香名江「プロデューサー。……服を、脱いでください」
香名江さんと千奈P【重要】ギャグです。
千奈ちゃんSTEP3のネタバレはありません。
同僚みたいな関係の男女コンビ(非カップル)の供給助かる。ありがとう学マス。
香名江さんの情報が少ないってことはよぉ〜、今なら好き勝手想像して書けるってことだよなぁ??
……の精神で書きました。よろしくお願いします。
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「こちらへどうぞ、プロデューサー」
「……はい」
いつものように倉本家の別荘を訪れたプロデューサーは、邸内に入るや否や、倉本千奈の専属メイドである氷渡香名江によってとある部屋に通された。
普段打ち合わせに使用しているのとは別の、初めて入る部屋だった。
この別荘内にしては珍しく調度品が少なく、飾り気がない。……もちろん、そこに彼の担当アイドルの姿はなかった。
「あの、氷渡さん。……ここは?」
「普段、私が使用させていただいている部屋です」
「え?」
「……突然すみません、どうしてもあなたと二人きりでお話がしたくて、足を運んでいただきました」
その言葉に、プロデューサーは訝しげに香名江の顔を見る。
そこには、隠す気もない嫌悪の表情が浮かんでいた。
◇
この二人は、プロデューサーが倉本千奈の担当となった時に初めて顔を合わせており、かれこれ半年の付き合いとなっている。プロデューサーからしてみれば、半ば同僚のような存在だった。
近頃は刺々しい態度を取られることはあっても、出会った当初ほどあからさまに敵意を向けられることはなくなっていた。……そしてもちろん、私室に招かれるほど親しくなってもいない。
そんな彼女の、いつもとは違う行動と雰囲気にプロデューサーが身構えた時、香名江が口を開いた。
「あなたが千奈お嬢様に良からぬ情を抱いているのは分かっています」
「……は?」
言いがかりに等しい言葉に固まったプロデューサーを、憎悪を込めた視線が射抜く。
「私としても大変不本意ですが、これもお嬢様の安全のため……」
「プロデューサー。……服を、脱いでください」
香名江が一歩、距離を詰める。彼女のエプロンドレスの裾がふわりと揺れた。
なおも固まって動けないプロデューサーの目は、彼女の右手に向けられている。
……そこには、金属製の、奇妙な形をしたペンチのようなものが握られていた。
「ええっと、あの、氷渡さん……? その、手に持っているものは何ですか…………?」
「胡桃割り器です」
「ええと、それでいったい何を…………?」
「あなたの睾◯を潰します」
「なんで!?」
衝撃で敬語すら忘れたプロデューサーの声が、部屋の中に響いた。
◇
「お嬢様に劣情を抱くケダモノは去勢しておかないと……」
うわごとのように呟きながら、凶器を片手に距離を詰める香名江。
「ちょ、ちょっと! 氷渡さん!?」
「大丈夫。倉本家の専属医療チームがついていますから心配は無用です。命まで取るつもりはありません」
「代わりにタマ取られるじゃないですか!」
「なんて下品な……。やはりお嬢様の傍には置いておけません」
「あなたが言い始めたことでしょう!?」
ついに壁まで追い詰められたプロデューサーは、両手を突きだして必死に説得を試みる。
「……とにかく、いったん落ち着いてください! なぜ今になって急にそんなことを? せめて理由を話してもらわないと納得できません!」
「…………ふん。まあいいでしょう。……弁明する機会くらいは差し上げます」
プロデューサーからすれば至極当然の質問を受けて、香名江はようやく右手を降ろした。
暗い瞳で睨みつけるようにしながら、彼女は口を開く。
「……お嬢様のお仕事の内容は、すべて倉本家に報告することになっている。……そのはずですね?」
「え、ええ、その通りです」
プロデューサーが頷く。
