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凸と凹が合わされば、/Novel by うみほし

凸と凹が合わされば、

4,200 character(s)8 mins

篤寛同棲シリーズ2話目
凸凹(でこぼこ)です。足りない2人が合わされば生きていけるんです。

ここまで真面目なことを言っていますが篤寛が引っ越し準備で攻防戦を繰り広げるお話です。

未読の方は1話目から読んで頂くのがおすすめです
シリーズはこちらから
novel/series/15837950

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「……日下部、何故同じテントがいくつもあるんだ」
「日車、これ同じじゃないって、これは1人用、こっちは2人用、このメーカーは海外ブランドのいいやつだし……」
「釣り竿だって何本もある。全部持っていくのか、この量を」
「俺の部屋に全部置くから別にいいじゃねぇかよ…」
 
 ここは日下部の住んでいるアパートの一室。一見なんの変哲もないワンルームに男が2人、クローゼットを開けて言い合っている。
 この部屋の主、日下部篤也、37歳、趣味は釣り、キャンプ、筋トレ。察しの良い人ならわかるかもしれないが、この趣味はマキシマリストが多い。
 つまり、断捨離が得意なミニマリストの日車には衝撃の光景が広がっていた。積み上がるパンパンのテント入りの袋の数々、枕のような寝袋、似たようなランタンに無骨なカート、乱雑に立てかけられたキャンプチェア、何本もある釣竿、ダンベルとクローゼットが呼吸できないくらい隙間なく詰められていた。
「…君の部屋に何度も来ていたが、こんなに持っていたのか」
「まぁ来客の時はクローゼット開けねえしな」
「……まさかと思うが、車にも隠していないか」
 ぎくっ、痛いところを突かれてしまいハイ、ソウデスと上擦った声で答えてしまった。
 
 先日同棲にあたり新居を決めたが、3LDKを選んだのには理由があった。それはこの2人は自分の時間とパーソナルスペースを確保しないとストレスで発狂する恐れがあるからだ。
 日車は自宅でも時折リモートワークや調べ物をするため書斎として部屋は欲しいとのこと。なんせ仕事で使う資料が膨大なためそれを納める大きな本棚とゆったりと使えるデスクは必ず欲しいと希望していた。
 一方の日下部は前述した通りアウトドアな趣味が多い。彼は以前写真投稿アプリで俺はこんな部屋にしたいんだよなぁ〜、と日車に見せたことがあった。暗めのカラーの木製の棚にきっちりと並べられたアウトドアグッズの数々、有効ボードにはランタンや工具がおしゃれな雑貨屋のように整理整頓されていた。日下部にしてはセンスがいいな、とこぼすとうるせーやい、と照れ臭そうに笑っていた。
 だがしかし前言撤回、この物量は想定していない。店舗のように陳列したいと言っていたがこれではまるでホームセンターの在庫処分セールではないか。こんな量を、果たして新居に持っていけるのか?そして気になる疑問も追加でぶつけた。
「確か釣りが好きだよな、餌ってどこで保管してるんだ」
「え、そこだけど」
 指を刺した先は冷凍庫。眩暈がした。
「人間の食べ物と一緒に保管してるのか。新居ではやるなよ」
「え〜、この方法が気に入ってたのに…」
「でなければ全て処分する、わかったか」
 くぅん、と捨て犬のような顔で見つめられたがお構いなしに荷造りを進める。

 引っ越し当日まで残り1週間を切った。電気、水道、ガスなどの手続きは話し合って分担しすでに完了。残るは荷造りとなり、日車は元から持ち物は全て厳選したものしか持っていなかったためあっさりと終わった。物が少ないからか、彼の計画性故か。日下部がはじめに手伝おうか?と聞けばいい、絶対に辞めてくれ、と何かを隠すように断られた。ここはカップル円満の秘訣、あえて詳しく聞かないでおこう……

 日下部は物量が多いのと、彼のめんどくさがりやな性格が掛け合わさり今日この日まで手付かずのままとなっていた。日車はそれを見越して2人の共用のカレンダーアプリに「ここまで終わってなかったら手伝う」とまで事前にメモされていた。
「しかし、君は本当に物が多いな。どうにかならないのか」
「ごめんなさいねぇ、こんなんになって。あ、昔読んでた釣り雑誌見っけ」
 そ〜っと読み直そうと手を伸ばせばぱちん、と手首を掴まれる。恋人の眉間に皺が寄り無言の圧を感じる。
 おおこわいこわい、と呟き飲み物買ってくると一度日下部は近くのコンビニに出かけた。
 


「……これでは日が暮れるな、今のうちに片付けておくか」
 明らかに不要なものは一角のスペースにまとめて最後に日下部がチェックして処分する、と今朝話し合っていた。断捨離が得意な日車に課された任務を淡々とこなそうと深呼吸をした。
 彼のクローゼットの趣味のグッズは自分では判断がつかないため、ベッドの下の衣装ケースから手をつけることにした。半透明な箱は2つあり自分から見て左の箱から処理していく。
 1つ目の箱を開ければ彼の好きなアウトドア雑誌がぎっしりと入っていた。知識がないものから見れば毎号の特集は全て同じに見える。まぁ、日下部が好きなら……見てみるかと、本人に先ほど注意したにも関わらず、こっそりパラパラとページをめくる。2冊目を見ていたときにあるページに付箋が貼られていることに気づき、そのページを見てみると2人用のテントの商品説明に正方形の蛍光色の付箋に日下部の字でメモが書かれていた。
 
