香名江「ドキドキ♡バレンタインクイズ!!」 P「……はい?」
バレンタインデーの倉本さんとPと氷渡さん。
公式の香名江さんは出てくる度に二次創作より面白いことするのやめてもろて。
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「せ、先生! どうか、受け取ってくださいませ!」
ある日、倉本家の別荘で打ち合わせを終えたあとのこと。
俺の担当アイドル倉本千奈は、緊張した面持ちで小さな箱を差し出した。
「倉本さん、これは?」
「ば、バレンタインデーのチョコレート、ですわぁ……」
言いながら、語尾が次第に小さくなっていく。
もちろん、予想はできていた。
なにせ今日は二月十四日。言うまでもなく、バレンタインデー当日だ。
加えて、倉本さんは今日の打ち合わせ中、ずっとそわそわしていて上の空だった。いくら俺が鈍いといっても、さすがに勘付く。
「その……香名江に教えてもらいながらですけれど、わたくしだけで作りましたの。……だ、だから、お味とか見た目とか、あまりよろしくないかもしれませんが、これがわたくしの精一杯ですわ……。ですから……」
「……ありがとうございます、倉本さん」
上目遣いで不安げに俺を見る彼女の手から、その箱を受け取る。
「俺のために頑張ってくださったんですね。……とても嬉しいです」
「あ……いえ、そんな……」
倉本さんが大げさなくらいに頬を染めているが、それは俺の本心だった。
彼女はいつも、まっすぐな好意を俺に向けて、慕ってくれる。
俺のような捻くれた人間にとっては面映ゆいところではあるが、嬉しいことには違いなかった。
「……あ! わ、わたくし、今から寮のお友達にもチョコを渡しに行って来ます!」
真っ赤になった顔を手で隠すようにしながら、倉本さんが立ち上がった。
「ああ、なら俺も帰……」
「先生はどうぞ、ゆっくりしていってくださいませ! ……香名江、先生をよろしくね!」
「はい、お嬢様。いってらっしゃいませ」
言うや否や、倉本さんは部屋を出て行ってしまった。
ぱたん、と扉が閉まると、豪奢な部屋のなかは途端に静かになる。
改めて、彼女から受け取った贈り物を眺め──ようとした瞬間、横から伸びてきた手がそれを攫っていった。
「えっ……」
「申し訳ありません。少しお預かりします」
箱を手に取った人物は氷渡香名江。倉本さんの専属メイドさんである。
「……なにをするんですか氷渡さん。せっかく頂いたものなんですから、取らないでください」
「人聞きの悪い。……今からお茶の準備をしますので、そのあいだお預かりするだけです」
つんとした態度で、彼女はそう言い放った。
氷渡さんとも結構長い付き合いになるのだが、彼女は相変わらず俺に冷たい。
半ば同僚のような関係でもあるので、俺としては歩み寄りたいと思っているのだが……。今のところ、まったく上手くいってはいない。
仲良くなりたい、などと高望みはしないが、せめて一緒に居て気まずくならない程度にはなりたいものだ。
そんなことを考えているうち、お茶の準備ができたらしい。
氷渡さんがやや乱雑に俺の前に置いたのは、種類は分からないがやたらと良い香りがする紅茶の入ったカップ。それと──
「…………あれ?」
さきほど俺が倉本さんから受け取った小さな箱。
──それがいま、目の前に”二つ”並んでいた。
「あの、氷渡さん。これはどういう……」
困惑しながら氷渡さんのほうを向くと、彼女は突然、カッと目を見開いた。そして……。
「ドキドキ♡バレンタインクーーーイズ!!」
「……はい?」
いつにない大声で、そんな宣言をした。
◇
「ドキドキ……え? なんですって……?」
固まる俺に、表情をいつもの澄ましたものに変えた氷渡さんが改めて口を開いた。
「……見ての通り、ここには外見と、そして中身もそっくりなチョコレートが二つあります。……あなたには、どちらがお嬢様の作ったものか、当てて頂きます」
……どうやらクイズの説明はそれで終了らしい。理解はできたがわけがわからない。
「えっと……。なんのためにそんなことを……?」
