選挙ボランティアや情報公開請求で政治に参加する市民が見た、『銀河の一票』のリアル
「簡単だよね、国民って」——第1話のそのセリフを聞いた瞬間、これはただのエンタメドラマじゃないと思った。
Xアカウント「FOXGOD 闇の勢力フィクサー」さん(ハンドル名 以下、FOXGOD)は、様々な選挙でボランティアをしながら、情報公開請求で政治を監視してきた市井の人だ。カンテレ・フジテレビ系月曜夜10時ドラマ『銀河の一票』(脚本・蛭田直美、プロデュース・佐野亜裕美)を、そんな視点から見続けている。
『銀河の一票』は、与党幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)の娘であり秘書だった星野茉莉(黒木華)が、政界を追われたのを機に、下町のスナック「とし子」のママ・月岡あかり(野呂佳代)を東京都知事選に担ぎ出す「選挙エンターテインメント」だ。プロデュースは『カルテット』『エルピス』の佐野亜裕美、脚本は蛭田直美。政治の素人であるあかりが、選挙の現実にぶつかりながら都知事選の50日間を戦う姿を通じて、「政治は生活」を描く。
「最初はただのエンタメだろうと思っていましたね。政治家のおかしさをコメディにしたようなドラマかなと」
それが1話から覆された。茉莉が冷ややかに放つ「簡単だよね、国民って」というセリフ。票を動かす仕組みを熟知した側から有権者を見下ろすような言葉だ。
「架空のストーリーや候補者の一部分だけ見せて騙せる、という政治家側の視点がリアルで。あのセリフを聞いて、これは本当のことを描いてるんだなと思いました」
7年の選挙ボランティアと情報公開請求で見てきた選挙の現場
FOXGODさんが選挙活動に関わるようになったのは7年前だ。生活や税金への関心から、自分の考えに近い政治家を直接支援しようと選挙ボランティアを始めた。ビラ配りやポスティング、証紙貼り、チラシの準備など様々な作業を行っている。
「ビラを取っていただけるかどうかで自分の手応えも全然違う。やっていくうちに、こうやったら取ってくれるんだなって分かってきて。選挙への関心の高さや候補者の人気も伝わってくる」
応援した候補者が当選した経験もあるが、「勝率は悪い」とも苦笑する。実際の現場を知るからこそ、ドラマの細部に目が行く。
「ポスター貼りにどれだけの人手とお金がかかるか、誰が仕切るか。あかりさんのポスターの写真の撮り方や情報の集め方もリアルに感じました」
さらにFOXGODさんは、開示請求によって令和6年兵庫県知事選挙における斎藤元彦氏の選挙運動費用収支報告書を確認している。ドラマでは告示日に掲示板全部にポスターが掲示できるのが理想と言いつつ、それが組織力や資金力がないと難しいことが示された。業者に発注するポスター貼りの費用として1000万円という数字も登場した。それについて思わず「ちなみにね」と言葉が出た。
「斎藤さんの収支報告書を開示請求で確認したら、ポスター掲示作業の請負代金だけで1485万円の領収書が出てきた。支出総額は2370万円超。ドラマの1000万どころじゃなかった」
「暴露屋」では終わらない、白樺透の怒り
ドラマはそのリアルな資金力格差だけでなく、SNS戦略の複雑さも映し出す。暴露系YouTuberの白樺透(渡邊圭祐)の起用がそのひとつだが、FOXGODさんが心を動かされたのは透がただの「暴露屋」ではなかった点だ。
透にはかつて視覚障害のある親友・明がいた。2人で視覚障害について明るく啓発する動画を配信していたが、明は点字ブロックを塞ぐ自転車に行く手を阻まれて転倒し、ひき逃げ事故で命を落とした。透が暴露系に転じた背景にはその怒りがある。第6話で日山流星(松下洸平)の演説に詰めかけた聴衆が点字ブロックの上に立つ姿に透が冷たい視線を向けるシーンも、その怒りと地続きだ。
「単純な暴露系ではなくて、なぜそうなったかという背景まで丁寧に描いている。ストーリーの作り方がうまいと思いました」
政策よりイメージが選挙を動かすという現実についても、FOXGODさんは率直に語る。
「政策って、こんな言い方すると語弊があるかもしれませんが、残念ながら正直誰も聞いていないです。見た目やイメージで投票する人が多いし、投票日にその場でポスターを見て決める人もいる。選挙でどんなストーリーを作るかが今の戦い方になっているのを、ドラマがちゃんと描いてる」
デマが当選を決める時代、ドラマに「助けてくれた」と思えた
2024年の兵庫県知事選では、知事選中にデマが拡散し、それを信じた人々が斎藤氏に投票した。FOXGODさんはその経緯を近くで見てきた一人だ。
「知事選中に誹謗中傷するデマが蔓延して、信じた人が投票して当選してしまった。投票率さえ上げればよかった素朴な時代から、この2、3年で大きく変わったと思う」
こうした現実の中で、このドラマがFOXGODさん自身を「助けてくれた」とも語る。
「衆院選でも、大阪府知事市長W選挙でも、兵庫県知事選でも、正当なやり方をしていない側が当選し続けるしんどさがあって。このドラマは、綺麗事はバカにされがちだけど綺麗なことだよ、とど正面から言ってくれている。自分のやってきたことは間違っていなかったと思えました」
スナックのママ・あかりが政治の素人だからこそ発する素朴な問いや、ボランティアとして選挙に加わる人物たちの姿も響いた。
「投票する以外にも政治に参加できる、そのきっかけを見せてくれている。政治に関心のない層にも、関心はあるけど踏み込めない人にも響く作り方だと思う。政治に希望が持てるドラマになってほしいし、こういう作品をドラマは作り続けてほしいですね」
選挙がビジネスに利用されかねない時代に、それでも地道にビラを配り、開示請求で情報を引き出し続けてきた人が、フィクションに救われた。FOXGODさんの言葉は、今の日本社会と『銀河の一票』が交差する場所を指し示している。
(田幸和歌子)