマの少年愛制度を再現しているのはクレイジーなことだ」とXに投稿すると、アスパルホフはすぐにこう返信した。「ちょっとゲイをやっておくだけでぼくは宇宙工場の仕事ができてるんだから、合理的な取引だよな」。現在彼はこの発言について、「もちろん冗談だ」と述べている。

しかしフレッドが語ったように、アスパルホフは12年にSquareに入社した当時、ネオンカラーのタンクトップに短いショートパンツ、しかも左右で違う靴を履くことで知られていた。「彼はよく飛び跳ねていて、すごく奇妙でしたよ」と、当時同社で働いていた人物は語る。

似たような証言はほかにもある。ラボイスが21年に共同創業し、25年に事業をほぼ停止したマイアミ拠点の会社OpenStore(オープンストア)について、ジョンという人物はオフィスを訪れたときの印象をこう語る。「ハーレムみたいでした。ムキムキの白人男性がいっぱいで、みんなハンサムで見た目がよく、ストレートもゲイもいました。服装はちょっと不適切な感じで、エアコンがガンガン効いているのに、みんなすごく短いショートパンツを穿いてピチピチのシャツを着ていました」

これについてラボイスにコメントを求めると、彼はきっぱり否定した。「服装はフロリダではごく普通のものでした」と彼は言う。「それに、100人以上の社員のうち、『ムキムキ』と言えるのはせいぜいふたりくらいだったと思いますよ」

ラボイスは派手な休暇を取ることで知られ、ヘリコプターでアイスランドの火山を訪れたり、コスタリカで激流下りを楽しんだりしてきた。こうした世界に入れない側には強い嫉妬が生まれることもある。

わたしが話を聞いた若いゲイのテックコンサルタントは、ラボイスのInstagramに登場する数人の男性を追跡する「マイクロジャーナリズム」的なことを始めたという。彼によれば、その男性たちは「下っ端レベルの」社員なのに、「サン・バルテルミー島にいる写真をしょっちゅう投稿している」という。「こっちは地下鉄で延々とスマホをスクロールしているのに。『なんでこいつらはプライベートジェットに乗ってるんだ?』って思いますよ」

「確かにプレッシャーは感じました」

こうした噂はどこまで昔に遡るのだろうか? シリコンバレーはずっと前から、半ば秘密裏に、どこかしらゲイっぽい世界だったのか?

わたしは何度か、ジョエルという人物に連絡を取るよう勧められた。テック業界で働くゲイの男性で、10年以上前にシリコンバレーの有力な年長ゲイ男性集団のなかで多くの時間を過ごしていたという。電話に出た彼に、「あなたはゲイ・テック・マフィアのメンバーなんですか?」と聞くと、彼は笑った。「誰かがそう思っているのかな。だからあなたが電話してきたんでしょう」

ゲイ・テック・マフィアの仕組みを説明してほしいと頼むと、「同じ大学卒とか、バッググラウンドや出身地が近い人たち」のネットワークに似ていると彼は言った。そして、始まりはラボイスやティールのような人々だったという。権力を手にした後に彼らが「多くの人間を引き上げた」と彼は語った。

「キースはSquareにゲイを何人も迎えたし、ピーターはFounders Fundでマイク(・ソラナ)を雇った。2010年ごろには、マリッサ・メイヤーの下にグーグルのゲイたちのグループもありました。キースの友人であるサム(・アルトマン)も、並行して自分の周りにゲイを集めていきました」

ジョエルは当時のパーティーの様子についても話してくれた。詳細はオフレコだが、ざっくり言えば、それは想像通りのものだった。「酒がたくさんあって、そこから変な状況に発展していくんです。知らない人同士がその場でくっついたりね。全体的に、性的な雰囲気はありました」

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ILLUSTRATION: SAM WHITNEY; GETTY IMAGES

ただし、これはもう何年も前の話だ。わたしが聞いた限りでは、そうしたタイプのパーティーはもうなくなったか、完全に地下に潜ったかのどちらかだという(「取材を終えるころには、実際の話はもっと地味だとわかるでしょう」とマークは言った。「とんでもない乱交パーティーみたいな話が噂されていますけどね。本当にどこかでやっているとわかったら教えてください、ぜひ行ってみたいので」)

