シャーレ公式SNSにクソボケ発言を誤爆投稿した先生の話
プライベートもSNSも監視で盗聴されてほぼ毎日休日返上で徹夜続きでロクな休みが無さそうな先生ってかわいそ……
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深夜零時。キヴォトス全土が静寂に包まれる時間帯であっても、連邦捜査部『シャーレ』の執務室の明かりが消えることはない。
デスクの上には、各学園から送られてきた山のような報告書、決裁待ちの予算案、が、まるで難攻不落の要塞のように聳え立っていた。
"……終わらない。どう計算しても、あと三日は寝られない気がする"
私は深くため息をつき、三本目のエナジードリンクを胃に流し込んだ。カフェインと糖分で無理やり脳を覚醒させているが、視界の端がチカチカと明滅し始めている。
ふと、窓の外を見た。遠くに見えるD.U.の夜景は美しいが、この広いオフィスに一人でいると、どうしようもない孤独感に襲われることがあった。
生徒たちのために働くのは私の義務であり、誇りだ。しかし、私もただの人間である。疲労がピークに達すると、ふと「誰かに甘えたい」「癒されたい」という、大人げない弱音が頭をもたげるのだ。
"……そうだ。裏垢で愚痴ろう"
私はスマートフォンを取り出した。私には、ごく一部の親しい友人しか知らない、鍵付きのプライベートアカウントがある。そこに少しだけ本音をこぼせば、この息苦しさも少しは晴れる気がした。
無意識のうちに、私の指は画面をタップしていた。
『疲れた……こんな夜は、誰かに優しく慰めてほしい。私も彼女欲しいなぁ……』
送信ボタンを押した瞬間。机の上に置いてあったシッテムの箱が、鼓膜を破らんばかりの警告音を鳴らし始めた。
『せ、先生ッ!? 何やってるんですか!?』
『警告。シャーレの公式アカウントに、極めて不適切なポストが送信されました』
画面の中に現れたアロナとプラナが、顔面を蒼白にしながら赤いアラートウィンドウを掲げている。
"……?"
私は自分のスマートフォンの画面を二度見、いや三度見した。だが、今画面の右上に鎮座しているのは、青と白を基調とした、十字と円を重ねてヘイローを頂くエンブレム。
"…………えっ"
瞬きを三回。画面を更新する。私の呟きの下には、すでに恐ろしい数字が表示されていた。
リポスト:15,420 いいね:32,011
キヴォトスのすべての生徒、すべての行政機関、すべての悪党が監視している『シャーレの公式アカウント』で、私は全世界に向けて「彼女募集中」の宣言をしてしまったのだ。
"や、やばい! 削除! 即削除おおぉぉぉっ!!"
私は慌てて指を滑らせ、震える手で投稿を削除した。
だが、時すでに遅し。ネットの海に放たれた情報は、デジタルタトゥーとなって永遠に残るのだ。
『先生!現在、送信からわずか十秒で、該当ポストに対するリポストが十万件を突破! いいねの数は百万件を超えました!』
『キヴォトス全域のネットワークトラフィックが異常な数値を記録しています』
『ピロンッ』
『ピロンッ』
『ピロロロロロロロンッ!!!』
私のスマートフォンが、モモトークの通知で狂ったように鳴り始めた。通知画面には、見慣れたアイコンたちが滝のような勢いで流れていく。
『ユウカ:先生!? 今の公式の投稿は何ですか!? というか私のことですよね!? 今すぐそっちに行きます!!』
『ノア:ふふっ。先生、おめでとうございます。ユウカちゃんが顔を真っ赤にして部室を飛び出していきましたよ』
『ミカ:えっ! 先生彼女欲しいの!? 待ってて、今すぐ行くから! 私をお姫様にしてくれるんだよね☆』
『ヒナ:……先生。時間ある?……いや、今から行く』
『アル:えっ!? せ、先生が彼女募集!? こ、これは便利屋68の社長として立候補するべきなのかしら!?』
"終わった……"
