男系男子とは何か 「皇位継承」置き去りの議論、専門家3氏に聞く
衆参の正副議長が「立法府の総意」として皇族数の確保策を取りまとめた。政府は近く皇室典範改正案の作成に入る見通しだ。しかし、女性女系天皇の議論は棚上げされ、「皇位継承」という本質論は置き去りに。背景には、高市早苗首相はじめ、男系男子の継承へのこだわりがある。保守派の考える男系男子とは、元衆院議員が見た政治家の本音とは。妥協点をさぐってきた専門家がいま語る原点とは。3氏に聞いた。
記事のポイント
(1)八木秀次氏
・安倍元首相のブレーン
・女系は「『天皇制』廃絶への道」
(2)山尾志桜里氏
・衆院議員、3期10年
・「保守=男系男子、テンプレ感」
(3)笠原英彦氏
・皇室制度が専門、政治学者
・「男系男子が招く世襲の危機」
八木秀次・麗澤大学教授
「問われているのは、『天皇制』廃絶への道の是非」
衆参両院の正副議長が皇族数の確保策を取りまとめました。政府の有識者会議が2021年に示した、①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ②旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える――の両案を「了」としました。①では配偶者・子に皇族の身分を付与するかは明記しないとされていますが、付与には反対で、②を支持します。合意形成を図るために、皇位継承問題を切り離して議論してきたことも評価できます。
私は小泉純一郎政権下の有識者会議のヒアリングでも、旧宮家の皇籍復帰を主張しました。しかし、05年の報告書は「国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの視点から見ても問題点があり、採用することは極めて困難」と門前払いしました。状況は変わりました。
女系・女性容認「本質、理解せず」
マスコミの世論調査では、女性天皇・女系天皇を容認する意見が多数のようですが、皇位継承の本質が十分に理解されておらず、今は皇位継承問題の先送りもやむを得ません。
憲法2条は皇位を世襲とし、皇室典範1条は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めています。皇位継承とは天皇の地位の継承で、男子の血筋だけで継承する100%の血統原理に立脚しています。男系の血統を純粋に継承することが皇族としての正統性の根拠であり、その血統から外れた人々を天皇や皇族にする女系継承は、正統性のない人々を天皇や皇族にすることを意味します。それを私は「天皇制」廃絶への道、と呼んでいます。問われているのは、そのことの是非です。
「人権や男女平等、適用されない世界」
05年の報告書は、男系継承を貫こうとすれば世襲そのものを危うくすると指摘しました。しかし、歴史を振り返ると、安定的な皇位継承はいつの時代にも課題でした。いまに始まった話ではありません。直系だけで男系継承を続けるのが難しくなれば、傍系継承が行われてきました。例えば、1779年の光格天皇への皇位継承。後桃園天皇の急死に伴い、7親等の隔たりがありましたが、傍系の閑院宮家から養子として迎えられた。現在の天皇はその直系の子孫に当たります。
今後は皇位継承の問題に正面から取り組むべきです。皇族の人権や男女平等の観点からの議論がありますが、血統原理で成り立っている「万世一系」の男系継承の世界には適用されません。旧宮家の男系男子に皇籍に復帰していただき、皇位継承資格も認めるべきだと考えています。(聞き手 編集委員・豊秀一)
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やぎ・ひでつぐ 1962年生まれ。麗澤大学教授。皇位継承問題で男系男子による継承の維持を一貫して主張。著書に「明治憲法の思想」など。
山尾志桜里・元衆院議員
「女性・女系天皇を認めると選挙で票が逃げると考えている節がある」
小泉政権下の有識者会議がまとめた2005年の報告書は、皇位継承問題について正面から、緻密(ちみつ)かつ論理的に議論を展開しました。皇位継承資格を皇族女子や女系の天皇に拡大。皇位継承順位については長子優先とし、皇族数の減少に対応するために女性宮家の創設も打ち出す「フルパッケージ」でした。
