「オフィス内の便器はすべて和式とする」「社名を株主阿鼻叫喚ホールディングスとする」…個人投資家らの“悪ふざけ株主提案”が横行する「株ハラ」の実態
■乱用的な提案は「株主ハラスメント」 問題は、こうした荒唐無稽なものであっても、正式に議案として提出されると、会社は取締役会などで賛否を決め、総会でほかの株主に諮る必要があることだ。三井金属鉱業のトイレットペーパーの例でも「コスト削減については、会社の利益に直結する企業活動継続の基本であると考えており、三井金属グループ全体で継続的に取り組んでおります。従いまして、取締役会としては、定款に本議案のような規定を設けることは不要と判断しております」などと文書で正式に公表し、株主総会の議案として他の株主にも賛否を聞いている(すべて否決)。 こうした乱用的な提案は、一部で「株主ハラスメント(株ハラ)」などとも言われている。 吉田さんは言う。 「もちろん、個人からの提案でも質の高い、検討に値するものは多くあります。一方で、悪ふざけのような提案や、長期的な企業価値ではなく短期的な利益ばかりを求めるような提案がなされているのも事実です。乱用的な株主提案は会社のリソースを奪うことになり、中・長期的な企業価値向上の阻害要因にすらなっていると思います」 こうした状態に対して、法務省の法制審議会は今年3月、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめ、株主提案権について「【A案】議決権数の要件を廃止する」「【B案】『300個』という議決権数の要件を、一定の個数まで引き上げる」の2案を提示、5月には、経団連がこの中間試案について「【A案】に賛成し、【B案】に反対」する意見を表明している。 ただ、簡単に「廃止」とできる問題でもないだろう。 「仮に300個の要件が廃止されて1%だけが条件となれば、一般の個人投資家による株主提案がほぼ不可能になり、制度の趣旨から考えても『廃止』でいいかは疑問です。一方、会社側が増加する株主提案に苦慮していて、ほとんど賛同を得られないような提案にもリソースを割かなければならない現状を変える必要があることも間違いありません。また、長期的な成長投資よりも目下の株主還元を求める提案が多く、それを受けてか上場企業の株主還元額は近年急増していますが、これは必ずしも企業価値向上にはつながりません」(吉田さん) 企業に対する株主の意思表明の権利と、会社運営の実務的な負荷のバランスをどうとるか。個人投資が一般的になった今、改めて考える分岐点にあるのかもしれない。 (AERA編集部・川口穣)
川口穣