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物語の力 〜The Power of Storys〜

◉X(旧Twitter)に、noteのエンジニアでもある深津貴之氏の、こんなポストが流れてきました。一応、作品作りの現場に30年以上関わってきた人間としては、とても納得する視点だと思います。個人的に思ったことを、ツラツラ書こうと思います。

あんまり物語を読まない人は、「不道徳な物語や、不幸な物語でしか接種できない栄養分がある」とか「不道徳な物語からしか癒しを得られない人々がいる」が、直感的に理解できない人も多いらしい… 「犯罪小説好き = 犯罪が好きな人」とか「悲劇好き = 他人の不幸が好きな人」みたいな。

https://x.com/fladdict/status/1873397972677112039

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、MANZEMIのロゴです。三島由紀夫も絶賛した巨匠、平田弘史先生の、最後の揮毫でもあります。


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■論破され王の功利主義■

例えば、論破され王こと西村博之氏は、古文や漢文の授業など、教師の雇用のために維持している無駄な事業だから廃止しろ、と言います。たぶん彼の人生において、古文や漢文は役に立たなかったんでしょう。受験勉強で必要だから仕方なく勉強したけれど、無駄だと思う人間は一定数いるでしょうね。でも、それって損得ですべてを判断する、功利的な基準ですね。例えば、高校に進学せず、無駄な授業に無駄な時間を割かず、大検で東京大学に現役合格した方がいました。テレビドラマにもなりました。

そこまで極端ではなくても、マンガなんて読むと馬鹿になる、小説なんてくだらない、アニメなんて時間の無駄───親にそう言われ、言われたとおりにシコシコ勉強して南関大学に合格した人もいるでしょうけれど、彼らはいったいナニを得たのか? 良い大学に入りさえすれば、医者や弁護士の資格さえ得れば、人生はバラ色というのは、とても解像度が低い考えにしか見えないのですが……。実際に、東大や京大に合格した人に言わせれば、3000人ほどいる同学年には、普通に趣味に恋愛にスポーツに打ち込んで、サクッと合格する人間がいて。

そして社会に出たら、多少の学歴なんかよりも、人間としての魅力や人望の方が、はるかに大事だと気づくわけで。では、人間的な魅力や人望は、どうやって得られるか? 人の痛みがわかる共感力や、自分の好きなことに打ち込んで、一廉の経験値や見識を持っている人間でないと、難しいのではないでしょうかね。

■秋葉原通り魔事件の闇■

自分の知り合いの昔のバイト先に、人生はいかに学歴が大事か、力説する人がいたそうなのですが。この人、神戸大学卒だったそうで。関西ではトップクラスの難関大学で、関東ならば一橋大学のような存在なのですが、関西には京都大学と大阪大学という旧帝国大学の、両雄がいて。その人は、本当は京都大学に行きたかったけれど、妥協してしまった挫折感を抱えていたわけで。そして、就職したら、必ずしも学歴が全てではない現実に打ちのめされ。でも、自分の価値観を否定したくなくて、クドクドと学歴の大切さを強調していたそうで。

なぜそれがわかるかといえば、彼が職場で一番尊敬していたのが、中卒の技術者の方だったとか。職人としての深い知識と経験、そして後輩にも優しく接するその姿勢に、打ちのめされたわけで。勉強さえしていれば・一流大学を卒業しさえすれば人生バラ色という、解像度の低かった親を否定したくない、反動でしょうか。そういえば、自分が医者として学歴格差に苦しみ、息子に一流大学 医学部進学を強要し。でも、息子は成績が下がったのを苦に、自宅に放火。継母と兄弟が焼死するという、痛ましい事件がありました。

また、秋葉原通り魔事件の犯人は、母親から虐待と言えるような扱いを受け、それが事件の遠因になったのですが。その母親は、地元の進学校を出たのに、父親が国立大学の進学しか許さず、しかも浪人も許さず。東北大学の受験に失敗し、就職。この挫折体験の反動から、犯人の長男に母校への進学と、東北大学か北海道大学の進学を、強要し。結果的に、虐待としか言えない教育をしたわけで。犯人が本当に●したかったのは母親であり。母親が本当に怒りを向けたかったには、父親(犯人の祖父)なのかと推測。

