日車君の初恋
目指せ少女漫画!の気持ちで書かせていただきいました。今回大好きな曲をイメソンというか、参考にさせていただいております。流れをそれに沿って作ったような、脱線しすぎたような…。物語を作るのが苦手なので、このような形でまた作れたらいいなぁと思っております。下記の注意書きをご一読いただき、よろしければお読みください。
以前投稿した作品をたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます。
注意
〇現パロ
〇高校生
〇ノット呪術師
〇少しだけモブが出ます
〇目線というか、主軸は基本的に日車さんメインです
〇イメソン、参考曲は「かいしんのいちげき!」です。この曲の内容で、篤寛で見たい!と思い、ぱっと思いついたお話になります。
- 86
- 100
- 1,491
※キャプションをご一読下さい
とある私立の男子高校。
夏の暑さが薄れ、木々が茶色や赤色、黄色に色づき始めていた。
(すっかり秋だな。)
雲一つない快晴の中、日車は登校していた。今日から制服も衣替え、日車は白いセーターを着用していた。前ボタンはきっちり閉じている。下駄箱で靴を履き替えていると、後ろからドタドタと走る音が聞こえてくる。
「おっはー!ヒロミちゃん!」
友人の高羽が肩を組んできながらニカッと笑う。ブレザーを着用し、前ボタンはすべて開けていた。
「おはよう。今日も元気だな、史彦。」
「いや~、体育祭が終わって、あれが近づいてるなってわくわくしてきてさぁ~!」
「あれ?」
「高校の秋といえば文化祭でしょ!文化祭!」
「あぁ…。」
「研究部でも出し物するって言ってたし、ふみちゃんわくわくが止まらないわぁ!」
高羽はお笑い研究部に所属している。肘をまげて両手を胸の前にして、左右に振りながら思いをはせている。日車はなるほど、と友人の様子を見ながら納得した。我が高校は特にイベント、行事に力を入れており、文化祭も外部からのお客さんが多いと風紀委員の先輩から聞いている。見回りにも力を入れるらしい。
「ふぁ~…はよ。」
「おはよう、甚爾。」
「おっはよ~!」
「相変わらず元気だなお前は…。」
頭をボリボリとかきながら、友人の禪院がのそりと登校してきた。黒いセーターを着用し、前ボタンはすべて開けていた。遅刻常習犯の登場に少し驚く。
「お前にしては珍しく早いな。」
「…昨日、早く寝すぎてなんか目ぇ覚めた…逆にねみぃ…。」
「いやどゆこと?ってちょ~~甚爾!!重い重い!!!」
目をシパシパさせながら高羽にもたれかかる。中々の巨躯なので潰されている高羽が悲鳴を上げた。
「そろそろ教室に向かうぞ。」
廊下でだべってしまっている状態になっていたので、予鈴が鳴る前に教室に入ってしまいたい日車が先導しようとする。禪院もようやく上体を起こした。
「ってか、お前らなに話してたんだ?」
「もうすぐ文化祭があるねって話!」
「お~めっちゃさぼれるな。」
「さぼる前提か。」
「一緒に周りたいな!…っあ、いや、ヒロミちゃんはだめか。」
「?ずっと風紀委員があるわけではないから、一緒に周れるぞ?」
「いやそうじゃなくって~…やっぱりあいつ誘わないとでしょ!」
「…あぁ、日下部な。」
「!!」
急に意中の相手の名前が出たため、日車の頬が淡く色づく。日車には入学当時から片思いしている相手がいた。日下部篤也。日車より背が高く、体も分厚い。鋭い目つきにぶっきらぼうそうに見える表情が印象に残るが、その実とてもやさしい男だ。
ーー入学式の日、早く来すぎた日車が教室に入ると、男子生徒が机に伏して寝ていた。俺より早い奴がいたのか、と内心驚く。座席表を見ると、左から2番目の一番後ろ。寝ている男の右隣だったので、起こさないようそっと座る。ちらりと男を観察してみる。寝息をグーグーとたてており、大きな体が規則正しく動いている。特に目立った容姿でもなかったが、髪の毛に桜の花びらがついていることに気がついた。少し迷って、とってあげようとそっと手を伸ばす。少し硬い髪質に指を添わせる。取れたので離そうとした瞬間、パシッと自分の手首をつかまれた。
