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The Works "円環" is tagged "篤寛".
円環/Novel by むに

円環

3,229 character(s)6 mins

ミ◎ドにいる日車と綺羅羅が見たい人生だった。日下部と秤による後日談⇒novel/28051287

※原作最終回までのネタバレを含みます。日車が術師としてこき使われている世界線です。
※成立済みか微妙なラインですが、生産工場の関係で篤寛タグをつけています。

★前作の閲覧や諸々のリアクションも、ありがとうございます!この場を借りてお礼させてください!めちゃくちゃ励みになります~っ感謝感涙

\お試しでウェボを置いてみることにしました/26.04.24
ご感想などいただけると大変励みになります!よろしければ何卒~~~
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 新宿での戦いを終え、最初の春。清水が彼女にできることに尽力してくれている間、俺も自分にできることを全うすると決めた。呪術に関する知識のインプットとアウトプットの積み重ねは苦ではない。とはいえ、術師としての経験の浅さは一朝一夕でどうにかなるものではなかった。たとえば、すべての活動効率を高めるために脳と体の疲労と上手く付き合っていく必要がある。まさに今のような、任務後で疲れ切っている心身へのエネルギー補給は欠かせない。だから、目の前ではためく「季節限定! 桜と抹茶のもっちリング」ののぼりに引き寄せられるのも無理はなかった。

「ようは、甘いモンが食いたいっちゅー話だろ? 最初っからそう言え」──彼が一緒にいたら返ってきそうな台詞を脳内で再生しながら入店すると、漂い満ちる甘い香り。最後にドーナツショップで飲食したのはいつだったか。どこか懐かしくも確かに食欲をそそる匂いに鼻腔をくすぐられ、黄色いトレーとプラスチックのトングを手に取った。
 オールドスタイルのドーナツ、チョコレートのマフィン、グラタン入りのパイ、ホットコーヒー。結局は旬のオススメ商品にチャレンジすることなく、定番メニューの会計を済ませて店内を見渡す。間食には遅く夕飯には早い時間帯だからか、店内の客はまばらだった。ソファー掛けのテーブル席に座ってしまえば最後、疲労感から立ち上がれなくなるだろう。少し迷って、ガラス張りのカウンター席を選びスツールに腰を掛けた。人通りを横目に食事とは些か落ち着かないが、もともと長居するつもりはない。手早く糖分を摂取して、店をあとにしよう。そう決めて、黙々とカロリーの塊を片付けている最中のことだった。

「ひーろーちゃんっ」
 左斜め後ろの頭上から、気恥ずかしいあだ名が降ってくる。現在、身の回りで俺をこう呼ぶ人間は一人しかいない。
「星……驚かせるな」
「え~? 全然驚いてなくない?」
 寛ちゃんもドーナツとか食べんだねぇ。なんかうける! と言いながら問答無用で隣に座る星のトレイには、いかにも春らしいピンクや緑の輪が乗っていた。その隣には、カラフルな紙箱に色とりどりの小さな球体が詰め合わせてある。そんなことより。
「秤は一緒じゃないのか」
「うん! 今日は別行動」
 そろそろタトゥー入れたくて、向かいのスタジオにカウンセリング行ってきたんだぁ。帰ろうとしたら、寛ちゃんいるんだもん。ねえ、座って話すのいつ振り? 2人だけで喋るの初めてだっけ? とにかく、私もお腹すいてたからドーナツ食べようと思って!
 飛び飛びの話題に振り落とされないようについていく俺には目もくれず、星は鮮やかにきらめく半透明のドリンクを顔に添え写真を撮っている。矢継ぎ早に「いただきま~す!」と声をあげたところで、他の客や店員から視線を集めていることに気がついた。なんなら、ガラスを挟んだ往来の人々からも注目されている気さえする。おそらく、勘違いではない。星は夏を先取りしているのか、肩も腹も布で隠す気はないらしい。よく見るとズボン(と呼んでいいのかコレは)の丈も太腿の1/3程度しかなく、逆にブーツは膝上を覆っている。妙齢かつ女性的な装い。一方の俺はというと、スーツに身を固めた中年といっても差し支えない男性である。この組み合わせは……
「もしかして、パパ活と思われてる?!」
 店内外から向けられる好奇に気づいた星がケタケタと笑い、居た堪れなさが募る。悲しいが、疑惑の目を向けられても致し方ない佇まいだと思う。
「職質されたら私が守ったげる!」
「……極力避けたいが、よろしく頼む」
 術師として生活していくなかで「自分が守られる側になること」、もっというと「未成年に助けてもらう場面があること」にいまだ慣れない。そして、星は決戦のときから俺を守ってくれていたことに思い至る。加えて、あのときの礼がまだできていないことにも。この場を借りて感謝を伝えたい。そう思い隣に視線をやると、星はいつの間にか緊張した面持ちで俯いていた。伝えたいことがあるけれど、どう切り出したらいいかわからない。横顔にそう書いてある。手持ち無沙汰にストローで氷を突く仕草からは、年相応のいじらしさを感じた。

