昨日の敵はなんとやら
宿儺戦後に日車さんが呪術師として働かされてる世界。
表向きは日車さんの監視役だけど彼と交際中の日下部、日車さんを敬愛する清水さん(篤寛の交際を知っている)がメインの短文です。
清水さんが日車さんのことをめっっっちゃくちゃ慕っています(not恋愛感情)
捏造度高めですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
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「すまない、なるべく早く終わらせるつもりだが少し時間がかかるかもしれない」
「のんびり待ってっから気にすんな」
ここは日車が弁護士時代に借りていた事務所。そこに置きっぱなしの荷物の整理をしたいと日車が言うので、日下部が車を走らせ同伴したのだ。
「近場にカフェはあるがどうする? 面白い物もないが、応接室で待っておくか?」
「ん〜、カフェはあんたと一緒に行きてぇから応接室にいるわ。あ、根詰めんなよ? 今日終わらなそうならまたいつでも連れて来てやっから」
「あぁ」
ありがとう日下部、と微笑む日車の目元をすり、と愛しさを込めて撫でたところで日下部の背後にいた華奢な影が声を張り上げた。
「あ、の! 私いるんですけど!」
声の主は清水。日車を慕っており、その日車の心を射止め攫って行った日下部を敵視している。
「あっ、あぁ清水……すまないが日下部を応接室へ案内してもらえるか? あとコーヒーか何か淹れてやってくれると助かる」
頬を微かに赤らめた日車と、飄々とした日下部をジト目で交互に見て、清水はふんすと鼻で荒く息を吐いた。
「……どーぞ、こちらです」
「お手間取らせてすんませんねぇ。んじゃまた後でな、日車」
「あぁ」
シロップを2つ入れた甘いアイスコーヒーをジュッと吸い上げ、豪快に喉を鳴らした清水。
「で? 日車さんはそちらでどうされてますか?」
開口一番そう問う声は、まるで取り調べ室で犯人を前にした警察のように圧がある。応接室のソファに掛ける日下部を真正面から睨みつける彼女の鋭い視線。それを、表情に何の変化も見せず受け止めた日下部はホットのブラックコーヒーをちびりと飲んだ。
「もちろん、元気にしてますよ」
極めてありきたりな返答に清水の眉間に皺が寄る。
「それは大前提です! ちゃんと睡眠取ってますか? ご飯も三食きちんと食べてますか? あの人、何かに没頭すると人間として大事な部分も疎かにしがちで……」
矢継ぎ早に質問する清水。それに対して日下部はのんびりと余裕を感じさせる仕草で椅子に深く座り直した。
「大丈夫ですよ〜。そこら辺は俺がきちんと面倒見てますんで。たぶんこちらで先生やってた時より健康になったと思いますけどねぇ? 日によったら俺より後に起きてくるし、俺の作るメシも気に入ってくれてますし」
何作ってもあのおっきな目ぇキラキラさせて美味い美味い言ってくれるから作り甲斐がありますわ〜、とどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる日下部。さりげなく同棲してることも匂わされてしまい、清水はぎりりと内心歯軋りしながらもフン!と鼻で笑った。
「日車さんって優しくて気遣い屋さんだからそう言うしかないですよね〜? 私も以前、日車さんの分もお弁当持ってきたことがあったんですけど『……茶色で統一されていて良いと思う』って褒めてくれたんですよ〜!」
「へぇ〜。で、味の感想は?」
もっともな指摘に視線を逸らす清水。
「お、美味しいって言ってくれましたよ?」
「……まぁ、あいつ気遣い屋さんですからね」
憐れみの表情を浮かべながら自分のセリフをまんまお返しされ、悔しさを噛み締めながら清水はアイスコーヒーを一気飲みした。
書類や荷物の整理がある程度終わり、今日持って帰りたい物をカバンに詰めていた日車。集中していたら結構な時間、日下部と清水を二人きりにしてしまったと気付く。
