アイマスはなぜVTuberと近づいているのか——バンダイナムコとホロライブの構造的交差
この記事について
私はアイドルマスター シャイニーカラーズのプロデューサー(シャニP)です。 アイマスシリーズのファンとして、またバンダイナムコの戦略に関心を持つ一読者として、「なぜ最近アイマスとVTuberがこれだけ接近しているのか」を自分なりに調べてまとめました。
無料パートでは、バンダイナムコの中長期戦略とVTuberとの接近の歴史・構造を整理します。これだけで一つの読みものとして完成するよう心がけました。有料パートへの案内は記事の途中に置いています。
はじめに——調べ始めたら、思ったより深かった
アイマスとVTuberの接点は、以前からなんとなく感じていた。デレステに星街すいせいがコラボしたり、ホロライブにアイマスの配信許諾が降りてタレントたちがゲームを配信するようになったり——ただそれらは「接点ができた」で済む話だった。
ところが2026年5月、少し様子が変わった。ホロライブ所属のVTuber、ラプラス・ダークネスの生誕ライブに学マスの姫崎 莉波が、続いてイラストレーターであり個人VTuberでもあるしぐれういのライブに黛冬優子が、それぞれサプライズゲストとして出演した。ゲームと切り離されたVTuberの個人ライブに、アイマスのキャラクターが登場するという今までにない形で、しかも立て続けに、別々のブランドで。
ライブ中にふゆちゃんと撮ったお写真をシェア…✨
— しぐれうい🌂 Kアリーナ横浜5/30 & 企画展5/2〜6/7 (@ui_shig) June 5, 2026
可愛い可愛いふゆちゃん ありがとう pic.twitter.com/61RuPGAKgd
これは学マスだけの話ではなく、アイマスというシリーズ全体で何か構造的なことが起きているのではないか——それが腰を据えて調べることにしたきっかけだ。調べれば調べるほど、この接近には数年がかりの蓄積があることが分かってきた。
この記事はその調査の記録であり、考察である。シャニPの視点から見たアイマスとVTuberの話として読んでもらえれば幸いだ。
1. そもそも「PROJECT IM@S 3.0 VISION」とは何か
アイマスとVTuberの接近を読み解くには、2022年末にバンダイナムコエンターテインメント(以下BNE)が発表した「PROJECT IM@S 3.0 VISION(サードビジョン)」を知っておく必要がある。
これはシリーズ20周年(2025年)を見据えた中長期のIP戦略だ。端的に言えば、「これまでゲームの中にいたアイドルを、現実でも活動するタレントとして拡張していく」という方針である。
BNEはこれを「アイドルプロデュース体験と複合現実(MR)の融合」と表現しているが、具体的に何を意味するのかは少し分かりにくい。ゲームのキャラクターをVRやMRで実在感のある存在にする、配信を使ってリアルタイムで交流する、視聴者参加型の企画でファン自身をプロデューサーとして巻き込む——こうした施策が3.0 VISIONの「実装」として語られてきた。
ここで重要なのは、この方針が「アイドルを現実世界へ押し出していく」ことを目指している点だ。そしてこの方向性と、VTuberというコンテンツ形式は、非常に相性がよい。
なぜVTuberが「3.0 VISIONと相性がよい」のか
VTuberを改めて考えてみると、「現実に配信し、ファンと交流し、歌い、活動しながら、同時にキャラクターとしてのフィクション性も維持する存在」だ。現実とフィクションの間に絶妙なグラデーションをつくる、独特の表現形式である。
アイマスのアイドルを「ゲームの外でも活動させたい」と考えたとき、VTuberはそのお手本になる。ゲームキャラクターを突然現実の人間として扱う無理をせず、「フィクション性を保ちながら現実に存在する」という形式をVTuberはすでに確立している。BNEが3.0 VISIONでやりたいことと、VTuberが日常的にやっていることは、構造的に近い。
これがアイマスとVTuberが接近している、最も根本的な理由だと私は見ている。
2. バンナムは「自前のVTuber」を作った
3.0 VISIONが単なるスローガンに留まらないことを示す、最も分かりやすい実装例がある。2023年4月に始動した「vα-liv(ヴイアライヴ)」だ。
vα-livは、YouTubeライブ配信を通じてアイドル候補生がデビューを目指すことから始まった視聴者参加型プロジェクトで、活動形式はVTuberそのものだ。キャラクターデザインにはキズナアイを手掛けた森倉円氏が起用され、4Gamerの「週刊VTuberファイル」枠でも紹介されている。外部VTuberとのコラボ実績も複数あり、ホロライブやにじさんじのタレントとも共演している。
これが意味することは大きい。バンナムは「外部VTuberと仲良くする」という以前に、自分たちでVTuber的な活動形式を内製する道を選んだ。VTuberは外から来た異物ではなく、アイマスが自ら選び取った表現方法だ。
vα-livは3.0 VISIONの「アイドルを現実で活動させる」という方針の、最も直接的な体現である。
3. アイマス本流へのVTuber接続——デレステ×星街すいせい
vα-livは新規プロジェクトだが、外部VTuberとの接続はシリーズの本流ブランドでも進んでいた。
2024年3月、「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(デレステ)」でホロライブ所属の星街すいせいとのコラボが実施された。コラボ楽曲「Stellar Stellar」は星街すいせいと渋谷凛のデュエットとして日本コロムビアから配信され、単なるゲーム内イベントを超えた展開を見せた。
