[篤寛]居酒屋あつや。・16[現パロ]
冥と憂が虎ゲスト。
※今回寛が篤にさりげなく軽いちゅーしてます。あと、今回も虎君当て馬というか篤大好き寛に嫉妬な関係性なので苦手な方は避けてください。※
誤字脱字などは数日中に修正します。
2024/03/11:修正しました。
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立て込んでいた仕事も漸くひと段落つき、腹を空かして帰り道をふらふら歩いていたらいつの間にかあの店の前にいた。
体は正直なものだと日車は力の入らない笑いを浮かべる。
気合いを入れる為にポケットに入れた鍵についているキーホルダーを弄りながら、さてと一声呟き居酒屋あつやの暖簾をくぐった。
やる気があるのだがないのだか分からぬ店主の声が聞こえ、入ってきたのが自分だと分かるなりその店主、日下部篤也はパッと笑顔になり「日車さん! こっちこっち!」といつも通りカウンターのとある席に通してくれる。
今夜は何があるだろうと見回してみると、「赤魚の良いのが入ってますよ」と日下部に言われて「それにする」と微笑んだ。
その後いつものようにビールとポテトサラダが出され、それを食べ終わると蓮根と牛蒡と牛肉の炒め煮が出てくる。
それを突こうとした途端、いつか聞いた声変わり間近の少年の声が響いた。
「おっさんだけずリィ!」
日下部が止めに入る前に、日車は確か虎杖と言ったなと、少年に問いかける。
「一体何がずるいんだ?」
「だっていっつもあんただけお通しが一品多いし、それになんか師匠がやたらとニヤけた面してんだもん!」
「ニヤけた面……。フフ。…ところで、師匠ということは、君は彼に何か教わっているのか」
「体術全般! 師匠めっちゃ強いんだぜ! …まあ、前の師範代には負けるかもしれないけど……。でも! 少なくともあんたにかまけていい人じゃねぇんだよ!」
「ふむ。…私は彼からこういうのを貰ったが」
日車がキーホルダーを見せると、虎杖が目に見えて動揺し、「…俺だって貰ってないのに……」と落ち込んでみせる。
大人気なかったかと思うも、日車は更に指輪を見せて、その裏側に彫ってある二人分の名前を見せつけた。
日下部と日車の名前がローマ字で書いてある。
虎杖の世代ではもはやローマ字は習わないが、日車がついでとばかりに「私と彼の名前が彫ってある」と言い、更にはお互いの家の合鍵を見せてみせると、虎杖はションボリと俯いてしまった。
見れば唇を噛んで血まで出ている。
それほどまで落ち込むと思わなかったが、一応この年でも充分男と見えた。
だから牽制しておくに越したことはないと、日車はもう良いなとばかりにキーホルダーと指輪と合鍵を大切に仕舞う。
ハラハラと様子を見守っていた日下部が虎杖に優しく声をかけるのを、「日下部さん、次に休みが取れたら釣りに連れて行ってくれないか。それともいっそ泊まりで温泉でも行くか」などと飄々と言ってのけた。
かわいそうだがここは諦めてもらおうとそこまで言った時だった。
店内に大きな笑い声が響く。
日下部が頭を抱えて見る方向に日車がなんだと目を向ければ、紫がかかった銀髪を編み込みにして前に垂らした女性が大口を開けて笑っている。
女性の隣には少年がいて、女性が楽しそうに笑っているのをとてつもなく嬉しそうに見上げていた。
かなり異常な光景と言えたが、店内で誰も何も言わない見ないのは、これがこの女性の通常運転だからだろうか。
「ハハハハハハ……! ハァ……。…いや、久々に大笑いさせてもらったよ。虎杖はもう少し大人にならないとね」
虎杖が涙で滲んだ目で女性をギッと睨むと、隣にいた少年が「姉様になんという態度を!」とつかみかかっている。
止めた方が良いだろうかと日車が手を出そうとすると、側から日下部に止められ、「冥冥、止めろ」と日下部に言われた女性が笑いを堪えながら「憂憂」と一言少年を呼んだ。
すると憂憂と呼ばれた少年は目をハートマークにさせてきゅるんとでも音がしそうな態度で姉に擦り寄り、虎杖は興がさめたようにガクッと肩を落として「くだんね」と日下部に何やら話しかける。
日車は暫くその様子を大人の余裕で眺めながらビールをちびちびやりつつ、炒め煮を食べ終えた頃に日下部から「すまねぇな」と詫びられながら料理を出された。
