インテの無配で出した寛篤
今日のインテで無配としてお出しした、篤也に褒められたい寛見の話です。
篤寛に見えますが最後はちゃんと寛篤です、ご安心ください(?)
↓以下は本日のお礼です。
立ち寄ってくださった皆さま本当にありがとうございました!
知り合い以外が来てくれるか本当に不安だったので嬉しかったです〜(泣)
新刊は来月の篤寛オンリーにも持って行きます(卓上には出しません)
それが終わったら残部を通販予定です、その際はどうぞよろしくお願いします!
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きっかけは、任務後の日車の頭を「良くやったじゃねえか」と撫でた事だった。
本格的に術師として働きはじめてまだ一ヶ月も経ってないというのに、一人で二級呪霊を易々と片付けてのけた。
以前に増しての人手不足の中でこれはありがたいとセットされた髪をかき混ぜるように撫で回し、うっかり学生達にするような褒め方をしちまったって慌てて手を引っ込めた。
不快そうに顔を顰めるとか、俺のうっかりをからかうとか、そういう反応が返ると思ったのに、日車が照れたように俯くから驚いた。
賛辞なんて慣れっこだろうに何だその反応はとこっちまで妙に照れてしまって、その時は「んじゃ、まあ、その調子で頑張ってくれな」とそそくさと逃げたもんだ。 それから数日後、高専の中を歩いていたら前からきょろきょろしながら日車がやって来た。
「おう、今戻りか?お疲れさん」
「日下部」
片手を上げて声をかけると、日車は途端にぱっと表情を明るくさせた。
おお、暗い顔をする事が多かったのにこんな笑顔を見せてくれるようになったか。
「きょろきょろしてたけど、誰か探してたのか」
「君を探してた。今日の分の任務を終えた。三件あったから夕方までかかる予定だったが、最初の二件をすぐ終わらせたから早く戻ってこられた」
視線を斜め下にやってぽそぽそと言う姿に、少し違和感。対面で話す時はしっかり相手の目を見る男なのに。
「…そうか。それで、俺に用って?」
違和感の原因は用件のせいかと、先を促した。何か言いづらい頼み事でもあるのではと。
しかし日車はその大きな瞳を丸くしてきょとんとする。
「…同行した補助監督も、こんなに早く終わるとは思わなかったと言っていた」
「ん?ああ…うん…良かったな?」
意味が分からん。
だから用件は何だと首を捻ると、日車が拗ねたように唇を尖らせてまた視線を落とした。
「…今日は、してくれないのか」
「ん?悪い、聞こえんかった」
「…この間は、頭を撫でてくれた」
「……………えっ」
思わぬ言葉に、たっぷり間が空いた。
何?今、何て言った?頭撫でろって言った?日車が?
混乱して固まる俺の袖を、日車の指先がついと引いた。
「この程度では、君に褒めてもらえないか…?」
「ッ…!良くやった!偉い!日車は凄い!でかした!」
普段のすまし顔など捨て去ってしょんぼりしてる日車に、反射的に両手でわしわしと頭を撫で回した。
嘘だろ、コイツ、俺に褒められたいの?
あの日車がまさかそんな、と何故かこっちが動揺しながら乱れた髪を軽く撫で付けて整えてやると、日車は嬉しそうに「ふふ」と笑った。
それからも日車の態度は特に変わらなかったが、任務が終わると表情を緩ませながら俺の所へ来るようになった。
「日下部、今日の任務が終わった。褒めてくれ」
なんて、明け透けに要求してくる。
あれかな、幼少の頃はともかく成長するにつれ天才天才ともてはやされるようになって、こうして頭を撫でられたりシンプルに褒められる事が無くなっていたのかもしれない。
俺にデメリットがあるわけでも無いし、人目は避けてるからまあいいかと、「上出来だ」「頑張ったな」と頭を撫でてやる。それだけで日車は頬を緩ませて喜んだ。
他の奴には見せないその顔に、密かに優越感を覚えた。
日車のおねだりは日に日にエスカレートしていった。
最初は、「一緒にご飯を食べたい」だった。
それまでも食事を共にする事はあったし、断る理由も無い。二つ返事で頷いて、それから昼夜問わず食事を共にする機会が増えた。
「名前で呼んでほしい。君の事も、名前で呼びたい」
次の要求には戸惑ったが、それぐらい心を開いてくれたのだろうとこれにも頷いた。
日車が所構わず名前を呼んでくるような奴じゃない事は分かっていたし、実際そうだった。
第三者の居る前では「日下部」と呼んできたし、俺も「日車」と呼んだ。