なぜ、あれだけのものが当時作られたのか。一つは、お子様世代の皇族に男子が不在で、「男系男子」にこだわっていると皇位継承者がいなくなるという目に見えた切迫性があったこと。もう一つは、党内でも国民の間でも極めて強い基盤を持った小泉政権だったことだと思います。
報告書はイデオロギー色を極力排除し、「国民の理解と支持」「伝統」「制度としての安定」を基本に置き、象徴天皇制の維持や長い歴史を持つ皇位の継承を確実にするためにどんな方策がふさわしいかを検討した。左右に寄ることなく、多様で幅広い国民の気持ちをすくい取ろうとしたのです。
ところが、「男系男子」を主張する保守派から激しい反対運動が起こります。12年には野田政権が有識者ヒアリングを踏まえた「論点整理」を発表しますが、皇位継承問題には触れなかった。皇族数の減少と皇室活動の維持が焦点となり、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を持つことに関しても、配偶者や子の身分をどうするかは両論併記で終わらせてしまった。核心部分であったはずなのに、です。
「保守の本懐とは」
岸田政権下の有識者会議が21年に出した最終報告書も、皇位継承問題について「具体的に議論するには機が熟していない」などとして、問題を先送りしました。
政治家たちは、女性・女系天皇を認めると選挙で票が逃げると考えている節がある。落選運動のリスクすらあり、自分の地位を危うくする、と。安倍政権以降、「保守=男系男子」というテンプレ感が永田町で固定化したように思います。「改憲賛成」「別姓反対」「男系男子」という3点セットを埋め込んでおけば、保守票は来るわけで、中間派が次第に男系男子派に吸収されたと見ることもできるでしょう。しかし、「世襲」という伝統の本丸を守るため必要な改革からは逃げない、その決断こそが保守の本懐ではないでしょうか。
私自身、民進党時代に生前退位の天皇のお言葉を受けて「皇位検討委員会」の事務局を担当し、立憲民主党時代にも「安定的な皇位継承に関する検討委員会」の事務局長を務めました。振り返って思うのは、党内における皇位継承問題への無関心です。会合をやっても出席者が1ケタだったのです。保守派の「熱」と対照的に、野党・リベラル勢力の無関心もまた、日本国憲法1条にかかわる皇位継承問題から目を背ける事態を生んでいると思います。
「男子を産め、という非道な圧力」
生身の人間が機関を担っているのが皇室制度です。できる限り皇室の人々の人間としての気持ちを尊重するということが、保守・リベラルを超えて求められています。「直系長子」で親子で皇位をつなぐことは、国民からの自然な信頼につながります。制度安定的な存続にも効果的です。逆に、男の子を産まなければいけないという非道な圧力の継承は、むしろ皇位継承の妨げにもなりえます。男子を産めという圧力がなければ、悠仁さまも含め、ご成婚の可能性はより広がるわけですよ。同じ人間同士でありながら、特別な運命の下に生まれた皇族の人々に、心安らかに特別な制度を担い続けて頂くにはどうすればよいかという血の通った議論が必要です。
皇位継承問題は、日本の国の憲法秩序とも関わっています。万が一、天皇が不在になれば、衆議院も解散できないし、召集もできない。天皇の国事行為は、国家の統治のトリガーになっているということも再確認する必要があります。
イデオロギーを超えて、本格的な有識者会議を再起動させ、直系・長子優先を軸とする安定的な皇位継承制度を作っていくことが今こそ求められています。(聞き手 編集委員・豊秀一)
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やまお・しおり 1974年生まれ。元検事。民進党政調会長などをへて弁護士。国際人道プラットフォーム代表理事。著書に「立憲的改憲」など。
笠原英彦・慶応大名誉教授
「男系男子へのこだわりは、世襲制そのものを危機に陥れる選択」
日本国憲法は、皇位は「世襲のもの」であると定めています。他方、皇位継承を「男系の男子」に限ることは、憲法ではなく、皇室典範という法律によって規定されている事柄です。
