MotoMINI (モトミニ)は、将来の世界トップライダーを育成するために作られた、ジュニア向けの本格ロードレースシリーズだ。MotoGPを運営するドルナスポーツが枠組みを作り、「MotoGPへの登竜門の最初の一歩」としてFIM MotoMINI World Seriesの一環として行われる。10歳~14歳の若手ライダーを対象に、マシン・競技・ルールなどのレギュレーションを統一し、世界中のライダーに平等なプラットフォームを提供しようと始まった。
年間5戦(10レース開催)で戦う。年間ランキング優勝者には、MotoGP最終戦バルセロナで開催が予定されている『World Final』に参加する権利が与えられる。
- ■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝、遠藤 智
- ■協力:MotoMINI
このシリーズは世界中で行われており、開催国は増加傾向にある。多くはナショナル連盟や民間プロモーターが運営している。日本では、これまで世界に出るライダーを支えてきた中込正典氏がアプローチを変え、「日本人のMotoGPチャンピオンを育てたい」と、このプロジェクトに2022年に着手した。自身の会社(株式会社P-UP WORLD)のスタッフがボランティアで参加し、支えている。
運営スタッフは、レース経験豊富な優秀な人材を集めている。スタッフ一覧(下記別掲)を見れば、そのバックアップのレベルの高さが分かる。最高責任者は中込正典氏。全日本トップライダーを支えた運営委員に小出智一、競技委員に高倉純一、F1やMotoGPでホンダの監督を務めた中本修平氏が審査委員長、審査委員に吉道達也。そしてドクターの入村早苗がスタンバイしている。メカニックは全日本で活躍する面々だ。
さらに、アライヘルメット、RSタイチ、エアバッグ(ヒットエア=無限電光)、ピレリタイヤと、トップクラスのサプライヤーがバックアップしている。
競技車両はFIM MotoMINI国際規則により規定されたOHVALE(オバーレ)GP-0 160の指定車両とし、主催者が全車両を用意・点検・整備したレンタル車両で争われる。レースごとにマシンはシャッフルされ、公平性を何より重視している。
現役のトップライダーがアドバイザーとしてシリーズを共に戦う。競技指導者に名を連ねる長島哲太は「世界で通用するライダー」を目標にライダーたちを鼓舞している。自分が果たすことができなかったMotoGPチャンピオンへの道を歩むためには何をすべきか、と問いかけながら寄り添っている。
現状、世界への道はIdemitsu Moto4 Asia Cup Honda(旧アジアタレントカップ)からが定石となりつつある。ここでの上位者が世界への切符を得ている。現在活躍している小椋 藍(MotoGP)、Moto2の佐々木歩夢や古里太陽、Moto3の山中流聖、三谷 然らもそのステップを踏んでいる。
MotoMINI(旧MiniGP)2022年チャンピオンの池上聖竜、2位の松山遥希、23年の1位・富樫虎太郎、24年1位・知識隼和、2位・国立和玖らが名を連ねる。ファイナルでは、池上が3位、富樫が2位、国立が優勝を飾った。
そして彼らは、アジア圏から集まるライダーが参加するIdemitsu Moto4 Asia Cup Hondaセレクションに合格している。年々、アジア各国のレース熱の高まりで応募者数は200名近くに達し、マレーシアで行われるセレクションに参加して、合格者は20名という狭き門である。年々合格が厳しくなる中で、MotoMINI卒業生は力を示し、合格を勝ち取っている。
昨年のIdemitsu Moto4 Asia Cup Hondaランキング2位の池上は、MotoUP(株式会社P-UP World)のサポートもあり、ジュニアGPへステップアップした。松山は継続参戦、富樫、知識、国立は今季から参戦を開始し、タイで開催された開幕戦で知識がダブルウイン、レース1で国立が2位に入った。レース2では富樫が3位に入っている。
MotoMINIでの切磋琢磨が、彼らを大きく成長させた。ここへの参戦が、無限の可能性を広げているのは間違いない。
2023年にTN45 with MotoUP Racingから全日本ロードレース選手権J-GP3に参戦した池上は、チャンピオンの尾野弘樹に次いで2位に入り、表彰台に登った。尾野はMotoMINIのアドバイザーであり、現地ではマシンへの伏せ方などを実演し、きめ細やかな指導で知られている。尾野も池上の急成長に驚く結果となった。
2022年MotoMINIランキング5位となった中谷健心は、2023年にTN45 with MotoUP RacingからJ-GP3に参戦し、ランキング11位となった。同年、池上や松山もスポット参戦している。
2024年には池上は総合5位となり、松山は筑波ロードレース選手権で総合2位となった。中谷は全日本に継続参戦し、ランキングを10位まで上げ、若手が競うチャレンジクラスでは2位となった。
