ホロライブ×学マスの紛争(?)について
そろそろほとぼりも冷めてきた(かな?)ので、騒動をめぐる論点の整理とわたしの見解を書いておきます。異論、反論を歓迎します。
騒動の内容
まず基本的な事実関係から確認しておきます。問題となったのは、大手VTuber事務所「ホロライブプロダクション」所属のVTuber、ラプラス・ダークネスの誕生日を記念するYouTube上の企画です。その企画の最後にサプライズゲストとして『学園アイドルマスター』(学マス)のキャラクター、姫崎莉波が登場します。当人は以前より莉波の熱烈なファンであることを公言していました。夢の誕生日プレゼントというわけです。
当日に莉波が歌ったのは「36℃ U・B・U」と「clumsy trick」の2曲。ラプラスは自分は歌わずに近距離で彼女を撮影したり「はみだして♡」と書かれたうちわを掲げたりしてファンであることに徹しますが、途中で感極まってステージに乱入、設置されたトルソーを投げ捨てるといった奇行に出て笑いを取ります。配信終了後、ラプラスは感激の意を綴ったポストを投稿。莉波役の薄井友里さんが引用RPでポジティブに反応しています。
な、なんと!!!姫崎莉波ちゃんが
— 薄井友里 (@yuri_usui0515) May 25, 2026
ラプラス・ダークネスさんの生誕ライブにゲスト出演していました💖
びっくりすぎるサプライズですね✨✨
かわいいかわいいラプくんと莉波お姉さんのコラボに私も画面越しでにっこり〜☺️
さくらみこさんも応援しにきてくれて大盛り上がりのライブでしたね✨… https://t.co/38EuuITe0J
かくしてハッピーエンド……というのが関係者たちの目論見だったのでしょうが、事態はそのようには推移しませんでした。先に引用したポストの投稿から1時間後、22時頃からこのコラボレーションに対する激烈な拒絶反応が拡散。炎上状態になり、ラプラス本人のポストの引用欄はありとあらゆる罵詈雑言で埋め尽くされます。批判の内容は多岐にわたりますが、要点は以下のようなものです。
批判①:とにかくホロライブが嫌いである。自分の好きなものには一切かかわらないでほしい。
批判②:自分の誕生日イベントにキャラクターを呼ぶということ自体が不愉快に感じられる。事前の告知もなく、ファンよりホロライブを優遇している。
批判③:演出が学マスの物語世界を尊重しているとは思えない。あのトルソーは彼女が片想いをしているプロデューサーの隠喩である。それを投げ飛ばして自分が成り代わるとはひどすぎる。
全く予想できなかった炎上というわけではないでしょう。既に公然の事実でしょうが、SNSにはホロライブを嫌悪する集団が活動しており、ちょっとでも隙を見せると即座に「着火」してきます。ラプラス当人にせよ学マス公式=バンナム側にせよ、そのことを知らないはずはないわけで、なぜこんなハイリスクな企画に打って出たのかは不思議なところです。放火魔がいるとわかっているなら、可燃物を目立つ場所に置いておくべきではありません。
以後は双方のファンによる抗争状態になり、誕生日イベントは何とも後味の悪い結末を迎えることになりました。同業者の災難を見るに見かねたのか、大手VTuber事務所「にじさんじ」に所属するシスター・クレアがフォローのポストを投稿しますが、これも巻き添えを食らって攻撃されます。現在では双方の公式動画のコメントが荒らされるといった状態に至っています。以後、この一連の出来事を「本件」と呼びます。
学マスに特有の事情
批判のあるところには擁護もあります。代表的な擁護論としては、ホロライブの動員力を根拠に「ラプ様は登録者数150万人超だから、宣伝になったことを感謝すべきだ」とするもの、あるいはアイマスがロールプレイを前提にしていることから「プロデューサーなら文句を言っていないで自分のアイドルの宣伝に専念すべきだ」とするものです。これらはどうでしょうか。少し考えてみましょう。
上記のような主張は、いずれも『シンデレラガールズ』(デレマス)を念頭に置いた主張のように感じられます。実際、デレマスには総選挙というものがあり、ファン自身が「担当」のアイドルを外部に宣伝する文化があります。これはかなり魅力的なごっこ遊びで、(批判や揶揄はありつつも)10年以上にわたり多くの人を惹きつけてきました。
