[篤寛]居酒屋あつや。・22[現パロ]
相変わらず誤字脱字多くてすみません! 修正しました!
食べて飲むだけ〜。
最近このシリーズ恋愛面が結構出てきたなと変化を感じています。前のと今の、どちらがお好きですか? 気軽にコメント欄にでも感想下さると嬉しいです。いつもありがとうございます(^人^)
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秋雨前線が過ぎ、いよいよ秋が深まり朝晩が冷えるようになってきた。
部下の清水は足が冷えるとブランケットを足に巻きつけていて、見ていてこちらが暑くなる。暖房をつけるほどではないこの冷えがまた、彼女の苛立ちを煽るのだろう。
ブツクサと文句を言いながら今日も今日とて私たちの仕事をこなしてくれていた。
「そろそろ帰るか」と独り言めいたものを言えば、清水は嬉しそうにそそくさと帰り支度をする。
「日車さん、糠漬け持ってきたんですが」
「もらおう。私も君が飲みたいといっていた酒を買ってきた」
「やった!」
その場で物々交換し、互いにほくほくしなが私は袋ごとタッパーを貰い受け、彼女は確かどこかの地酒を大切そうに仕舞い込む。
「次はナスが良い」
「あ、それじゃあ、私はこの〜〜〜……あったた! この店のチョコレートがいいです!」
「…これは一粒幾らのものではないか?」
「えへへ。自分で買うとなると尻込みするんですよね〜」
「追加でやはりきゅうりも追加だな」
「商談成立ですね!」
私はなんとも言えない心地になりつつも、まあ良いかと今夜の予定を考える。
久々に高田さんから紹介された店へ清水を連れて行っても良いかとも思ったが、何やら彼女は化粧直しを熱心にやっていた。
もしかしたらこれから用事があるのかもしれない。
「清水、飲みに行かないか?」
「あ〜なんで今夜なんですか〜! 他の日だったら開いてるのに!」
「何か用事があったか」
「合コンです!」
碌なものではなかった。
いや、碌なものではないなどと決めつけてはいけない。もしかしたら婚期が遅れるのかもしれないと彼女なりに焦っているのかもしれない。国選弁護人は忙しすぎて出会いの場を設けることが難しい。それこそ合コンでもしないと出会いがない。
「じゃあ、また今度」
「絶対ですよ!」
「分かった」
そんなこんなで事務所前で別れた私たちだが、どこか浮かれた様子の彼女と違い、私は完全に婚期を逃した……とは言わないが面倒臭い年齢になってしまった。
出会いの場にそもそも行くのが億劫だ。
そんな暇があったら弁護する人間の相談やら書類整備をしたい。
それはそうと、今夜の食事と酒はどうしよう。
……あのひたすらに静寂が満ちた何かが死んだみたいな家には戻りたくない。
よし、今夜もあの店へ行こう。
思い立ったが吉日とばかりに、私は篤也さんが店主を務める居酒屋へと足を進めたのだった。
「……らっしゃい」
「あつ、……日下部」
「ひろ……日車じゃねえか! こっちこっち!」
互いに危うく昼間と同じ調子で名前を呼びそうになり、慌てて言い換える。
なんとも言えない雰囲気を破ったのはやはりと言うかなと言うか篤也さんだった。
「日車、白菜の浅漬けは好きか?」
「大好きだ」
「よし。んじゃお通しでビールと一緒に出すな」
「楽しみだ」
そう待たないうちにキンキンに冷えたビールと白菜の浅漬けが出される。
糠漬けだけでなく漬物系は大好きだ。
ただ、京都や奈良あたりの味噌漬けやら甘味のある漬物はあまり食べなれなくて苦手だが。
「ついでにこれも」
「いぶりがっこか」
しなんとなっているが噛むとパリパリしていて、仄かに燻製の風味が鼻を抜けた。
「美味いな」
「俺の恩師からの土産」
「中々渋い好みだ」
「でも美味いだろ?」
「ああ、美味いな」
何故か篤也さんの普段見せない無邪気とも言える笑みにイラッときた。
あと、胸の内がもやもやして気持ち悪い。
なんだ。何が起きた。
「ほい、きゅうりとにんじんの胡麻和え」
「あ、ああ。ありがとう」
「? おう。……日車?」
篤也さんが私に手を近づけてきたことで、私は何故か尻込みして退けてしまった。
傷つけてしまったのが分かる。
けれども少なくとも今はそっとしておいてほしい。我儘だな。
「日車?」
「す、まない……少し、酔ったようだ」
「……そうか」
篤也さんには私の動揺やら醜い嫉妬やらそんなごちゃ混ぜの感情を見せたくない。みっともない私を見ないでほしい。そんな、子どじみたわがままに、それでも篤也さんは寄り添ってくれる。
「そうか。んじゃあ、今日は俺も飲むかね」
「え?」
「……あんたを一人にしちゃおけねぇよ」
その一言。
そのたった一言で心が軽くなった。
自分でも自覚できるくらい口角が自然か上がり、目元が緩む。
ああ、好きだな……。
「今夜は何食いたい?」
側から囁くような声で問われて、ぽそり、「魚」と答えた。
「ねぎまなんてどうだい?」
「ん、良いな」
「んじゃ、ちょっくら待っててくれるか?」
「ああ」
良い子だと髪の毛をくしゃりと撫でられ、顔が熱くなった。
それをたいして飲んでいない酒のせいにして、追加で出されたレンコンと鶏そぼろの炒め煮を食べる。
ああ、ここのご飯は何故こんなに温かくて美味いんだろうか。
篤也さんが厨房を動き回っているのを見ているうちになんだが楽しくなってきて、先ほどまでのイライラや嫉妬は綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
現金だなと自分でも思うが、自分で制御している訳ではないからどうしようもない。
やがてねぎまと白米と何か薄ピンクの粉とわかめとしじみのスープが出てきた。
とりあえずねぎまに手をつける。
臭みがきちんと取れていて、赤身もおいしくいただけた。
脂が乗っていてそれがとろとろのねぎと絡んで絶妙な味わいになっている。味もよく染みていてパサつきもない。
わかめとしじみのスープは普段肝臓を酒で酷使している身としてはありがたい。疲労回復にも良いらしい。
その心が何より嬉しい。
薄ピンク色の粉は、エビ塩だそうだ。
エビの殻を砕いて粉にしたもので、それを塩と混ぜている。
これを白米にかけるとエビの香ばしい香りと味が口いっぱいに広がって至福の時をくれた。
そんなこんなで全て平らげ、ふと顔をあげれば篤也さんの優しい顔がある。
ふ、と笑えば、相手も照れくさそうに鼻を掻きながら笑ってくれた。幸せだなと思った。
会計を済ませようと思ったら、篤也さんに「今夜は何か用事はあるか?」と聞かれる。
用事はないと答えれば、「じゃあ泊まってけば」とニヤリと笑いながらクイッと盃を傾ける動作をする。
「ちょうど飲み足りないと思っていたんだ。付き合ってくれるか」
「勿論」
「では、お言葉に甘えよう」
その夜は、静かに杯を重ねる音と時折さやさやと囁くような声の掛け合いだけが響いたのだった。