「!!」
「…、ん…。」
そろりと顔を覗き込む。徐々に目が開いていき、お互いの目が合った。…目が合ってしまった。日車は気まずさと緊張で困惑していた。友人の禪院も鋭い目つきをしているが、それとはタイプが異なるすごみがあった。
(…どうしよう。)
離したいのに離せない目をぱちぱちとさせていると、相手があ~…、と言葉を紡ぐ。
「…あんた、誰…てか、俺に触ったか…?」
「お…お、っれは、…。」
「…いや、悪ぃ。」
日車の手をつかんだまま、上体をおこす。目をつむりながら、ぐっと伸びをする。
「ここにいるってことは、同じクラスの入学生だよな。あたり前なこと聞いたわ。寝ぼけてた。」
ふわぁ、と大きなあくびをする。
「…よくわかったな。」
「ん?」
「ずいぶん熟睡していたように見えたんだが、俺が髪を触ったとよくわかったな。」
「あ~、俺剣道しててさ、感覚が敏感なんだよな。」
「…桜の。」
「桜?」
「花びらがついてたから、取ろうと思って…。」
つかまれた手を広げて見せた。キョトンとした顔だったが、花びらを見て…
「っふっは!」
男は目をキュッとさせながら、黒板方向に向かってふきだした。
「マジ?全然気づかなかった~。俺それ頭につけたままここまで来たの?」
クククと笑い、流し目で日車を見る。
「なんか、恥ずいな。」
クシャっとした照れた笑みを、浮かべていた。…その表情、仕草に、日車はあっけにとられる。心臓はドクドクと早鐘を打ち、顔は発熱したときのように熱い。…握られている手首が、熱い。
(なんだ…これは。)
初めての感覚に戸惑い、日車は顔を伏せた。
「…手、放してくれないか。」
「あっ、悪い。」
日車の変化にとくになにも思わなかったのか、パッと手首を離した。握られていたところがまだじんじんしている気がして、軽くさする。ちらりと男を見る。
「君は、何でこんなに早く来たんだ?」
「妹に起こされてな、もっとのんびり寝とくつもりだったのに目が覚めちまって、準備もできて暇だったしなんとなく来てみた。でも席に座ってたら、あったかくて眠くなっちまって、気づいたら寝てたわ。」
窓の外の陽気を感じながら、男は語った。広がった青空の下には、満開の桜。風でなびく桜の花びらが、ふわりと舞う。ぽかぽかとした、とても心地がいい光景だ。
「…確かに、気持ちよさそうに寝てたな。」
「アンタは?なんで早く来たんだよ。」
「新入生代表の打ち合わせがあるから、早めに来てほしいと言われたんだ。」
「え。新入生代表?すごいな。」
「…でも本当は、緊張してしまって…。言われた時間より早く来てしまっていた。」
「…そっか。」
自分が教室に入る前までは緊張していたことを、忘れていたことに驚く。
「しかし、君と話したらなんだか落ち着くことができた。ありがとう。」
素直に感謝を伝えた。普段あまり表情が変わらないと言われているが、自然と笑うことができていたと思う。キョトンとした顔が、クシャっと笑った。
「おう、何にもしてないけど、緊張が解けたなら良かった。」
その後、お互い自己紹介がまだだったと思い出し、時間になるまで話し続けた。
ーーこれが日下部との出会いだった。後に友人二人に当時のことを話すと、それは恋だと言われ、自分の気持ちに気づいた。
「あのヒロミちゃんがそんな甘酸っぱい恋に落ちるなんて!!お母さん嬉しい!!応援しちゃう!!」
「いつ俺の母親になった。」
「お前にそんな感情が…ちゃんとお前も人だったんだな。」
「どういう意味だ。」
