――これは、俺が担当アイドルの田中摩美々と恋人関係になり、同棲を始めてから半年後、ソープへ行ってしまった時の記録である。
断じて自発的にではない。営業先のお偉いさんとの飲みの席で、無理矢理誘われてしまったのだ。
摩美々とはまだ一度も体を重ねたことはないが、恋人であることは事実。ここで行ってしまえば裏切りになることは自覚していた。
しかし、まさか『担当アイドルが家で待っているから』などと答えることもできず、俺は流されるがままに1時間コースを受けてしまったのだ。
……おっぱいが、でかかった。
P「ただいまー」
摩美々「おかえりなさいー。遅かったですねー」
P「あぁ、向こうさんがなかなか離してくれなくてな」
摩美々「人気者ですねー。スーツ、かけてあげますよー」
P「イタズラされそうだから遠慮しておく」
摩美々「ふふー、賢明な判断ですねー……あれ」
P「どうかしたか」
摩美々「……プロデューサー、お風呂入りましたー?」
P「え? やだなぁ、そんなに汗臭いか? 俺」
摩美々「いえ、そういう意味じゃなくて……ウチのと違う石鹸の匂いがするので」
P「えっ」
――この時、素直に謝っていればよかったのだろう。
誠意をもって説明すれば、摩美々ならきっとわかってくれる。
だが、その時の俺は、いきなり核心を突かれたことに動揺してしまい。
P「じ、実はさっき銭湯に誘われてな! 酒やタバコの臭いを落とすついでにひとっ風呂浴びてきたんだ」
罪悪感に苛まれながら、ついごまかしに走ってしまったのだった。
摩美々「ふーん、そうなんですかぁ」
P「そうそう。だから石鹸の匂いがするんだと思う」
摩美々「………わかりましたぁ。よーく、事情は」
P「そうか! それはよかった!」
摩美々「お風呂、もう一度入りますかー?」
P「んー……そうだな。もう一回身体を洗っておくよ」
どうやら摩美々は納得してくれたらしく、風呂のお湯を溜めるために浴室へ歩き出した。
……悪いことをしてしまっているが、このままバレないようなら、お互いにとってそれが一番いいのかもしれない。
摩美々「なんでもかんでも水で洗い流せるわけじゃないですけどねー」
P「え?」
摩美々「なんでもないですー」
ぼそりとこぼれた摩美々の一言。
あれをしっかり聞き取れていれば、これから起きる出来事を回避できていたのかもしれない――
結論から言えば。
ごまかせたという俺の認識は、まったくもって間違いだったのである。
たとえば、翌朝。
P「摩美々ー、そろそろ起きないと遅刻だぞー」
摩美々「んー、まだ眠いですよー」
P「今日は朝からユニット全員での打ち合わせだろう。遅れたらみんな困るぞ」
摩美々「わかってますよー。プロデューサー、私まだ身体が動かないので着替えさせてくださいー」
P「バカ言うな。自分でやりなさい」
摩美々「プロデューサーだってー、最近人に脱がせてもらったんじゃないですかー」
P「いや俺はなんか気恥ずかしかったから自分で……え?」
摩美々「おっとー、寝ぼけて変なこと言っちゃいましたねー」
P「………」
たとえば、ファミレス。
P「ふう、やっぱり店の中は涼しいな」
摩美々「冷房が効いてますねー。私もうここから出たくありませんー」
P「ちょっと休憩したら事務所にちゃんと戻るんだぞ」
摩美々「わかってますよー」
P「ならいい。さて、何食べようかな」
摩美々「ご注文はどの子にいたしますかー?」
P「ん?」
摩美々「ご注文はどれにいたしますかー?」
P「……聞き間違い、だよな」
摩美々「あ、外を犬が歩いてますよー」
P「ああ、本当だ」
摩美々「犬って、かわいいですよねー」
P「摩美々は犬種でいえばどれが好きなんだ?」
摩美々「そうですねー……あー、あれですかねー」
P「あれ?」
摩美々「ちょっと度忘れしちゃってー……あー。そうそう、プードルですー」
P「へえ、プードルか」
摩美々「そープードルですー」
P「………」
たとえば、風呂。
摩美々「お風呂の椅子、古くなってたんで買い替えましたー」
P「そうか……ところで摩美々」
摩美々「なんですかぁ」
P「この椅子、真ん中が窪んでるんだが」
摩美々「そういうの、好きかと思ってー」
P「………」
たとえば、夕食。
摩美々「ご飯の用意、できてますよー」
P「………」
P(食卓にこんにゃくとローションだけが置かれている……)
摩美々「どうしましたぁ? プロデューサーの好物だと思ったんですケド」
P「摩美々……」
摩美々「はーい」
P「いっそ、ひと思いに怒ってくれないか……?」
摩美々「怒るー? なんのことでしょうー」
P「こうじわじわされると、俺も真綿で首を絞められているような気がして」
摩美々「………」
摩美々「だってー。ここでひどいこと言ったら、それでおしまいってなっちゃうじゃないですかー。もっと愉しみたいなーって」
P「そ、そんな……」
摩美々「でも、プロデューサーがどうしてもって言うならー、はっきり言ってあげてもいいですよー」
摩美々「………最低」
P「ソープに行ってすみませんでした!!!」
摩美々「最初からそう言ってくれればよかったのにー。無駄に苦しんじゃいましたねー、プロデューサー」
P「本当にすまなかった! 相手先の人に強引に誘われたとはいえ、流されるまま……」
摩美々「……もう、いいですよー」
P「……許してくれるのか?」
摩美々「ふふー。それよりー、ちゃんとしたご飯を持ってきてあげますねー」
P「摩美々……ありがとう」
摩美々「今夜はスッポン鍋ー♪」
P「二度とソープ行かないので許してください……」
摩美々「ふふー♪ 今まで寂しい思いをさせたぶん、もうちょっとだけ面白い顔を見せてくださいねー」
P「ごちそうさまでした」
摩美々「なんだかんだ言いながら完食しましたねー」
P「おいしかったからな。摩美々が作ってくれた料理を残すわけにはいかないよ」
摩美々「まあ女の人も残さずいただく人ですもんねー」
P「なんでもするので許してください」
摩美々「ふふー……でも、いいんじゃないですかぁ? まみみは悪い子ですし、プロデューサーも悪い大人のほうがバランスはとれてるかも」
P「そういう考え方はありなのかもしれないが……やっぱり俺が摩美々を裏切ったのは事実だよ」
摩美々「真面目ですねー。なら、プロデューサーが自分を許せるように、ひとつお願いを聞いてくれますかー?」
P「お願い?」
摩美々「まみみは悪い子。プロデューサーは悪い大人。ちょっとだけ、違いますよねー」
摩美々「……同じに、してくれませんか」
P「えっ」
摩美々「まみみを、悪い『大人』にしてくれませんか?」
P「………」
摩美々「スッポン、完食しましたよねー? 体調、万全だと思うんですケド……」
P「………」
摩美々「……なんでもするって、言いましたよね?」
――結局、同棲している摩美々にソープ行ったことがバレてどうなったかというと。
P「ただいま」
摩美々「おかえりなさいー。本日はどの子にいたしますかぁ」
摩美々「ファッションにこだわりがある子。イタズラが好きな悪い子。それと……あなたのアイドル兼こいびとー」
P「……全員で」
摩美々「ふふー、ご指名ありがとうございまぁす♪」
……二度とソープに行けない身体にされて。
恋鐘「う、うちは祝福するばい!! これうちの気持ちやけん!!」
あと、担当アイドルに、赤飯を炊いてもらった。
おしまい
すこ