■人間関係の基本は親子■

人はなぜ、虚構の物語を読むのか? 理由は様々でしょうけれど、どうも作家自身の心の渇きを癒すため、という側面も、あるようです。三島由紀夫は祖母によって幼少期を母親から切り離され、今日的な意味では虐待をされていたわけで。萩尾望都先生と両親、特に母親との確執は、『半神』や『残酷な神が支配する』や『イグアナの娘』など、繰り返しモチーフになっているわけで。自分自身の経験からも、親との関係がこじれた人が、漫画家には一定数いますね。宮崎勤死刑囚も、新聞社を経営する父親との確執が、人格の歪みにつながったのは否定できず。

実業家でも、西武グループの創業者・堤康次郎とか、旺盛な事業欲や金への執着は、ある種の親子関係の不全を感じます。実父が病死した時に、実母が実家に帰され、祖父母に育てられ。幼い康次郎は、母親に捨てられたという感覚を持ち。母親を実家に帰した祖父は、康次郎の進学希望も潰します。ここらへんは、両親が亡くなり、祖母に育てられた都井睦雄とも重なります。都井は彼を溺愛する祖母に進学を阻まれ、最終的に津山三十人殺しという、大事件を起こします。

角川春樹氏も、実父の角川源義の浮気と愛人の嬰児殺しという事件で、実母と引き離され。それが『犬神家の一族』や『人間の証明』や『湯殿山麓呪い村』などの映画化に向かわせた面もあり。人間関係の基本は親子関係であり、やはりそこをこじらせると、子供にも連鎖し。堤康次郎の、堤義明氏への帝王学を伝授する教育は、これまた虐待同然で。堤義明氏の奇行と言われる数々の言動も、なるほどこれぐらい親子関係が壊れていたら、こうなるだろうなと思えるものが、多数あります。

■創作物は別人生の体験■

作家はたまたま、文才があったり文学との出会いがあったから、小説家になっただけで。それが事業欲に向くと、堤康次郎や角川春樹氏のように、成功に至るのかもしれませんが。逆に言えば、作家の個人的な人間関係のもつれが投影された作品は、似たような問題を抱える人間には、深く響くわけで。深津氏が指摘されるような、「つらい現実からの逃避」や「自分と似た境遇の主人公への共感」や「自分の選ばなかった人生のシミュレーション」や「自分が負けた世界へのリベンジ」に、なり得るのです。

実際は、不道徳な物語は、「教訓」だったり、「つらい現実からの逃避」だったり、「自分と似た境遇の主人公への共感」だったり「自分の選ばなかった人生のシミュレーション」「自分が負けた世界へのリベンジ」だったり、色々とあるのだけど… そういうユースケースが直感的に思いつかなかったりする。

https://x.com/fladdict/status/1873398546512437354

Twitterを見ていて呆れたのは、秋葉原通り魔事件の犯人は、オタクだったから事件を起こしたという、歴史修正を見たときでした。むしろ彼は、そのような創作物に触れることを、母親から禁じられたり制限されていたわけで。いや彼はゲーム好きだったとか、言い募る人間もいますが。サザエさんを子供の頃に観ていたら、オタクですか? ゲームをやっていればオタクですか? んなわけないのに。ただの視聴者であり、ただの消費者です。オタクの定義が、曖昧になっているのが原因なのですが。

秋葉原無差別テロ事件の犯人はオタク趣味はなく、秋葉原歩行者天国を犯行場所に選んだのは、楽しそうな人が多いと思ったから。つまりはその心理はオタクよりもオタクを罵倒したがる人の方に近い。

https://x.com/gishigaku/status/1872478158362169831?t=QS1yXYuqeZqvm6dpnws4MA&s=19

このnoteでもTwitterでも、繰り返し書いていますが。オタクは、江戸時代の天狗連の末裔。消費者から表現者へ、一歩踏み出した人間です。その中から、小説家や漫画家や アニメーターや、プロになる人間もいれば、生涯 アマチュアとして楽しむ人間もいる。それだけです。秋葉原通り魔事件の犯人は収監後、ゲームの艦コレに興味を持ち、そのイラストを書いているようですが。7人を殺害し10人に重軽傷を追わせた犯人が、イラストという表現に人間性能回復を得たのならば、やはり創作の力は大きいなと、思わざるを得ません。

