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排外主義にどう対処すべきか~排外主義「高揚」の要因と、マスメディアの果たすべき役割~

【一部の人々の排外的な意識が高まったのは、外国人の増加自体が原因ではない。外国人の存在を「問題」とみなし「政治」の対象とすることが排外主義をあおり、さらにメディア(特にSNS)がそれを広めている。この状況下で社会を守るために、マスメディアのなすべきことは何か】

田辺 俊介(政治社会学者・早稲田大学文学学術院教授)

外国人の急増自体が排外主義を高めたわけではない

 近年、排外主義にかかわる数多くの報道がなされており、世界中で排外主義が高まっていると感じられる。確かにネット、特にSNS上では外国人や移民を脅威とみなす言説があふれかえり、排外主義的な政党・政治家は、世界各地で人気を集めているようにみえる。

 日本社会でも、特に2025年の参議院選挙の前後から、外国人を「問題」とみなす言葉があふれだし、排外主義を掲げる政党・政治家が躍進した。2025年の参院選において「日本人ファースト」のスローガンの下、「外国人優遇」に関わる数々のデマをも主張しつつ躍進した参政党は、その象徴的な事例であろう。

 外国人や移民が増えることで排外主義的な意見を持つ人びとが増加し、結果的に排外主義的な政党・政治家が人気を集めた。そのように考える人は多いだろう。

 しかし世論調査のデータをみていくと、排外主義的意識を持つ人びとが増え続けるという傾向は、ほとんどの国々で確認されていない(詳細を知りたい方は、中井遼著『欧州の排外主義とナショナリズム』などを参照のこと)。

 人々の間で排外主義が高まった結果、排外主義的な主張を掲げる右派政党が伸張するという直感的な理解は、どうもあまり正しくないようである。

 日本社会でも、ここ20年ほどの外国籍住民の急増にもかかわらず、外国人を脅威に感じる人びとの数は、実は減少傾向にあった。著者が代表として4年ごとに実施している「国際化と市民の政治参加に関する世論調査」という調査では、外国人が増えることで「日本社会の治安・秩序が乱れる」と思うかをたずね続けている。

 第1回の2009年の調査では、その問に「そう思う」・「ややそう思う」と答えた人は合計69%だった。それから外国人居住者数が約1.3倍にも増えていた2021年の調査では、外国人が治安・秩序を乱すと思う人は56%と13ポイントも減っていたのである。それが2025年参院選後の11月に実施した調査では、同設問に「そう思う」・「ややそう思う」と答えた人の合計は73%と4年前と比べて17ポイントも急増していた。

 このように継続的な調査からみると、外国人の増加自体が人びとの排外主義を刺激したと考えるよりも、選挙などで外国人を「問題」と見なす言葉が広がった結果、排外主義的な意見を持つ人が増えたと考える方がデータの動きに適合的である。

排外主義をあおるのは「政治」である

 ではなぜ、少なくない人びとの排外的な意識が、選挙を通じて高められてしまったのか。まずは、そもそも「政治」の対象となることが排外主義などをあおる面を説明しておこう。

 排外主義的な意識は、特定の出来事、特に政治的対立などによって刺激され、高まる傾向がある。例えば2010年代の日本社会では、国家間の(領土的)対立が反中・反韓意識を増加させていた。

 先述の世論調査でも、生活地域への韓国人増加への賛否について2009年では反対(「反対」と「やや反対」の合計)との回答は58%だったのが、竹島に関する領土問題が各種メディアなどで盛んに報道された後の2013年調査では69%と、排外的な意識を持つ人が10ポイント以上増加していた。

 2025年調査結果に表れた排外主義的な意識の高まりも、政治的な出来事(今回は選挙)が強く影響したと考えられる。参院選直前に政党要件を満たして「公党」となった参政党が、「外国人問題」を争点化。それに応じた与党の自民党が「違法外国人ゼロ」といった排外的スローガンを掲げた。

 そのように選挙という公的な政治的文脈で発せられた排外主義的主張に、少なくない人びとが同調したのだろう。

 さらに民主主義社会における政治、特に選挙という場面では対立と闘争という側面が強調されやすい。これまでの日本社会でも、様々な対象が選挙の際、攻撃の対象となってきた。