一人からは応援され、もう一人からは冷やかされながら過ごしているが、まだ日下部に思いは伝えていない。…伝えられるはずがない。日下部は運動ができて、面倒見がよくて、クラスのみんなに頼られている人気者で…。俺はその反対のような人間で、…男で。自分が男を好きになるとも思っていなかったが、日車にとっては初恋の相手となった。でも、相手は女の子が好きなはずだ。会話の中でこんな女の子がかわいいという内容に盛り上がっていた時もあったし、可愛らしい女の子と並んで話をしているところを想像すると、お似合いでしかなかった。
「…誘わない。」
「え~!!言ってみようよ!!せっかくのイベントなんだしさぁ!」
「当たって砕けろ~。」
「砕けちゃいかんのよ!」
高羽が禪院につっこみをいれる。
「それに、うちの文化祭って他校の女子も結構来るから、文化祭きっかけで彼女持ち増えるって聞くよ?ヒロミちゃん、何もしなかったら日下部誰かに告白されるかもしれないよ?他校の女子といるところ見たってやつもいるし。」
「…それは…。」
すごく、いやだった。いやだ、たとえお似合いでも、日下部が誰かと並んで帰ったり、手を、繋いだり…。でも、伝える勇気も…。
「…自信が、ない。」
「も~…ヒロミちゃん…。」
「…話はここまでだ。」
教室の前に立ち、ガラッとドアを開ける。自分の席に向かおうとすると、日下部の姿が目に飛び込んできた。
「お、日車おはよう。」
ブレザーを着た、入学の時と同じ格好をした日下部だ。前ボタンはすべて開けている。
「…日下部、おはよう。」
「今日は3人で登校か?相変わらず仲いいな、お前ら。」
「下駄箱で会ったから、そのまま一緒に来ただけだ。」
鞄を机わきにかけ、席に座りながら答える。
「日下部~!」
「あ?なに?」
日下部は他のクラスメイトと話し出した。机に教科書をしまいながら、チラリと日下部を見る。
(…今日もかっこいいなぁ…。)
いつも表情に出にくいが、努めて表情に出さないようにして悶々と思いにふける。
(衣替え万歳。夏場のシャツ腕まくりも逞しい腕がみえてよかったが、やはりかっちりとした恰好似合うな…。セーターの可能性も捨てきれなかったが…、いやみたいが。)
セーター姿の日下部を想像していると、話を終えた日下部が日車のほうを向いた。
「!」
「なぁ、おまえ…」
言いながら、日下部が近づいてきた。しまった、ずっと見ていたことがばれただろうかと、無表情のまま内心焦る。日下部はしゃがんで、日車の机に両腕を組んで置き、頬を二の腕につける。
「…な、なんだ?」
日下部はじっと上目に日車を見つめた後、目を細めてふっと笑う。ドックンと日車の心臓が跳ねる。
「セーター、妙に似合うな。結構かわいい服装も合うんだな。おまえ。」
どっかーん。頭の中が、爆発したような衝撃。なんだ、今の…というか、日下部は、今、なんといった…?
「…あ、りがとぅ…?」
キーンコーンカーンコーン…扉がガラッと開き、担任が入ってきた。日下部も立ち上がり、自分の席に向かっていく。
HR、さっきの光景が頭の中をまわる。かわいい服装も似合うんだな、かわいい服装、かわいい…。心臓がドッドッと早まりうるさい。全身に力が入る。両手で鼻、口元を抑える。眉間にしわが寄る。目が熱い。涙が出そうな感覚。…だめだった、無理だった。表情を、抑えることができなかった…。今、日下部にこっちを向いてほしくない。じわっと汗がにじんでくる。…顔が、熱い。
(頬がむにっとなってたなんだあの仕草上目遣いかわいすぎるというかなんだあの表情反則だどうしようどうしようどうしよう…日下部が、かわいいって…言った…。)
まるで、自分に言われている気がして…。そんなはずはないのに、そう思ってしまう自分が恥ずかしくて、うれしくて…。
(…出欠で呼ばれるまでに、おさまれ、おさまれ…!)
日下部に気づかれたくない、おさまれ…!
