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長崎県は、日本屈指の“おさかな天国”。東シナ海と日本海をつなぐ対馬海峡に面しており、一年を通して多くの魚が回遊する。その種類は全国一と言われており、漁法もさまざま。西日本の小さな県でありながら海区(農林水産省によって定められている海面上の区切り)が7つもあり、漁獲量も全国有数なのだ。
“おさかな天国”長崎県発、回らない寿司チェーン
そんな長崎県で人気を誇る寿司チェーンが「若竹丸」である。県内はもちろん、福岡や熊本、神奈川にも店舗がある。牛若丸をモチーフにしたキャラクターが“うまさ「くるり」と宙返り”する、そんなキャッチフレーズだ。
10年前に回転寿司からフルオーダー寿司店へとリニューアルを遂げた「若竹丸」。なお、フルオーダー寿司といっても、価格帯的にはスシローなどの全国回転寿司チェーンのものとほぼ同じくらい。
しかしながら、長崎魚市などから水揚げされた新鮮なネタを使用しているし、一つひとつが職人による手握りだ。できたての寿司が「特急レーン」でガタンゴトンと運ばれてくるのも、アトラクション的に楽しい。一度訪れる価値はあるだろう。
筆者の最寄りの店「若竹丸 早岐店」は、食事どきには高確率で駐車場難民になる。マイカーが便利な立地でもあるため、訪れる際の心構えとしては“開店直後に行くか、アイドルタイムに行くか”だ。
ここまでして若竹丸の寿司を食べたいと思う理由には、まず座席が快適なことにある。おひとりさまであれば間違いなく案内されるのがカウンターだが、その椅子は二人掛けと一人掛けのソファ。座るとほどよくふかふかで、なんと贅沢な空間だろうと感じる。
隣の席とはパーソナルスペースが保たれる心地いい間隔。小皿に湯呑み、割り箸やお湯の出る蛇口など、目の前にほしいものが全部そろっている。
例えばこういうとき、店によっては隣の人と共有になっていることはないだろうか。筆者にとっては「すみません」と断りを入れて、その人の眼前を横切るように腕をにゅっと伸ばすのがプチストレスだったりする。なので、本当にありがたいのだ。
オーダーはタブレットでサクサクと……でも良いのだが、ぜひ、メニュー表を一度眺めてみてほしい。これはいわば若竹丸の地図。食べる戦略を立てられるうえ、寿司やサイドメニューの写真が小さくびっしりと並んでいるのがなんとも可愛いのだ。
ホームドアのような扉が開き、特急レーンで寿司がやってくる
「ピンポンピンポン♪」のチャイムが鳴れば、上下どちらかの特急レーンで寿司がやってくる。上は先述したとおり新幹線のレーン。下は両側を板でガードされているレーンだ。客の真正面を通るため、うっかり取ってしまったり飛沫が飛んだりといったリスクへの対策だろう。衛生管理の徹底ぶりを感じる。
ドアが開く前の寿司のシルエットがバラエティ番組みたいで面白い。ズゴゴ……と音を立てながら扉が開く様子は、まるで駅のホームドアだ。
ではさっそく一皿目いってみよう。
長崎魚市直送の味が炸裂!
まず一皿目は、おすすめメニューの「若竹丸 五点盛り」(税込462円)。今回はまぐろ・ひらす・サーモン・炙りゲソ・生えびで、旬のネタがちょっとずつ味わえる、初めましての一皿としてピッタリだろう。
続いて、長崎県の橘湾産の「雄昇イサキ」(税込220円)。初夏から夏にかけて旬を迎えるその味は、上品でしっとりと脂が乗ったおいしさ!
