[篤寛]昼間の居酒屋あつや。・10[現パロ]
2025/01/31:推敲済。
今更ですが雑煮を食べる二人。推敲は後日致しますm(_ _)m
これ→ novel/23865756 と繋がっていますが読まなくとも大丈夫です。日車さんは泣かないという方は見なかったことにして忘れてください。
※尚、今までのものもこれからのものも、某地域のことや法律、また弁護士などの諸々の情報は全てネットの広大な海からのものです。このシリーズに出てくる店や旅行先などのもので、料理以外のものはほぼ全て架空のものです。※
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昨晩は途中までは酔っ払った覚えがなく夜遅くまで飲み明かした気がしていた。しかしいつの間にかこうして篤也が介抱してくれたのだろう、布団の中でスーツのジャケットを脱がされシャツとズボン姿で寝ていた。
つまり、また懲りずに酒での失態をおかしてしまったというわけである。
ため息を吐いてから反省と後悔をしていると襖が開き、篤也が「寛見、起きたか?」と声をかけてくれた。襖の向こうからかつお節の良い香りが漂ってきる。ついでに襖の向こうから明るい日差しが漏れていた。
大分日が高いのだろう。今日は休みだと伝えてあったのと、篤也が買い出しに行くから店も休みだと言っていたもあり気を利かせてくれて起こさないでくれたらしい。
家と違って魘されることもなくよく眠れたことが未だ面映く感じるのだから、大概だなと苦笑しつつ面映く思う。
「餅が余ってるから雑煮だが、何個食べる?」
「二つ頼む」
「今から焼くから着替えとけ」
「了解した。ありがとう」
篤也がカーテンを開けつつの会話を終えた後、寝室から出て襖を閉めて行ってしまう。
もっと話したいという欲が湧いてくる自分がはしたなく思えてしまい暫し悶絶した後、「着替えるか」と立ち上がったら今更二日酔いによる頭痛に襲われた。
痛む頭を抱えながら寝泊まり用として置かせてもらっておいた服に着替え、シワの寄ったスーツのズボンを見てクリーニングが必要だなと思いつつ、昨日着ていたワイシャツと共に用意されてあった紙袋に入れる。
布団を畳んで部屋の隅に寄せて襖を開けると、篤也が振り返って「起きたな? シャツはいつもんとこな」と笑顔で迎えてくれる。やはり好きな人の笑顔は特別だなと思って口元が緩むのを感じた。
歯磨きを済ませて台所へ顔を出すと、餅を五個網に乗せて、コンロの上でくるくるひっくり返している彼を見つけた。その広く分厚い背中に抱きつきたいなどと柄にもないことを思い、実行するかしまいか悩んでいるうちに彼が振り向き「おはよーさん」と笑った。
頭痛も消し飛びそうな笑顔に「おはよう」と答えるが、またぶり返した頭痛に顔を顰めてしまう。
「頭痛薬はいつもんとこな。冷蔵庫に冷えたスポーツドリンクあるからそれで飲んどけ」
「いつもすまない」
「気にすんな。俺もそうなることがあるから辛さは分かるさ」
その言葉に目を見開く。
そんな私の驚きに気づいたようで、「あのな」と渋い顔をされた。
「俺はそんな出来た人間じゃねぇっつーの。お前さんは肩に力入りすぎ。ちったぁ力抜けっていつもいってんでしょーが」
それに私は苦笑で返した。
彼が「分かってねぇな」とボソリ呟き小さくため息を吐いてから飲み込んだような顔になり、「座って待ってろ。今朝の雑煮はちょっといつもと違うぞ」とニヤリ笑って私を追い払う。
しっしと犬猫を追い払うような扱いを受けるが、篤也ならば不思議と嫌な気にならないのがいつも不思議でならない。
居間にある台所が見えるいつもの位置に座って暫くすると、彼が雑煮と何かの器が二つ乗ったおぼんを持ってきてテーブルに置く。
雑煮のお椀をそれぞれの前に置き、こちらからは見えなかった何かが入った器を置かれ中身を見たら懐かしい色合いと香りのするものだった。