昼休み
「屋上で食べるのもそろそろ考えなきゃだな。」
「教室はうるせーからぜってーやだ。」
「それ甚爾はほぼ寝るためだろ~。」
会話に花を咲かせている二人から少し離れ、日車は体育座りでうつむいていた。
「ヒロミちゃ~ん、食べないの~?」
「まだ朝のこと引きづってんだろ。」
「も~気にしなくていいよ~。寧ろ笑いが取れててありだったと思うよ?」
日車はあの後、必死に抑え込んで抑え込んで、よしっと意気込んだはいいものの、いざ返事をすると「は↑いっ!」と大声で声を裏返してしまった。「元気がよくてなによりだ~。」と担任から言われ、クラスのみんなに笑われてしまった。…日下部にも。
「…はぁ~…。」
「ああいうことをヒロミちゃんがやると、意外性も出てツボるよあ~。」
「ってか十中八九あいつの事だろ。」
「だよね~。…今度はどしたのヒロミちゃん。」
「…。」
口にするのも恥ずかしかったが、今まで日下部の事を聞いてもらっている友人に、今日あったことをいつものように話した。
「ひゃ~!…そりゃあどっかーんだね!」
「…日下部の発言も最近どうかと思うけどな。」
「もしかしてもしかしなくとも…?」
「…そんなわけ、ない。」
「卑屈野郎が。」
「てか最近ヒロミちゃん抑え効いてないでしょ。大丈夫?そろそろ限界なんじゃない?」
「…正直、うん。」
「…朝も言ったけど。真面目に、告白しちゃうのも手だと思うよ?」
「…。」
「告っちゃってすっきり?どう転んじゃうとしても、ヒロミちゃんが我慢することはないよ。」
「…日下部に、迷惑じゃ…。」
「…お前が惚れたやつは、そんなことで迷惑がるようなやつなのか?」
「…日下部は、優しい。」
「だったら、胸張って、気持ちぶつけてみろ。」
「…やって、みる。」
こぶしを握り締め、覚悟を決めた表情に、高羽はパッと顔を明るくする。
「ヒロミちゃんが遂に決心した~~~~!!」
バンザーイ!!と空に高く手を挙げる。禪院はやれやれと寝転がり、うたた寝し始めた。
5時間目
意気込んだはいいものの、どう切り出したらよいものかと思案する。
ふと前を向くと、クラス委員が司会をし、文化祭の出し物について決めるようだ。
「では決める前に、文化祭実行委員になってくれる人を2名決めたいと思います。どなたか、なっていただけますか?」
クラスがざわつく。そんな中、一人が声を上げる。
「だったら、日下部がいいと思いまーす。」
「はぁ?!」
日下部から声が上がる。
「こういうことは日下部が頼りになるっしょ。」
「確かに~。」
「さんせーい!」
「おまえらぁ…。」
「日下部君に推薦多数とのことですが、日下部君、やってくれますか?」
「…しゃーねぇ。やったるよ…。」
ひゅ~!!ぱちぱちぱちと称賛と囃し立てる声が上がる。
(…これは、もしやチャンスでは…。)
ちらりと高羽をみると、GOサインをこちらに向けている。禪院は寝ている。
(…よし。)
「では、あと一人どなたか…。」
日車はすっと手を上げた。
「あ~、では、投票の結果、コスプレ喫茶をすることに決定しました。」
あの後、日車は見事に日下部と同じ実行委員の座を獲得することができた。今は進行を日下部が行い、板書を日車がしている。
「りょうか~い。」
「楽しみだな~。」
「ってかなんでコスプレだよ。」
「いいジャン楽しいよ絶対!!」
「高羽ぁ、お前の勢いがすごくて決まったとこあるぞこれw」
「なんかプレゼンがおもろかったからつい投票しちまった。」
「はい静かにしろー。担当きめっぞー。」
放課後
実行委員の会議に向かうため、日下部と日車が並んで歩く。
「ってか、おまえ実行委員大丈夫だったの?」
「え?」
「風紀委員忙しくねぇ?」
「生徒会じゃないからな、当日の見回り当番があるくらいだから大丈夫だ。」
びっくりした。なんで立候補したのか怪しまれたのかと日車は焦る。
「ふ~ん…。なんでやろうと思ったのかとか、聞いてもいい?」
「…君とやれたら、楽しそうだと思ったからだ。」