高市早苗政権は今、男系男子による皇位継承の維持にこだわっています。しかしそれはいまや、世襲制そのものを危機に陥れる選択になってしまっています。
男系男子による皇位継承が制度化されたのは明治期でした。当時は天皇と側室の間に生まれた子にも継承が認められていたので、持続可能な仕組みに見えたのです。しかし戦後になると側室制度が除外され、男系男子の皇族の確保は構造的に難しくなりました。この問題を放置し続けているのは戦後政治の不作為です。
皇位継承における最も重要な伝統とは、皇位が親から子へ、子から孫へと受け継がれていくこと、つまり世襲です。この原点を今こそ確認し、皇位継承を女性や女系にも広げていく見直し作業に着手すべきです。
ただ実際に政府が今検討しているのは、皇位継承のあり方ではなく皇族の数を見直そうとするものです。議論の優先順位が逆です。
検討されている案自体にも問題があります。たとえば、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案には、憲法違反の疑いがあります。特定の血筋にあたる人々の一部に限って皇室入りさせる制度であり、門地による差別を禁止した憲法14条に抵触するからです。こういう法制度を作ってしまっていいのか、真剣に考え直すべきです。
また、この養子案を実現させようとしている勢力の中には、養子の人にできた子どもが男子だった場合にはその人を将来の天皇候補に加えたいという思惑があります。しかし私は、その構想も、憲法が定める世襲という根本的な原理に反すると思います。
1200年隔たる血縁「あまりに遠く」
養子案で皇室復帰が検討されている旧宮家の人々の血統について「何代さかのぼれば天皇の血統に行きつくか」を調べると、600年ほど離れていることが分かっています。もし、その過去の時点から現代まで戻ってくる復路までカウントに入れれば、1200年ほど隔たっている計算にもなります。現代の天皇家との血縁はあまりに遠く、これを憲法の規定する「世襲」と言うことには無理があるからです。
もう一つの見直し案である「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ」案も問題含みです。結婚相手である配偶者や二人の間に生まれた子を皇族とすることに保守派が反発しているため、このままだと同じ家族の中に皇族である人とそうでない人が混在する懸念が残っているからです。選択的夫婦別姓の議論で保守派が「家族の一体性が不可欠だ」と訴えていたことを思うと、理解に苦しみます。
「2005年の原点に立ち返る議論を」
小泉政権時代に設置された有識者会議は2005年に、女性・女系天皇の容認を柱とした報告書をまとめています。私たちは、2005年の原点に立ち返って議論を再開すべきです。
しかし実際には政府は05年以降、むしろ後退していくばかりでした。私は研究者として様々な内閣の有識者会議などに呼ばれてきましたが、私の目に映ったのも、逆に男系男子による皇位継承へと凝り固まっていく日本政治の姿でした。
自民党の中では、男系男子の維持を求める日本会議や神社本庁などからの支持を基盤とする政治家が力を握っています。そうした政治家に忖度(そんたく)することで官邸官僚が出世を目指す傾向も以前より強まっています。
官邸主導による今の皇室論議が映し出すのは、国民全体のために大局的な視点から政策を追求しようとする意識が希薄化してしまった政治の姿でもあります。
「男系男子にこだわっていては世襲が危うくなる」との考えは、私の中では今から20年ほど前には固まっていました。ただ、できるならば男系男子を求める人々とも議論をして互いに合意できる妥協点を見付けたいとの思いがありました。
しかし最近はもう、あの人たちは変わらないとあきらめています。今後は正面から批判していこうと私が思い定めたゆえんです。(聞き手 編集委員・塩倉裕)
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かさはら・ひでひこ 1956年生まれ。慶応大学名誉教授(日本政治史)。皇位継承に詳しく、政府の有識者会議でも発言。著書に「皇室典範」など。
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