私はスマートフォンをデスクに伏せ、両手で顔を覆った。大人の責任。キヴォトスの調停者。その看板が、たった一つの誤爆で木っ端微塵に粉砕されてしまった。
逃げよう。そう決意して席を立ち上がった、まさにその時だった。
「――先生ッ!!」
バンッ!! と、執務室の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。息を切らし、肩で風を切りながら飛び込んできたのは、ミレニアムサイエンススクールの『算術の魔術師』にして、私の財布の紐を握る実質的な正妻ポジション――早瀬ユウカだった。
彼女の紫色の瞳は、普段の冷静さを完全に失い、焦りと怒り、そして隠しきれない期待でギラギラと燃え上がっている。
"ユ、ユウカ!? は、早いね!? ミレニアムからここまでどうやって……"
「シャーレにちょうど向かってた最中で……! それより、あの呟きは何ですか! 『彼女が欲しい』だなんて!わ、私という……その、いつも先生の健康と家計を管理している担当者がいるというのに、これ以上、どこの馬の骨とも分からない女を近づけるつもりですか!」
"いや、あれは違くて! 疲れてて裏垢と間違えて……"
「とにかく! 先生のパートナーたる存在は、緻密な計算と生活能力が求められます!毎晩のように不摂生を繰り返し、10万円の変形ロボットを衝動買いするようなダメな大人を支えられるのは、私しかいません!Q.E.Dです!」
ユウカがデスクに両手をつき、私に顔を近づけてくる。その顔は茹でダコのように赤い。
「だいたい、シャーレの公式アカウントであんな……あんな、破廉恥な投稿をするなんて、セキュリティ意識も大人としての自覚も欠如しています!信じられません、最低です!」
"それはごもっともです……"
「だいたい、『彼女が欲しい』って……! そ、そんなに私に一言、言ってくれれば……っ!」
「あら。ずいぶんと都合の良い解釈ね、ミレニアムの会計さん」
ユウカの言葉を遮るように、開け放たれたドアからもう一人の少女が姿を現した。連邦生徒会・財務室長、扇喜アオイ。
彼女はバインダーを抱き抱えるように持ちながら、冷ややかな視線をユウカに向けた。
「アオイ……!? なんで連邦生徒会がここに!」
「当然でしょう。シャーレの公式アカウントの炎上は、連邦生徒会の広報にも多大な影響を及ぼすのよ。事態の収拾と、先生の『身柄の保護』のためにやってきたのよ。……先生。あのような不適切な投稿は、公人として感心しないわ。でも、あなたがそこまで……私に支えてほしいと望むのであれば、公私混同は避けられないけど、連邦生徒会として私が……その、かの、彼女……役を、請け負っても……」
アオイは普段の杓子定規な態度を崩し、耳まで真っ赤にしてモジモジと身をよじった。
「ちょっと! どさくさに紛れて何を言ってるんですか! 先生の家計簿と健康を管理しているのは私です! つまり、私が適任に決まってるじゃないですか!」
「いいえ! 私こそが、先生の公私をサポートするのに最も適任よ! あなたのような感情的な生徒に、先生はお任せできないわ!」
ミレニアムと連邦生徒会の財務トップ二人が、私の両腕をそれぞれ掴み、火花を散らして睨み合う。
経理担当二人の強烈な正妻アピールに、私の胃壁はすでに悲鳴を上げていた。
"あ、あの、二人とも。落ち着いて……あれは本当に事故で……"
「「先生は黙っててください!!」」
"ア、ハイゴメンナサイ"
完全に蚊帳の外だった。
「風紀委員会の業務を抜け出して、急いで駆けつけてみれば……私への当てつけですか、これは?」
その時、ドアの向こうから、カツン、カツンとヒールの音を響かせて現れたのは、ゲヘナ学園風紀委員会の行政官、天雨アコだった。
相変わらず横乳がこぼれ落ちそうな過激な制服を着た彼女は、手に何やら『革製の首輪とリード』を持っている。
"ア、アコ? なんで来たの……というか手に持ってる首輪は何……?"
