日本人の旅行先としても人気がある、オーストラリア東海岸・クイーンズランド州のゴールドコースト。美しい海岸「サーファーズパラダイス」があることで知られるこの街と州都ブリスベンとの間を結ぼうという鉄道の新線計画で、何と「日本の中古新幹線を導入しよう」という案が浮上している。
リゾートと都市を結ぶ新線計画
今年9月、オーストラリア政府は、この路線を含む5路線の実現可能性を調査するための「鉄道新設を調査する特別会社」の設立と、それにかかる費用として4000万オーストラリアドル(約30億円)を来年度予算に計上した。
これを機に、地元では「ついにわが街に新たな鉄道がやってくるかも」と論議が盛り上がっているという。そんな中、沿線自治体から浮上したのが「日本で使われていた新幹線の車両を譲り受けよう」という意見だ。
オーストラリアで、新幹線中古車両を導入してまで鉄道計画に取り組もうという動きはなぜ出てきたのだろうか。
ゴールドコーストとブリスベンを結ぶ鉄道新線の計画は、以前から何度も浮かんでは消えを繰り返してきた。両都市は100kmほど離れており、近郊というにはやや遠い。それでも、リゾート開発が進んでいるゴールドコーストに住んで、ブリスベンの都心に通う需要はそれなりに存在するという。
両都市間を結ぶ鉄道は現在もあるものの、ゴールドコースト中心部までは乗り入れておらず、トラムやバスで鉄道駅まで行き、そこでブリスベン行きの電車に乗り換えを強いられている。電車そのものの所要時間は約74分だが、乗り換えの手間などを考えるとトータルの所要時間は2時間近くかかる。
鉄道でのアクセスが悪いため、人々の移動は車が中心だが、道路の渋滞も激しい。
ブリスベン在住25年のITコンサルタント、藤巻ギャレット由紀さんは、同市周辺を取り巻く交通事情について「高速道路M1線は片側4車線もあるのに、ほぼ24時間どこかが渋滞しているという状況で、週末には30kmを超える渋滞が生じることも珍しくない」という。そして「州政府は、この窮状をどうにか解決すべきだ、という圧力をあちこちから受けているはずだ」と語る。
仮に、最高時速160kmと目される鉄道新線が開通した折には、ブリスベンとゴールドコースト間は32分程度で結ばれると試算されている。通勤には条件の悪い現状でも、環境のよさからゴールドコーストに居住してブリスベンへ通う人も少なくない。鉄道新線が開通すれば、ゴールドコーストへのさらなる住民の流入が見込めるだろう。
経費削減へ「新幹線中古」を
そんな中で登場したのが「新幹線の中古車両を導入しよう」という意見だ。主張しているのはゴールドコースト市のトム・テイト市長。「経費削減の一貫として、車両は日本から中古を買い取ろう」との声を上げている。
現地報道によると、両都市を結ぶ鉄道新線はもし実現するとしても、早くて2020年代後半以降になるという。「新幹線の中古導入」は、コストを抑えて早期に新線を整備しようという主張だ。
ただ、この案についてはさすがに市民の間で賛否両論がある。
「これまで政府は一度として、外国の中古車両を買ってまで列車を走らせようとは言わなかった。鉄道実現に向けてずいぶん前進している」と賛辞を述べる市民がいる一方で、「中古車両ではいずれ改装費用がかかるし、中古を買って開通するころには技術革新があるかもしれない。プランとして無駄な気がする」との反対意見もある。
オーストラリアではかねて高速鉄道建設の夢が語られてきた。早くは1980年代にシドニー―キャンベラ―メルボルン間の構想が浮上したが立ち消えとなり、その後も何度も計画が生まれては頓挫している。現状では、国内の長距離移動は航空に依存している。
現地では「東京―大阪間やパリ―リヨン間、上海―南京間などのように、350~500km程度の2都市間でそれなりの需要があれば高速鉄道建設への弾みがつくのではないか」との見方も以前からある。例えばシドニー―キャンベラ間は約280kmで、高速鉄道に適した距離といえる。その一方で、「オーストラリアの人口規模からすると、都市間移動といってもそこまでの期待は見込めないだろう」といった後ろ向きの意見も根強い。
ただ、今回調査が行われる予定の5路線は大都市間を結ぶものではなく、ブリスベン、シドニー、メルボルンといった大都市とその周辺都市を結ぶ路線だ。ブリスベン―ゴールドコースト間の新線計画では、念願のゴールドコーストの市内への乗り入れだけでなく、さらに同市郊外にあるクーランガッタ空港までつなぐという案も出ているようだ。
鉄道新線は実現するか?
前出の藤巻さんは「日本―ブリスベン間の直行便の増便も決まっていますし、アジアからの観光客の増加や格安航空会社(LCC)便の増便などもあり、ブリスベンとゴールドコースト間の人の行き来は今後も増えるのでは」という。一方で、「オーストラリアはこういう計画は出ても実現にはなかなか至らないのです。今回の計画の行方は、はたしてどうなるでしょうか」とも語る。
ちなみに、ゴールドコーストやブリスベン周辺の鉄道は日本と関わりが深い。ゴールドコーストの街中を走るトラム(路面電車)は、丸紅が現地法人とともに建設・運行・保守に関わるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業権を取得。ブリスベンから北に伸びるクイーンズランド鉄道の北海岸線には、日立製作所が台車部品や傾斜制御装置を供給した、JR四国の8000系電車を設計のベースとした振り子式電車が走っている。
新幹線の中古車両導入という驚きの案も登場し、熱を帯びているかに見えるゴールドコースト―ブリスベン間の鉄道新線計画。浮かんでは消えを繰り返してきた計画は、はたしてどうなるか。