業界メディアはこの件を「外部VTuberがアイマス本流ブランドに本格的に接続した最初期の事例」として取り上げた。それ以前にも周辺的な接点はあったが、デレステという看板タイトルでの正面からのコラボは別格だった。
そして2021年には、カバー株式会社がBNEからアイマス作品の配信許諾を正式に取得している。ホロライブのタレントがアイマスのゲームを配信できる状態になった、ということだ。単発のコラボではなく、継続的な関係の土台が整ったと理解できる。
【お知らせ #1】
— カバー株式会社 (@cover_corp) August 31, 2021
8月30日にバンダイナムコエンターテインメント様より告知がありましたアイドルマスター関連作品のゲーム実況ポリシー公開について、このたび先方との間に、本ポリシーに則った上でのゲーム配信を許諾いただけたことをお知らせいたします。
詳細は紐づけツイートをご確認ください。
4. バンナムグループ全体で見ると——多層的な接近
ここまで見てきたのはBNE(ゲーム事業)の動きだが、バンダイナムコグループ全体で見ると、VTuberとの接点はさらに多層的だ。
ゲームコラボ(BNE)——デレステ×星街すいせい、学マス関連
自前VTuber事業(BNE)——vα-liv(2023年〜)
音楽IP×VTuber(BNE・電音部)——にじさんじライバーを声優に起用
アミューズメント(バンダイナムコアミューズメント)——ナムコ店舗×にじさんじプライズ展開
玩具(バンダイ)——にじさんじ・ホロライブ関連グッズ展開
投資(バンダイナムコ021 Fund)——VTuber・メタバース系スタートアップへの投資
VTuberとのコラボは一事業部の判断ではなく、グループ横断的な動きだということだ。ゲーム・アミューズメント・玩具・投資という四方向からVTuber業界に接近している構図は、偶然の積み重ねではない。
5. バンナムの方針はどう変化してきたのか
ここで一度、バンナムの戦略の変化を時系列で整理しておきたい。
2022年に発表されたバンダイナムコの中期計画(2022〜2025年)では、「IPメタバース」という概念が打ち出された。アイマスやガンダムといったIPの世界観をベースに、ファン同士がデジタル空間でつながれる仕組みを作るという構想で、150億円の投資計画も伴っていた。要は「ファンとデジタルでつながる場所を自分たちで作る」という方針だ。
この構想が最終的にどうなったのか、あるいは今も水面下で続いているのかは外側からは分からない。ただ一つ確認できることがある。2025年4月から始まる現行の中期計画(2025〜2028年)では、前面に出てくる言葉が変わった。「Connect with Fans」という中長期ビジョン、「CW360」(360度・全方位でファンとつながる新部署)、そして外部パートナーとのアライアンス強化——これらが現在の経営資料に並ぶキーワードだ。
大きく言えば、「自分たちで場所を作る」から「すでにファンが集まっている場所に出向く」という方向への重心の移動、と読むことができる。そしてその「すでにファンが集まっている場所」として、VTuberのエコシステムは非常に大きな存在だ。配信プラットフォーム、ライブ、SNS、コラボ——VTuberはバンナムが必要としている接点をすでに持っている。
いずれにせよ、「ファンとデジタルでつながる」という方向性そのものは、2022年から今に至るまで一貫している。VTuberとの接近はその文脈の中にある。
6. アイマスとVTuberの接近は「必然」だったのか
ここまでを整理すると、この接近には三つの層が重なっていることが分かる。
思想的な層——3.0 VISIONが掲げる「アイドルを現実へ拡張する」という方針と、「フィクション性を保ちながら現実に存在する」VTuberという表現様式の相性の良さ。
事業的な層——Z世代・グローバル層への接触経路として、ライブ配信プラットフォームを持つVTuberエコシステムの有効性。BNEが自前でvα-livを作ったのも、外部VTuberとコラボを重ねてきたのも、この文脈からくる。
制度的な層——配信許諾取得、投資、アライアンス強化といった、法務・経営レベルでの関係構築の積み重ね。単発コラボではなく、継続的な関係の地盤が敷かれている。
「急に近づいた」わけではない。2022年からの蓄積が、2024〜2026年にかけて可視化されてきた、というのが実態に近い。そして今後も、この接近が巻き戻ることは考えにくい。バンナムの現行戦略とVTuberエコシステムは、方向として同じ場所を向いているからだ。
無料パートを終えるにあたって——有料パートについて
ここまで読んでくださった方に、少し事情をお話しします。
私はシャニPであり、学マスのプロデューサーではありません。調べていくうちに、「学マスとホロライブの結びつきは、コラボの有無以前に企業構造として重なっている部分がある」という仮説に行き着きました。開発スタジオ、ライブ演出会社、音楽レーベル——この三つのレイヤーで両IPがどう交差しているのか、各社が何を狙っているのか、そして「この先どうなりそうか」について、もう少し掘り下げた分析を有料パートに書いています。
ただし繰り返しますが、私は学マスPではありません。分析には見当違いな部分も含まれている可能性があります。「門外漢の考察として、それでも読んでみたい」という方だけ、続きをどうぞ。
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