「決まっているでしょう!先生が『彼女が欲しい』などとふざけた呟きをするから、ヒナ委員長のご命令でわざわざ来たんです!はぁ……首輪は私のストレスの八つ当たりとして、先生に犬扱いされてストレス解消するための道具ですよ!……なのに、私を差し置いて、こんな泥棒猫たちと痴話喧嘩ですか!? 許せません! 全部先生のせいです!」
"どっちかと言うとお散歩プレイする為に来てない!?"
「うるさいですね!さっさと私に首輪を付けてゲヘナまで連れ帰ってください!」
"逆に『はい分かりました』って言うと思うの!?"
「先生!ペット懇願してるゲヘナ行政官なんかどうでもいいです!私とアオイ、どっちを選ぶんですか!」
「当然だけど私よね先生?」
「はぁ!?どうでもいいとは何ですか!?私は先生ではなくヒナ委員長のペットなんですよ!訂正してください!!」
"あーもうめちゃくちゃだよ……"
ユウカ、アオイ、アコが三つ巴の言い争いを始める中、
「……無駄な争いはやめていただきたいですね」
ふいに、執務室の奥――死角になっていた来客用ソファから、平坦な声が響いた。ユウカとアオイが驚いて振り返る。
そこには、いつの間にかソファに座って紅茶を飲んでいた、C&Cのコールサイン04――飛鳥馬トキの姿があった。
"ト、トキ? 君、昨日の夜にミレニアムの寮に帰ったんじゃ……"
「帰るふりをして、戻ってきました。私は先生の専属エージェントであり、将来のお嫁さんとして内定していますから。公式での発表は、私の存在を既成事実化するための布石だと理解しています」
「なっ…… トキ!? あなた、いつからそこに! というかお嫁さんって何!?」
「先生の彼女枠は、すでにこの飛鳥馬トキによって制圧完了しています。なので御三方速やかにご退室ください。……先生、これからはC&Cのメイドとして、そして先生の妻として、これからは24時間365日私と繋がっていてくださいね」
"いや、トキのことは頼りにしてるけど、内定は出してないからね!?"
無表情のまま、凄まじく重い言葉を吐きながら、トキが私の背中にピタリと張り付いてくる。彼女の柔らかな体温が背中に伝わってくるが、それ以上に逃げ場のない包囲網が形成されていく恐怖の方が強かった。
「――トキ、抜け駆けは許しません!」
"うわあああ!?アリスとケイが飛んできた!?"
さらに窓の外から、フライトユニット『アビ・エシュフ』を装着した天童アリスと、その背中にしがみついた天童ケイが飛来し、割れた窓から強引に侵入してきた。
「パンパカパーン! 先生、アリスは『先生の彼女』という上級ジョブにジョブチェンジしました!これで先生とアリスは、ゲームのエンディングまでずっと一緒のハッピーエンドです!」
「ダメですアリス!先生のような自己管理能力の欠如した人間には、私のような優秀な……いえ、天童ケイというプロデューサーが伴侶として徹底的に管理・束縛しなければ、すぐに破滅してしまいます!先生、私以外の女のデータはすべて削除しましたから、安心してくださいね!」
"ケイちゃん!? 私のスマホのアドレス帳の中身全部消してない!?"
ミレニアム組とゲヘナ組が入り乱れ、オフィスは完全にカオスと化していた。だが、キヴォトスの恐ろしさはここからだった。
『……先生。私、言ったよね?『襲われても知らないよ』って』
ゾクッ、と。背筋に氷柱を差し込まれたような悪寒が走った。
入り口の影から、ゆっくりと姿を現したのは、二匹の猫。百鬼夜行連合学院の桐生キキョウと、放課後スイーツ部の杏山カズサだ。
「ふーーーーっん?? 先生……。随分と楽しそうに、色んな女に囲まれてるじゃん……私という『一番落ち着く彼女』がいるのに、まだ新しい女が欲しいんだ……?」
カズサが、目に一切のハイライトを入れない「死んだ目」で私を見下ろしている。彼女の背後には、まるで黒いオーラのような湿度が渦巻いていた。
「……先生。あんたの時間は全部、私が独り占めするって言ったよね?無言でいなくなったりしないでって言ったのに、公式アカウントで大々的に浮気宣言だなんて…………でも、いいよ。今ここで、私以外の女を全員『排除』すれば、あんたは私だけのものになるから」
キキョウが、チャカッと百花繚乱の制式ライフルを構えた。その瞳には、完全なる独占欲と、絶対に私を逃がさないという暗い情念が燃え滾っている。
"カ、カズサ! キキョウ! 落ち着いて! これは違うんだ、ただの誤爆で……!"
