頭脳明晰な天才様との話はすぐ通じるし楽だ。
そして案外気安い態度で、居心地のいい奴だと、思っていた。しかし最近、気がついたら目がアイツを追いかけてしまう。
そして目が合うとなんだか動悸がする。
穏やかな声に意識を取られる。
ふとした横顔が好き。
……好き?え、同年代の男を?は?好き?俺が??
嘘だろ…。もうそういうの良いやって思ってたんだが…。大体男なんか今まで好きになったことないぞ。きっと気が合うだけだ。疲れで脳みそバグったか……?
うん、冷静になろう。きっと気の迷いだ。
大体アイツが三大欲求を蔑ろにし過ぎたせいだ。
決戦後、罰を求めて自分が傷つくことばっか“グレ”と言って実行しやがる。
仕事で任務についた時には、取り敢えず突っ込み反転術式使えるからって手や足を置いてきたのは1度や2度では無い。宿儺からそんなモン学ぶなよばか。治ったって痛みはあるのに。別に俺は大丈夫だってクマが濃い目元で言われても説得力はない。
こちら側に俺が引っ張ってきたこともあるが、そんな日車をほっとく事なんてできんでしょーよ。それで俺の庇護欲が働いちまったんだな。そういうことにしよう。
今となっては、だいぶ“グレ”も穏やかなものになった。虎杖の目もあり、食べる様になったので痩けた頬も戻ってきた。
睡眠は悪夢を見るため眠りが浅いと吐露したのをきっかけに、夜、空いてる時は日車の家に行き添い寝をしてやった。週に2.3回ぐらいのペースだったが、最近は1人でも寝れるようになったと話していた。
…ここいらで密着し過ぎた距離を通常に戻そう。俺らは同僚。そう。気心しれた同僚だ。
ここ1ヶ月ほど距離をとってみたが、どうしよう。やばいぞ…。日車の行動が余計に気になってしまう。以前は会話でその日何をするか聞いていたから、離れていても特段気にならなかった。
ところが、今は俺から距離を置いたせいで、会話が減ってしまった。何してるんだ今アイツは…。飯食ってんのか…?寝れてるんだろうか…?他のやつと一緒にいるのか…?ん?なんで他人が出てくんだよ。
いや、虎杖や伊地知、高専の奴らなら別にいい。俺の知らん奴と居ると思うとなんかこう…腹の底から嫌な感情が…。
あぁそろそろ降参しよう。
あぁ、俺、日車好きなんだ。
…認めてみたら、すっと腹に落ちた。
あーあ自覚しちまったよ。ちくしょう。
えー、だとしたら、俺ってキスとか抱きしめるとかできんのか?アイツに…?
うん、うん。
あの高い鼻避けて、薄いくちびるに…
カーっと頭に血が昇る感じがした。
顔が熱い。まじか。できる。したい。まじか。この年で?こんなティーンのような触れ合いを想像するだけでこんなんなるって…はぁあ。
自覚しちまったら仕方がねぇ。
最近、日下部が変だ。
今まで随分と俺に絡んで…いや、世話焼きしてた男だが、最近会わないし、家にも来なくなった。寝れてるとは言ったが、悪夢を見ないとは言ってない。突然汗びっしょりで起きる時もある。最近また酷くなってきたから安眠枕をお願いしたいところだが、会話するタイミングが掴めない。なんだ避けているのか?
かと言って、生徒や補助監督が共にいるときはいたって普通だ。
もしかして、俺の世話が面倒になったのだろうか。…確かに、色々甘え過ぎたのかもしれない。なんでもしてくるから麻痺してしまっていた。お互い、いい大人だ。同僚だからほどほどの距離感でいよう。
と思ったのに、どういうわけだ日下部。
以前より距離が近い…?先月のあの態度はなんだったんだ?今も隣で彼の手作りのカレーを食べている。俺の家で。意味がわからない。分かるのはゴロゴロの野菜が入ったカレーが美味しいことだけだ。
そう、むしろ食事や彼の趣味の釣りまで誘われている。なぜ俺なんだ?もっと気安い仲間がいるはずだろうに。
そして、日下部は引き続きの俺のグレにも否定せずなにも言わずに付き添ってくれる。
夜中のゲーム。
スーツにサンダルで仕事にいく。
バケツプリンを作る。
寒中水泳…は風邪引くからやめろって言われたな。反転術式ありきの戦闘も前とんでも無く叱られた。
ふふと笑ったら日下部がどした?辛いか?と聞いてきた。
「いや、丁度いい。あと大きめに切った具材美味しいな。君の料理は何度か食べたが、最近は味がする様になってやっと美味しさを感じられる様になった。」
「そーかい。味覚戻ってきて良かったな。」
なんだ。最初の方は腹いっぱいとか言ってたが、味がしなかったのか。ちゃんと言ってくれよ。そしたらもっと飲み込みやすいものとか選んだのに。
「…なんでこんなに俺にしてくれるんだ?」
「ん…?」
「以前は絶望して生活がままならず君の世話になっていたが、だいぶ俺は1人で生活できる様になった。無茶な戦闘もしない。」
「そうね、任務で無理なことは減りましたね。世話は…俺がしたかったことだ。気にすんな。」
「答えになってないぞ。君にも君の時間があるだろう。俺に全て付き合う必要はない。」
「…俺だって選んでる。」
「どういうことだ。」
「日車。好きだ。」
