ホラー短編小説「木目」Part.9
第9話「静寂」
「……山田さん」
背後から、
柔らかく落ち着いた声がした。
振り返ると、
ベッドに座っていた鈴木が
ゆっくりと立ち上がり、
こちらへ近づいてくるところだった。
彼女は山田の右手を
両手でそっと包み込んだ。
「もう大丈夫です。
足音、消えましたよ」
彼女の手のひらは、
ひどく温かかった。
その体温に触れた瞬間、
山田の中で張り詰めていた狂気の糸が、
ふっと緩んだ。
山田は力なくカッターナイフを持つ手を下ろした。
鈴木は山田の手を引いてベッドに座らせると、
バスルームから乾いた白いタオルを持ってきた。
鈴木は山田の隣に座り、
タオルで優しく彼の頭を拭き始めた。
すぐ真横から、
彼女の静かな呼吸の音が聞こえる。
タオルを動かすたびに、
少し乱れた彼女のブラウスの襟元から、
艶やかな首筋と、 胸の丸みが
微かに上下するのが見えた。
「もういないんですよね。
……佐藤くんも、高橋さんも」
不意に、鈴木がポツリとこぼした。
タオルの動きが止まる。
山田が隣を見ると、
彼女はうつむいて、
膝の上に落ちた水滴を見つめていた。
「佐藤くん、
来年の春の結婚式、
本当に楽しみにしてたのに。
高橋さんだって、
あんなに私たちのことかばってくれて……。
なんで、こんなことに⋯」
「……俺のせいだ」
山田は両手で顔を覆った。
「俺が下手に運命を変えようとしたからだ。
俺のせいで、二人は死んだ」
「違います!」
鈴木は強い口調で遮り、
山田の腕をギュッと掴んだ。
「山田さんのせいじゃありません。
山田さんは
二人を助けようとしただけじゃないですか。
……今も私を、
こうして守ってくれているみたいに」
鈴木の瞳には
涙が浮かんでいた。
「俺は……絶対に、
君だけは守るから」
山田の言葉に、
鈴木は泣き笑いのような表情で、
小さく頷いた。



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