[篤寛]居酒屋あつや。・24[現パロ]
2025/03/23:推敲済。
食べて飲むだけ〜。
いつもと書き方が違うと思います。
誤字脱字は後日いたしますm(_ _)m
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携帯の天気アプリを見れば、明日から雨が降るそうだ。そしてまた寒くなるという。
ただ、昔から三寒四温というように、これから春に向けての寒暖なのかもしれない。
取り敢えず清水は自律神経がガタガタだと言って顔が普段よりも血色を失っていたから、彼女の分の負担を少しでも減らしてやりたい。
減らしてやりたいが、依頼人は待ってはくれない。
中々難しいところだ。
今夜はゆっくりお休んでくれと先に送り出し、私は残って書類の不備がないかを確認しながら今日の夕飯は何にしようか考える。
まあ、私は料理などせずもっぱらコンビニ弁当か外食、更には酒の肴と酒で腹を膨らまして暖をとって寝るのだが。
やはりこんな夜はあの店に限るな。
そう思いながら最後の確認を終え、事務所の明かりを消して施錠をし、愛する人のいるあの店へと向かうのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
紺色ののれんをくぐりカラカラとガラス戸を開ければ、「…らっしゃい」というやる気があるのかないのか判断に苦しむ店主の声がする。
しかし、そんな店主も客が日車だと分かれば表情も声も一変して、喜色満面に「日車! こっちこっち!」と定位置に着かせた。
店主の名前は日下部篤也、日車と呼ばれた男は日車寛見という。
日下部は日車が来た時だけお通しを多く出すのだが、今夜は先ずたまごサラダだった。
たまごサラダは何回出されてもポテトサラダと同じく飽きない。
そう工夫しているのだと日下部は言うが、料理の腕が壊滅的な日車としては、何をどうしたらこんなに何回食べても飽きない美味しさが保てるのか不思議で仕方ない。
たまごサラダと一緒に出されたビールは、呑めば疲れた身体に染み渡り、ゆっくりと料理と心身共に癒してくれる。
次いで出されたのは小松菜のお浸しだ。
伊地知潔高という日下部の知り合いで店の常連が、「また田舎から送られてきました」とお裾分けとして持参してくれたのだという。
シャキシャキとした歯応えが楽しく、えぐみもなく甘みもあって美味い。
その間にお勧めを聞けば、なんと今日はマグロの良いのが入ったという。
なんでもこれまた七海建人という日下部の知り合いでこの店の常連が、伊地知と日を同じくして来店して手土産に持参したらしい。
「旅先で漁師と仲良くなりまして」という言葉と共に送られたマグロは、良い部分を選りすぐって使いやすいようそれぞれ大ぶりのサクの形で包んで袋に入れて送られたのだという。なんとも豪華な贈り物だ。
日下部も日車に向かい「この際二人で山分けしちゃいましょ」とニヤリ笑い、この場でも定食の形にして食べさせてくれると言う。
ありがたい話だと日車はちびちび残り少なくなったビールを舐めながらマグロが来るのを今か今かとじりじりしながら待った。
「おまっとーさん!」
「……これは…………圧巻だな…………」
思わず日車は少々言葉を失うほどソレを凝視してしまった。
何しろキラキラツヤツヤと光る刺身が豪快に盛り付けてあったので、思わず言葉を失ってしまったのだ。
マグロの赤身に大トロ中トロ、中落ちに漬けまで綺麗に盛られている。
おまけにご飯はもち麦でその上にネギトロが乗っかったネギトロ丼だ。
そこに里芋の煮っ転がしと味噌汁がつく。
しかも日下部は先ほど二人で山分けと言っていなかったか?
ということはもっとこの良質で新鮮なマグロが食べられると言うことだ。
日車は思わず忍び笑いを漏らした。
「いただきます」
「召し上がれ、ってな」
先ずは里芋の煮っ転がしから口にする。
これも前から出ていたものだが、よく味が染みていて里芋独特の香りと粘りとほくほく感に安心する。
味噌汁の具は大根だった。
大根などの根菜類は身体を芯から温めてくれる。食物繊維も豊富だから、便通も良くなる。おまけに美味い。一石二鳥どころか一石三鳥なのだ。
次にネギトロ丼にわさびとほんの少しの醤油を足して、半分ほどかき込む。
もち麦のプチプチ感とネギトロのシャキトロ食感、それに魚の脂が舌に甘い。
もち麦も食物繊維が豊富で、更に栄養価が着高い。それを白米にどれだけ良い塩梅で足すかが腕の見せ所だろう。
これはもう文句なしに合格だ。
そしていよいよ刺身である。
先ずは赤身をいただく。
生臭さは新鮮さと丁寧な下処理により無く、ねっとりとした舌触りと赤身独特のマグロ! という味の濃さには日車の普段の仏頂面も緩む。
次いで中トロをいただく。
ネギトロ丼に使った中落ちとはまた別のトロっとした感覚が舌に心地よく、またやはり新鮮なためか脂が甘くて美味い。
美味さのあまり日車の目が猫のように細まった。
次いで大トロをいただく。
美味い! と膝を叩きたくなる美味さだった。口に入れた途端溶けて無くなるような、そんな感じなのだ。
しかも余韻が続く。
これは美味い。
最後に漬けである。
これも腕の見せ所だろう。
食べてみれば安定した美味しさで、あの大トロの少しくどいくらいの脂をさっぱりとさせてくれる美味さだ。舌にねっとりと甘い。
「醤油とわさびも美味しい」
「ああ、あれは五条の差し入れだな。また実家から送られてきたとうんざりしながら寄越したよ。…ところで今夜、予定ある?」
「ないが」
「んじゃあ、明日雨だから、刺身と家入からの差し入れの酒で今夜の月を愛でませんかね」
「それはお泊まりのお誘いか?」
それに日下部は鼻を掻いてソッポをむいた。
その耳が仄かに赤くなっているのを見て、私の恋人は照れ屋だなと日車は思うも、その自分も照れてしまって小さな声で「きっと綺麗な月だろう」とOKの返事をする。
もうお分かりだろうが、この二人は恋人同士だ。
そろそろ四十歳になるのにお互いが距離の詰め方を忘れてしまったかのように、まだ手も握れていないが一応恋人同士である。
しかも、手も繋いでいないのにお互いの家を行き来する仲である。
ただ、お互いがお互いとも、もうこのままで良いかと考えていた。
この、暖かく穏やかな関係のままで。