第一一話 急変


 慰安夫として、前線の砦に派遣されてから、本日で一ヶ月。

 こちらの仕事ぶりは、まぁ、上々といったところか。


 母・ヴィクトリアからは、手練手管を用いる相手は選べと、そんなふうに仰せつかっているけれど……これは慰安任務であって種付けではない。


 実際、兵士達は避妊用の霊薬を服用しており、どれだけ行為に励もうとも、子を授かる可能性は皆無である。


 ゆえに彼女等との行為は、純粋に、兵士としての獣欲を鎮めるためのものであり……


 貞操逆転世界の女ソルジャー達は、色んな意味で凄かった。


 気絶に追い込んでもしばらくしたらすぐに目を覚まし、襲いかかってくる。

 そのせいで、こっちには寝る暇もありゃしない。


 そんな日々を過ごしていると、彼女等とも次第に打ち解けてきて。


 全員をねじ伏せた後。

 しばしの休憩タイムって感じになったとき。


 ベッドの隣に寝転がっている、日焼け肌の女性が、俺の頬を撫でながら一言。


「それにしても。あんた、本当に愛されてるんだねぇ」


「はぁ。それはなんというか、光栄というか」


「ふふ。特に……エステル様はあんたにゾッコンとみて、間違いないだろうね」


 それについては、まぁ、学園生活を共にする日々の中で、気付いてはいたけれど。


「あんた、前に言ってたろ? ホントはもっともっと、最前線に配置されるはずだ、って」


「えぇ。でも、未だにそんなお達しは――」


「エステル様のご意向だよ。彼女はあんたを手放したくないのさ」


 言いつつ、こちらの頬を撫でていた手を、下へ下へと這わせていき……

 日焼け肌の女性は、艶然とした表情を浮かべながら、次の言葉を紡いだ。


ひっさげて最前線なんか行ったら……あんた、一日も保たないよ?」


「そんなに、酷い場所なんですか?」


「あぁ。あたしも少し前まで、最前線で仕事してたんだけどね。あそこはこの世の地獄だよ」


 誰もが常に、生と死の狭間に立たされている。

 ゆえにこそ、猛り狂う獣欲は半端なものではない、と。

 彼女はそんなことを口にして、


「あんたがここに残ってんのは、エステル様があんたの身を案じているからに他ならない。……隠れエステル信者としては、だいぶ、複雑だねぇ」


 この世界においては、女性同士の同性愛こそが真実の愛であると、そんな風潮が蔓延している。


 そのため、彼女のエステルに対する感情というのは、さして珍しいものでもない。


 ただ……複雑という言葉は、その文言通りの意味を持つようで。


「男なんかに、ましてや慰安夫なんぞに、心を許すだなんて……あたしもヤキが回ったもんだよ、本当に」


 言うや否や、ゆっくりと、こちらの唇を奪ってくる。


 そんな日焼け肌の彼女は、次の瞬間、やおら身を起こし、


「さて。あたしもあんたも、復活したみたいだし……お仕事の方、頑張ってもらおうかな♥」


 そうして、彼女は自らの獣欲を満たすべく、こちらの上へと跨がるのだった。




 ――そんな日々を、さらに一月重ねた、ある日のこと。




 俺は気分転換を目的として、砦の中を歩き回っていた。


 慰安夫というのは兵士階級の最底辺であるが、しかし、俺はどうやら特別な扱いを受けているようで、


「おう、アルト! 今夜もよろしくな!」


「なんだったら、今からでも……♥」


 彼女等からしてみれば、俺はノーマル世界で言うところの、超高級娼婦みたいな存在になっているのだろう。


 つまるところ、モッテモテということだ。


 ゆえにこそ、俺の周りには自然と人だかりが出来て、


「な、なぁアルト、昨夜やってくれたアレ……ま、また、頼むよ」


「昨夜は五人を同時に相手したんだって? やっぱお前、すげぇわ」


 とまぁ、大半の女達が下世話な話を振ってきたのだけど。

 中には、どこか真剣な顔をした人も居て、


「よう、アルト。今日はあんま、歩き回らん方がいいぜ」


「えっ?」


「今日はさ、前線から負傷兵が運ばれて来んのよ。だから、まぁ……お前にゃちっとばかし、刺激的なモンが目に映っちまうかもしれねぇ」


 ふむ。


 現在、前線での戦況は五分五分といったもので、死者は奇跡的に、ゼロとのことだが。


 しかしそれは、負傷者すらゼロというわけではない。


「エステル様の采配はマジで見事なモンだが……しかしどうにも、ここ最近、イヤな予感がすんだよなぁ~……」


 と、そんなことを呟きつつ去って行く、一人の女兵士。


 ……俺はこうして、見ているだけで、良いのだろうか。


 母の命に従い、今日に至るまで、力を振るうことはしなかったが、しかし。


 そのせいで、皆が酷い目に遭っているのではないか。


 俺がその気になったなら、誰も、傷付かずに済むのではないか。


「……エステルと、話が、したいな」


 別に、命令に反するつもりはない。


 ただ、行き場のない感情というものが、晴れないから。

 だから、彼女と会って、言葉を交えたい。


 秘密を打ち明けるようなことは出来ないけど、でも。

 彼女と会話していると、心が晴れやかな気持ちになるから。


「……エステル」


 その存在を探し回って、砦の方々を歩き回る。

 そんな中。

 司令官室の前へと足を運んだ、そのとき。



「嘘、でしょ」



 声が、漏れてきた。

 エステルの、声だ。


「そんな、いきなり」


 彼女の声音は、焦燥感に塗れていて。

 次の瞬間。

 その所以が、明らかとなる。


「すぐに手を打たないと……ここに居る皆が、死ぬ……!」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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