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タイ国籍少女 店経営者らに人身売買罪を適用しない方針 検察

検察

当時12歳のタイ国籍の少女に都内の店で性的なサービスをさせていたとして、店の経営者ら2人が児童福祉法違反などの罪で起訴された事件で、関係者によりますと、検察は少女を母親から買い受けたとして人身売買の罪を適用して被告を追起訴するか検討しましたが、適用しない方針を固めたということです。

人身売買に詳しい弁護士は「この罪は対象範囲が狭く、適用数も少ない。国際基準と比べるとギャップがあり課題と言える」と指摘しています。

事件とは

この事件は去年、東京 文京区の店でタイ国籍の当時12歳の少女に男性客を相手に性的な行為をさせたとして、東京地方検察庁が店を経営していた細野正之被告(52)と、従業員の募集を担当していたとみられるプンシリパンヤー・パカポーン被告(39)を児童福祉法違反などの罪で起訴したものです。ことし3月以降、2人の裁判がそれぞれ開かれています。

店の経営者 児童福祉法違反の罪など否認

経営者の初公判(東京地裁・ことし3月)

細野被告は「少女が未成年だとは知らなかった。タイ語が話せないので採用などはタイ国籍の店のマネージャーに任せていた。マネージャーが少女の母親と結託し、私をだまして少女を雇った」などと述べ、児童福祉法違反などの罪について否認しています。

店のマネージャー 無罪主張“少女の年齢知らず”

マネージャーの初公判(東京地裁・ことし4月)

店のマネージャーだったプンシリパンヤー被告も無罪を主張していて、弁護側は「被告は少女の年齢を知らず、直接会ったこともありません。人身売買のブローカーではありません」と主張しています。

“検察 人身売買罪を適用せず”

検察は裁判の中で「追起訴を予定している」と述べ、2人について少女を母親から買い受けたなどとして人身売買の罪を適用して追起訴するかを検討していましたが、関係者によりますと、適用しない方針を固めたということです。

注目

◇なぜ適用せず?

「人身売買罪」は「人身取引」を防止する国際的な枠組みの構築を目的に国連で議定書が採択されたことを受けて、2005年に刑法に規定されました。

人を買い受けたり、売り渡したりする行為が処罰の対象で、適用するには申し込みと承諾に基づき金銭などの支払いの対価として引き渡しを受けていることや、買い受けた側が被害者を支配下に置いていることが必要とされています。

今回、検察は「人身売買罪」を適用しませんでしたが、関係者によりますと▽店の経営者である被告側と少女の母親との間で、売買の申し込みや承諾が確認できず、少女が性的サービスをさせられて得た金銭が被告側と母親側にわたっていたものの母親側への金銭を少女の引き渡しの対価だと認定するのは困難だった点や、母親がすでにタイで起訴されていて認識を確認することが難しい点が影響したとみられています。

弁護士“新たな法律制定も選択肢の1つ”

皆川涼子弁護士(人身取引被害者弁護団・事務局長)

検察が人身売買罪を適用しない方針を固めたことについて、人身取引被害者弁護団で事務局長を務める皆川涼子弁護士は「人身売買罪の構成要件を考えると、いたしかたない部分があったのではないか。お金のやりとりがあったのか、それを証明する証拠があったのか、被告がその行為を認識していたのかという点で立証にハードルがあると判断したとしてもおかしくない」と話しています。

皆川弁護士によりますと、国連で採択されている「人身取引議定書」では「人身取引」に当たる行為を故意で行った場合には、すべて処罰の対象とするように各国に求めているということです。

日本では人の「売買」に当たる行為のみを罰する人身売買罪に加えて、刑法の監禁罪や誘拐罪、それに児童福祉法や出入国管理法、売春防止法などを個別の事案ごとに組み合わせて対応することで「人身取引」に当たる行為が処罰の対象になっているという形を取っているといいます。

しかし「議定書で処罰しなければならないとされているすべての行為が犯罪とされているかという点について、足りない部分があるのではないか」と指摘しています。そのうえで皆川弁護士は、海外の多くの国のように「人身取引」の定義や処罰のあり方、それに被害者の保護のあり方を包括的に盛り込んだ新たな法律を制定することも選択肢の1つではないかと主張しています。

皆川弁護士は「国際的な基準とのギャップがあり、人身売買に付随する人の移送などの周辺的な行為も含めて『人身取引』に関する罪として処罰の対象にするというのも1つの案だ。『人身取引』は社会全体で取り組むべき課題だと一人一人が認識する必要があり、新たな法律の議論が『人身取引』に対してどう取り組んでいくべきかを周知するきっかけにもなるのではないか」と話していました。


少女の母親はタイで裁判 今月29日に判決

タイ国籍の少女の母親については不法滞在の疑いで台湾で収容されていましたが、去年12月、タイに移送され、タイの警察に逮捕されました。その後、母親は少女に都内の店で性的なサービスをさせたとして人身取引などの罪でタイの検察に起訴され、先月の初公判で起訴された内容を認めたということです。

タイの検察によりますと、母親は少女に対して高齢の祖父母のために金を送る必要があるとして、性的なサービスを行うよう説得していたとみられるということで、今月29日に判決が言い渡される予定です。

警視庁は、母親についても経営者に少女を引き渡したとして児童福祉法違反の疑いで11日までの期限で逮捕状を取っていましたが、逮捕状を更新しない方針で捜査を終えることにしています。

