[篤寛]居酒屋あつや。[現パロ]
居酒屋店主の日下部さんが迷って腹すかして倒れた日車さん助けたことによる続いていく筈のお話。先ずは初対面編。
人様の篤寛が腐るほど読みたいです切実。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
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「居酒屋あつや」の店主である日下部篤也は夜もとっぷり更けて月が沈もうとした頃、店じまいしようと客を追い出し暖簾を片付ける為に店の外へ出た。
すると何やら店の隅で蠢くものがある。
よくよく見れば、それは行き倒れのようにゴミ集積所に横たわる人間だった。
暗いからよくは分からないが、おそらく酔っ払いの類だろうと見当をつけ放置することにしようとしたが、次の瞬間ぐうぅと腹の鳴る音と「腹が減った」とか細い声が聞こえたことで、仕方ないととりあえず店の中に入れることにする。
明るい中で見ると若干青ざめてはいるが、割合と整った顔立ちをしていて、筋肉もぼちぼちついていた。
さて何を作ろうかと、考えつつここは取り敢えずメシだろうと、鯖のみぞれ煮かアジの開きか迷いつつ、最終的に鯖のみぞれ煮にしてそれを温め直し白米と味噌汁を手際よく用意していく。
座敷に横たわる男が料理の音と匂いに釣られたか起き上がる様子を見せてほっとするが、よくもまあ自分もこの正体の知れぬ男を拾ったものだと我ながら呆れた。
そうして男の前にあるテーブルの上へお盆ごと料理を置けば、うぅ、と男が唸った後また腹を鳴らし、ゆっくりと起き上がる。
眩しいのか目をしきりとぱちぱち瞬き、ここはどこだと確認する前に目の前にある旨そうな料理にごくりとその男は喉を鳴らした。
恐る恐る日下部の顔を見て、「これは……?」と問うてきたので、日下部は「あんたのだよ」としれと答える。
それに「しかし」と男は言いかけたが、日下部が「良いから食べろ」と急き立てれば、男は慌てて箸を取り急いで白米を食べ次にジャガイモと玉ねぎの味噌汁を飲んだ。
ジャガイモは面取りされていてほくほくしているし、玉ねぎはよく煮込まれていて甘い。
その素朴などこか懐かしい味にほっとする。
続いて気になっていた鯖のみぞれ煮を突くと、口に入れた途端ほろりと骨ごと溶けた身が舌を喜ばせた。メシが進む。
そこで白米、みぞれ煮、白米の順で一気に食べて、締めに味噌汁を飲んでその男は「ごちそうさまでした」と頭を下げたのだった。
「それで、あんたの名前は?」
「ああ、すまない。私は日車、日車寛見という。君は?」
「日下部、日下部篤也だ。ここの店主をつとめている」
そこで漸くその男、日車は周りを見渡す。
どうやら何かの店のようだが、その割にはメニューが張り出してないし、メニュー表も見当たらない。
そして何やら玄関の外が騒がしいと思ったら、何人かがこちらをら伺っていた。
よほど自分は怪しいのだなと少し悲しくなるもの、まあいきなり上がり込んでメシを喰らっては当然だろうと見切りをつける。
それに気づいた日下部は、どうしたことか玄関に向かった。
そしてすううぅと息を吸い込み、「お前ら何してるっ、あっ、こらっ、悠仁まで……っ、虎杖の爺さん、困りますよ〜〜〜っ」としっしっとまるで猫にするかのように彼らを追い出して行く。
日車としては彼らの自分への不審は当然のことであったが、日下部にとっては違ったらしい。
日車はそれを見て申し訳ない気持ちになる。
彼らの態度は当然だ。
自分の土地勘が正しければ、ここは日車の住む側にある商店街の一角である。
きっと地元に愛されて育ってきたのだろう。
それは普段ここを利用としない余所者の自分勝手に我が物顔をして良い場所ではないとヒシヒシと感じた。
「日下部さん、今夜はありがとう。助かった」
「いやあ、あんたの顔がちいとはマシになったことは嬉しいが……。それでも目の下のクマは無くならないし、もうちっと太った方が良いと思うがなあ」
その言葉に、日車はぐうの音も出ず情けない面を晒し、日下部を笑わせた。
これが、日下部と日車の初対面だった。
と、ここで終わらなかった。
まだ続きがある。
日車が飯代を出そうとサイフを探ると、そこにあるはずのサイフとスマートフォンがない。
すられたか落としたかしたのだ。
途端しゅんと叱られた犬のようになった日車を見て、「どうした?」と日下部。
それに日車が気まずげに答えると、「そりゃ大変だ。家の鍵はあるかい?」と聞いてくる。
急いで確認すると、これもない。
これだと帰っても寝られないどころか入れない。
風呂もシャワーも浴びれないし、明日行く着替えだってない。
着替えはこの際同じものを着て行くとして、寝る場所はこの近辺には確かビジネスホテルなどなかったはずだし、あったとしてもサイフを持っていない自分は泊まれない。
さてどうするか、ここは野宿かなどと物騒なことを考えだした日車を見かねて、日下部がガリガリと頭をカキカキ「仕方ねえなあ」と呟き、「今夜はここで泊まってけ」と顔を逸らし唇を尖らせつつも日車を迎え入れる体制を取った。
それが、日車の心のどこかに触れて、暫し息をするのも忘れて日車は日下部を見つめてしまった。
急に動かなくなった日車を心配して肩を揺り動かした日下部に漸く「良いのか?」と問えば、「構わないさ」と笑われる。
「君は随分とお人好しだ」
「よく言われる」
「その内に痛い目に遭うぞ」
「なんだ、あんたがその細っこい腕で何かするのかい?」
言い合い、笑い合う。
それから日下部は先に日車に風呂を勧め、2階の客間に布団を敷き、自分は自分で2階の自室へと引っ込んだ。
おやすみを忘れずに。
そして翌朝、やはり見たことの薄ぼんやりとある風景に、日車は家がそう遠くないことを知る。これならばまた気軽に来れる、とも。
電話を借りて職場に連絡して遅れる旨を伝え、鍵の手配もしてもらい、その際一宿一飯の恩義どころか二回もご飯をいただいた礼をしようと、何か困ったことがあったらと名刺を渡したら、「あんた弁護士だったのか!」と大層驚かれた。
「そんなせんせがサイフと携帯無くして行き倒れねえ」
そうククッと笑う日下部に、日車は項垂れ居た堪れなくなる。
「恥ずかしいから言わないでくれ……。あと、先生というのもやめてほしい」
「はいよ。ま、今度から気をつけな」
「その、日下部さん」
「ん?」
「また、あそこに行っても良いだろうか」
日車としては日下部の家に遊びに行き、また出来れば美味いメシを作って欲しいという算段があったのだが、日下部はにかりと笑い、「『居酒屋あつや』を今後もご贔屓に」などと揶揄ってくる。
やられたと、何がやられたのか分からないまま日車が笑うと、日下部が何故か面白いものでも見たような顔をした。
何かと思っても答えない。
ただ、またきてくれと言われたので、そのつもりだと日車は返し、家へと帰り、支度をして、久方ぶりに意気揚々と仕事へと出かけたのだった。