「うへぇ~、なんだかずいぶんと賑やかだねぇ。おじさんも、先生の彼女オーディションに参加しちゃおうかな~?」
間延びした声と共に、アビドス廃校対策委員会の小鳥遊ホシノが、ショットガンを肩に担いで現れた。その口調はいつも通り飄々としているが、オッドアイの瞳には、かつて「暁のホルス」と呼ばれた頃のような、鋭く冷酷な光が宿っている。
「先生。おじさんね、今までずっと我慢してたんだけど……もういいかなって思って。先生まで私の目の前から居なくなるのは嫌だから……」
"ホ、ホシノ!? 目がマジだよ! 冗談じゃないよねそれ!?"
「先生。……遅れた」
今度は、窓の外から声がした。見ると、地上数十階の窓ガラスの向こう側に、ワイヤーで宙吊りになったまま、少女――シロコ*テラーが、静かに浮かんでいた。
"し、シロコ!? なんで外から!?"
「ドアが混んでたから。……先生、窓、開けて」
私は慌てて窓のロックを外した。シロコ*テラーは音もなく室内に滑り込み、大人びた体つきに似合わない、どこか切なげな瞳で私を見つめた。
「先生が、パートナーを探してるって聞いた。……私じゃ、ダメ……? ん、他の子たちみたいに器用じゃないかもしれないけど……でも、私は、先生のことを誰よりも……」
"し、シロコ……その、気持ちはすごく嬉しいんだけど、あれは本当にただの誤爆で……"
シロコ*テラーの切実で、どこか悲哀を帯びた瞳で見つめられると、胸が締め付けられるような罪悪感に襲われる。だが、彼女のもう片方の手にはしっかりとアサルトライフルが握られており、いつでも私を拉致できるように準備が整えられていた。
「うん、お待たせ! 先生のお姫様、登場だよ☆」
"ミ、ミカ!? なんで壁を壊して入ってきたの!?"
トリニティ総合学園『ティーパーティー』の元ホストにして、キヴォトス最強のゴリ……武闘派の一角、聖園ミカだった。
彼女は壁の残骸をヒールの底で踏み砕きながら、真っ直ぐに私の元へと歩み寄ってくる。
「だって、ドアの方にはユウカちゃんたちがいて混んでたし、最短距離で来たほうが先生に早く会えるじゃんね? あははっ☆」
"いや、最短距離だからって壁をぶち抜かないで!? ここ、防弾仕様の強化コンクリートだよ!?"
「そんなの気合いだよ、気合い! それより先生、見たよ、あの呟き! 先生、彼女が欲しいんでしょ? だったら……私がなってあげる☆」
ミカは私の首に両腕を回し、その豊かな胸を私の腕に押し当てながら、甘ったるい声で囁いた。
「私、先生のためならなんだってするよ? ロールケーキも我慢するし、補習授業も真面目に受けるし……。だから、私だけを見て? ね? 先生のお姫様は、私だけでしょ?」
ミカの瞳に、ほんの少しだけ「ハイライトの消えた依存の色」が混ざっている。これはまずい。本気のやつだ。最近ようやく自立をし始めたのに私のせいで逆戻りしている。
"ま、待って! みんな落ち着いて! 話せばわかる!"
