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香名江と千奈Pがドライブする話/Novel by あーるるるるる

香名江と千奈Pがドライブする話

2,396 character(s)4 mins

香名江が心底嫌そうに助手席に乗るのも見てみたい。

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運転席でハンドルを握りながら、俺は隣から漂ってくる冷たい空気に内心で苦笑していた。
今度のライブに向けたロケハン。本来なら一人で済ませる仕事だった。倉本さんの別荘で軽い打ち合わせを済ませたあと、なんとなく「氷渡さんも来ますか?」と、玄関まで送ってくれた氷渡さんに聞くと、なんと予定外のドライブデート(本人に言えば即座に刺されるだろうが)をすることになった。

氷渡さんはシートベルトを正しく締め、顔を窓の外に向けたまま微動だにしない。
「今度のライブ会場はですね…」
前を向いたまま、明るく話を振ってみる。
「……そうですか」
視線を外に向けたまま、感情の起伏がない声で短く返された。
「そうそう!この前の話になるんですが…」
「運転に、集中してください。」
「……はい。」
車内に再び沈黙が降りる。プロデューサーは心の中で「やっぱり嫌われてるなぁ」と呟きつつ、目的地を目指してアクセルを一定に保った。

彼女は相変わらず窓の外を流れる景色を眺めている。また、横目で覗くと、彼女の指先が膝の上に乗せたカバンを、リズムを刻むようにトントンと小さく叩いていた。
特に何かを思うこともなく、車を走らせる。
フロントガラスの向こう、道路脇に大きな看板が見えた。
「……あ」
思わず声が漏れた。
「どうかしましたか?」
氷渡さんが即座に反応する。視線はこちらを向かないが、声のトーンがわずかに上がった気がする、
「道の駅がありますよ。少し寄っていきませんか?休憩がてら。」
「これから仕事に行くんです。浮ついた考えは捨ててください」
ピシャリと言い放ち、手元の手帳に視線を落とす氷渡さん。
「……まぁ、帰りになら付き合ってあげましょう。あなたがどうしても、というのなら。」
少し下を向いたまま付け加えられた言葉は柔らかかった。
きのせいかもしれないが、俺はほんの少しだけ、右足を踏み込んだ。

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仕事を終え、道の駅に寄ると、氷渡さんは「あくまで休憩ですから」と念を押すように助手席のドアを開けた。
どこか懐かしい農作物の香りが混ざった空気。彼女は俺の後ろを、付かず離れずの距離で歩き出す。

店内の一角、地元の銘菓が並ぶコーナーで俺たちは足を止めた。
「これ、良さそうじゃないですか? 個包装ですし、屋敷の皆さんで分けるのにもちょうど良さそうです」
プロデューサーが指差したのは、地元の特産品を使ったクッキーの詰め合わせだった。
香名江はじっとその箱を見つめ、少しだけ頷いた。
「……ええ、そうですね。」
次に、次に倉本さんへのお土産を選ぶ。
氷渡さんは棚の前で立ち止まり、二つのお菓子を交互に見つめていた。
眉間にわずかな皺を寄っている。真剣な表情だ。
なかなか決まらない様子に、俺は横から小さく声をかけてみた。
「氷渡さんから貰ったものなら、倉本さんは何でも嬉しいと思いますよ」
「……そんな、根拠のないことを」
氷渡さんは即座に否定したが、その手は迷いが晴れたように、直感で選んだ方の菓子を手に取っていた。

そのまま流れるように野菜売り場へ向かうと、そこには朝採れの瑞々しい野菜が山積みになっていた。
「……え、安いな。これ、スーパーの半額くらいか?」
俺は思わず独り言を漏らしながら、立派な大根とキャベツ、それに艶やかなナスを次々とカゴに入れていく。
「……プロデューサーは、よくお料理なさるんですか?」
意外なものを見るような彼女の視線に、俺は「たまにですけどね」と苦笑いしながら頷いた。
「意外ですか?」
「……ええ。あなたはもっと、仕事のこと以外は無頓着で、味の薄いコンビニ弁当でも食べているような人間だと思っていましたから」
まぁ、実際それで済ます時もあるので、否定はしなかった。

買い物を終えて外に出ると、直売所の脇にあるソフトクリームの看板が目に留まった。
「氷渡さん、せっかくだし食べていきませんか?」
誘ってみたが、彼女は即座に首を振った。
「……いえ、結構です。」
「まあ、そう言わずに。俺が奢りますよ。リフレッシュも仕事のうちですから」
俺はそう言って券売機に歩み寄る。氷渡さんは一度、真面目な顔で視線を逸らしたが、看板に大きく写っているソフトクリームの写真がどうしても視界に入ってしまうらしい。目が離せていない。
「どうします?」
俺が声をかけると、数秒の沈黙があった。
やがて、彼女は小さく溜息をつくと、観念したように呟いた。
「……はちみつで、お願いします」
一言だけそう告げて、彼女はそっぽを向いた。だが、券を買って手渡したカップを受け取る時、その指先がわずかに震えていたのを、俺は見逃さなかった。

車内に戻り、荷物を後部座席に置いて再びハンドルを握る。
助手席の彼女は、先ほど選んだ倉本さんへのお土産の袋を、膝の上で大切そうに抱えていた。
エンジンをかけ、ゆっくりと車を出す。
「……暗くなってきましたね」
沈黙に耐えかねて、独り言をこぼす。
「ええ。」
彼女の声は、先ほどよりも一段と低く、そしてどこか空虚に響いた。
「氷渡さん。」
「…なんですか。」
「今度また、普通のドライブに行きませんか?」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が出ていた。
一瞬、車の走行音だけが強大きく聞こえた気がした。
氷渡さんは、膝の上で千奈へのお土産の袋を抱えたまま、窓の外を向いて微動だにしない。
拒絶か、あるいは無視されるか。ハンドルを握る手にわずかに力がこもる。
「……機会があれば、考えておきましょう。」
彼女の視線は、依然として暗闇に向けられたままだった。
だが、その声は先ほどまでの硬い拒絶とは違い、どこか遠くの夜風に溶けてしまいそうなほど、静かで、穏やかなものに感じられた。
「……そうですね。機会があれば。」
俺は静かにアクセルを踏んだ。

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