デレマスには確固たる作品世界というものがありません。もともと当時のAKBブームに乗っかって作られたモバゲーの一種にすぎず、安易と言えばこれほど安易な出発点のブランドもない。もちろんシナリオはありますが、それはほとんどエピソード集のようなものです。事務所の設定もプロデューサーの人格もはっきりしません。それゆえにファンは余白を想像で埋め合わせ、自分自身がプロデューサーとしてロールプレイすることを通じて、作品世界を補完していくことになるわけです。
この点、学マスはブランドの性格が大きく違います。そこにはきちんと仕上げられた作品世界があり、それぞれのアイドルには動かしようのない一貫した物語が用意されています。また、歴代のシリーズと比べても恋愛要素は強めです。プロデューサーはアイドル同様に確固たるキャラクターを有しており、一般的なプレイヤーが自己投影できるものではありません。職業人的な男性と風変わりな少女の関係性を鑑賞する世界が確立しているので、そこから大きく逸脱する言動や表象は、世界観を壊すものとして反感を買いやすくなります。
そもそも、学マスのファン層に「自分の好きなアイドルをもっとたくさんの人に知ってほしい」という程度の意志があるかどうかさえ、決して自明ではありません。既に大ヒットして大量のファンがいますし、女性Pを実装すべきかどうかなど、人口流入に伴う様々なコンフリクトも生じています。はっきり言えば、いまの学マスのファンコミュニティは、それに固有の物語や文化的慣習を理解し敬意を払う人以外には、もう来てもらいたくはないのかもしれません。
いずれにせよ、上記を踏まえると「宣伝になったことを感謝すべきだ」とか「プロデューサーなら……」とかいった主張は、学マスの現状をいささか誤解しているように思われます。
「3.0 VISION」をめぐって
しかし他方で、目下アイマス1000億円市場を目指しているらしいバンナムは、アイドルたちを実在するタレントのように売り出したいようです。2023年に発表されたアイマスのIP軸戦略「PROJECT IM@S 3.0 VISION」では「複合現実」への挑戦が謳われており、企業や自治体にアイドルの等身大パネルを貸し出す「オファマス」などの企画が既に実施されています。以下のイメージPVには、現在のバンナムが妄想しているアイマスの未来が描き出されています。
著名なVTuberの誕生日にアイマスのアイドルが顔を出すという本件の企画は、現在のアイマスが目指す「3.0 VISION」の中に位置づけられるものと言えるでしょう。しかし、実在するタレントとして売り出すということは、アイドルたちがゲームの物語世界から離れていくことを同時に意味します。オファー先の意向に従わなければならないこともあるでしょうし、無理解に晒されることや、違和感のある扱いを受けることだってあるでしょう。そういう諸々も含めて芸能人ですから。
このあたりは、企業とファンの間で合意が取れていないところがありそうです。ファンは物語世界の中に耽溺したい向きが強いのに対し、バンナムはアイドルたちをあちこちに売り出していきたい。ホロライブとアイマスの関係以前に、アイマス内部における企業とファンの同床異夢が露呈しているわけです。ここをどうにかしないと、同様のケースが続発しかねません。
トルソーについて
本件で問題になっている配信に戻りましょう。表象面で最も批判を浴びているのが、「clumsy trick」の歌唱中、ラプラスがステージに設置されたトルソーを投げ飛ばし、自分がそれに成り代わるというギャグ演出です。当該シーンはこれ。
まずトルソー以前に、それまで観客席にいた者がステージに乗り出してくるという芝居自体が、あまりいい印象を受けないというか、嫌悪感を抱かれやすいかもしれません。こういうことは現実世界でもしばしば問題になりますからね。
そこに過誤があることは前提として、では「トルソーはプロデューサーの暗喩だから、投げ飛ばすなんてとんでもない」という批判はどこまで妥当なのでしょうか。「元ネタ」である学マスのMVを観てみましょう。