2025年に中込氏は、全日本ロードレース選手権参戦のために「MotoUP Racing」を結成する。中谷の成長を助けるためでもあり、知識、国立のIdemitsu Moto4 Asia Cup Honda参戦への準備期間として、その空白を埋めるための措置でもあった。この新チームに中谷、知識、国立が加入した。富樫は別チームからの参戦となるが出場を決めた。
知識、国立、富樫は特別参戦枠からの挑戦で、この参戦枠でのトップライダーはIdemitsu Moto4 Asia Cup Honda参戦の推薦権を得る。
中谷は急成長を見せトップ争いの常連となり、ついに岡山国際サーキットで尾野に次いで2位に入ると、最終戦鈴鹿ではセカンドグループを引き離し独走優勝を飾った。記者会見では、2位の尾野がその走りを称賛し、3位に入った岡崎静夏から「速すぎるので、早く世界グランプリに行って」と声をかけられた。中谷は最終ランキング2位を獲得する。
知識は表彰台争いを見せ、最高位は4位。富樫は5位と存在感を示した。国立は苦戦するもポイント圏内に食い込んだ。百戦錬磨の全日本ライダーと互角に渡り合う速さを示した。
Idemitsu Moto4 Asia Cup Hondaでは池上がタイトル争いを繰り広げ、優勝しか眼中にない熱い走りで高い評価を得た。最終戦となった第6戦マレーシア・セパンではレース1で勝利し、レース2はリタイヤとなるも速さを示し続け、僅差のランキング2位となった。松山もトップ争いの常連となり、表彰台に上る健闘を見せた。その成長と可能性を買われて、2026年も継続参戦を許されている。
知識は推薦を受けてIdemitsu Moto4 Asia Cup Honda参戦の権利を得て、富樫と国立はセレクションに合格した。松山を加え、MiniGP卒業生が今年も戦っている。
中谷は全日本ST600クラスへのステップアップを決め、名門チームであるAstemo Pro Honda SI Racingから参戦。ST600デビューとなったSUGO戦は両レースともリタイヤに終わったが、期待のルーキーとして注目を集めている。また池上は、TN45 MIRAI Racing with Astemoから参戦する藤田哲弥の負傷により代役参戦し、表彰台争いを演じて6位&4位となった。
先輩たちの活躍は、世界基準で見ても高いレベルにある。彼らはMotoMINI参戦ライダーの憧れであり、目指すべき姿として、その意識を高めている。
中込氏は、MotoMINIで可能性を感じたライダーたちへ、卒業後もサポートの手を伸ばしている。
MotoMINIは、ひとつのレースシリーズにとどまらない。そこには、中込正典氏の「日本から世界へ」という意志が通底している。自ら動き、支え、道をつくる──。その積み重ねが、若い才能を次のステージへと押し上げてきた。それは、確実に、未来へとつながっている。
2026年MotoMINI開幕
今季からMiniGPはMotoMINIへと名称が変わり、テントからパネル、スタッフのウェアなど、すべてを作り替えなければならず、中込氏やスタッフはそれも含めて開幕準備に追われていた。
昨年からの継続参戦組が4名、それに7名の新規参戦組が加わり、11名が顔を揃えた。新規参戦組の中に生形秀虎がいた。父は全日本トップライダーの生形秀之で、昨年をもって現役を引退した。
秀虎が11歳の時、生形は誕生日に電動バイクをサプライズでプレゼントした。喜んでくれると思ったが笑顔はなかった。理由を尋ねると「エンジンのバイクがほしい」と。レースをしたいと言うが、簡単な道ではないことは身をもって知っている。やるなら真剣に目指す覚悟が必要だと諭すと、「世界チャンピオンになりたい」と告白された。そこから白糸サーキットに出かけるようになる。だが、生形は現役ライダーであり、子どものために割ける時間は多くはなかった。
生形は「引退を機に向き合えるようになり、このシリーズ参戦を決めた。ライダー育成のための素晴らしい条件が揃っている。まだレースキャリアも他の子たちに比べて少なく、乗り始めた頃は絶望的に遅かった。敷居が高いかと思ったが、挑戦する価値がある。このチャンスを逃したくなかった」と、子どもへの最善の選択として参戦を決めた。
その理由は、世界につながるシリーズであり、チャンピオンになれば世界戦への参戦機会があることで目標を高く持てる点。
成長のためのバックアップ体制が素晴らしく、現役の優秀なアドバイザーがいて相談に乗ってもらえる。主催者が映像を残すなどの積極的な姿勢や、メディアも訪れ注目度が高いこと。そこで鍛えられるのはライダースキルだけではない。インタビューの受け答えを含め、ライダーとしての意識を引き上げてくれることも大きいのだと語った。
