ノドグロ 世界初の完全養殖 成功までに乗り越えた三つの壁…能登半島地震の試練も
転機は22年。試しに水中の酸素濃度を変えてみたところ、最大限まで酸素を注入した海水で育てた仔魚の生存率は20~30%まで上がり、約1万匹の稚魚に成長した。なぜ酸素濃度を上げると、浮袋の異常が抑えられるのかはよくわかっていないという。
能登地震で破損
22年に稚魚となったノドグロは順調に成長したものの、最後の壁は24年1月に発生した能登半島地震だった。実験場でも地下の配管が破損するなどのトラブルに見舞われた。なんとか生き残った魚で人工授精を行い、25年10月に初めて孵化に成功。稚魚まで育ち、飼育下で孵化させた親魚から再び稚魚を得るという完全養殖を成し遂げた。現在は、約6800匹の稚魚が元気に泳ぎ回り、成魚まで2年半ほどかかる見込みだ。
30年頃の商品化を目指すチームの目下の大きな課題は、孵化させた稚魚の9割以上が雄になってしまうこと。その原因は不明だが、ノドグロは雌の方が体が大きいため、雌の数を増やそうと、餌の工夫などに挑んでいる。
特に孵化直後のノドグロは周囲の光や音に敏感で、実験場の外を大型トラックが通るだけで死んでしまうこともあった。中村さんは「夜通し見回るなど大変な時期もあったが、何とか完全養殖を達成できた。高級魚の味を届けられるよう、今後も試行錯誤を重ねたい」と話している。
漁獲量 16年がピーク
皮を火であぶって刺し身で食べると絶品のノドグロは島根県などの特産だ。2014年にテニスの全米オープンで日本人初の準優勝を果たした同県出身の錦織圭選手(36)が、記者会見で食べたいものとして紹介し、一躍人気となった。
水産庁の報告書によると、日本海側の国内漁獲量は、07年以降増加傾向で、16年に1813トンとピークに。その後減少傾向に転じ、23年には4割減の1081トンとなっている。
ノドグロの生態に詳しい国立研究開発法人「水産研究・教育機構」の八木佑太さん(43)によると、漁業者側が近年、資源保護を目的に、サイズの小さいものは捕らない工夫をしていることが背景にあるという。富山県なども、天然のノドグロから得た卵を人工孵化させた稚魚を海で育てる栽培漁業の研究を進めている。
八木さんは「ノドグロを育てる研究を通じて、未解明だった生態がわかれば、天然資源の保全にも役立つ」としている。