「くるみだれか……」
「まあな。流石にお前さんの実家の味を出せはしねぇが、ま、お試しあれってとこだな」
私の家では正月になると必ず出ていたものだが、こちらへ来ると中々口にする機会がなかったものの一つだ。
恐らく昨晩のおでんの中に実家の方では馴染みの種が無いとぼやいていたことを聞かれていたか、そのことで彼が気を利かせてくれたのだろう。
くるみだれはくるみをすり潰すところから始めるので、手間暇がかかる。それにすまないことをしたと思う反面、やはりその大変な手間のかかるくるみだれを出してくれた篤也の優しさに嬉しさが勝る。
そわそわする私に篤也は微笑を浮かべ、「んじゃ食うか」と手を合わせて「いただきます」をする。
私も声を合わせて食前の挨拶をすると、二人ほぼ同時に雑煮を食べ始めた。
餅は焼いてあり少しカリカリと餅米特有の香ばしさが残りつつふにゃっとふやけた食感も美味しいが、餅はそのままとっておく。
互いに想いを伝え合ってからは毎年彼の家で年越しと新年を過ごしておせちと共に雑煮を食べていたが、くるみだれが出たのは今年が初めてだから楽しみで仕方ない。
鰹出汁の効いた熱いすまし汁が胃の腑に落ちると、腹からぽかぽかと温まりやがて薬も効いてきたか気づけば頭痛も治っていた。
食欲が刺激されそれが満たされるうちに癒されるなど現金なものだと思いつつ、残しておいた餅をくるみだれにつける。
一口食べるとピーナッツバターにも似た滑らかさと香ばしさと甘塩っぱさが口内に広がり、くるみだれが絡んだふやけた餅の、ここ何年か食べていなかった味に涙腺が緩みそうになり慌てて俯いた。
こんなことで泣くなど恥ずかしいし、みっともないところを見られたくない。
そう思ったのが分かったか、篤也が箸を置き頭を撫でて「泣いて良い」とわしゃわしゃ髪の毛をかき混ぜる。
ぼろりと、割合と大粒の涙が溢れてしまい、それに驚いたか彼がティシューとタオルを差し出してくれた。
それらを受け取ると、ティシューで鼻をかんでタオルで顔を覆う。洗い立ての柔軟剤の花の香りが昂った精神を鎮めてくれた。
どのくらいそうしていたか、「そら、まだ残ってるぞ」と篤也が言うので、「ああ」と俯いてタオルを片手で持ちながらという無作法なことをしながらくるみだれがたっぷり絡んだ餅を食べ進めた。
故郷に帰れないわけではない。
けれども、なんとなく帰りづらい。
ここずっと家族と顔を合わせることに訳のわからぬ気まずさと恥ずかしさを覚えるのが嫌で帰らなかった。
だから、久しく食べていなかった故郷の味についつい泣いてしまったのだろうと自分の中で整理すると、次第に涙も収まりいつもの調子を取り戻していた。
「さてと、食い終わったら買い出し行くぞ」
「ああ。…いつもありがとう、篤也」
「水クセェこと言いなさんな。…寛見は小出しな出すっちゅーことが出来ねぇからなぁ」
「君がいる」
途端黙り込む篤也に不快なことを言ってしまったかと顔をあげれば、手のひらで顔を覆った彼がいた。
「お前そういうの俺だけにしとけよマジでほんともう……」
「ふ、君以外にこんな顔は見せない」
「だから! そーいうとこだっちゅー! あーもう良いわ! ほら! さっさと食って行くぞ!」
「ハハハハハ、分かった、分かった」
照れた顔を見られた彼と、泣き顔を見られた私。
どっこいどっこいの私たちだから、これからもきっとのんびりともっと仲を深めていける。今年も良い年になりそうだ。
くるみだれのたっぷりついた甘塩っぱい餅を食べ終えて篤也が支度を整えているその背中をしみじみ見ながら、今度篤也と一緒に実家に顔を出すのも良いかもしれないと思ったある日のこと。
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- 小夜双☆スカィWebJanuary 25, 2025