「この年代は親の言うことは聞かないんですよ。同じことを言っていたとしても、アドバイザーや他の大人の言うことはちゃんと聞く。聞いて、それを同世代の子たちと競う。走行のたびに成長が見える。どこにいても、何があっても、チャンスを掴む気持ちが大事だし、そこに真剣に取り組むことで成長できる」
開幕戦となった筑波サーキットは天気に恵まれたが、強風が吹いていた。長島は「世界に出れば強風のレースもある。何でも経験だ」と子どもたちを励ました。
ブリーフィングでは、レースのルール説明を高倉氏が時間をかけてライダーたちに伝える。フラッグの意味を筑波サーキットのオフィシャルから丁寧に説明を受け、転倒時の動き方を含め、安全を念頭に置いたレクチャーが行われた。
フリー走行での転倒があり、本戦への出場が心配された昨年のチャンピオン#2吉村錬太郎がダブルウインを飾った。2位に#6田中 陸、3位に#3福本裕士が入った。レース2も同じ顔触れとなり、表彰台に上った。
転倒の痛みがありながら、最後まで攻め続けた吉村は、追われる者の重圧を跳ね除け、勝たなければならないという自らに課した責任を果たした。
吉村は「昨年ファイナルに参戦して初めての海外レースを経験し、自分はまだまだだと悔しく、もっと頑張らなければと思いました。勝ち続けるのは当然ですが、タイムにもこだわっていきたい。速くなって、もう一度ファイナルに出てリベンジしたい」と決意を述べた。
その吉村と接近戦を見せた田中は「仕掛けたけど交わされ、吉村選手の方が上でした。でも次は負けないようにスキルを磨きたい」と語った。昨年から急成長を見せトップ争いへと浮上した福本も同様に「勝てるように頑張るしかない」と誓った。
秀虎は5位&6位でレースを終えた。走行開始時のタイムから2~3秒のタイムアップを果たし、バトルを見せた。その走りには確かな変化があった。その一つひとつが、成長の過程そのものだった。秀虎は「レース2では抜かれたけど、抜き返すことができた。すごく楽しかった」と笑顔を見せた。
また、これが初レースだった前田 隼は、レース1ではクラッシュしてしまったが、レース2は走り切りチェッカーを受けた。その健闘を称え、クールダウンからピットへと戻る前田をスタッフやオフィシャル、関係者が拍手で迎えた。前田が一歩を踏み出した価値を、誰もが理解していた。
この光景は、このシリーズが単なる勝敗の場ではなく、挑戦することを歓迎する舞台でもあることを示していた。
長島は「今回のレースで何ができて、何ができなかったのかを、次のレースまでにしっかり考えて進化した姿を見せてくれたら嬉しい。驚くほどに順位は変動します。親御さんたちは焦らずに子どもたちの頑張りのサポートをお願いします」と挨拶した。次に向け、どれだけ本気で向き合えるかが、未来を分けていくことを伝えていた。
中込氏は「このシリーズを開催して5年目になりますが、最初はレース運営をやったことがなかったので不安もありましたが、やってみて子どもたちが成長してくれるのが喜びです。でも勝てるライダーはひとりです。それでも10歳から14歳の子どもたちが過酷なスピード競技に挑み、恐怖を乗り越え、もっと速くなりたいとコンマのタイムを縮めるために努力する体験というのは、たとえライダーとして大成しなくても、一般の社会人として生きることになっても、将来に必ず生きると思います。もちろん願いは、ここの卒業生からMotoGPチャンピオンになってくれることですが……」と語る。
このシリーズは、理想だけで成り立っているわけではない。中込氏自身が私財を投じ、その覚悟によって支えられている現実がある。だからこそ、その言葉の重みが胸に響く。
前田のように挑戦を開始した者も、秀虎のように夢を追う者も、吉村のように頂点からさらに先を見据える者も、すべてはこの場所から始まっている。
MotoMINIは、世界へと続く“最初の一歩”だ。その道は、決して平坦ではない。厳しく、簡単に開くものでもない。それでも──扉は、叩かなければ開かない。その一歩が、未来を変える。
(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝、遠藤 智)
- ●問い合わせ
- MotoMINI https://www.minigp.jp/
- ※スポット参戦も受け付け中だ。体験走行も可能。
- スポットエントリー https://www.minigp.jp/2026motomini-spotentryform
- ●スタッフ一覧
- 大会主催最高責任者 中込正典
- 大会運営委員 小出智一
- 大会競技役員 高倉純一
- 大会競技長 鎌田 悟
- 大会競技指導責任者 長島哲太
- 大会競技審査委員長 中本修平
- 大会競技審査委員 吉道竜也
- ライディングアドバイザー 尾野弘樹、羽田太河、藤井謙汰
- メカニックリーダー 川村哲史
- メカニック 馬場 大、細川正義、池田光秀
- ドクター 入村早苗
[『中込正典氏インタビュー キッズライダーを応援する理由へ]