〔日車と行くならこれ。2人で寝っ転がっても余裕なやつ〕
 
 別のページにも付箋が貼ってあり、そこにはキャンプ用の調理器具の上に緑の付箋で同じく手書きで書かれていた。
 
〔絶対にキャンプ飯は食べさせたい。川で釣りたての魚で飯を振る舞うのが目標〕
 
「……こんなことを考えていたのか、君は」
 
 ぽつり、と彼の部屋で呟く。
 ちらっとクローゼットに目をやると付箋がついていたものと同じテントがあった。先ほどこんなにいるのか、と嫌味のようにこぼしたそれは彼が自分と使う用に購入していたものだった。なんと自分勝手なことを言ってしまったのだろうと彼に吐いた言葉に後悔する。


「……っと、ただいま。あれ?何読んでんの、日車」
「……先ほどのことを謝りたい、すまなかった。日下部」

 不在の15分間で何が起きたのか分からず、突然の謝罪をする恋人に部屋の主は混乱する。
「物多いって言ってたやつ?気にしてないけど」
 その、これを見てだな。と恥ずかしそうに付箋付きの雑誌のページを見開きにして日下部に見せた。
「げっ!恥ずかし……バレたか。お互い時間あるときにいつかキャンプ行きたいなぁって思って買ったんだよな、2人用のテント」
「そうだったのか、謝罪させてくれ。君にあんなことを言ってしまって」
 言ってなかった俺も悪かったし、な?と買ってきた缶コーヒーを日車の頬にぴと、っと当てて渡した。


 冷たいコーヒーを流し込み、気を切り替える。
 一つ目の箱の残りを段ボールに写し、二つ目の箱を開ける。そこには彼の衣替えでしまった寝巻きが入っていた。……若干毛玉があるな、そのうち買い替えないと、とぼんやり考え、傷んでいるがこれは新居に持っていくか?と聞けば捨てていいぞと持ち主の許可が降りた。
 他の服も片付け衣装ケースの底に隠すようにアルバムのような表紙が無地のリングノートがあった。
 
 ……前に彼女と同棲していた、と言っていたな。
 
 きっと優しい彼のことだから捨てられないのだろう、だが中身は気になってしまう。ノートを手に取ると同時に日下部がこちらに気づきあっ、ちょっと待て!と耳に声が届く前に日車の手がノートを開く速さが勝った。
 ばさっと音がして大小様々なサイズの紙が散らばった。そこには初めて2人でデートに行った時のカフェのレシート、熱海に旅行に行った時に浴衣で撮った写真、日車が見たいと日下部を強引に連れて行った海外映画の半券のチケットなどなど。2人の思い出が溢れていた。
「……っ、これは…」
「もう全部バレるじゃん…いい感じに纏めたくてとってたんだけど、整理する時間なくて挟んだままで...」
 ごにょごにょと恥ずかしそうに声が小さくなる。写真はまだしも、レシートや映画の半券は捨てることが自分でも多いのに彼は全て保管していたのだ。

「……日下部、断捨離は中止だ。全て新居に持っていくぞ」
「えっ、正気か?!てか段ボール足りるかこれ」
「俺が使わなかった物が残ってる、明日持ってこよう」
 断捨離で使う予定だったゴミ袋を部屋の端に追いやり、日下部の荷物をテキパキと詰め込んだ。


 
 引っ越し当日は思いの外スムーズに終わった。事前に日車から段ボールの外側にどの部屋に持っていくものか書いておけば仕分けが楽、と助言をもらって実行していたのが功をなし予定よりも早く引っ越しが完了した。
 引っ越し業者が退散し、段ボールと梱包され運ばれた家具、それ以外は何もないがらんとしたリビングに2人で寝そべっていた。
「……ここが俺たちの城、か」
「…なーんもまだないけどな」
 これから2人で作り上げればいい、丸見えだからカーテンをつけよう、と動き出して日車が前の家から仮に持ってきたカーテンを運んできた。
 新居のリビングの窓は開放的で大きい。高さがないと届かないため、細かい作業が得意な日車に登らせ、日下部は下で脚立を支えていた。メインのカーテンをリールに取り付け、追加でレースカーテンをつけようとしたところぐらり、とバランスを崩し2人でバタンッと倒れた。
 上で作業をしてた彼が怪我をしないよう咄嗟の判断で抱え込み、衝撃を背中で受け、痛みに目をぎゅっと閉じ顔を歪ませる。
「…っ痛てて……」
「ッ、すまない!怪我はないか?」
 不安そうな恋人の声が聞こえ、大丈夫だから、と彼を抱き抱え上体を起こして目を開ける。
「……良かった、俺のせいで…痛くないか?日下部」
 慌てて声をかけてきた本人は気づいていないのか頭と肩にふわり、とレースカーテンが乗せられたままこちらの心配をしていた。
「……日車、なんか……その、花嫁みたいになってるぞ」
 なっ!?と声を上げカーテンをかぶっている彼は自分の頭に手を回し恥ずかしそうに外した。そんな愛おしい恋人を見れば背中の痛みなんてどこかに行ってしまった。


 新居のリビングの壁には同棲について話し合った時の2人のルールを書いた紙をマスキングテープで貼り付けた。これでよし、と呟けば隣にはこれから一緒に暮らす恋人の顔があった。

「……改めてよろしくな、日下部」
「もちろん、こちらこそ末長くな。日車」

 2人は寄り添い、口づけた。
 今日よりここが2人の城であり、愛の巣であり、帰る場所となった。

Comments

  • ユージ
    May 21st
  • 小夜双☆スカィWeb
    May 6th
  • ミッキー
    May 6th
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