Text by lowIQ
生成AIが急速に普及し、SNSを開けば無数の「意見」や「アルゴリズムが最適化した正解」が提示される今、いつでも簡単に答え(らしきもの)を入手できるようになったからこそ、「自分の頭で考える」ということへの渇望が、かつてないほど高まっています。
AIの回答やみんなが言うことを鵜呑みにするのではなく、自分はどう思うか。新刊『自分の頭で考える 世界をもっとおもしろくする方法』は、そうした自分自身の思考を大切にし、日々研ぎ澄ませている30名の視点を収録した一冊です。
本書より、ロウアイキューさんの寄稿を特別公開します。
※本配信は発売日の2026年7月16日までの期間限定公開です。
この文章に心が動いたという方は、ぜひ書籍をお手元にお迎えいただき、その思考をじっくりと体験していただけますと幸甚です。

AIの回答やみんなが言うことを鵜呑みにするのではなく、自分はどう思うか。新刊『自分の頭で考える 世界をもっとおもしろくする方法』は、そうした自分自身の思考を大切にし、日々研ぎ澄ませている30名の視点を収録した一冊です。
本書より、ロウアイキューさんの寄稿を特別公開します。
※本配信は発売日の2026年7月16日までの期間限定公開です。
この文章に心が動いたという方は、ぜひ書籍をお手元にお迎えいただき、その思考をじっくりと体験していただけますと幸甚です。
書籍『自分の頭で考える 世界をもっとおもしろくする方法』(講談社)予約受付中!
熱帯夜と抱き枕
『スマホという抱き枕』
ずっと手ぶらでベッドに入っていない。
毎晩一時間は動画とSNSをスクロールしている。
スマホなしでは寝られなくなった。
いや、起きていることだってできていない。
バイト先で無視されたとき「無視する人の心理」を検索しないと不安で仕事に手がつかなかった。
帰りに寄った牛丼屋では、生卵を割るとき以外ずっと片手でXをみている。
スマホなしでは寝られなくなった。
いや、起きていることだってできていない。
バイト先で無視されたとき「無視する人の心理」を検索しないと不安で仕事に手がつかなかった。
帰りに寄った牛丼屋では、生卵を割るとき以外ずっと片手でXをみている。
たぶん自分はここ数年で精神的な手ぶらの状態に耐えられなくなったんだと思う。
手ぶらで人生をやってしまうとスースーとした心もとなさがあって、つい何かをあいだに挟んでおきたくなる。
『プラットフォームの抱き心地』
抱き枕は何も考えずに抱いていたい。そういう抱き心地を求めている。
愛用しているYouTubeはただ画面をスクロールしていればそれっぽいものを勝手にあてがってくれるので助かる。
手ぶらで人生をやってしまうとスースーとした心もとなさがあって、つい何かをあいだに挟んでおきたくなる。
『プラットフォームの抱き心地』
抱き枕は何も考えずに抱いていたい。そういう抱き心地を求めている。
愛用しているYouTubeはただ画面をスクロールしていればそれっぽいものを勝手にあてがってくれるので助かる。
表示される再生数に従って、このかわいい白ネコちゃんは観たほうがよくて、このかわいい三毛猫ちゃんはそうでもないのか。とポイポイ指を滑らせていればいい。
Xは更に指がスムーズで、このニュースにはこうやって怒るといいのか、この人は褒めたほうがいい人なのか。と延々とスクロールしている。
毎秒あてがわれ続けるこの抱き枕たちが本当に自分の形に合っているのかはわからないけれど、手ぶらでいるよりはずっといいのでとりあえずその形に合わせて抱きついている。

『枕の冷たいところ』
自分もプラットフォームに並ぶ抱き枕の一つを作っているに過ぎない。
Xは更に指がスムーズで、このニュースにはこうやって怒るといいのか、この人は褒めたほうがいい人なのか。と延々とスクロールしている。
毎秒あてがわれ続けるこの抱き枕たちが本当に自分の形に合っているのかはわからないけれど、手ぶらでいるよりはずっといいのでとりあえずその形に合わせて抱きついている。
Photo:Gettyimages
『枕の冷たいところ』
自分もプラットフォームに並ぶ抱き枕の一つを作っているに過ぎない。
料理動画を投稿している。最近は雨の匂いのするゼリーの作り方を考えるのが楽しかった。