人気の無い時に「篤也」と呼ばれたので、同じように「寛見」と返すと、また嬉しそうな顔。
もしかしたらその優秀さ故に子供らしい子供時代が無かったのかもしれないなんて想像すると、情が湧いた。
心の変化を見透かしたように、次のおねだりは更に一歩踏み込んだ物になった。
「ハグをしてくれないか」
「……えっ」
さすがに戸惑いが声に現れた。
ハグ、は…この歳のおっさん二人がするもんじゃ無いだろう。外国人じゃあるまいし。
「あ〜……、どしたぁ?疲れてんのか?ちょっと任務減らしてもらうか?」
誤魔化すように頭を撫でてやっても、日車はいつか見たような拗ねた顔で黙りこくってしまう。
悩んだ末に、分かったと息を吐いた。頭を撫でていた手を背に回し、片腕で軽く抱き寄せる。
至近距離にある顔を意識してしまって、そっぽを向きながらぽんぽんと背を叩く。
「はいはい、こうですか?」
おっさん二人、それも平均より体格のいい俺達が抱き合ってるなんてなんのジョークかと思うし、こそばゆい。
すぐに体を離そうとしたのに、日車の両腕が俺の背に回りぎゅうとしがみつかれた。
「ッ…!おい…!」
「篤也…」
さすがにそれは無いと引き剥がそうとしたけど、日車が思いがけず小さな声で名前を呼ぶので無理矢理剥がすのはなんだか可哀想に思えて。
「ほんと何なのお前…。うっ!?匂いを嗅ぐなッ…!」
肩に顔を埋めてすんすんとその大きな鼻を鳴らされ、背中にぞわぞわと悪寒が走った。
「篤也はいい匂いだな…」
「おっさんの匂いにいいも悪いもあるかッ…!もう離れろ!」
「ああ、篤也ッ…」
名残惜しそうに手を伸ばす日車を振り切り、バクバクうるさい心臓と共にその場を去った。
こないだから何なんだ、一体どういうつもりなんだと混乱して、ふと思い至る。…もしかして幼児退行とかいうんじゃねえだろうな?
褒めて欲しいだの頭を撫でて欲しいだの…挙句にハグだ。よっぽど愛情に飢えてたのか…それともメンタルにダメージがある?
そうだよな、いくら有能だろうと術式が目覚めてまだ一年そこらだし、辛い事もあったし…。
それなら冷たくあしらうのは良くないかもしれない。
いや、でも他にはそんな兆候無いしやっぱり…などと頭を悩ませつつ、それからも日車は毎日のように俺の所へやってきては両手を広げるようになった。
「篤也、今日の任務が終わった。何も問題無しだ」
「ん」
真正面からぎゅうぎゅうと抱き締められる事を、もう受け入れた。首筋の匂いを嗅がれる事には慣れなかったしおっさん同士で抱き合ってるという絵面を客観的に想像したら笑えなかった。
でも、日車が尻尾を振る大型犬みたいに喜ぶからまあいいや、なんて好きにさせたのが悪かったようだ。
「キスして欲しい」
期待するように上目遣いをする日車に、思わず反射で「調子のんじゃねえ」と拒絶が出た。
そりゃそうだろう。俺はホモじゃないしコイツは俺の恋人でも何でも無い。俺の拒絶は当然の反応だ。
なのに日車は、見た事無い程ショックを受けた顔をした。
「ッ…!で、でも篤也。俺は今日呪詛師を二人も捕縛してきた…」
「そういう問題じゃねえよ。何で俺がお前にキスなんかするんだっちゅう話」
言わなくても分かるだろと呆れれば、日車は泣きそうに顔を歪めた。
「ッ…俺はまだ篤也に認めてもらえる程の成果をあげられていないんだな…」
震える声でそう言って逃げるように立ち去った日車に、罪悪感が首をもたげた。
俺が悪いのか?えっ俺の反応がおかしいのか!?おかしくないよな!?
誰に問うでもなく頭の中でぐるぐると思考を巡らせた翌日、信じられない知らせを受けた。
日車が任務で大怪我をして、医務室に運ばれたという。
当てつけかよ。俺がお前の要求を飲まなきゃ、自分の身を危険に晒すってか?
今まで甘やかしすぎたかもしれん、一言文句を、いや注意しようと様子を見に行った。
他に人の居ない薄暗い医務室のベッドの上、日車は布団の中で丸まってぶつぶつと呟いていた。
何言ってんだ?とそっと近付いて、驚いた。
「こんな事では篤也に褒めてもらえない…俺は本当にダメな男だ…篤也に褒めてもらうにはもっと成果を出さなくては…」
布団に包まってるせいで聞き取り辛かったが、日車はそんなような事を繰り返し呟いていた。
ちょっと待て…、コイツ、そこまで俺に褒められたいのか?
何故、どうして、とその場で立ち尽くす。
もしかして、術師になったばかりの時にうっかり頭を撫でたりしたから?俺に褒められる事が術師をやる理由になっちまった、とか…?
…だとしたら百パー俺の自己責任じゃねえか!