「…は?」
単純に“?”な顔してる。予想外な答えだったのだろう。鳩が豆鉄砲を食ったようで面白い。かわいい。
「ははっ!予想通りの反応だな。」
「君、え?どういうことだ?」
「んー世話して、アンタのこと知ってったらそうなっちまった。でも最近自覚してな。先月変な態度とっちまって悪かった。」
「あ、その為だったのか。そのせいで、睡眠不足になったぞ。…まぁこの間からまた来てくれる様になって落ち着いてきたからいいが……っ!日下部!好きだと思いながら一緒に寝たのか!」
「そんな騒がないでくれ、恥ずかしい…。なんもしてねぇでしょーよ。」
寝顔を拝んだけどな。頬もつついた。言わないけど。
「〜〜っ!はぁ…。つまり…君は男も恋愛対象ということか?」
息を落ち着かせ聞いてくる。
「いや、今までは女だ。つってもしばらく彼女てのもいない。妹のことあってからそういうのは興味湧かなくなってな。
だから、女とか男とかっていうよりアンタが好きになったの。…これ以上は勘弁してくんないかな。良い年したおっさんの告白は結構恥ずかしい…。」
耳があっちい。片手で口元を隠す。告白なんて幾つになってもドキドキする。でも言わねぇと伝わんないしな。
日車の方をちらっと見ると、うーん。混乱してるな。
「ま、まず妹さんの事は俺が踏み入れて良いことでは無い。君の性的指向も理解した。
それでいて、俺?なのか…?」
「そーだって言ってるでしょ。」
「君は、俺に何をして欲しいんだ。」
「……さっきから否定しないけど、嫌とかないの?」
「…驚きが勝っている。」
「ははっ!そうだよな。まぁ、とって食ったりしないから安心してくれ。ただ、一緒に居たいだけだ。アンタの隣は居心地いい。」
「…それは、俺も思う。」
「まじ?ほんと?付き合うことも望んでいいの俺?」
「い、いや、それは待ってくれ。正直それは分からない。今、考える。」
ちょっと待つ。
好きって伝えるだけでいいと思ってたんだが、なんか希望が出てきた。憎からず思ってくれてるんかな。
うーんと考えていた日車が、じわじわと赤くなってきた。
「日下部!だめだ。俺は、きっと君と付き合ってしまったら俺は、俺は…甘え切ってしまう!」
ぶはっ!つい笑ってしまった。
そりゃいいね。
「おう任せとけ。こちとら面倒見るのは慣れてるんでな。他の面倒ごとはごめんだが、アンタのわがままはいくらでも聞いてやるよ。」
次はむすっとした。
「君は甘やかすのがうまい。俺を自堕落にさせたいのか。」
俺は満更でも無いが。日車の本意ではないんだろう。
「アンタが1人でできる事はしたらいい。それでも俺は好きなやつには甘やかしたいんだよ。」
「……殺し文句だな、日下部。」
「あいにくもう俺は腹決まってるんでね。」
「自分でもどこまで甘えてしまうのかわからない…きっと君を試してしまうぞ。」
「試せ試せ。応えてやっから。だからな、恋人として付き合ってくれるか?」
少し黙る日車。返事を待つ。間を置いて口を開いた。
「それこそ、君の事は嫌いじゃ無いが、そういう感情がわからない。」
脈アリじゃん。押そ。
「嫌いじゃ無いんだな。じゃあもう一歩踏み込ませてくれない?キス、していい?」
「そ、そんな……」
「嫌?だめ?舌入れないから。どう?」
「君は、本当に俺が性的対象として好きなんだな…」
「じゃなかったら、こんなに言わないでしょ。」
「すまん、俺は…正直接触や性的興奮は無理だ。しばらくそういう気持ちになっていない。……自分の性的反応も嫌悪感がある。だからキスは嫌だ。君だからではなく、誰からでも。」
「そうか。ならハグはいいか?ただのハグ、だ。添い寝の時は手や背中しか触ってなかっただろ。」
「…わからない。」
「じゃあ、してみようぜ。嫌だったらそれでいい。」
側に寄り日車を包む様に腰に腕を回し、ゆるく抱きしめた。じんわり日車の体温を感じる。
やべ、ドキドキしてきた。カレーの匂いもするっていうのに、どうしてこう日車の匂い感じちゃうかね。首にキスして〜〜〜!気づかれない様に日車の匂いを堪能する。
って、ちょっ、日車からも腕が回ってきた!
かわいっ!え好き。
「…どうですかね?俺にハグされて、嫌じゃないデスカ?」
「何故カタコトなんだ。悪く…は無い。大丈夫なようだ。」
「ん、良かった。」
あと幾分、ちょっとだけ、この初心な抱擁を続けたくなった。
ハグ、日車side
向かい合い、日下部の腕が腰に回され、抱きしめられた。
あまり身長差は無いが、長年鍛錬してきている日下部は体格がいいな。
胸の筋肉に弾力があり顔に当たる。素直にすごい。
…日下部の、拍動が早い気がする。
平然な態度だったが、鼓動が好きだと伝えてくれているみたいだ。
…不思議と嫌じゃ、無い。もっと聞いてみたい。好奇心に負け、日下部の背に腕を回した、ら、少し身じろぎした。俺からのハグに動揺したのか、日下部の拍動がさらに早くなった気がする。
なんだ、かわいいところもあるんだな。
そっと目を閉じ、日下部の体温を感じた。