さしあたり、トルソーが演出上重要な小道具として用いられていることに議論の余地はないでしょう。それが何らかの恋愛関係を表象していることも明白です。とはいえ、トルソーがプロデューサーの暗喩とまで言えるかというと、そこは確かに解釈次第かもしれません。また「元ネタ」の凝った造形のトルソーと、本件動画に出てくるペラペラトルソーが、同じ意味性を持つものと考えていいのかも自明ではありません。
とはいえ、と繰り返しますが、トルソーがきわめて印象的な小道具であることに違いはありません。それを投げ捨てるということは、学マスの作品世界を尊重するつもりがないということだ――くらいの批判は、まあ受けても仕方がないだろうとわたしは思います。先述したステージに乗り込む芝居と併せて、ここは明確に失敗だったと言えるのではないでしょうか。
まとめ
ラプラスに寄せられた批判の3類型を再掲します。
批判①:とにかくホロライブが嫌いである。自分の好きなものには一切かかわらないでほしい。
批判②:自分の誕生日イベントにキャラクターを呼ぶということ自体が不愉快に感じられる。事前の告知もなく、ファンよりホロライブを優遇している。
批判③:演出が学マスの物語世界を尊重しているとは思えない。あのトルソーは彼女が片想いをしているプロデューサーの隠喩である。それを投げ飛ばして自分が成り代わるとはひどすぎる。
批判①はどうしようもありません。本稿では批判②について、それが「3.0 VISION」の必然的な帰結であること、しかしそれは既存のファンの間で合意されているとはいえないかもしれないことを指摘しました。また批判③については、それに一定の妥当性があることを確認しました。もともと燃えやすい条件が複数あったところに、元々ホロライブに悪意を持つ人が着火したところ、そこそこ激しく燃えたといった印象です。
結論らしい結論もないのですが……アイマスの客層や雰囲気はここ数年でかなり変化しています。一昔前のアイマスのファンダムといえば、如月千早が出てくればバストサイズを弄り倒し、ジュニアアイドルが出てくれば気色の悪いコメントを連打するというのがごく一般的な風景でしたが、今日ではもう絶対に許されない感じがあります。それは、ファン層の拡大に伴って、これまでアイマスとは無縁であったような人々が流入してきたことと無関係ではないでしょう。
その点で「トルソーを杜撰に扱うなんて許せない」というのは、いかにも今のアイマスファンっぽい言い分だと思うところではあります。他方で、ラプラスが本件配信にて披露した新曲「お姉さま♡ラヴコール」は、まさに往年のアイマスファンダム的なノリを体現する(婉曲的に表現しています)歌詞だったわけです。かつてならアイマスに惹かれていたであろう人々は、今はホロライブに行くようになったのかもしれません。炎上を遠巻きを眺めながら、そのようなことを思いました。



これ系の擁護で「そっち界隈の認識なんて知らないからしょうがない」みたいな擁護ちらほら見るんだけど (本人はプレイしてるだろとかは置いといても)マジで仕事したことない阿呆だよね 企業から仕事貰いました→相手先のルール破りました→知らなかったから仕方ないでしょ!とはならんのよ まぁ過去…
某動画サイトの二次創作や同人のノリを公式を絡めてやっちゃったら そら燃えるでしょ・・・ 今でも某動画サイトでアイマスの公式配信あるときはコメントに72ネタ とか普通に出てきますしミームネタも多いですしあまり変わってない印象ですね ただyoutubeとかアソビステージのコメント欄ではノン…
わかりやすい記事でした。 ラプラス・ダークネスが学マスをプレイして、この「clumsy trick」という曲のMVを知っているのならこのトルソーの暗喩も認知していると考えるべきで、 「暗喩を認知した上でトルソーを投げ飛ばした」 となると他の学マスファンの反感を買うのも仕方ないとは思いまし…
どっちの肩も持ちづらいんだけど、ゲームファンがライブを見て「素晴らしい」と思わせるものになってなかった以上は理解が浅かったということなのでまぁその時点でゲストのいい活用ではなかったかもしれない