彼は倉本家からの依頼という形で倉本千奈のプロデュースをしている。当然、倉本家への活動報告も契約内容に含まれているのだった。
「では、これはどういうことですか?」
香名江はスマホを取り出し、プロデューサーに向かって突きつけた。
そこに表示されているのは、恥ずかしそうに微笑む千奈の写真。
ただし、丈の長い園児服──いわゆる『チャイルドスモック』を着ているものだった。
「昨日、お嬢様が今まで着た衣装についてお話してくださいました。それはそれは楽しそうに……。
その時、いくつか写真も見せてくださって、その中にこれがあったのです」
「ああ……なるほど…………」
プロデューサーは思わず天井を仰ぎ見る。香名江は怒気強く彼に詰め寄った。
「こんな衣装を着るような仕事は、報告書にはなかったはず。……あなたは純粋なお嬢様に、仕事と偽っておかしな衣装を着せ、自分の歪んだ性的嗜好を満たしているのでしょう!?」
「ご、誤解です! その衣装は、アイドルとしての伝統的な衣装なんです!」
「そんな伝統、あるわけないでしょう!?」
そう言われても、事実なのだから仕方ない。……ただ、どう言い繕っても信じてもらえるとは思えなかったので、プロデューサーとしても件の衣装については黙るしかなかった。
「……衣装はともかく、報告書になかったのは宣材や企画の準備として色々撮影したけれど、実際には使う機会がなかったというだけで……」
「じ、実際に使う!? お嬢様の写真でナニをしようとしているんですか!」
「なにを言ってるんですかあなた!?」
わなわなと怒りに身を震わせた香名江だったが、さすがに先走ったことに気付いたらしい。頬をわずかに赤くしながら、こほんとひとつ咳払いをする。
「……んん。失礼いたしました。…………ではこちらはどうなんです!?」
続いて香名江がスマホの画面に表示させたのは、水着姿ではにかむ千奈の写真。温泉での撮影の時のものだ。
「温泉で水着を着て撮影なんて、何を考えているんですか!」
「それは俺にも分かりませんが、学園の企画なんですから仕方ないでしょう!?」
「そんな企画を通す学園、どうかしています!!」
「それを俺に言われても困ります!!」
ほとんど怒鳴り合いのようにひとしきり言い争って、ぜいぜいと荒い息を吐く二人。両者とも普段は大声を出すタイプではないため、顔には疲れが滲みはじめている。
お互い息を整えて……再び香名江が口を開く。
「……そうですか。ではあくまで、あなたの趣味嗜好ではないと言い張るのですね?」
「ええ、そのとおりです」
「なるほど。…………ではあなたは、この水着姿のお嬢様を見ていて、一切の劣情を抱かなかったと?」
「へ…………?」
予想外の問いかけにぴたりと動きを止めるプロデューサー。部屋の中が妙な沈黙に包まれる。
香名江は大きく息を吐いて一つ頷くと、扉に向かって歩き出した。
「……少々ここでお待ち下さい。マスケット銃を取ってまいります」
「待って、話を聞いてください! 黙ったのは、全く無いと言ってしまうのもそれはそれで問題があるかと思っただけで……! ちょっと──!?」
◇
「本当に捕まりますよ氷渡さん!」
「千奈お嬢様のためならこの氷渡香名江、ケダモノの穢らわしい血で手を汚すことも厭いません!」
「今、どさくさに紛れて酷いこと言いましたね!?」
言い争う声は、倉本千奈の私室にまで届いていた。
内容までは聞き取れなくとも、部屋の主にはそれらが誰のものであるか、すぐに察しがついた。
「(あら、先生と香名江の声……)」
「(ふふ。いつの間にか二人とも、仲良くなっていたのですね)」
「(……けれど、あんなふうに大きな声で言い合いができるなんて)」
「(すこし、うらやましい……)」
「………………」
「いいなぁー…………」
その小さな呟きは誰の耳にも届くことはなく。
毛足の長い絨毯に落ちて、吸い込まれていった。
めちゃくちゃ面白くて笑わせてもらいました!