自分の作るものが「冷たいところのある枕」だったらいいと思う。
際限なくあてがわれ続けるコンテンツと、それに触れずにはいられない私たち。この構造に少なくない人が軽い熱中症のようなだるさを感じているはずだ。(自分もそれに加担している)
そういう熱を丸ごと吹き飛ばしてしまう作品を作る天才もいるけれど、自分は動画に触れた人の火照りが一瞬でも取れたらいいと思っている。
動画の中に新鮮な感触というか、まだ誰も触っていない清潔な部分みたいなものが僅かでもあって、一瞬スッと熱が取れる。それだけでいい。
自分の作るものが「冷たいところのある枕」だったらいいと思う。
際限なくあてがわれ続けるコンテンツと、それに触れずにはいられない私たち。この構造に少なくない人が軽い熱中症のようなだるさを感じているはずだ。(自分もそれに加担している)
そういう熱を丸ごと吹き飛ばしてしまう作品を作る天才もいるけれど、自分は動画に触れた人の火照りが一瞬でも取れたらいいと思っている。
動画の中に新鮮な感触というか、まだ誰も触っていない清潔な部分みたいなものが僅かでもあって、一瞬スッと熱が取れる。それだけでいい。
『腑に落ちるまでの自由落下運動』
それだけでいいが、それがとても難しかった。
スマホにいちばん抱き着きたくなるのは、答えが宙ぶらりんになっているときだと確信している。
バイト先で無視されたとき自分の中に生まれた不安を絶対にそのままにしておけない。
スマホを開いて、とりあえず答えをもらい、そこに着地する。
それだけでいいが、それがとても難しかった。
スマホにいちばん抱き着きたくなるのは、答えが宙ぶらりんになっているときだと確信している。
バイト先で無視されたとき自分の中に生まれた不安を絶対にそのままにしておけない。
スマホを開いて、とりあえず答えをもらい、そこに着地する。
暇という宙ぶらりんの時間にスマホを開いてしまうのも同じだ。
人は決定していない状態に耐えられないので、つい目の前の答えに抱きついてしまう。
もしかしたら創作はこの宙ぶらりんに耐える時間が必要なのかもしれない。
ふと浮かんだ考えがゆっくりと腑に落ちてくるまでのあいだ、どこにも抱きつかずにいる時間。
その浮遊感に耐え切れず誰かの答えや価値観に摑まってしまうと、その瞬間みんなが大好きでわかりやすくて安心するみたいなところに着地してしまう。
人は決定していない状態に耐えられないので、つい目の前の答えに抱きついてしまう。
もしかしたら創作はこの宙ぶらりんに耐える時間が必要なのかもしれない。
ふと浮かんだ考えがゆっくりと腑に落ちてくるまでのあいだ、どこにも抱きつかずにいる時間。
その浮遊感に耐え切れず誰かの答えや価値観に摑まってしまうと、その瞬間みんなが大好きでわかりやすくて安心するみたいなところに着地してしまう。
きっとそこは枕の冷たいところにはならない。
ブルーオーシャン戦略という言葉が頭をよぎるけどそんなに立派なものではない。
昨年、買ったあんまんを冷まさずにできるだけ早くコンビニから持ち帰る方法を探していた。
バイクあたりを考えていたが、交通量の多い七百メートルの道なのでもしかしたら乗り物よりダッシュが早いかもしれないと思った。
一秒でも速く走れるように一年間トレーニングを積んで、先日あんまんを持ち帰るタイムを計ってきた。結果バイクの方が全然早かった。
ブルーオーシャン戦略という言葉が頭をよぎるけどそんなに立派なものではない。
昨年、買ったあんまんを冷まさずにできるだけ早くコンビニから持ち帰る方法を探していた。
バイクあたりを考えていたが、交通量の多い七百メートルの道なのでもしかしたら乗り物よりダッシュが早いかもしれないと思った。
一秒でも速く走れるように一年間トレーニングを積んで、先日あんまんを持ち帰るタイムを計ってきた。結果バイクの方が全然早かった。
うっかりムダに脚を鍛えるだけの一年を過ごしてしまった。それでもどこにも抱きつかずに自分なりに着地したこの答えが、枕の冷たいところになると願っている。
書籍『自分の頭で考える 世界をもっとおもしろくする方法』(講談社)予約受付中!
PROFILE
ロウアイキュー ニコニコ動画とYouTubeに料理動画を投稿中。 地方在住、駐車場の広いコンビニが好き。