「カジノを模した領域か…本当に術式という物は多岐に渡るな。面白い」
こんな状況だというのに、俺は口角が上がるのを止められなかった。
「笑う余裕があるとは、頼りになることで」
日下部の皮肉には、笑って「すまない」と返す。
まんまと二人揃って捕らわれた領域はカジノを模した物で、目の前の若い術師はカードをシャッフルしながら楽しそうに笑う。
「面白いだろ?ゲームを自分で選べないのは不便だけどね。長々と説明するのは好きじゃないから、簡潔に、一度だけ。チップは一枚が一歳。アンタらの手元には、年齢の分だけチップが配られてる。チップが無くなれば“ゲームオーバー”。俺から自分の年齢分勝ち取ればここから出られるし、欲しがってる情報とやらもくれてやるよ」
二人の目の前に積まれた数十枚のチップを見下ろす。
「なるほど」
「そっちの飴咥えたおじさんと違って、アンタはこういうの得意そう」
「うるせえよ」
三十六年の人生の中でポーカーフェイスと揶揄された事は何度かあるが、果たしてそれが実際のポーカーに有利に運ぶとは思えない。
「ヒントをあげるよ。俺、ダラダラちまちま勝負するのは嫌いなんだ。だからゲームが長引けばプレイヤーの勝率は下がるようになってる」
「何だそりゃ。お前に有利すぎねえか」
にこりと笑う彼に日下部はそう吐き捨てたが、さっきの会話も合わせて俺はある可能性に思い至る。
「一ついいか」
「何?」
「俺が彼の分のチップを賭ける事は可能か?それで勝利した場合、二人ともこの領域から解放されるか」
「何?おい、日車?」
「…いいよ。その時は二人とも出してあげるよ」
「日下部」
「あん?」
日下部の目を真っ直ぐ見つめて問う。
「君、俺に何枚預けられる?」
「全部」
即答されて、前に居る彼が意外そうに眉を上げた。
「へえ、随分そっちの人を信頼してるんだね。じゃあ始めるよ」
彼がカードを配り始めると、日下部が彼には聞こえないよう小さな声で「何か策でもあんのか」と確認してきた。
「ああ。文字通りの賭けだが」
「一か八かかよ…」
領域がポーカー単体ではなくカジノである事、勝負が長引く事を嫌う口ぶりから、彼は勝ちに拘るより早い決着を好むと推察した。
「勝算はある」
配られたカードを確認する。三のワンペア。
「一枚チェンジ」
一枚交換すると、手元には三と十のツーペアが出来上がった。
「さて。分かってると思うけど、フォールドは無い」
「ああ…オールインだ」
手元のチップを、全て場に滑らせる。
「はは。本気?」
信じられないと笑う彼に、「ショーダウンといこうか」と崩れたチップの上にカードを広げる。
同じように場に置かれた彼のカードは……役なし。
自分の予想は当たっていた。
ほう、と息を吐いて背もたれに体を預けると、反対に日下部が身を乗り出した。
「まじか!?ツーペアで!?」
「おじさんのツレ、イカれてんね。普通気付いても中々出来ないよ。もし違ってたら一発アウトだよ?」
「どういう意味だ」
俺と彼のカードを見比べていた日下部が怪訝な顔をした。
「彼は最初に教えてくれただろう。ゲームが長引けばプレイヤーの勝率は下がるようになっていると。…裏を返せば、最初のゲームは勝率が高いという事だ」
「ちゃんと教えてあげてんのに、意外と気付く奴は少ないんだよね。…でも、気付いたからってオールインする?違ってたら二人とも死んでたのに」
「その時は地獄で日下部に謝るさ」
溶けるように消えていく領域を眺めながら言うと、彼は「地獄なんだ」と笑った。
元居た地下の裏カジノに戻ると、彼が「それで何が知りたいの」と椅子に深く腰掛けた。
壁にもたれかかりながら、こちらの欲しい情報を引き出している日下部の背を見つめて、小さく呟いた。
「地獄行きさ、俺も日下部も」
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- 小夜双☆スカィWebMay 15th