これは本心だ。…半分。もう半分は、君へ思いを伝えるために、少しでも近くにいたかったから…。
「…そっかそっか。んじゃ改めて、よろしくな。頑張ろうぜ。」
「あぁ。よろしく頼む。」
お互いに微笑んで、握手を交わした。
そこからは怒涛の毎日だった。わが校では文化祭までの1週間、すべての時間が準備に回される。打ち合わせ、買い出し、衣装づくり、メニュー作り、内装…。お互いの連絡先も交換し、日下部と協力しながら、慌ただしく、しかし確実に、準備を進めることができた。
ほとんどを日下部と行動できた、充実した一週間だった。内装を手伝ったとき、細かい装飾まできれいに作っていたその手先の器用さに感動し、メニュー表の作成時絵をかいてみようということになっていざ書いてみると、ぶさかわな猫を書いた。装飾とのギャップに声を上げて笑ってしまった。
あれよあれよと日付は進み、文化祭当日を迎えた。お互い午前中はクラスの当番、委員会の当番がある。俺も日下部も、午後から空いているはずだ…。
(クラスの当番が終わったら、誘ってみよう…。絶対。)
日車はそう意気込んで、風紀委員の見回りに向かった。
いよいよ文化祭が始まった。校門からはたくさんの来場者が入ってくる。スタートからかなりの盛り上がりだ。人がひしめく中、どうにか巡回を終えた。当番を交代し、クラスへ戻る。喫茶店もお客さんがたくさん来てくれているようだった。
「お!ヒロミちゃんおかえり~!」
ナース服を着た高羽が、入口の呼び込みの途中で声をかけてきた。
「ただいま、だいぶ人が入ってきてるな。」
「そーなの!ヒロミちゃんも早く着替えて着替えて!」
「あぁ。」
教室内のカーテンで仕切られた裏方へ入る。
「っと、日車戻ったんか。」
「っ!」
ぶつかりそうになった日下部を見て、息をのむ。日下部は紺色の着物を着ていた。いつもより姿勢を正し、髪も少しなでつけている。どんな衣装を着るか、わかっていたとはいえ…似合いすぎていて、目を離すことができない。
(か、かぁっこいぃ~…。)
「どした?」
「…すごく、似合ってるなと思って。」
「そうか?こういう格好は剣道部で慣れてるけど、エプロンつけるとなんか落ち着かねえな。」
そう、腰掛エプロンをつけているのである。テーマは和風喫茶の店員らしい。衣装係が、なぜかこれは外せないと推してきたのだ。なるほど、大正解だ。
「…俺も着がえてくる。」
「おう。」
日下部が接客のために出ていく。ふぅ、と落ち着く。ここで落ち着かないと、まともに接客ができなくなりそうだった。とにかく早く着替えて、自分も出なくては。
「…?」
ところが、いくら探しても自分の衣装が見当たらなかった。予定していた警察官の服装が、見当たらない。
「あ!日車戻ってた!」
裏方に衣装係の谷口が入ってきた。
「すまない、俺の衣装がないんだが…。」
「ごめ~ん!急遽変更になった!」
「は?」
「大西の衣装のサイズが合わなくてさ、代わりに大西が警察官の衣装着てる。だから急な変更で悪いんだけど、日車はこれ着て!」
ガサッと紙袋を渡される。大西はクラスで一番身長が高い生徒だ。だから衣装合わせはもっとするべきだったんだ…。衣装係が妙にこだわりが強かったため、全員が衣装合わせができなかった。
ごめんね!といいながら谷口が裏方から出ていく。仕方ないと紙袋から衣装を出そうとして、…俺は思考が停止してしまった。
Side日下部
(クッソ疲れた…。)
日下部はコーヒーを配膳しながら盛大に愚痴を頭の中でぼやく。
(朝からひっきりなしで客は来るわ、昼近くなってきたからさらに勢いは増すわ、おまけに衣装が動きずれぇ!)
腰に巻いたエプロンが長めだったため、足に絡んで動きが鈍る。イライラしながら時計をちらちら見て、交代までのカウントダウンをしてやり過ごす。必死に目と足を動かしていると、ひらひらしたものが視界に入った。
黒いふわりとしたスカート、白いエプロンも重ねられた、…メイド服を、顔を真っ赤にした日車が着ていた。
(は?なんで?)
