雨とフレグランス
🐯くん成人前提🌻さん高専術師ifの同棲している設定です。
とある理由から香水をつけている🌻さんの話
xに載せたものと少し文を改訂しています。
⚠︎肉体関係を匂わせる描写があります。
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フレグランスと雨
「……日車さ、なんかつけてる?」
スン、と日車の首筋に鼻を当てがう。
奥深い南国の花の香りがして、どことなく色気のある香りがした。
「気づいたか」
「うん、いつもの日車の匂いも好きだけど、どうしたん?」
普段の日車からは、生活感がありながら、それでいて清潔な肌から立ち昇る香りがする。それが、いつもとは違う芳しい香りになっていて、思わず息を呑む。エロティックな香りが恋人から漂うのだからこちらの理性は溜まったものではない。
「その、……君に抱かれる、なら、せめて何か嫌な思いをさせたくなくて」
口ごもりながら話す日車が、俄然、愛おしくなって、男としての本能をくすぐられる。
「しないって、嫌な思いなんかさ。惚れてるから抱くのに」
日車を優しく抱き寄せて、普段と違う日車の遠慮がちで不器用な優しさを、鼻腔から虎杖の肺いっぱいを吸い込んだ。
「——っはぁ……確かに落ち着くね」
抱きすくめられた日車の耳が僅かに赤い。
「でもね、日車」
重力に従うように、広くて潔癖な白いシーツの海に日車を押し倒す。
「俺、いつもの日車の匂いも好きだよ」
ラフなパーカーを胸まで託しあげて、床に落とす。そこから男性美を象徴するような惚れ惚れする肉体が姿を露わにした。彫刻のように破綻なく仕上がった体躯に思わず身震いする。少年から男になった虎杖が、自らを食らおうとしている事に日車は、甘い怖気を覚えた。虎杖の大人びた切なげな表情が、彼の顔に精悍さを与えて、撫で付けた髪が艶を醸し出していた。
「……そんなことは」
二回りも違う年の男から、そんな匂いするわけない。羞恥心をこれ以上暴かれたくないと否定の態度をとった。
「わかってないね」
ちゅ、とお互いの口を這わせる。日車の唇を虎杖は舌で優しく舐める。合図のように、欲望に火をつけられて堪らなくなる。
「ほら、もう日車の汗の匂いする」
虎杖の太い腕が日車の腰から太ももを撫で、
不意に日車は、身をこわばらせた。
恐る恐る口を開くと虎杖の舌が蛇のように
這う。口内を蹂躙して、口の端から唾液が漏れそうになる。お互いの匂いが白い布地の海に融け合い、境目が曖昧になっていった。
日車との行為に耽ることが、そう珍しくなくなり、日常の一幕になりつつあるある日。
その日は、生憎の雨だった。
「やべー……傘忘れた」
天気雨に遭遇した虎杖は、真っ直ぐに日車と同棲している家路に足を向ける。水たまりが跳ねて、絶えず視界が悪い。ぐっしょりと体に纏った衣服が心なしか重たく着心地が不快になる。
「……ただいまーっと」
夜遅くになり、先に眠っているであろう日車を起こさないように静かに部屋に入った。
脱衣所に向かい、服を纏めて洗濯機に入れてシャワーを浴びる。じわりと熱が体に薄い膜を作りながら身体を温めた。
きゅ、とシャワーを止めて、ラフな部屋着に着替える。その足でそのまま日車の寝ている寝室に足を運ぶ。
そこには見覚えのある長身痩躯の膨らみがあって、思わず頬が緩む。
ぎし、と寝台に足をかけて、それとなく寝ている後頭部を見つめる。撫で心地の良い髪がいつも目を覚ました時となんら変わりなくてほっとした。
外はいまだに雨音が激しい。ガタガタと窓が揺れて、雨が薄いシルクのベールのように流れ落ちていく。
瞬間、はたと虎杖は気づく。
「日車」
あえて静かに語りかける。耳元で虎杖が声を抑えて尋ねる。
「……起きてるよね」
その返答に何の返しもなく、返っていじらしくなる。益々、虎杖はこの男が好ましくてならなくなる。なぜなら、それは。
「香水、シたいときにつけてるでしょ?」
瞬間、日車の視界が反転して、虎杖と目が合う。組み敷かれた体の厚みは歴然だった。
「あ、その」
バレた。と同時にどうしようもない気持ちが日車の胸の内に渦巻いた。昨夜の営みが忘れられず、切なげに自分を呼ぶ虎杖の声が反響して、下腹部に満たされたい欲望を覚えた。虎杖と肉体関係を結んでから、どことなく足りないと、欠けていると感じてしまう。己の身体がまるで違う生き物みたいになったようで、期待と恐怖が綯い交ぜになっていた。虎杖によって、己の体がゆっくりと変化していく事を体感させられてぞくぞくと疼く身が、虎杖を求めてしまう。虎杖が、いなければ日車は、もう満ちる事のない体になっている事に戸惑っていた。
「今日、雨だからさ、いつもより濃く充満するんだよね、その香水」
すす、と日車寝巻きの裾から、虎杖の硬い手のひらが這う。
「っ、……はぁ」
ぶるりと日車は快感に身震いし、吐息が漏れる。思わず体が虎杖の掌に集中して、触れる肌の感覚が随分と鋭敏になっている自分に嫌気がさす。底をついたグラスに水を注ぐように潤されては堪らない。
「誘い方が控えめなのも、日車らしいね」
「……君に、年甲斐もなく求める事が、いかに居た堪れないか、知らないだろう」
思わず拗ねたような口ぶりになってしまう。
年下の恋人への欲情を、白日の下に晒された労わしさからくるものだった。
「なんで?日車が俺を求めんの正直すげークるけどね?」
ふと、虎杖は、日車の肩口に顔を寄せる。
首元に埋まる虎杖の髪がくすぐったい。
「……寂しい思いさせてごめん」
ぽつりと虎杖が呟く、雨音にかき消えそうな声で。
「君は……」
「だからさ」
虎杖に首筋を噛まれる。
「っあ」
重なる手のひらが日車の五指をするりとシーツに縫いつける。心ごと五感が弛緩して、イランイランのフレグランスが、あたりを満たす。
「今日も、俺だけみててよ日車」
繋がれた手が熱い。緩慢な情事に身を任せる。お互いの呼気が煙って、日車の嬌声は、雨音に紛れて、虎杖悠仁以外、誰にも知られる事はなかった。朝寝のシーツからは、お互いに交わり合って溶け残る残り香だけが鮮明に芳しく漂っていた。