カサノリ
| カサノリ | ||||||||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. カサノリの標本(国立科学博物館の展示) | ||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Acetabularia ryukyuensis Okamura & = Yamada, 1932[1] | ||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||
| 和名 | ||||||||||||||||||||||||
| カサノリ(傘海苔[2]、傘苔[3])、オトヒメガサ[4]、オトヒメカラカサ(乙媛傘)[5] |
カサノリ(傘海苔、傘苔、学名: Acetabularia ryukyuensis)は、カサノリ目カサノリ科カサノリ属に分類される緑藻の一種である。石灰化した細い柄の先に緑色で浅い皿状の丸い「カサ」をつける美しい海藻である[6](図1)。この姿を傘に見立てて「カサノリ」の名がある[7]。本属中では最大種であり、高さ4–10センチメートル、カサの直径はふつう1–1.4センチメートルに達する。カサを構成する枝(胞子枝)の中に球形の配偶子嚢シストが多数形成され、この配偶子嚢シストの中で作られた2本鞭毛性の配偶子が海中で接合し、接合子が新たな藻体へと成長する。南西諸島から東南アジアの浅い海水域に生育する[注 1]。
特徴
[編集]藻体は大型であるが、内部に隔壁がない単細胞であり、しばしば叢生している[8][9](根元が集まって密に生じている; 図2)。主軸(柄、茎)は細く、長さ 4-10 cm、石灰化して白色になる[8][10](図1)。発生初期には、主軸に分枝した栄養枝(側枝)を輪生している(輪生枝)が、順次脱落していく[11][12]。
生殖期には、頂端に胞子枝(子嚢)を輪生する。胞子枝の頂端はふつう切形かやや膨潤、鮮緑色だが石灰化し、多数が輪生して円形で浅くくぼんだ皿状の構造(カサ)を形成する[8](図1)。カサの直径はふつう 10–14 mm ほどで本属中最大種とされる[8][6]。ただし、胞子枝の数やカサの直径には変異が大きく、沖縄島での調査では、冬季には胞子枝平均61.3個(47–78個)、カサの直径平均 14.2 mm(10–21 mm)、夏季には胞子枝平均47.7個(32–60個)、傘の直径平均 8.2 mm(4.5–11 mm)と報告されている[13]。
胞子枝の上面にある上冠の各節は狭い間隔で互いに離れ、上から見て長楕円形、一列に並んだ5–6個の毛状枝またはその痕がある[8]。下冠は上冠よりもやや小さい[8]。各胞子枝は200–400個の配偶子嚢シストを形成し、配偶子嚢シストはほぼ球形、直径 110-140 µm[8][9]。配偶子嚢シストから放出された配偶子は合体し、接合子は大型の藻体へと成長する[9]。配偶子嚢シストは、何年間も休眠できる[14]。
分布・生態
[編集]奄美大島、沖縄諸島(伊是名島、伊江島、沖縄島、久米島)、八重山諸島(西表島)に分布するが、八重山諸島では局所的[4][9]。タイプ産地は「琉球」[8]。日本固有種とされることもあるが[9]、南シナ海、フィリピン、インドネシアに分布するともされる[1][4]。
南西諸島では湾内の静穏な海岸や礁池に生育し、砂混じりの礫上や死サンゴ片、岩塊表面に群生する[9](図2)。プラスチックなど人工基物上に生じることもある[9]。ふつう水深0–1メートル程度の浅水域に見られるが[15](図2)、低潮線下3メートルに生育していることもある[4][9]。また、沖縄島では同属別種のホソエガサと混生していることもある[10]。
沖縄島では、夏季に藻体が消失する地域と、3–4世代を繰り返して一年中藻体が見られる地域がある[10][15]。台風によって個体群の消失が起こることが報告されている[15]。また、アイゴ幼魚の摂食による減少率が高いことから、その分布・消長にアイゴの摂食活動も関わっていることが示唆されている[16]。
奄美大島や沖縄島では、カサノリ群落中に嚢舌類ウミウシであるカサノリタマナウミウシ(Mourgona osumi)が生育していることが報告されている[17]。嚢舌類ウミウシは特定の海藻の細胞液を吸引し、その葉緑体を一時的な自身の葉緑体(盗葉緑体)とすることが知られている[18]。
保全状況評価
[編集]絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)
日本では、沿岸の埋立てにより生育地が減少・消滅しており[4]、第3次から第4次レッドリストでは準絶滅危惧(NT)とされていたが、第5次レッドリストでは絶滅危惧II類(VU)とされた[9]。鹿児島県、沖縄県では、ともに準絶滅危惧に指定されている[4][9]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ 日本固有種とされることもある(本文参照)。
出典
[編集]- 以下の位置に戻る: 1 2 3 4 5 Guiry, M.D. (2022年3月25日). “Acetabularia J.V.Lamouroux, 1812, nom. cons.”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. 2025年12月15日閲覧。