わたしはジョエルに、テック業界の若い男性のなかには出世するために寝て回るプレッシャーを感じている人もいるようだ、と伝えた。それはあなたの経験にも当てはまりますかと聞くと、彼は「うーん……」と言ってから、少し間を置いた。そして突然笑い出した。「つまりね、この話には色々と奇妙なグレーゾーンがあるんです。かなり性的な面もある。でも、すべてが仕事関係というわけじゃない。みんな誰かと付き合ったり寝たりしています」

彼自身、ある種の強制を経験したことがあるという。「確かにプレッシャーは感じました。明らかに違法というほどではないけれど。でも、みんなギリギリのラインを歩いてましたね」。年齢を重ねたいま、こうした状況を権力の乱用と呼ぶ人がいるのは理解できるが、その言葉だけで説明することには賛成できないという。

セックスと引き換えに地位を得ることが急速な出世の直接的な理由ではなかったとしても、要因のひとつにはなりうる。彼の言葉を借りれば、「セックスは人を一気に親密にさせる」からだ。

セックス・権力・野心

シリコンバレーが世界的な権力の中枢へと成長するにつれ、競争は一層苛烈になっている。影響力を握れる人間は限られ、野心にはしばしば冷酷な打算が混じる。ゲイのコミュニティのなかには、この地の状況はかつてのハリウッドのキャスティング・カウチ[編註:権力者が俳優に役を与える見返りとして性的関係を求める慣習]に似ていると感じる人もいる。

こうした批判を口にする人の多くは、むしろ自身がゲイである若手の起業家や投資家だ。彼らにとって、ゲイコミュニティの一部は1970〜80年代の価値観に取り残されているように見える。「こんな感覚があるんです」と、ある人物は言う。「長年の抑圧がようやく社会に認識されたからこそ、こう考える人がいるんです。『自分はこういうことをしてもいい、こうする権利があるんだ。その程度で社会から排除されたりはしないから』って」

ある若いゲイの投資家が言うには、このコミュニティは「権力志向で、人脈が命で、時にかなり性的」だという。彼によれば、この関係性の構造は当事者たちの間では暗黙の了解のようだ。「お互いに、自分がこういうゲームのなかにいて、相手に何かを求めているとわかってる。そういうのが好きなら、それでいいんじゃないですかね」

もっとも、彼の話では、これがテック業界のゲイのすべてというわけではなく、基本的には「仲間を支えてキャリアの成長を助ける、温かく素晴らしいコミュニティ」だという。ただ、その一方で性的な下地も存在していることは否定できず、とりわけAI界隈で顕著だと彼は言う。

「ゲイ版の縁故採用みたいなものです。露骨に性的な見返りを求めるわけじゃないけど、背景にはそういう要素がある。きみは若くて魅力的だし、ぼくは寝てもいいよ、みたいな」

ディーンというゲイ男性は、性的な示唆が飛び交うビジネスの世界を経験してきたと語る。初期には彼が立ち上げようとしていたファンドへの出資に興味を示す投資家から、ファンドを立ち上げた後は資金を求める起業家からそうしたニュアンスを向けられることがあったという。あるときには、ファンドへの出資を検討している投資家が自宅での面会を提案してきた。「その人はこんな風に言いました。『服はいらないよ。うちのバスタブでくつろぎながら、きみのファンドについて話そう』」

ディーンはこうした出来事を、煩わしいが予想の範囲内で周囲に漂っているものであり、実際に大きな影響はほとんどないと受け止めている。「ゲイ男性文化では、セックスの価値はさほど重くないんです。時にそれは、通貨のひとつにすぎません」

ファンドを立ち上げた後には、若い男性たちが言い寄ってくることがあったという。彼らは「資金を求める起業家で、お金を集めるためなら何でもするという雰囲気を出していました」とディーンは言う。LGBT起業家向けのイベントでは、若い男性から1対1で飲みに行こうと誘われたりした。Instagramで裸の写真が送られてくることもあったという。「『やあ…』ってウィンクの顔文字付きで送ってきて、『気に入ってくれました?』みたいに聞くんです。わたしはいつも、『いやいや、それは不適切だよ』と返していました」

