宇宙から周期的に強い電波信号が届くものの、その発信源がまったくわからない謎の現象が存在する。「長周期電波トランジェント(LPT)」と呼ばれるこの現象は、数分から数時間の周期で繰り返す電波バーストとして観測される。天の川銀河内では十数例しか発見されておらず、物理的な正体については長らく謎に包まれていた。
これまでの研究では、極めてゆっくり自転するマグネターという中性子星や、伴星をもつ白色矮星の連星系などがLPTの発生源の候補に挙げられてきた。しかし、マグネター説については、既存の理論モデルと矛盾するという問題がある。一方、白色矮星連星との関連を示す事例もわずかに報告されてきたが、降着プロセスが実際に進行していることを直接確認した事例はなかった。
こうしたなか、オーストラリアのシドニー大学を中心とする国際研究チームが、電波望遠鏡「Australian Square Kilometre Array Pathfinder(ASKAP)」を用いた掃天観測を実施し、「ASKAP J174508.9-505149(ASKAP J1745-5051)」と名付けられた謎の天体の正体を突き止めた。今回の観測結果は、LPTの発生源のひとつとしてこれまでで最も有力な証拠だという。
「LPTの起源を特定した初めての事例です」と、シドニー大学物理学部とオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)に所属する博士課程の大学院生であるコヴィ・ローズは説明する。「その正体は伴星から活発に物質を引き込む白色矮星であると示すことができました」
伴星から物質を引き込む白色矮星
ローズらの研究チームは、ASKAP J1745-5051が水素の輝線(バルマー系列)とヘリウムの輝線(HeIとHeII)をもつことを、分光観測によって確認した。なかでもHeIIの強い輝線は、「磁気激変星」にみられる光学的特徴として知られている。激変星とは、白色矮星が伴星から物質を引き込む近接連星の総称である。このうち白色矮星が強い磁場をもち、ガスが磁力線に沿って降着するものを「磁気激変星」と呼ぶ。
さらに、バルマー系列の輝線の視線速度を解析した結果、この連星の軌道周期は約1.368時間であり、電波パルスの繰り返し周期である約1.345時間と一致することも確認できたという。また、軌道周期から伴星の質量は太陽の約0.096倍、半径は太陽の約0.13倍と推定され、M6クラスの赤色矮星に相当することもわかった。
つまり、ASKAP J1745-5051の正体は、白色矮星と赤色矮星が極めて近い距離で互いを周回する連星系ということになる。なお、白色矮星は寿命を終えた恒星の高密度な残骸で、大きさは地球程度ながら質量は太陽に匹敵する。その伴星である赤色矮星はより大きいが低密度で、質量は太陽の10分の1ほどしかない。2つの星は互いをわずか1時間余りの短い周期で公転しているのだ。
電波とX線が語る二重の謎
今回の観測から明らかになったのは、電波バーストとX線放射が異なるメカニズムで生成されているという事実だ。白色矮星が伴星からガスを引き込む際、そのガスが加熱されてX線を放射する。同時に、2つの星の磁場が相互作用する領域では、強力な電波バーストが生じる。ただし、電波とX線のピークが一致しないことから、両者は系内の異なる場所で生成されていると考えられる。
X線については、中国科学院の観測衛星「アインシュタイン・プローブ」によるデータから、約1.32時間の周期をもつ放射が観測された。研究者たちによると、X線放射の変動幅が大きいことから、白色矮星への降着量は時間とともに変化している可能性が高いという。
なお、ASKAP J1745-5051はX線で検出されたLPTとしては3例目にあたる。規則的なX線放射を示すLPTとしては2例目で、その規則性が連星の軌道運動に由来すると確認できたのは初めてのことだ。
電波信号そのものも、これまでのLPTに見られなかった特性を示しているという。パルスが楕円偏光しており、放射される周波数の上端がより長い周期(うなり)に同期して上下に変動していたのだ。なお、この「うなり」は白色矮星の自転と公転のずれに由来する可能性があるが、自転周期については今回は特定できていない。
また、パルスの強度が縞模様のように変調される「モジュレーションレーン」と呼ばれる現象も確認された。この現象が、木星と衛星のイオの系を除く二体系(互いに重力で結びついた2つの天体の系)で検出されたのは初めてのことだという。
宇宙のロゼッタストーン
研究者たちはASKAP J1745-5051を、LPTを解読するための重要な参照天体と位置づけている。他のLPTが中性子星のパルサーに近い天体なのか、それとも白色矮星系に近い天体なのかを判別するうえで、今回の発見は古代ヒエログリフ解読の鍵となったロゼッタストーンのように機能しうると、ローズは強調する。
「これまでにも類似の天体が連星系と関連づけられたことはありましたが、今回は2つの星と降着プロセスが実際に進行している様子を明確に確認できた最初の事例となりました」と、シドニー大学物理学科長のタラ・マーフィーは語る。
ASKAP J1745-5051のような星系は、地球上では再現できない強い磁場と重力下における物質の振る舞いを検証するための天然の実験室になりうる。研究チームは今後、電波・光学・X線の各波長を使った望遠鏡による観測を継続しながら、LPTが生成されるメカニズムの解明を目指すとしている。
(Edited by Daisuke Takimoto)
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