 2005年の郵政解散の時の「抵抗勢力」、2012年衆院選における生活保護受給者、あるいは近年は高齢者などである。ただ2025年の参院選で対象とされた外国人は、選挙権を持たないことから、一部の政治家にとっては直接の票を減らしにくい格好の攻撃対象となりえてしまう。世界的な極右政党の伸張の背景にも、同様のメカニズムが存在していると言えるだろう。

政府の説明不足が招いた外国人に関する「情報の空白」

 ただ、なぜ外国人を「問題」と見なす言葉が、2025年の参院選ではこれまでになく広がってしまったのか。その背景として、外国人・移民に関する政策について政府が長らく丁寧な説明を回避し続けた結果として生まれた「情報の空白」の存在が指摘できよう。

 1990年代から、特に2010年以降の様々な外国人労働者受入れ政策により、日本は実質的に移民国家化の道を歩み続けている。しかし長らく政権を担う自民党は、(「単一民族国家」イメージを抱く支持者向けか)「移民政策はとらない」と主張し続け、実態として移民国家化する現状に関する正確な情報を発信しないまま、なし崩し的に外国人受入れ数を増やし続けてきた。

 ここ10年から20年ほどの間に、労働力不足を背景とした外国人労働者の受入れなどによって、日本に住む外国人は増え続けている。また近年のインバウンド旅行客の急増を受け、多くの人びとが街中で外国人を見かける機会は格段に増えている。

 しかしながら、個々人が自らの実体験として外国人と関わり、その実像を知る機会は少ないままである。例えば前掲の2021年調査で外国人との様々な接触経験を聞いた質問の集計としても、約7割の人びとは外国人との挨拶程度の付き合いの経験すらなかった。

 外国人との個人的交流が偏見や排外意識を低減させる効果は、「接触仮説」として検証され続けている。つまり日本社会では、政府から正しい情報が出されない状況の中、多くの日本人は偏見の解消につながるような外国人との個人的接触経験を持たない。そのため、外国人や移民に関する情報については、各種メディアに頼らざるをえない。

メディア(特にSNS)が認知バイアスを利用して排外主義を広めている

 旧石器時代から続く進化の過程において、人類は生き延びるために恐怖や不安、怒りや抗争などネガティブな情報に対して、敏感に反応する脳の仕組みを身につけた。そのような認知の仕方(現在では「バイアス」と呼ばざるを得ない傾向)を、現代人も「認知の不変要素」として引き継いでいる。

 具体的には、当たり前でポジティブな真実などよりも、恐怖や不安などネガティブな感情をかき立て、怒りと抗争に関わる情報の方が、たとえデマや嘘であろうとも人びとの関心を強く引き、結果的に広がりやすいのである(ジェラルド・ブロネール著『認知アポカリプス』みすず書房)。残念ながら実際、フェイク情報の方が事実の6倍のスピードで拡散するという(シナン・アラル著『デマの影響力』ダイアモンド社)。

 外国人や移民に関しても、正確でポジティブな情報より、歪んだ排外主義的な話題の方が、人びとの認知バイアスを刺激できる分だけ広まり、記憶に残りやすい。日本に住む外国人の圧倒的多数は罪を犯しておらず、人口あたりの犯罪率も日本人と大差はない(その差も年齢で補正するとほぼ消滅する)。

 また(たとえ納付率は低くとも)若年層が多いことから給付率が低いため、外国人労働者の払う社会保険料は受け取る額より多く、結果的に少子高齢社会である現代日本の社会保障費を支え手となっている。

 そんな当たり前でポジティブな事実よりも、「外国人による治安悪化」や「大量の外国人による生活保護の不正受給」など、人びとのネガティブな情動をかき立てるデマ情報の方が、人びとはついついみたくなり、さらに広めたくなってしまう。

 特にクリック数・閲覧数などが経済的利益と直結するネットメディアでは、そのようなバイアスを利用する傾向は顕著で、外国人に関するデマの多くはネットメディア、特にSNSや動画共有サイトを通じて拡散している。

 2025年の参院選の前後、多くのマスメディアはファクトチェックなどを行い、そのような外国人に関するデマ情報の抑制につとめた。しかし昨今、マスメディアに対する不信感も影響し、少なくない人びとが新聞やテレビといった旧来からのメディアより、ネット(特にSNSや動画サイト)から多くの情報を得るようになっている。

 皮肉なことであるが、マスメディアに不信感を抱く人が主張する「偏向(報道)」という問題は、SNSや動画共有サイトで流れる情報にこそ当てはまりやすい。マスメディアは、少なくとも規範としては「真実性」を表明し、デマや誤情報を流せば一定の批判と制裁を受ける。