- ↑ 松村明; 三省堂編修所 編「かさのり(傘海苔)」『大辞林 4.0』三省堂、2019年。
- ↑ 小学館国語辞典編集部 編「かさのり(傘苔)」『日本国語大辞典』(精選)小学館、2006年。
- 以下の位置に戻る: 1 2 3 4 5 6 香村眞徳 (2018). “カサノリ”. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 菌類編・植物編. 沖縄県. pp. 624–625
- ↑ 牧野富太郎. “植物一日一題”. 青空文庫. 2025年12月18日閲覧。
- 以下の位置に戻る: 1 2 神谷充伸 (2012). “カサノリ”. 海藻 ― 日本で見られる388種の生態写真+おしば標本. 誠文堂新光社. p. 54. ISBN 978-4416812006
- ↑ 「カサノリ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』。コトバンクより2025年12月13日閲覧。
- 以下の位置に戻る: 1 2 3 4 5 6 7 8 吉田忠生 (1998). “カサノリ属”. 新日本海藻誌 日本海藻類総覧. 内田老鶴圃. pp. 154–157. ISBN 978-4753640492
- 以下の位置に戻る: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 環境省, ed (2025). “カサノリ”. 第5次レッドデータブック:絶滅のおそれのある日本の野生生物 藻類. pp. 326–329
- 以下の位置に戻る: 1 2 3 堤敏郎・香村眞徳. カサノリ (Acetabularia ryukyuensis) の沖縄本島における生育分布と生態について (PDF) (Report). 那覇港管理組合. 2025年12月15日閲覧.
- ↑ Guiry, M.D. (2015年10月15日). “Acetabularia J.V.Lamouroux, 1812, nom. cons.”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. 2025年12月18日閲覧。
- ↑ 内閣府沖縄総合事務局 (2021年7月5日). 海域生物の順応的管理(海草藻場、カサノリ類) (PDF) (Report). 2025年12月18日閲覧.
- ↑ 堤敏郎・香村眞徳・高良鋭. カサノリ (Acetabularia ryukyuensis) の沖縄本島における生育分布と生態について(第3報)-夏季におけるカサノリの生態- (PDF) (Report). 那覇港管理組合. 2025年12月15日閲覧.
- ↑ 平中晴朗 (2010年). “亜熱帯の希少海藻カサノリの利活用”. i-NET. いであ. 2025年12月18日閲覧。
- 以下の位置に戻る: 1 2 3 堤敏郎・香村眞徳. カサノリ (Acetabularia ryukyuensis) の沖縄本島における生育分布と生態について(第2報) (PDF) (Report). 那覇港管理組合. 2025年12月15日閲覧.
- ↑ 山田秀秋, 島袋寛盛, 早川淳, 中本健太, 河村知彦 & 今孝悦 (2016). “亜熱帯藻場構成植物に対するアイゴ幼魚の摂食選択性評価”. 日本水産学会誌 82 (4): 631-633. doi:10.2331/suisan.16-00015.
- ↑ Hamatoni, I. (1994). “A new species of Mourgona Marcus & Marcus, 1970, M. osumi n. sp.(Opisthobranchia: Ascoglossa), found in acetabularian microfauna from Amami-Oshima Island, Southwestern Japan”. Venus (Japanese Journal of Malacology) 53 (1): 21-27. doi:10.18941/venusjjm.53.1_21.
- ↑ Yamamoto, Y. Y., Yusa, Y., Yamamoto, S., Hirano, Y., Hirano, Y., Motomura, T., ... & Obokata, J. (2009). “Identification of photosynthetic sacoglossans from Japan”. Endocytobiosis & Cell Research 19: 112-119.
外部リンク
[編集]- 「カサノリ」。コトバンクより2025年12月15日閲覧。
- 鈴木雅大 (2025年3月27日). “カサノリ Acetabularia ryukyuensis”. 写真で見る生物の系統と分類 生きもの好きの語る自然誌. 2025年12月15日閲覧。
- “カサノリ”. 海藻海草標本図鑑. 千葉大学海洋バイオシステム研究センター 銚子実験場. 2025年12月15日閲覧。
- “カサノリ(Acetabularia ryukyuensis)の沖縄本島における生育分布と生態について”. 那覇空港管理組合. 2025年12月15日閲覧。