東北福祉大・猪俣駿太「ドラ1」狙う155キロ右腕、屈辱の秋に思い出した“遊び心”
昨秋のプロ野球ドラフト会議で、仙台六大学野球リーグからは5選手が指名を受けた。今年の筆頭候補は東北福祉大学の最速155キロ右腕・猪俣駿太(3年、明秀日立)。身長185cmの恵まれた体格を生かしたパワフルな投球が持ち味だ。運命のドラフトイヤーを迎え、「順位は1位にこだわりたい」と1位指名を目標に掲げる。達成するため、猪俣はある言葉を胸に刻んでマウンドへ向かう。
高校3年時に春夏連続で甲子園を経験、大学では日本一に
福島県喜多方市出身の猪俣は、兄の影響で小学2年生の頃に野球を始めた。高校から地元を離れ、茨城・明秀日立高校へ。2年秋からエースナンバーを背負って秋季関東地区高校野球大会の初優勝に導くと、3年時は春夏連続で甲子園に出場。春の初戦で鹿児島・大島高校の大野稼頭央(現・福岡ソフトバンクホークス)に投げ勝つなど聖地で躍動した。
東北福祉大では2年春にリーグ戦デビューを果たした。いきなり高校時代の最速を8キロ上回る153キロを計測して強烈なインパクトを残すと、2年秋と3年春はいずれもリーグトップの防御率(2年秋は0.79、3年春は0.66)をマークして2季連続でベストナインと最優秀投手賞の二冠に輝いた。
昨年の全日本大学野球選手権では3試合に救援登板し、計7回2失点と役目を全うして日本一に貢献した。中でも、優勝候補と目された青山学院大学との準決勝では5回1失点と快投を披露。猪俣は「相手が長打を狙っていると感じて、それなら打たせて取ろうと気楽に考えることができた。自分の持ち味が出せたと思います」と強敵を封じた一戦を振り返る。
苦しんだ秋、視野が狭まり見えなくなったグラブの刺繍
順風満帆に思われた大学野球生活だが、昨秋は壁にぶち当たった。先発した東北学院大学との2試合はいずれも試合を作れず、計6試合に登板して防御率は過去ワーストの4.11。明治神宮野球大会出場をかけた東北地区大学野球代表決定戦では、八戸学院大学との決勝でピンチの場面から救援登板し、4者連続で四球を与えて1死も取れずに降板する屈辱を味わった。
「秋は自分の結果を出そうとしすぎて失敗しました。もともと我が強いタイプではなく、淡々と投げるスタイルなのですが、『自分が抑えてチームに勝ちをつけたい』という気持ちが出すぎて球速に目が行ったり、力で抑えようとしたりしてしまいました。『自分が、自分が』となって周りが見えなくなり、視野が狭まったのが(不調の)要因です」
今ではそう冷静に自己分析をする猪俣。秋は悔しさから降板後のベンチで感情的になる姿も散見された。「ああいう姿を見せた時点で自分が出すぎている。自分じゃない部分が出ているというのに近い状態でした」。負の連鎖に陥っていることは本人が誰よりも分かっていた。
猪俣が以前から大切にしている言葉がある。「遊び心」だ。インターネットや本の文章で目にしたのを機に、マウンド上ではこの言葉を思い浮かべながら「遊びを持たせて楽に、楽しく投げよう」と心がけている。それを続けるうちに、「テンポよく投げて試合を作る」能力が自身の強みになった。
甲子園や大学選手権の大舞台でも、グラブに刺繍(ししゅう)した「遊び心」の文字を見て心を落ち着かせ、好投につなげた。だが、昨秋はグラブに目をやる余裕がなくなるほど視野が狭まっていた。「もう一度この言葉の意味を考えないといけない」。もがき苦しんだ一方、初心に立ち返るきっかけを得たシーズンだった。
ドラフトと代表候補合宿を経て決意新た「背中を追いたい」
昨秋以降はドラフトイヤーに向けて士気が高まるような出来事が続いた。
10月のドラフトではともにプレーした櫻井頼之介(4年、聖カタリナ学園、中日ドラゴンズ2位)、堀越啓太(4年、花咲徳栄、埼玉西武ライオンズ4位)、新保茉良(4年、瀬戸内、中日ドラゴンズ5位)が指名を受けた。寮で見届けた猪俣は「一緒に練習してきた先輩たちが呼ばれて、あのレベルの中でやれれば間違いなくプロの世界に行けると確信が持てた。あと1年でさらにレベルを上げて、先輩たちの背中を追いたい」と奮い立った。
また、高校時代のチームメートでありライバルである石川ケニー(ジョージア大学)もオリックス・バファローズから6位指名を受けた。「びっくりしましたが、高校の時から人一倍意識が高く、『ケニーならやれる』とずっと思っていました」と猪俣。石川とは以前、NPBでの再会を約束したといい、「仲間になるか敵になるか分かりませんが、また大きな舞台で一緒にプレーしたいです」と力を込めた。
昨年12月には野球日本代表「侍ジャパン」大学代表候補選手の強化合宿に参加した。同じく今秋のドラフト候補に挙がる青山学院大学・鈴木泰成(3年、東海大菅生)、立命館大学・有馬伽久(3年、愛工大名電)らの投球を目の当たりにして完成度の高さに驚きつつ、「自分も通用する部分はある。長所や特徴を見つめ直して次のシーズンに生かそう」と気を引き締めた。
運命の1年は「もう一回、『遊び心』を信じて頑張りたい」
大学ラストイヤーは「こいつが投げて負けるなら仕方ないと思われるようなピッチャー」を目指す。絶対的エースだった櫻井頼之介が抜け、「投げた試合はすべて完投したい。自分がどれだけ引っ張れるかが鍵になる」と次期エースとしての自覚が芽生えてきた。
一方、「遊び心」は忘れず胸に刻む。「高校時代もこの言葉で『楽に投げていいんだ』と思えて立ち直れた。もう一回、『遊び心』を信じて頑張りたいです」。マウンドを楽しむ本来の姿を取り戻せば、おのずと日本一、そしてプロへの扉は開かれるはずだ。