本日の日車の夕食は、赤魚の一夜干しとほうれん草とベーコンの炒め物と白米と春菊の味噌汁である。
その香りと見た目だけで口の中に唾液が広がってきて、喉が鳴った。
早速赤魚に手をつける。
ホクホクとした身は中々剥がれにくいが、解して口に入れるとぶわりと魚の脂の旨みが広がって酒が欲しくなった。
次に春菊の味噌汁だが、日車はそれほど春菊が好きではない。
あの独特の苦味とえぐみと匂いが好きではないのだ。
しかし折角日下部が作ってくれたのだからと一口啜れば、今までの常識が覆った。
少し芯が残るくらいにしてある春菊の味噌汁は、独特の苦味もえぐみも匂いも抑えられていて、味噌汁にもよく合う。
驚いて日下部を見やれば、「鍋にも合いますよ?」と言われてしまい、これはいつか食さねばと思ったほど春菊の今までの常識を覆された。
ほうれん草とベーコンの炒め物は言わずもがなだ。
「美味い」
「当たり前だろ?! 師匠は強いだけじゃなくて料理も上手いんだ! …ぜってぇ負けねぇからな!」
どうやらまだまだ彼とは仲良くなれないらしいと、日車は困った顔をする日下部を見て苦笑する。
その後黙々と赤魚をほじくっていたのだが、ふと気配を感じて隣を見れば、先ほど冥冥と呼ばれた女性がじっとこちらを見ていた。
艶っぽくて美しい部類に入る女性なのだろうが、日車はなんとなくこの女性に苦手意識を覚える。
日下部は憂憂と呼ばれた少年同様この女性の話も話半分で聞いているようで、しかし聞き逃せないことは嫌だときっぱり断っているようだ。
それを鑑みるに、この冥冥という人はかなり裏に足を突っ込んだ人間なのだろうと日車は見当を付けた。
日車のような国選弁護人だとそうでもないが、噂としてそう言った人間が自前で弁護士を雇うことも知っていた為日車も一応警戒することにする。
するとすすすと酒を勧められ、片眉を上げると冥冥が「一献どうかな?」と言ってきた。
日車は脳内に警鐘が鳴り響くのを感じ、即座に「結構だ」と断る。
その途端再び憂憂が何か言ったが、それ含めて冥冥にも日下部が一言二言言ったことで「折角弁護士とお付き合い出来ると思ったのに残念だよ。まあ、またの機会にね」と笑った。
これからもいつでも機会があるぞというような意味合いにとれるので、日車は背中がゾッと冷たくなるのを感じた。
ゾワゾワと寒気に似たものが背筋を走る中、トンッとお猪口をテーブルに置いた冥冥は、「憂憂、行こうか。それじゃあ、その件については頼んだよ日下部。金はいつもの口座に」と言い残し、まるで気配を感じさせずに音もなくこの店から出て行ったのだった。
店内が静まり返る中、日下部は渋い顔で日車に「昔からの知り合いでね」と、まるで言い訳のように呟く。
どうやら切りたくても切れない縁らしい。
そして、日車ほどでは太刀打ちできない相手だということもなんとなく感じた。
歯痒いが、仕方ない。
ふと目の端に落ち込んだ様子の虎杖少年がうつる。
「虎杖、唐揚げは好きか」
「…好き……だけど……?」
「餃子は?」
「好き。でも師匠が作ったのが一番美味い」
「それは全面的に私も同意だ。日下部さん、唐揚げと餃子を彼に」
「え……」
「あいよー」
日車は虎杖の目を見て話す。
「日下部さんは渡せない。しかし、君のことを無碍にしようとは思ってはいない。ただ、私たちの邪魔をするようならば、…分かるな?」
「師匠が、…師匠はこの人のこと好きなの……?」
それに日下部は「あー」だの「うー」だの頭をガリガリと掻いて唸る。
日車はそれに立ち上がってにっこり笑うと、「君の大事な師匠は恥ずかしがり屋なんだ」と虎杖の両肩に手を置いた。
それからテーブルの上で書き物をして、「何かあったらこちらへ」と名刺も渡す。
虎杖は名刺の裏に私用のアドレスと「君の師匠に何かあったら」と記してあるのを見て、「俺勝てねぇじゃん!」と日車の満面の笑みを見て叫んだ。
「あんた子ども相手に情け容赦ねぇな」
会計でのその日下部の呆れた声に、「私も男だからな」と日車はニヤリ笑って日下部の唇を掠め取り、背後の二人分の色合いの違う叫び声を尻目に店を出たのだった。
日車さんがおとなげなくて可愛いかったです!虎くんも歳相応の純粋さで素敵でした💓