「もちろん、あなたにお嬢様からの贈り物を受け取るだけの価値があるかを確かめるためです」
細められた目が、射抜くように俺を見る。
「……そもそも、お嬢様からのチョコは毎年ご家族と私だけのものだったのに、ご学友の皆さんならいざ知らずこんな信用できないどこの馬の骨ともしれない人に、純度百パーセントお嬢様の手作りを……しかも甘い空気まで出して……」
なんだかぶつぶつと呪詛のようなものを吐いているが、どう考えても俺に非がある内容とは思えない。
「いや、というか……。チョコレートなら、どうせ氷渡さんも貰っているんでしょう?」
なにせ、彼女は倉本さんにとって一番身近な"家族"なのである。
俺の問いかけに氷渡さんは目つきを緩め、頬に手をやってうっとりしたような顔をする。
「ええ。もちろんです。千奈お嬢様は『いつもありがとう、香名江』と仰ってくださって……。私はもう、涙を堪えるので精一杯でした……」
「それは良かったですね。……じゃあ俺だって別にいいでしょう」
「そういう問題ではありません!」
ならどういう問題なんだろうか。
「…………ともかく! この勝負、逃げることは許されませんよ!」
「これ、勝負なんでしたっけ……?」
……どうやら、付き合わないことには帰してもらえなさそうだった。
再び俺を睨む氷渡さんの前で、俺はため息を吐きながらも、卓上の箱に手を伸ばした。
◇
「…………さて。それでは答えをお聞きしましょうか」
俺が両方の箱のチョコレート──シンプルな生チョコだった──を一つずつ食べ終えるのを見届けると、氷渡さんはそう切り出した。
「……せっかくなんですから、もうちょっと余韻を楽しませてもらえませんか?」
「なにを悠長な……。いまはあなたがチョコを味わう時間ではありません。さあ、答えをどうぞ」
「ふぅ……そうですね……」
二つのチョコは、箱の包装も、中身の味も形も、すべてが瓜二つだった。少なくとも、俺には違いがわからない。が……。
「これらは、どちらも倉本さんが作ったものではない。……そうでしょう?」
「ぐぅっ……!」
俺の回答に、氷渡さんは悔しそうに顔を顰めた。
「なぜ……なぜ分かったのですか……!」
「決まっているじゃないですか。……愛ですよ、愛」
「ば、馬鹿なっ……!」
勝ち誇る俺の前で、歯噛みする氷渡さん。……まあ、愛云々はもちろん嘘だが。
……というか、答えなど初めから考えるまでもない。
お嬢様のことを誰よりも大切に思う彼女が、俺への贈りものとはいえ、倉本さんの手作りチョコをこんなおふざけに使うはずがないのだ。
……余計なことを付け加えるとすれば、倉本さんが作ったにしては出来が良すぎたというのもあった。
俺の担当アイドルはいつも一生懸命で、けれど少しだけ不器用な……そんな愛らしい人なのである。
冷静になれば氷渡さん自身もすぐに気付くだろうに、彼女は俺を睨みながら、気持ちを落ち着けるように深々とため息をつくだけだった。
「はぁ…………、まあ、あなたがお嬢様を大切に思っているということは認めましょう。……こちらが本物のお嬢様のチョコです。くれぐれも丁重に扱ってください」
氷渡さんは不貞腐れたような顔をしながらも、俺に元の箱を差し出してくれる。
……これは持ち帰って、大切にいただくことにしよう。
◇
「……ところで、クイズに使われたチョコなんですが、これはどこから?」
「ああ、それは二つとも、私が作ったものです」
そう答えながら、氷渡さんが紅茶のおかわりを淹れてくれる。
「なるほど。……それなら俺は、氷渡さんにもバレンタインのチョコをいただいたことになりますね。ありがとうございます」
そんな軽口を叩いた俺に、彼女は思い切り顔を顰めた。
「気持ちの悪いことを言わないでください。……それ食べ終わったら、さっさとお帰りくださいね」
そのあともなにかぶつぶつと零していたが……小声だったので、俺には聞き取ることができなかった。
「ああ…………まったく。……そういうところが信用できないと言うんです」
また香名江とPが特殊イチャイチャしてる(曲解)この2人にはいつまでもトムとジェリーしてて欲しい(?)