「お客様、コーヒーのおかわりはいかがですか」
 空になったカップに気づいた店員へ、「いただきます」と返す。すると、星はわかりやすく安堵の表情を浮かべた。
「ねぇ、寛ちゃん……」
「なんだ?」
 店員がレジのほうに去るのを待って、ついに星が口を開いた。俺は俺で、できるだけ声が柔らかく聞こえるように努める。
「覚えてる? 恵ちゃんが目を覚ました日、みんなで集まって話したときのこと」
「ああ、覚えている。星が怒って、憂憂を蹴ろうとしていた」
「そうだけど、違くて! 寛ちゃん、『生き残ってしまった』って……言ったでしょ? だから、私、悪いことしたのかなって……ずっと、申し訳なくて」
 懺悔のように響く、いつもより少し低い声。両の瞳に息づく一等星にまっすぐ射貫かれた俺は、「違う」とは言い切れなかった。なぜなら、あのときは本気で「生き残ってしまった」と感じていたから。だからといって、配慮のない言葉で星を傷つけてしまったなら謝罪したい。「申し訳ないのはこちらのほうだ」と謝りたかったが、俺の様子を察した星から「最後まで聞いて」と制止される。
「だけど最近、『私は間違ってなかった』って思えるようになったんだ。寛ちゃんの篤ちゃんを見る目が、と~っても熱いから」
「! それは……」
「金ちゃんがよく言うの。『熱がなきゃ恋もできない』って。でもそれ以前に、死んだら二度と熱くなれない。だから私は、私がしたことに後悔はしない」
 そう言い切った唇の下に座す銀色の十字が、冴え冴えとした光を放つ。太陽にも月にも負けないその強い輝きに、俺は何も言えなくなった。
「な~んか言いたいこと言ったらめっちゃお腹すいてきたぁ」
 星は黙ったままでいる俺に構わず、一口サイズの丸いドーナツを勢いよく口に運び出す。いい大人なのに、どうしようもなく気を遣わせている気がして情けない。今度はできるだけ、声が震えないように努める。
「星」
「なぁに?」
「ありがとう」
「うん! てか寛ちゃんさー、篤ちゃんのどこがいいの?」
 星の切り替えの早さは、心の底から見習いたい。くたびれたおっさんじゃん! と言いたげな表情で予想通り「くたびれたおっさんじゃん!」と続けられるが、ここは真摯に答えるのが礼儀だろう。それに「なぜ日下部に惹かれたか」について、実をいうと熟考したことがなかった。
「どこがいいか、正直そこまで突き詰めて考えたことはない。点と点をつないで魅力に触れていったというよりも、気づいたら面で包まれていたような感覚だろうか。俺としては、そういった抽象的な認識で他者を好ましく感じることは滅多に……いや、日下部が初めてだな」
 自己分析を終えると、星は口を開けて俺を見ていた。さすがに恥ずかしくなり「すまない、喋りすぎた」と詫びると、今日一番の爛々とした眼差しで人差し指を向けられた。
「寛ちゃん! 超~~~熱くなってんじゃん!」
 ウインクをして見せる星は、なんだか嬉しそうだ。ついでに、もうひとつ。ここにいない彼の名誉のため、付け加えておこう。
「ちなみに、日下部はそこまでくたびれていない。毎日元気だ」
 途端に動きを止めた星の頬に、ほのかな赤みが差す。俺は何か変なことを言っただろうか。
「やばい。金ちゃんに会いたい。今すぐギュ~ッてしたいし、してもらいたい!」
「そうだな。土産を買って、早く帰ろう」
 この機会に、商品を端から端まですべて購入してみるのもいい。日下部ならきっと、呆れて笑い少し怒って、完食するまで付き合ってくれる。窓外の空には沈みゆく夕日。その横で、綺羅星が金色に瞬いていた。

Comments

  • getu
    Apr 6th
  • nanao
    Apr 5th
  • ミッキー
    Apr 5th
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