「……どうせ私みたいな女は、先生の彼女になんて選ばれない」
不意に、私の首に冷たい包帯の感触が巻き付いた。 背後から私に抱き着いてきたのは、アリウススクワッドの戒野ミサキだった。
「先生の公式の呟きを見た時……私の心の中の虚無が、さらに広がった。どうせ、私以外の誰かが選ばれるんでしょう? 先生も結局、私を置いていくんでしょ?……それなら、いっそ」
ミサキは私の首筋に顔を埋めながら、ゾッとするほど甘く、そして暗い声で囁いた。
「先生の首を絞めて、私も死ぬ。そうすれば、私たちは永遠に一緒になれる……ねえ先生、一緒に死んでくれるよね?」
"ミサキ!? メンヘラ極まってるよ! 首が、首が絞まってる! 苦しい!"
「先生から離れなさい!! 先生は私と、私と結婚するんですから!!」
「先生を確保するのはアリスのパーティです!」
オフィスは完全に地獄絵図だった。
ゲヘナ、ミレニアム、トリニティ、百鬼夜行、アリウス、アビドス……キヴォトス全土の生徒たちが、私というたった一つのパイを巡って、血みどろの正妻戦争を繰り広げている。
「……随分と、騒がしいな」
その時、オフィスの隠しエレベーターが静かに開き、地下から四つの影が現れた。SRT特殊学園、FOX小隊。
「先生。……このような騒動を引き起こすとは、大人としての自己管理がなってないな。私たちが、先生の貞操と安全を『保護』させてもらう」
小隊長のユキノが冷たく言い放つと、副小隊長のニコがふわりと微笑みながら、タッパーに入ったいなり寿司を差し出してきた。
「ふふっ。先生、お腹が空いたでしょう?安心してください、私達が奥さんとしての胃袋の掌握は、私が完璧にこなしますからね。一緒に地下のHQで、誰にも邪魔されない新婚生活を始めましょう?」
「ちょっとニコ! 私も先生のお嫁さんになるんだからね! 下着だって、今日のために一番気合入れたやつ着てきたんだから!」
「クルミ、そういうのは後でこっそり見せるものだよ~。先生、私の魔弾……じゃなくて、愛の弾丸、受けてもらうからね?」
クルミとオトギまでが参戦し、FOX小隊が組織的なフォーメーションで私を包囲し始めた。
"も、もうダメだ……アロナ! プラナ! 助けて! "
私はすがるような思いでタブレットを掲げた。しかし、画面の中にいるアロナとプラナは、なぜかウェディングドレス姿にお着替えしていた。
『先生! 私たちにも立候補する権利があります! 先生の一番身近にいるのは私たちなんですから、私たちが先生の彼女になるのが一番自然です!』
『そうです、先生。……私以外の生徒を選ぶというのなら、先生が襲われるのを静観するしかありません』
"AIまで脅迫してくるの!? 終わった……私の人生、ここで終わるんだ……"
シャーレのオフィスは、さながらキヴォトス全土を巻き込んだ「最終戦争」の様相を呈していた。
火花が散り、今にも銃撃戦が始まりそうになった、その時――。
「――そこまでです。全員、直ちに先生から離れてください」
その声は、拡声器を使ったかのようにオフィス全体に響き渡った。 激しい争いを繰り広げていた生徒たちが、一瞬だけ動きを止める。
ドアの前に立っていたのは、プラチナブロンドの少女――連邦生徒会長だった。
"か、会長……!? 助けて!"
私は救世主を見た思いで彼女に手を伸ばした。連邦生徒会長という絶対的な権力があれば、この暴動を鎮められるかもしれない。
彼女は静かに歩み寄り、私の手を取った。その表情は、AIのように無機質でありながら、どこか慈愛に満ちていた。
「安心してください、先生。連邦生徒会長としての権限を行使し、事態はすべて私が『最適化』しました」
"さ、最適化……? つまり、この暴動を……?"