 しかしSNSや動画共有サイトでは、経済的利益のための「バズり(閲覧数)」が優先されるため、(たとえ制作者・発信者自身はデマと分かっていようとも)前述の認知バイアスを利用した排外主義的なコンテンツが数多く生産され、流通する。

 さらにネット上のコンテンツ接触については、アルゴリズムに基づいた情報の選択的接触(フィルターバブル)が生じやすく、結果的に排外主義的な情報ばかり受け取る人々をも生み出している。

 ここで2025年調査の結果を一つ紹介しよう。前掲の「日本社会の治安・秩序が乱れる」との設問に対し、SNSを「よく使う」人たちは(「そう思う」と「ややそう思う」の合計で)84%が賛同していた(「そう思う」人は46%と全体の半数近い)。

 一方、「ほとんど使わない」という人の賛同率は67%(「そう思う」という人は20%)と、17ポイントもの大きな差が出ている。また、新聞を「よく使う」人では賛同率は61%(「そう思う」人は16%とさらに低い)、あるいはテレビ(報道・ニュース番組)を「よく使う」人も70%(「そう思う」割合は23%)と、SNSを「よく使う」人と比べて15~24ポイントもの差がある。

 つまり、よく接触するメディアによって「外国人による治安悪化」という言説に対する賛同率が大きく異なっているのだ(なお、世代別にみても接触メディアによる差異は同様の傾向であり、世代差による疑似相関の可能性は低い)。

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マスメディアに何ができるか?~政治があおる排外主義との対峙~

 前述のように、厳密で綿密な取材に基づいて把握した正しい事実よりも、恐怖や怒りなどの感情に訴えるバイアスを利用できるデマやフェイクは、どうしても人びとの興味をひき、広まりやすい。データからも、そのようなデマを流しやすいSNSや動画共有サービスをよく使う人ほど、排外的意見を抱きやすくなっている。

 ただ歴史的にみて、排外主義的な政策を推し進めて長期的に成功した国家は存在しない(すでにトランプ大統領の二期目の支離滅裂な政策が、着実にアメリカの国力を低下させているのは、現代的一例であろう)。

 だからこそマスメディアは、その存立の前提である社会を守るためにも、政治があおる排外主義に対する防波堤として短期的な経済的利益に惑わされない対応を続ける必要があろう。

 マスメディアも各種の認知バイアス、例えば「怒り」などの感情を刺激して視聴率や部数を稼ぐ、ということを実はしがちである。ただ、そのいきついた最悪の事例が、特に満州事変以降の日本において無謀な戦争をあおったマスメディア(当時は主に新聞)である。その歴史を教訓とするならば、今、マスメディアは新興のSNSや動画共有サービスとは異なる役割を果たす責任があるだろう。

 比較すれば日本社会では、マスメディアを利用する人々はまだまだ多く、一定の影響力を持ち続けている。実際、2025年の参院選前後にマスメディアが行ったファクトチェックなどは、排外主義の抑制にある程度寄与したとも考えられる。

 とはいえ過去の情報独占の時代とは異なる現代、「正しい情報だから伝わるはずだ」という考え方は通用しない。各種の認知バイアスという避けがたい人間本性を理解し、一定の「わかりやすさ」などを考慮した情報発信は必須である。そのためにも、マスメディア側もSNSや動画共有サービスなどを活用した情報発信を進めていく必要があるだろう。

 その上で「デマやフェイクは現実問題の解決を遠ざける、もしくは悪化させる」という当然の摂理を前提に、適切な問題把握のための取材を続け、事実を愚直であっても伝え続ける。フェイク情報が蔓延しやすい状況だからこそ、裏取りのなされた事実の価値は高まっている。その発信源としてのマスメディアの役割は、「メディア不信」の蔓延という時代を経たからこそ、その役割が期待され、かつ必要とされていると思われる。

<執筆者略歴>
田辺 俊介(たなべ・しゅんすけ)
政治社会学者・早稲田大学文学学術院教授。
東京都立大学人文学部卒業。東京大学社会科学研究所准教授などを経て、2017年から現職。
著書に「ナショナル・アイデンティティの国際比較」(慶應義塾大学出版会 2010)、編著に「外国人へのまなざしと政治意識」(勁草書房 2011)「日本人は右傾化したのか」(勁草書房 2019)など。

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