ほかのやつも何人か、俺と同じことを思っているような顔のやつがいた。教室のドアから誰かが声を上げた。
「え~~~~!!ヒロミちゃんかわいい!!!」
「…史彦、うるさい。」
「どしたの?警察官は?」
「大西の衣装が合わなくて、衣装交代させられた…。」
「そっか~…、後で絶対写真撮ろうね!!」
「ぜったいいやだ。」
ため息をつきながら日車は、配膳用のコップに水を注ぎ始める。
「…すごいかっこしてんな、日車。」
つい声をかけてしまう。
「…見られたくなかった…いっそのこと笑ってくれ。」
眉を寄せて不満顔だが、まだ顔は赤い。
「…いや…正直、」
俺は日車の耳元に顔を寄せる。
「…めっちゃ、かわいい。」
「っえ…、」
日車は目を見開いてこちらを凝視する。さらに赤くなった顔に心臓が痛くなる。俺はいたたまれず、足早に接客に戻った。
…なんで、あんなこと言っちまったんだ…。
顔が若干、熱い気がした。
(最悪だった…。)
クラスの当番を終え、着替えながら日車はため息をこぼす。お兄さんかわいいですね!と女性客に散々言われたり、クラスのやつが面白半分でスカートめくってきたり、急いで着替えようとしたら高羽に止められて、客の呼び込みというていでどこかでさぼっていたウサギの着ぐるみの禪院にも見つかり、無理やり写真を撮られたり…。
(…でも、)
めっちゃ、かわいい。
(あの時の日下部は、嫌がっていた俺をフォローしてくれたのだろうか、それとも、)
日車の顔がまた赤くなる。そんなはずはないのにと、自分に都合の良いように妄想してしまって、うれしくて、恥ずかしくて…。
(…こんなことではだめだ。…ちゃんと、伝えなくては。)
着替え終わり、廊下に出る。
「あ!ヒロミちゃん!着替え遅かったね。」
「ちょっと。脱ぐのに慣れなくて…、ぁの、日下部、見てないか。」
「!ヒロミちゃん…!」
「日下部なら、下駄箱のほうに行ってたぞ。」
「っありがとう。」
日車は下駄箱に向かってかけていった。
「ヒロミちゃん!頑張れ~!」
「当たって砕けろ~。」
人の間を縫って、下駄箱に向かう。しきりに目を動かすと、日下部らしき後姿が見えた。
「!くさか、」
近づこうとし、足を止める。とっさに物陰に隠れた。日下部は3人の女の子と話をしていた。
(もしかして、前に史彦が言っていた…。)
こそっと様子をうかがう。白髪の美人が何か笑いながら日下部に言い寄っている。日下部の表情は後ろからで読み取れない。言い寄っている女子はわからないが、あとの2人は、明らかに日下部を見て頬を赤くしている。小柄で、可愛らしい女の子だ。
(あぁ、いやだな…。)
その光景を見ていられなくて、背を向けて物陰でしゃがむ。そのまま床に目を落とす。
(…あの光景も、決心したのに今何もできていない自分も。)
嫌だな…。
ぽんっ
日車の肩を、誰かが叩いた。
顔を上げるのも億劫だったが、そろりと目を上げる。
そこには、先ほどまで女の子と話をしていた日下部が、日車と同じくしゃがんでいた。
「どうした?具合悪い?」
「っなんでっ…!」
「?」
「さっき、女の子と話して…。」
「ん?見てたの?」
「日下部、誰だい?彼は。」
見ると白髪の美人と女の子2人が近くまで来ていた。日車は状況が飲め込めないまま困惑していたが、ふいに日下部に手を取られる。
「こいつが先約。」
(っえ)
日下部にそのまま立ち上がらされる。
「んじゃ。」
一言いうと、そのまま日車を連れて足早にかけていった。後ろから、「えっちょ!」「日下部君?!」と声が聞こえる。ドクドクと鳴りやまない心臓、混乱する頭、熱い顔…何が起きているのか、分からなかった。ただ一つ、確かなことは、
(手が…熱い。)
その手から、目が離せなかった。
少し人混みが落ち着いているところで、日下部が立ち止まる。
「悪いな、急に連れ出して。」
「…いや。」
「走っといて今更だけど…本当に具合悪くなったりしてねぇ?」
「大丈夫だ、どこも悪くない。」
「そか。」
「…あの、」
「ん?」
「先約って…。」
「あぁ、ごめんな。日車に何も言ってないってのに。」
「…。」
「本当は最初から、今日、文化祭周らないか誘うつもりだったんだ。」
「っえ。」
「そしたら急に呼び出されてよ、さっきの、二人は知らないやつだけど、一人は俺の幼馴染で。来てやったから案内しろだの奢れだのしつこくッて…」
「…俺、も。」
「?」
「俺も、誘うつもり、だったんだ。っ君を。」
「!…そっかそっか。」
日下部がニカッと笑う。
「んじゃ、一緒に周ろうぜ。」
日車はコクンとうなずく。日下部が、まずはなんか食おうぜといいながら歩きだす。繋がれたその手については、離してほしくなかったから、何も言わなかった。
そこから二人は文化祭を周った。焼きそばやたこ焼きなど、出店で腹ごしらえをし、お化け屋敷、バルーンアートなどを見る。他クラスの喫茶店で休憩する。なんとかというバンドがきているらしいから覗いてみる。その間、物を買うために一度放しても、自然と再度握られていた手。握られるたび、日車は心臓が絞めつけられる。日下部の体格に見合った、無骨だが温かい、厚くて大きな手。
(…君は、何を考えている?)