少女が保護されるまでの経緯

少女が性的サービスをさせられていた店(東京 文京区・去年11月)

少女は日本に連れてこられる前、タイ北部で妹と一緒に祖父母の家に住み、公立の中学校に通っていたということです。去年6月下旬、母親とともに15日間の「短期滞在」の在留資格で入国し、その日のうちに東京 文京区湯島の店に連れて行かれたといいます。その場で、母親から客に対して性的なサービスをするよう言われたということです。

母親は次の日には少女を置き去りにしていなくなり、少女は店で接客を行うようになったといいます。少女は店の台所で寝泊まりしながら客に性的サービスを繰り返す生活をおよそ1か月続けたとみられ、去年9月中旬に港区の東京出入国在留管理局に相談に駆け込み保護されました。少女はおよそ70人の客の相手をして62万円余りを売り上げたとみられていて、売り上げは店側や少女の母親側にもわたっていたといいます。

少女は 「働かないと家族が生活できないと思い、我慢するしかなかった。タイに帰り、祖父母や妹に会いたい。中学校に通いたい。捕まる覚悟で『タイに帰りたい』と申告した」 などと話していたということです。その後、少女はタイに帰国し、支援しているタイのNGOによりますと、当局の保護施設で心のケアを受けているということです。

人身取引の被害者 去年77人 過去5年間で最多

この事件について警視庁は、子どもが性的に搾取する目的で支配下に置かれているとして「人身取引」に当たるとみて調べていました。

警察庁によりますと、強制労働や性的搾取などを目的としたいわゆる「人身取引」に関する事件の被害者は、去年全国で77人にのぼり、過去5年間で最多となりました。被害者の国籍別では日本人が66人、次いでフィリピン人が10人、タイ人が1人となっています。また、被害にあった日本人のうち18歳未満が51人と77%を占めました。


◇人身取引とは?
「人身取引」は国連で採択されている「人身取引議定書」の中で、性的搾取や強制的な労働をさせるなどの目的で暴力や誘拐、詐欺などの手段を用いて人を支配したり、引き渡したりする行為と定義されています。

例えば▽女性に暴行したり脅迫したりして売春を行わせて利益を得る行為や▽技能実習生に暴力を振るうことで、違法な時間外労働を行わせることは「人身取引」に当たります。このように「人身取引」という行為は人の「売買」に限らず、搾取の目的で被害者をだましたり、弱い立場につけ込んだりして支配下に置く行為も含まれます。

また、暴力や誘拐、詐欺などの手段が用いられた場合には被害者が搾取に同意していたかを問いません。さらに被害者が18歳未満の子どもの場合には、暴力や誘拐、詐欺などの手段がとられなくても「人身取引」に当たるとされています。


人身取引の被害女性は

カンボジア国籍の女性

10年前、日本人男性らに誘われて来日し、売春をさせられる「人身取引」の被害にあったというカンボジア国籍の女性がNHKの取材に応じました。

“そんなに給料をもらえるなら行きたい”

カンボジア国籍の40代の女性は10年前、母国で美容師として勤務していた際、客の女性から「月給3000ドルほどで日本のレストランで働く仕事がある」と誘われたといいます。当時の心境について「カンボジアで働いた場合は月給が150ドルほどだったので、そんなに給料をもらえるなら行きたいと思いました。日本は発展した国で法律も人権も守られていると思っていたので、純粋に人手が足りなくて従業員がほしいのだと思いました」と振り返ります。

この年の9月、視察のために来日し、紹介された日本人らに高級レストランに連れて行かれ「こうした場所で働くことになる」と説明されたといいます。そして「自分にもできる仕事だ」と考え、2か月後、ほかのカンボジア国籍の女性と合わせて7人で来日しました。

実際は群馬の飲食店に案内され…

女性が働かされていた店(群馬)

しかし、案内された店は当初案内されたレストランとは別の群馬県の飲食店でした。女性たちは店の2階の部屋で寝泊まりさせられ、店の経営者らから「ここで働くなら客と寝るのが当たり前だ」などと、客と売春するように指示されたといいます。

女性たちには売春相手からのチップのほかに給料は与えられず、食事を買うお金も十分にない中、およそ1か月にわたって売春をさせられ、12月になってカンボジア大使館に連絡を取り救出されたということです。

“子どもの教育資金をまかなえたらと来日したが…”

女性は「夫に病気があり、子どもの教育資金をまかなえたらと思って日本に来ました。売春をしなくてはいけなくなったときには一瞬自殺も考えましたが、子どものためになんとか生きないといけないと思いました。家族のために売春したのに夫とは離婚することになり、今振り返っても本当につらい、ありえない体験だと思います」と話していました。

慰謝料など今も支払われず

女性を案内した日本人や飲食店経営者は、出入国管理法違反の不法就労助長の罪で執行猶予付きの有罪判決を受けたほか、民事裁判では女性たちに慰謝料などを支払うよう命じる判決が確定しました。しかし、今も慰謝料などは支払われていないということです。

“そんなに若い子が被害受ければ人生が真っ暗に…”

タイ国籍の当時12歳の少女が日本で同じような「人身取引」の被害に遭ったことについては「私の年齢でも頭がおかしくなるような壮絶な気持ちだったのに、そんなに若い子が被害を受けたら人生が真っ暗になってしまう。こうしたことをしているのは日本人のほんの一部だと思うが、私のように訴えかけていかないとなくならない。これ以上被害が起きないように、こうした事実があることを知ってほしい」などと話していました。

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