ロンドン五輪が閉幕、多くのアスリートたちの活躍が目に焼き付いているが、終盤に金4個、銅2個を獲得した男女レスリング選手の奮闘は忘れがたい。
レスリングが、「日本のお家芸」といわれたのは、金5個を獲得した東京五輪の頃からで、「3丁目の夕日世代」は、「レスリングの父」といわれ、選手をスパルタで鍛えた八田一朗氏の名を思い出すだろう。
戦前、早稲田大学柔道部の選手として渡米、レスリング選手に敗れたことに発奮してレスリング部を創設、戦後は日本レスリング協会会長を40年近く務めたほか、参議院議員になって五輪招致に力を尽くした。
その八田氏が、東京五輪閉幕から4年後の1968年、新宿区百人町に設立したのが財団法人「スポーツ会館」である。「フィットネス」という言葉が知られていない頃に出来たスポーツクラブの草分け。その後、林立する民間クラブのお手本となった。
3ヵ月以上も「理事長不在」
しかしいま、歴史が刻まれたこのスポーツ会館で、「理事長不在」「資産売却」の騒動が持ち上がり、所管する文部科学省スポーツ振興課は頭を悩ませている。
「問題になっているのは承知しています。事実ならゆゆしきこと。口頭で指導はしているのですが・・・」(担当係長)
騒動を振り返ってみよう。
スポーツ会館の経営が揺らぐのは4年ほど前から。建設から40年以上を経て建物は老朽化、それに伴い修繕補修費は嵩むのに、民間のスポーツクラブに押されて会員数は伸び悩み、「税金滞納」といった事態まで生じるようになった。
1階に元プロボクサー世界チャンプの竹原慎二、畑山隆則の「ボクサ・フィットネス・ジム」がテナントとして入っているという話題性や、JR大久保駅近くいう立地の良さから「再建」は可能とみられるのだが、「先立つ資金がない」というのが実情だった。
加えて、八田氏の後輩の早稲田大学レスリング部OBで日本サンボ連盟会長も務めていた堀米泰文スポーツ会館理事長が体調を崩し、資金援助を含めて事業家の下地常雄氏に経営を委ねた頃から迷走が始まる。
文部科学省のホームページには、所管財団法人としてスポーツ会館の名があり、下地氏は会長として記載され、第4代の堀米理事長を継いだのは第5代の渡辺清也理事長となっている。ところが、財団としての法人登記をみてみると、3ヵ月以上も「凍結」され、事実上、「理事長不在」となっている。
どういうことか。
財団法人2階の応接室。渡辺理事長が、岡房子館長ら幹部とともにこう説明する。
「昨年11月、偽造された印鑑などを利用し、元理事のAが代表理事に就任、仲間のBとともに書類上は財団を乗っ取ったわけです。ところが今度はAとBが分裂、Bが新たに代表理事に就任、三つ巴のような形となった、法務局も音を上げ、書類関係が整わないこともあって、凍結状態が続いています」
不動産登記簿謄本上の動きがある
印鑑と公文書は本当に偽装されたのか。
現在も実質的に渡辺理事長が運営しているのは事実のようだが、A、Bの両氏に権利があるかどうかも含め、判断は下せない。
実際、A氏もB氏も正当性を主張している。A氏は格闘技系スポーツ団体の会長を務め、B氏はNPO法人の代表を務めるなど、それぞれ社会的地位もある人物だ。
事実を確認すべく両氏に取材を申し込んだが、直接の面会取材は叶わなかった。しかし、電話でA氏は「トラブルにはなっているが解決する問題」といい、B氏は「いずれ誰が正しいかが証明される」と、答えた。
ただ、いつまでも見過ごせる話ではない。
スポーツ会館の唯一の施設は、地上5階地下1階、延べ床面積約4000平方メートルの建物である。この財団資産は、主務大臣(文部科学相)の許可なく、物件担保で長期借り入れをすることや、物件を売却することはできない。だが、不動産登記簿謄本上、動きがある。
まず所有権を示す甲区では、今年5月2日、都内の不動産会社に信託され、5月31日、「所有権移転仮登記」が打たれている。また、それ以外の貸借関係などを示す乙区では、今年2月から4月にかけて、スポーツ会館を債務者に3つの根抵当権が設定され、極度額は合計1億8,000万円となっている。
こうした資金移動を伴う権利関係に、渡辺理事長は関与していないという。渡辺氏の主張が事実ならば、「理事長印」などが不正に使われたということなのか。
「異常事態であるのは確か」
また、3つの根抵当権が設定された直後、融資先の業者が別件の「架空転売話」で警視庁捜査2課に逮捕されている。逮捕された不動産ブローカーは、7年前、都内一等地の売却のメドがついたとして、6回にわたり地価の1割にあたる約9,000万円を手付金名目でだまし取ったという。
ほかにも同様の手口でサギを働いているというから札付き。今回、このブローカーの「不動産担保融資」に絡んだのはA氏だが、「私も騙された。ただ、損害(抵当権設定)は回復できる」と、弁明する。
一方、スポーツ会館を信託して建て直すことに同意したのはB氏だが、「守秘義務があって話せない」ということだった。
いずれにしても、文部科学省のあずかり知らないところでスポーツ会館が「商売のネタ」にされているわけだ。もし不正な金銭移動があれば、それは犯罪である。
文部科学省は、「実際に運営している方を通じての指導になる」という。渡辺理事長に、改めて質した。
「異常事態であるのは確かだし、財団資産をキチンとしなければならないこともわかっています。ただ、関係者との話し合いは進んでおり、近いうちに決着できると思います」
問題に蓋をするのでなく、正すべきは正し、罰すべきは罰し、再スタートを切らなければ「レスリングの父」も浮かばれまい。