事業一時停止の一方で総長は「着実な成果をあげた」
東北大の国際卓越研究大学に関する事業が一時停止していることは、教員の間では周知の事実だった。たとえば、事業のひとつである「海外研究者の招聘」が突如としてストップしている。しかし、東北大は一切そのような発信をしていない。冨永悌二総長は2026年に入ってからも、メディアなどのさまざまなインタビューで研究力の強化を進めていることを強調している。
東北大のホームページに2026年1月5日に掲載された冨永総長の年頭所感には、次のように書かれている。
<昨年、東北大学は、国際卓越研究大学第1号として、25年間にわたる挑戦の第一歩を踏み出しました。研究等体制強化計画の実行プランに基づき、100名を超える国際卓越研究者の採用、産学連携の進展、新たな研究・産学プラットフォームの創設、災害科学修士・博士課程の創設やGate Way College創設の発表など、この1年間で着実な成果をあげることができました>
この年頭所感の内容には若干説明が必要だろう。
国際卓越研究大学に認定されると、政府による10兆円大学ファンドの運用益から、最大25年にわたって助成金を受け取ることができる。そのためには、体制強化計画が認可される必要がある。
そこで東北大は体制強化計画を立案したが、この連載の1回目後編でも触れたように、計画にはとても達成できないだろう目標が並び、学内からも異論が出る内容となっていた。しかも、2023年9月、文部科学省が「東北大を国際卓越研究大学の候補に選んだ」と発表するまで、学内のほとんどの教員がその過程を知らなかったのだ。
ちなみに「Gate Way College」とは、学部から大学院・博士課程までの一貫教育を行うプログラムのこと(2027年4月に創設)。留学生が半数を占める予定で、授業は英語で実施する。入学時に学部を決めず、4年生に進学する際に決める。日本出身の学生を想定した4月入学に関しては、入試は一般入試ではなく、前年11月に書類と筆記試験、それに面接で行われる。
体制強化計画には、重要業績評価指標として重点KPIが掲載されている。このうち論文数は、現状の6791本を10年目には倍の1万3200本に、25年目には2万4000本に増やす目標だ。これは、現在約3000人在籍している教員が、1人あたり現状で年間2本程度書いている論文数を、25年目に年間8本に増やすことを意味する。あるいは東北大に約800ある研究室の1つあたり、現状で8本書いている論文数を25年目は年間30本に増やすと考えることもできる。
他にも、質が高いと評価されたTop10%の論文の割合を9.8%から25%に引き上げることや、若手研究者のTop10%論文の数を10倍にすること、大学発のスタートアップ数を現在の157社から1500社に増やすなど、高い目標が掲げられている。
しかし、これらの目標は「荒唐無稽」だと教員の一人が批判する。
「KPIには論文数をはじめ、できもしない内容が書かれています。達成するのは無理でしょう。スタートアップを大幅に増やす目標も、学生に対してあまりにも無責任です。失敗したら日本の場合は就職しようにも中途採用になりますし、借金を抱えることもあります。自分の子どもだったら勧めないでしょう」