「日車、出てこい」
声をかけると布団の山がビクリと震えた。そのまま無言が続き、そっと山に手を添える。
「…寛見。そんなとこに居たら出来ねえだろ?…あー、その…キ、キス…」
「ッ!?」
羞恥から小さくなる語尾を聞き逃さなかった日車が、ガバリと勢いよく起き上がった。
「いいのか…!?でも、俺は今日こんな無様を晒して…」
「でも任務はちゃんとこなしてきたろ、こんな怪我するまで。…言っとくけど口にはしねえからな!?」
「分かった」
肩に手を添えると、わくわくと期待に満ちた顔をして見上げてくる。
やっぱりこのデカい瞳は泣きそうに歪んでるよりこっちの方がいいな。
「じっとしてろよ」
顎を掴んで少し顔を逸らさせ、頬に唇を寄せる。
俺のカサついた唇でふに、と触れた頬は思ったよりすべすべしていた。
「…ほら、これでいいか?」
顎を掴んでいた手を離すと、逆に手を取られた。高揚した顔の日車が嬉しそうに見上げてくる。
「篤也、もう一回…いや、もっとして欲しい。…お願いだ」
あ〜、やめてくれ…!そんな犬みたいな顔して俺を見ないでくれ!
はあ、と諦めに近いため息を吐いて隣に腰掛けると、日車が頬を差し出しながら体を寄せてきた。
何度かリップ音を鳴らしてキスしてやりながら、「怪我の具合は」と聞く。
「反転を回したからもう治ってる。血を流したから一応休んでいけと言われただけだ。篤也が来てくれたしキスしてくれたから元気になった」
ご機嫌な日車に、「ならいい」と返した。
さっきまで布団の中でしょぼくれていたというのに、今はころりと笑顔になっている日車に苦笑する。
怪我をしたと聞けば心配するし、表情が曇っていれば笑顔にしてやりたくなるし、俺が面倒みてやりたいと思う。
体の内から湧き上がるこの気持ちは何だろう。もしかしてこれが父性だろうか?
こんな事で喜ぶ日車を可愛いと思うし、こんな事で喜ぶなら頬にキスぐらいしてやりたいとも思う。
それからの日車はもう遠慮も無くなった。人目が無いと任務帰りなど関係無く俺を抱き締め、キスしてくれとばかりに頬を向ける。
他の奴の前ではスンと澄ましている事の多い日車が、俺には大型犬のようにまとわりついて懐いてくるのは正直気分が良かった。だから拒否する事もせず、好きにさせた。
「今日も一人での任務だ。最近篤也と同じ任務に就かせてもらえない…」
「それだけ先を期待されてるって事だ。頑張ってこい」
背後から俺を抱き締め肩にぐりぐりと顔を押し付ける日車の頭をぐしゃりと撫でて、差し出された頬に望み通りキスをしてやる。
並外れた才能のある奴だが、一級への昇格を拒否していると聞いて理由を尋ねた。
「高専の思惑通りになりたくないというくだらない反抗心もあるが…。何より、一級に上がったら篤也との合同任務も無くなってしまうじゃないか…。ただでさえ最近君とは別行動ばかりなのに…」
なんてそっぽを向く日車に、俺は少々焦った。
一級術師の数は少ない。日車程の男が一級術師に名を連ねれば高専としても俺としても随分助かる。
上からも、日車を説得するよう圧をかけられてる。
「そう言うなよ。何も悪い事ばっかじゃない。…あー、そうだ、頑張ったらご褒美やるから。なっ?」
「ご褒美…?分かった。それなら尽力しよう」
「よしよし、偉いぞ」
「約束だぞ篤也、俺が一級に上がったらご褒美をくれるな?」
「ああ、約束な」
念押ししてくる日車に頷いた翌週には、一級に昇格していた。さすがとしか言いようがない。
「篤也、今日から君と同じ一級だ。俺は約束を守ったぞ」
「ああ、約束だもんな。どっか飯と酒の美味い店でお祝いするか。奮発してやるぞ、何食いたい?」
満面の笑みで報告に来た日車の頭を撫でてやると、日車は「君の家がいい」と言う。
「ご褒美も、その時に」
俺の家?今度は何だ?まさか口にキスして欲しいとか言い出すんじゃないだろうな。
最近じゃちっぽけな父性が育っちまったのか、日車がにこにこしながら寄ってくるだけで可愛いと思えるようになっちまった。
それを察してるのか、日車も頬にキスする時に唇の端に当たるようにちょっと顔をずらすようになってきた。
そこまでしてるなら口にキスぐらい…いいか?う〜ん、いや、でも、キス…キスかあ…。さすがに無いかあ?う〜ん…。
「じゃあ俺の家行くか。簡単な物なら作ってやるよ」
まあなるようになるかと深く考えず、仕事終わりに日車を家に連れ込んだ。
とりあえずと冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して腰を下ろした途端、俺は日車に押し倒された。
「………は?」
「あんなに警戒心の強い君が、俺に対してだけ無防備になるのは何故なんだ?…その迂闊さが、愛らしくてたまらない」
笑いながら俺に跨ってネクタイを解く日車は、いつもの犬みたいな可愛さなど無い。
そこにあるのは、欲情を隠しきれない男の顔。
俺はずっと、とんだ勘違いをしていた事を思い知る。
ああ…俺って、最初から狙われていたんだ。最初から、ずっと。
「篤也、約束通りご褒美をくれ」
「あ…待て…ひぐ、寛見ッ…」
制止する為に伸ばした手を取られ、指先を甘噛みされる。
「ご褒美は君がいい」