否が応でも期待してしまう。でも、聞くのが怖かった。もし違ったら…。あと少しの勇気が、日車にはなかった。
文化祭が終了した。
後片付けは明日行われるため、生徒たちは早々に帰宅していく。打ち上げもあるが、さすがに今日は皆疲れているため、明日ということになった。日下部と日車は、実行委員として最後の点検をしている。
(あっという間だったな…。)
窓の鍵を閉めながら日車は思う。そして、いよいよ言うタイミングが。ここしかないことも…。
「日車~終わった、帰ろうぜ。」
職員室へ報告を済ませた日下部が戻ってきた。手には教室のカギが握られている。
「大変だったけど、楽しかったな~。」
「…そうだな。」
(言わないと…。)
日車は、静かに深呼吸をする。心臓がうるさい。握りしめた手が痛い。顔が熱い。日下部の、背中を見つめる。
「…日下部。」
「ん~?」
日下部がこちらに振り向く。神妙な面持ちの日車に、日下部は体を正面に日車に向け、聞く姿勢に入る。
心臓が痛い。口の中が渇く。逃げ出したしまいたい。でも…伝えたい。
「…どうした?」
「…俺、は、…。」
「うん。」
日下部の目を、見つめる。
「君が好きだ。」
(言った言った言った言った言った言ってしまった)
日下部はキョトンとした顔ののち、グアッと顔が赤くなった。
「っは、…え?」
口元を腕で抑える日下部。その、反応は…。
『もしかしてもしかしなくとも…?』
(そんな…嘘だ。)
期待、してしまう…。
「まじか…。」
きょろきょろと動く目が忙しない。あ~…と頭をガシガシとかく。
「その…恋愛、的な意味で、良い?」
日車はコクンとうなづく。
「良ければ、俺と…付き合ってほしい。」
想いを吐ききり語尾が小さくなる。ドクドクなる心臓を何とか抑え込む。気持ちが早ってしまう。
「…うれしい。」
ぽそりと、日下部がつぶやく。
(…え?)
「ありがとう。日車に言ってもらったこと、俺、すっげえ嬉しいよ。」
(ほんとうに?)
「今更になるけど…俺も、日車のことが、好きだったみたいだ。」
「…。」
「だから…こちらこそ、よろしく?」
はにかみながら、日下部は答えた。
ポロリ、日車の目から涙が零れる。
(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい気持ちが伝わった日下部も好きって言ってくれた本当に?嘘じゃないよな嬉しいよろしくって付き合ってくれるってことだよな?そう言ってくれた嬉しい…伝えて、よかった。)
「うれしぃ…。」
ポロポロと、涙があふれて止まらない。うつむいて両手で目をこする。
日下部は、日車にゆっくりと近づく。人差し指で、その涙を掬う。触れてきたことに驚き、ビクッと震える。上目に日下部をみやる。
たまらなくなり日下部は日車をぎゅっと抱きしめた。そのままゆっくりと、左手は背中に回したまま、右手で日車の頭をなで、自身の肩口に頭を誘導する。ポンポンと軽くたたき、撫でる。
「…一生懸命、気持ちを伝えてくれて、ありがとうな。」
「!っう~~…!」
しゃっくりをあげながら、日下部の肩口を濡らしていく。両手で日下部の背中をぎゅっと掴む。日車が落ち着くまで、ゆっくりと日下部は待った。
日車が泣き止んで、二人は教室を出た。職員室でカギを返却し、校門に向かって歩く。帰り道もしばらく無言の二人だったが、その手はしっかりと、握られていた。
日下部 1年生 剣道部 日車のことは気になっていたが無自覚だった
日車 1年生 風紀委員 日下部に片思い
高羽 1年生 お笑い研究部 日車、禪院は小学校からの友達で、よく一緒にいる。日車の片思い応援隊!
禪院 1年生 帰宅部(見返り求めて運動部助っ人) 日車、高羽とよくつるんでいる。日車の片思い冷やかし隊
冥冥 1年生 他校の生徒。日下部の幼馴染。日下部に対して恋愛感情は一切ない。
冥冥の友達 1年生 冥冥と話しているところを見て日下部を知る。日下部に対して恋愛感情あり。連絡の交換だけでも、と思い冥冥に頼んで文化祭に連れてきてもらった。