どうもあの二人はそりが合わないようで、明確に言い争う所は見たことないが、なんとなく会話の節々に棘を感じるのだ。日下部はいつもより皮肉っぽくなるし、清水は嫌味が多くなる。まるで牽制し合うように……二人とも心根の優しい人物のはずなのに、自分と話す時とかけ離れた様子に困惑してしまう。その態度について二人に指摘しても「「そんな事ない」」と口を揃えるので仲が良いのか悪いのか……
何か共通の趣味や話題があれば変わるのだろうか?などと考えながらとりあえず応接室のドア前まで足早に向かう。ノブを握り、回そうとしたところでぴたりと手を止めた。清水の興奮気味な話し声がドア越しに聞こえる。喧嘩? いや……
「そう! そうなんですよ! 日車さん自分で気付いてないけどめちゃくちゃ人誑しなんですよ! 今までどれっだけあの人の知らない所で私と高木さんが露払いしてきたか!」
「あ〜めっちゃ分かりますわ。この前もうちの学生にメロいとか言われてましたよ。同僚にも好かれてますしね。そりゃあ真面目で勤勉で実力もあって紳士となりゃあねぇ……」
「無意識の人誑しって怖いですよ! あの声とルックスと性格と頭脳で、神は何物与えるんだって思いません!? せめてどこかダメであれよ! いやダメでなくて良いんですけど!」
力説のあまり机をドンと叩く清水にうんうんと頷く日下部。
「それを全く鼻にかけないし!」
「そういう所が良い」
「ですよね!」
「変なとこ抜けてたり常識知らなかったり……真面目すぎる故の天然なとことか、たまにやる奇行とか。目が離せねーけどそこが可愛いって思っちまうんすよねぇ」
「え、奇行って何ですか? 日車さんどんなことするですか!?」
「直近だと〜……」
………とても盛り上がっている。聞き間違いでなければ、俺の話で。
日車はドアノブに手をかけたまま、体から湯気が出ていると錯覚するぐらい火照っていた。二人が仲良くなっていて安心した一方、話の内容が自分の可愛いところ?や好きなところとは……できれば他の話題で意気投合してほしかった。体がむずむずして、今すぐガベルで何かを叩きつけたい衝動に駆られる。
日下部はよく俺を可愛い可愛いと言っているが、歳下で女性の清水にもそのように思われていたなんて。嫌われているよりかはもちろん断然良いが、今からどんな顔して部屋に入れば良いのかわからない。ドアノブを握ったり離したりして日車がもだもだしていると、突如応接室のドアが勢いよく開かれた。
「ぁっ……!?」
「よぉ、お疲れさん日車。盗み聞きかぁ?」
気配でとっくに日車の存在に気付いていたらしい日下部がニヤリと笑いながら目の前に立っていた。
「ち、ちが……そんなつもりは……」
「わっ! 日車さん首まで真っ赤!」
もしかして私達の話聞いて照れちゃったんですか?え〜可愛い〜♡と日下部の後ろではしゃぐ清水の言葉に居た堪れなくなる。
「二人は……随分仲良くなったんだな……?」
今までいろいろ心配した時間は何だったのか。完全に無駄だったではないか。
「そうですね〜、まぁ今まで日車さんを狙ってきた奴らと比べれば〝まだ〟良い人って分かったんで」
「ゆっくり腰据えて話したのも、今思えば今日が初めてだったしな。お墨付きをもらえて光栄ですわ」
目線を落ち着きなく泳がせている日車の肩を自然と抱き寄せる日下部。その仕草に清水は警戒を顕に片眉をぴくりと上げた。が、日車の表情が今まで自分に見せたことのないもので、それがまた幸せそうなものだから溜息をひとつ吐くだけに留めた。
「でも、日車さんを悲しませたりしたら許しませんから!」
高木さんと二人で即刻連れ戻しに行きますからね!と自分より数倍ガタイの良い日下部に物怖じせず指を突きつけ宣言する。日下部は普段より体温の上がった日車を抱く腕に力を少し込め、清水の目をまっすぐ見た。
「もちろん。そん時は俺を気の済むまでぶん殴ってくださいよ」
「日下部も清水も……もう俺の話はやめてくれ……」
目の前で繰り広げられる過保護なやり取りに耐えられなくなった日車。消え入りそうなその声に日下部と清水は顔を見合わせて笑った。