狂え、狂え、贖罪の為
ついに来た! 両面宿儺からの挑戦状! 『五条悟に並ぶ才能の原石』に叩きつけられる超難問! まさかまさかの大暴走! 超特急展開! シリーズ至上最悪最低の舞台! 神業大連発! ゲロ塗れの劇場! 馬車馬の如く働き回るオールスターズ! ずっと振り回されてる日下部! 伊地知大絶叫! 七海大激怒! 割といつも通りなキチガイ五条! 成功すれば世界的栄誉! 失敗したら即死亡! 日車寛見の生死の行方は如何に! そして最高の相棒と共に贖罪の道を歩み続けてきた男の逃避行の終着点とは!? 俳優パロシリーズついに最終章! 大団円のフィナーレとなるか!? ホントのホントのホントのホントに何がどうなってても許せる人向け!
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普段よりも長く、深い夢を見た。薄暗く殺風景な、壁も天井も無い世界に独り佇んでいる。周囲には自らが作製した、直立した、鶏卵状の殻が、複数陳列されていて。増えたな、というのが、率直な感想。自分とは異なる誰かを作る度に増えてゆく殻。内部に固定化された人格と行動原理が内蔵された、己だけが知覚出来る生命体。
この世界で様々な人格を錬成してきた。様々な人生を静観してきた。その過程の中で、必然的に生じてくる、一つの命題。自分とは一体、どのような存在なのだろう。
人間は無数のペルソナを抱えながら生きている。人間は自らの本質の全てを知ることは出来ない。無意識の自我。己が知覚できる自我ですら表層的なものに過ぎず。自我の全てですら心という機構の、歯車の一部にしか過ぎない。
自分の本質とはどのようなものなのだろう。果てしなく広がる白い地平線、複数の殻が並ぶ地上。それが現在、己が立っている地点。感覚として。自身が知覚できる自我は地上にあり、無意識の自我は水面下に潜っているイメージがある。北極に浮かぶ巨大な氷山のイメージである。
とぷん。
足元が液状化し、革靴が、両足が、緩慢に沈んでゆく。やはりこちらが正解だったか、と無表情のまま独白を零しつつ、暗い海水へと沈んでゆく。全身を熱くもなく冷たくもない液体に包まれる。海中で穏やかな呼吸を繰り返しつつ、半重力に身を任せるように、下へ、下へ、潜る。深層心理の、更に地下。未踏の地へと降りてゆく。
下方に奇妙な物が見えた。無人のステージに白いバスタブが一つ、湯を溜めた状態で設置されている。ゆっくり、ゆっくりと下降してゆき、革靴の底が木製のステージに着陸する。どうやら此処が、現時点で沈める最下層のようだ。黒いスーツ、襟元に丸いバッジ。そんな恰好のままで浴槽に浸かる。無音。自分以外に誰も存在し得ない世界。静かで心地良い。ぴちゃり、と靴を履いたままの足で軽く水面を蹴って、細やかな特別感に身を浸し寛いでいた。ふと。自分の右手が何かを握り込んでいたことに気が付く。腕を持ち上げる。白いガベル。赤い血痕が付着した、白いガベルだ。くるりと、周囲を見回すと。バスタブを中心に赤い湖が広がっていた。首から上が無い死体。上半身全体が潰れた死体。頭部の上半分だけ潰れた死体。全身が粉々に粉砕された死体。数十体の死体が転がっていて。不思議な光景だ、と思いつつ。まぁ夢の中なのだから、こういうこともあるかと思って、目が覚めるまでこのまま長閑に寛ぐことにした。顔を半分まで沈めて、ぷくぷくと小さな泡を吐いた。
通行人、ウェイター、数秒間のみのモブキャストからいきなり主演に大抜擢、芸歴三週間目にして驚異的な才能と成長速度で安定した演技を披露した初主演刑事ドラマ『不仲相棒』。メインキャスト全員を欺き隠れた真犯人として猟奇的な連続殺人犯を怪演しきってみせた問題作『藤宮一族の罪』。淫靡的な魔性のゲイ、完璧に理想的な恋人など複数のペルソナを演じ分け、表情&声色&仕草&誰にもよく分かっていない力により男女問わず視聴者を魅了し尽くし社会現象を巻き起こしたBLドラマ『TETRAGON』。冷酷な復讐鬼として、五条悟との極めて高度な戦闘アクションを披露し、その名声と実力を確固たるものとした映画『東京事変』。
『東京事変』公開後。両面宿儺にその才を認められたことで、唯一無二の二つ名を有することとなる。
『五条悟に並ぶ才能の原石』日車寛見。
元弁護士でありながら、怪物的な才能と成長速度を遺憾なく発揮し、極めて稀有な偉業を更新し続けていた男に。
ついに。人生最大の試練が訪れる。
金曜日朝、出勤前。インターフォンを連打し玄関に通された後もこの世の終わりのような形相で滝汗を流し青白い顔から荒い呼吸を繰り返し錯乱している伊地知を凝視する日車。
「ハァ――……っ! ハァ――……っ! ハァ――……っ!」
「なんだなんだどうした伊地知。今にも息絶えそうな面構えだが」
「ひ――っ、ひぐっ、るまっ、さぁ――ん……っ! これ……っ、これぇ――……っ!」
膝も腕もがくがくに震わせまくりながら携帯電話を差し出してくる伊地知。なんだか、猛烈に嫌な予感を抱きながらも。そうっと受け取り、画面を覗き込む。
メールの内容を確認した後、三秒間の熟考。
「今日の予定は全てキャンセルしてくれ」
「はいっ、はぃぃいい……っ!」
至極冷静な口調で簡潔に最優先事項を伝える。即座に各テレビ局に緊急連絡を入れてゆく伊地知を置いて、一旦リビングへと戻る日車。その無表情に、じわじわと、汗玉が浮かんでゆく。なんとかして冷静を保とうと、カップに残っていたブラックコーヒーを一気に飲み込んだ。こういう時こそ深呼吸だと思い、早急にリビングに出てから新鮮な息を肺いっぱいに飲み込んで吐き出す。際限なく湧き上がってくる焦燥感に駆り立てられるかのように、リビングへと逆走し、小さなジャッジマンがぶら下がっている携帯電話を手に取り。温度を喪失した震える指先で日下部に緊急コール。回線が繋がったのを確認した後。すぅー、ともう一度深く、息を吸い込んで。
「両面宿儺から“300億円投資してやるから俺を満足させられる作品を作ってみろ”と命令された場合俺は一体どうしたらいいんだ……?」
たっぷり十秒間以上の沈黙を置いて『……お祓い行け……』と蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
非常口シリーズ、全部拝読しました。出会った当初、ぎこちなさのあった日下部さんと日車さんが芝居を通して距離を縮めていく描写が本当に大好きです。素敵な作品を読ませていただき本当にありがとうございます!