「氷渡さん来月、江の島シーキャンドルで行われるイルミネーションをご存じでしょうか?」
「一応聞いたことはありますね。湘南の宝石でしたっけ?」
「そうですね」
「そのイルミネーションがどうかしましたか?」
正直プロデューサーが、特定の誰かとイルミネーションをただ見に行くイメージがあまりない。
更に私にそんなことを話すと言う事は、何か理由があるはずです。
つまり、千奈お嬢様のお仕事に関係があると見た方が良いでしょう。
「実は来月に倉本さんがイベントに出る話が上がってまして、それの下見兼イベント主催者側と話しておきたくて……」
「なるほど、そういう事ですか」
二人でイルミネーションを見に行こうと言われるわけじゃない。とわかっていたはずなのに、何故だか少し寂しい気持ちになります。
それなのに、千奈お嬢様を口実に二人で出かけると言うのも……。
申し訳ないと言う気持ちの裏腹にどこか楽しみにしている私が居ます。
「私も行った方が良いんですよね?」
「俺たちは倉本さんをサポートする仕事仲間ですし、倉本さんを一番に思っているあなたなら頼めるかと思いまして」
「わかりました。……それでいつですか?」
「…………」
「あの……いつ行くのかと聞いているのですが?」
「……明日です」
「あなたって人は……」
「すいません。仕事も少し前に決まったもので」
色々言いたいことはありますが……プロデューサー側も急遽決まったことであれば言っても仕方ないでしょう。
そうなると、準備もしなければなりませんね。
「わかりました。明日、江の島駅集合で良いですか?」
「それでお願いします」
〇 〇 〇
「話し合い終わってみれば、千奈お嬢様は穴埋めのような形なんですね」
プロデューサーと午後に集合し、主催者側と話し合った結果そのような感想が出ました。
急遽仕事が入って来たのは、元々別の有名人が参加するイベントでしたが、どうしても外せない用事が入ってしまいその代わりに千奈お嬢様が呼ばれた形でした。
仕方がないとはいえ、先ほど言った通り穴埋めの様に扱われていて私は許せません。
「気持ちは分かりますが、話し合いの最中相手のにがんを飛ばすのを辞めてもらえませんか? 正直怖くて話し合いどころじゃなかったですよ」
「プロデューサーは良いんですね? 千奈お嬢様があのように扱われて」
もちろん良くはありませんが……と一言つぶやいた後話を続ける。
「今回の有名人を知っていますか?」
「最近よくテレビに出ている方ですよね? それが千奈お嬢様とどのような関係が?」
「関係はないですね」
「……ないんですか」
「むしろそこが良いと思っています」
関係ないからこそこの仕事に千奈お嬢様が選ばれたことに意味があると言います。
元々アイドルとは関係ない人が出る予定だったイベント。
それに呼ばれたと言う事は、アイドル抜きにしても知名度が上がっている証拠だと。
更に千奈お嬢様の知名度でも集客に問題ないと運営側が判断した。そういう事らしいです。
「結局下に見られているような気がしますが……」
「難しい所ではありますね。相手としては、初星学園の新生徒会長として選ばれた倉本さんをはかりかねている印象でした」
「何故ですか? 実績も申し分ないと思いますが」
「そこが仇になった感じですね。直近の実績があまりにも大きすぎて実感が湧かないんです」
確かに、つい最近直接ではありませんが、星南会長を破った実績があります。
しかも新入生がそれを成したともなれば、疑いの目で……見てしまうのもわからなくはない……気がします。
「それでも、最後にお相手は今後ともよろしくお願いしますと言っていましたよ」
「そうだったんですか?」
「聞いてなかったんですね……」
まぁ大丈夫でしょう。
なんだって千奈お嬢様ですから、イベントを大成功させて、またやってほしいまで言わせるに違いありません。
それはそれとして、かなり暗くなってきましたね。
「奇麗ですねイルミネーション」
「そういえば、11月22日の今日からでしたっけ」
初日ではあるもののちらほらとカップルが見えます。
プロデューサーと歩いている私も、はたから見ればカップルに見えるのでしょうか?
そう思うと恥ずかしくなり、少し距離を開けます。
「危ないですよ」
しかし、反対側から歩いている人とぶつかりそうになり、引き寄せられ。離れる前よりずっと近い距離に。
こんなに近いと、私の乱れる鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配です。
「どうしますか? もしよければ手を貸しますが」
そう言って差し出される手。
つまり手をつなぎますか? そういう提案です。
良くもまぁこんな恥ずかしい事を……。
「何言ってるんですか、プロデューサーとはビジネスパートナー。手を繋ぐ義理はないですよ……ですが――――」
そう言って私はプロデューサーのコートの袖バンドに指をかけます。
「恋人と来ている人が多い中で一人で歩いていても不自然なので……手は繋ぎませんが一緒に歩いてあげます」
とてつもなく恥ずかしい、でも今だけは少しでいいから恋人気分を味わいたい。
そして、それをプロデューサーに気づいてほしくない。
そんな気持ちが抑えられなくて、行動に移した結果でした。
「プロデューサー……もし良ければ、来月のクリスマス。また一緒にここを歩いてくれませんか?」
「……良いですよ。来月また来ましょう」
この関係に終止符を打つため、私は行動を起こすことを決めました。
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- みちるNovember 24, 2025