■世界はゼロイチに非ず■

収入や地位や肩書きがあっても、志がない人間は、人間的な魅力に乏しいですよね。むしろ、親の言いなりになって勉強だけしてきたのならば、哀れですし。人間的な魅力は感じないでしょうし当然、心友(親友ではない)もいないでしょう。金や肩書きや能力を、利用しようという人間はいても。で、こんなはずではなかった人生を肯定しようと、他人に責任転嫁し、他責に走る。本当の原因は、自分なのに……。社会や人生の解像度の低い親、それに唯々諾々と従った自分なのに───。

でそういう知らないと、「こういうコンテンツは、不道徳な世界を肯定or助長or加担している」とかナチュラルに発禁処理を求める。でも、不道徳な物語が必ずしも不道徳を助長せず、抑止したり、代替物としての機能もある。別に悪役が幸せになる物語も、既存社会を否定する物語も、総体としてはあってよい

https://x.com/fladdict/status/1873399746863530033

高学歴な旦那に嫁いだ母親が、妙なコンプレックスから教育ママになると、自分が受験勉強も難関大学のキャンパスライフも経験していないので、解像度が低いまま、毒親になるようで。「コレさえ飲めば痩せられる or 癌が治る」と、インチキ商品に騙される人間と似ています。秋葉原通り魔事件の犯人の母親は、地元の進学校出身でしたが、大学進学に失敗して毒親になったタイプ。これも、大学を経験すれば、見えた部分はあったかも、です。

音楽も小説も、理解しづらいモノを理解しやすくする機能を持つ、一種の仕掛けであり。人間の心を理解する、重要なツールです。社会に出たら、意思疎通が難しい相手にも説明し、納得してもらう必要があるのは、社会人経験がある人間なら、誰しも経験しているでしょう。そういうときに、物語が持つ力が生きてくるわけで。一神教が他の宗教に対して強いのは、世界観を説明する大きな物語を有していたから。

■The Power of Storys■

自分が、論破され王こと西村博之氏に興味がわかないのも、秋元康氏に興味がわかないのと一緒で。金を儲けた先に何があるのか、彼らには見えない。ホリエモンは、初期の頃はベンチャー支援に積極的でしたし、今も民間ロケットに力を入れています。そもそも彼は、二ノ宮知子先生の『天才ファミリー・カンパニー』を読んで、学生起業に踏み切ったわけで。やはり、そういう部分に人間的魅力を感じるわけです。お友達になりたくはありませんが。

シコシコ勉強して東大に入った人間は、一種のドーピングですから。そういう趣味に打ち込みながら東大に入った人間との地力の差に、打ちのめされるようで。けっきょく、学者でもクリエイティブな仕事をするのは、クリエイティブな創作に触れてきた人間ですから。アメリカの実業家でも、SF好きはクリエイティブなようで。お金を儲けることが最終目的ではなく、ある種のビジョンがあって、お金儲けはそのための手段に。ラ・サールとか、自分たちの頃はバスケットは県下でも強豪で、母校も負けていましたし。ラグビーもそこそこ強く。文武両道。部活の率も高いんですよね。

私立の中高一貫校も、一種のドーピングの面はあるのですが。本当に頭が良い人間は、そんなに勉強せんでもできるので、趣味に時間が割ける面も。で、ラ・サールの学生は新聞社やテレビ局が取材に来ると「帰宅後6時間勉強してます」「自分は8時間です」と、ウソついて記者をからかってたとか。それは、灘高などの生徒も同じだそうですけどね。その灘中に8番で入学し、ドロップ・アウトした中島らもさんに、自分は魅力を感じましたし。暇空茜氏も、似たタイプに見えますが。二人が行き着いたのが、小説なのも偶然ではなく。

それが物語の力 〜The Power of Storys〜


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