お茶は雲仙市にある茶園の粉末茶で、香りが高く旨みがある。寿司の引き立て役として最高だ。佐世保市の伝統工芸品である「三川内焼」の湯呑みでいただこう。伝統柄の「唐子」がコミカルに描かれており、若竹丸と仲良く並んでいるところにご当地感があって素敵だ。
見た目に惹かれて「下駄盛大エビ天」(税込220円)を注文した。つい「妖怪?」と思ってしまった名前のインパクトに負けず、こぼれそうなほど大きい海老天が乗っている!これは箸ではなく、片手で豪快にかぶりつこう。ザックザクで尻尾までおいしくいただけた。
“ちょっとつまんでみたい”気分を叶えてくれるミニ寿司もある。ミニチュア感に心くすぐられる。
若竹丸が推しているオーロラサーモンは、ノルウェーの養殖場から水揚げされたサーモンを、徹底した温度管理のもと一度も冷凍せずに仕入れている。新鮮さはもちろんみずみずしさも失われることはなく、しっとりとした脂とほのかな甘味が、小さな一貫のなかにぎゅっと詰まっていた。
海の幸だけではなく、山の幸もおいしいんだ、長崎県は。次にいただくのは「雲仙きのこ本舗」のなめたけ軍艦(税込165円)。なめ茸のシャキシャキとした食感と酸味がとろりとした山芋と合う。クセになるので何皿でも食べたくなること請け合いだ。ちょっぴり見た目が地味なので、隠れた名物かもしれない。
もっと若竹丸の深淵に潜っていこう
筆者なりに、より若竹丸の深淵に潜っていこうと思う。捕鯨の歴史が各地に残る長崎県では、鯨肉への親しみも根強い。若竹丸では、定期的に鯨のさまざまな部位がネタに登場している。
今回出会うことができたのは「クジラ赤ベーコン」(税込242円)だ。実は筆者、クジラのベーコンを食べるのは初めて。メニューの写真よりも数倍美しい見た目に驚いた!
食べてみると、何だろう……これがお世辞抜きにうまいのだ。まず驚いたのは、口に入れるととろりと脂が溶けること。燻製してあるからか、独特なスモークの風味と塩気が食欲を刺激する。さらにネギと生姜の薬味が爽やかで、これは本当に良い仕事だ! 飲み込む瞬間には「また食べたい」と感じてしまう、中毒性の高い一皿だ。
サイドメニューの余白も空けておくとよい。あら汁(税込242円)は疲れたときなんかはもう体中に染み渡るほど、魚の出汁が効いていて、つまり、うまい。
ちょっと食べづらいけれど、身もしっかり旨みが詰まっているので、指を使って骨までしゃぶり倒そう。集中して食べているとなんだか原始的な気持ちになって、日常の慌ただしさから少し離れられるかもしれない。
専門店顔負けの「担々麺」、自家製の和スイーツも
もう満腹かもしれないが、まだまだ推したいメニューがある。専門店顔負けの「担々麺」(税込561円)だ。
あまり言いたくはないのだが、単品でも十分に満足できるほど本格的なのである。ゴロゴロお肉と香り高い胡麻ペーストが超濃厚で、おまけにしっかりと辛い。厨房で丁寧に作られているのが伝わる一杯だ。
ここでやっとデザートである。息切れしていないだろうか。自家製の和スイーツでも食べて落ち着いてほしい。ほうじ茶とバニラのミックスソフト+あんこ乗せ(税込363円)。
こんな風にサイドメニューやデザートもたっぷり味わってお会計は2486円。この日は贅沢しすぎたが、大体いつもの会計はひとりなら1500円以下だ。
「手作り」「丁寧さ」がうれしくて、何度も訪れたくなる
回転寿司がファミレスの役割を担っているといわれてずいぶん久しいが、「若竹丸」だってそうだ。けれど比べて違うなと感じるのは、いろいろと手が加わっていることだ。寿司の皿だってそうで、注文した量に応じて大きさや形状を変えてくれる(それゆえ積み重ねにくいところはある)。もちろん寿司が職人の手握りだということも。
もちろんさまざまなコストが上がっている現代だから、手作り至上主義だとは言わないけれど、それでも、人の手で作られた料理はやっぱりうれしい。
まっすぐこちらに来てくれる皿の一つひとつに、スマホをそっと置いて手を合わせたくなるような。そんな丁寧さを感じたくて、筆者はまた「若竹丸」ののれんをくぐってしまうのかもしれない。