「皆さん、落ち着いてください。深夜のシャーレで騒ぎを起こすのは感心しませんね。各校の代表ともあろう者たちが、一人の大人の私生活を巡って暴動を起こすなど、キヴォトスの治安維持の観点から見過ごせません」
彼女の言葉に、さすがのミカやユウカたちも動きを止める。
偽連邦生徒会長は、微かに頬を染め、ふぅっと小さく息を吐いてから、とんでもない爆弾発言を投下した。
「――したがって。シャーレ担当顧問の精神的安定と、キヴォトスの秩序維持のため、連邦生徒会として【先生の配偶者選定】をプロジェクトとして推進することを決定しました」
"……はい!?"
『一次審査の書類選考は、連邦生徒会長である私が直々に担当します。なお……会長権限により、私自身もシード枠として立候補することを、ここに宣言します。先生、明日は連邦生徒会の特別室にお越しください。ウェディングドレスの試着に付き合っていただきますから」
ホワイト上司の権力乱用による、まさかの国家プロジェクト化。
少し照れくさそうに微笑む会長を見て、オフィスの生徒たちの殺気が、一気に頂点へと達した。
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」」」」」
オフィスの生徒全員が、かつてないほどの特大の殺意を連邦生徒会長に向けた。
「先生の正妻を名乗るなんて許しません!!」
「連邦生徒会ごと吹き飛ばしてやるわ!!」
「先生は私のお姫様だよ!!」
「ん、連邦生徒会を襲う」
ズドドドンッ!! ドガァァァンッ!!
ついに、火器と神秘が乱れ飛ぶ、第四次サンクトゥムタワー攻防戦を超える規模の大規模戦闘が、私のオフィスの中で始まってしまった。。
「あなた様……♡あなた様の公式アカウントの呟き、拝見いたしました!! このワカモ、たとえ世界を敵に回そうとも、あなた様の『彼女』として、一生お傍でお仕えいたします♡」
窓を粉々にぶち破ってワカモが弾幕の嵐をすべて無視して、私に向かって猛スピードで突進してきた。その純粋すぎる愛の重さと、乙女全開の姿。
私は、ふと閃いた。この地獄を抜け出すには、もうこれしかない。
私は立ち上がり、突進してくるワカモに向かって両手を広げた。
"ワカモ!!!"
「は、はい……!?あ、あなた様!? 自ら私に手を広げて……!?」
私は、ワカモの肩をガシッと掴み、彼女の顔を至近距離で見つめた。鼻先が触れ合うほどの距離。ワカモの瞳が極限まで見開かれる。
"ワカモ……。本当に、私の彼女になってくれるの? 私、ずっと君のことが……"
「あ、あ、ああ、あなた様……!? そ、そんな至近距離で……お顔が……お声が……!? し、心臓が……」
ワカモの顔が、瞬く間に沸騰したヤカンのように真っ赤になり、狐耳がピンッと直立した。
「あ、あわわわわわわわわ……っ……ッ♡」
ワカモの頭頂部から凄まじい勢いで白煙が吹き出し、彼女はそのまま白目を剥いて「キューッ」と音を立てながら、気絶してその場に倒れ伏した。
純情すぎるがゆえの、キャパオーバーによるショート。
"……よし! いける!"
私は気絶したワカモををお姫様抱っこした。
"みんな聞いてくれ!! 私は気絶してしまったワカモを医務室に運ばなきゃいけないから!! 彼女オーディションはまた後日ということでそれじゃあ!!"
私はワカモを盾……いや、大義名分にして、そのまま猛ダッシュで崩壊する執務室から逃亡を図った。
「あっ! 先生が逃げたわ!」
「待ってください先生! 私の計算では、まだ愛を証明する時間が残されています!」
「先生!! アリスを置いていかないでください!!」
「ん、逃がさない」
背後から、キヴォトス最強クラスの生徒たちが、地響きを立てて追いかけてくるのがわかる。
"誤爆しただけなのにどうしてこんな目に……!!??"
私の悲痛な叫びは、虚しく夜空に響き渡るだけだった。
――次の日、シャーレの公式アカウントには『昨日の呟きは不正アクセスによる乗っ取りでした。大変申し訳ありません』という謝罪文が掲載されたが、それを信じる生徒はキヴォトスにただの一人もいなかったという。
さあ、先生、どっちが選ぶのか?それともハーレムエンドか?