これはシリコンバレーに限った話ではない、と彼は付け加えた。すでにテック業界から別の業界に移ったディーンは、セックス・権力・野心が絡み合う構図は、ゲイのビジネスコミュニティの一部に繰り返し現れるものだと気づいたという。

テック業界のクィアコミュニティで活動する別の男性は、こう表現する。「クィアで、かつビジネスをしながら生きていると、性的だけどそうでもないという関係をもつことがあるんです。昨日寝た相手と、今日はスイッチを切り替えて普通に仕事をする、みたいな」

さらに彼は、ゲイ男性文化の多くが性的な雰囲気を帯びがちなのは避けがたい事実だと続けた。「ストレートの男性にはゴルフコースがある。ゲイの男性には乱交パーティーがある。でも、それが問題だというわけじゃないんです。合意の上でのことだし、わたしたちが関係をつくってつながる方法のひとつなんです」

この話題は「まさに地雷原」

今回話を聞いた31人のゲイ男性のうち9人が、業界内のほかのゲイ男性から望まない性的アプローチを受けた経験があると語った。一部は比較的軽いが迷惑な類で、一緒にホットタブに入ろうとかワインセラーを見に来ないかとしつこく誘われるといったものだ。

一方、望まない身体的接触を伴うケースもあった。ある若手のゲイの投資家は、職場の先輩からの性的な誘いを断ったことで仕事を失ったと感じている、と話した。勝手に性器の写真を送りつけたり露骨な誘いをかけてきたりする「迷惑行為の常習者」の存在について語る人も複数いた。

「サンフランシスコのテック業界のゲイの話題で気が滅入るのは、こういうことがまったくの秘密ではないということです。みんな、問題だとわかっているんです」と、望まない性的アプローチを経験したゲイの投資家は言う。

また、テック業界で働く別のゲイ男性はこう語る。「これは警告の物語でもあります。素晴らしいアイデアをもった優秀な起業家が、ベンチャーキャピタルの世界で成功しようとしている。ところがその過程で、投資の話をしようと言いながら性器の写真を送りつけてくる人がいる状況に耐えなければならない。これが当たり前になってはいけない。でもいまは、すべてがとてもグレーです。この小さな世界だけの話ではありますが、与えている影響は大きいんです」

テック業界で働くゲイ男性たちから、何度も同じ質問を受けた──どうしてこの話はこれまで記事にされてこなかったのか? だが、ある意味ではその答えは自明でもある。ゲイ男性に対する不公平なステレオタイプはいまだ根強く、だからこそ証言者たちは仮名の使用を強く求めたのだろう。

さらにわたしは何度も、シリコンバレーの人間は「執念深い」から気をつけたほうがいい、と警告された。性的圧力の文化をシリコンバレーの日常の一部だと考えている人は多いが、記事にする上ではこの話題は「まさに地雷原」だと言う人もいた。

ジェラルドもその感覚をよく知っている。彼はサンフランシスコに住む若いゲイの男性で、知人からは「風変わりな人」や「社交の操り師」などと評されている。電話で話を聞いたとき、ジェラルドはこれまでテック業界での自身の経験について語ることをためらってきた理由を説明した。「これは複雑なテーマなんです」と彼は言う。「それに、一部の悪い男がゲイだということと、ゲイ男性はみんな悪いということを読者は区別できないでしょう。そこから同性愛嫌悪に陥りかねません」

ジェラルドはまだ、自分自身の話をわたしに語るつもりはない。少なくともいまは。だが彼によれば、今後数カ月のうちにほかの話も表に出るだろうという。「人は権力というものを、微妙なニュアンスを保って語るのが苦手なんです。これはひとつの物語じゃない。まだこれからいろんな話が世に出てくるでしょう」

彼が話してくれたこと、そしてわたしがほかの人たちから聞いたすべてのことを思い出す──深夜の電話で語られた胸の内、オフレコでそっと共有された視点、数十人の面白く聡明な若いゲイ男性たちの打ち明け話。彼らは確かに、権力やお金、名声を求めて競い合っている。しかし同時に、愛やロマンス、そしてサンフランシスコという街の中心での居場所も求め合っているのだ。わたしはジェラルドの言葉を信じる。

(Originally published on wired.com, translated by Risa Nagao, LIBER, edited by Shinichiro Sato)

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