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ドイツで肉屋の試験を受けた話

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こんにちは、私はソーセージが好きすぎて単身ドイツへ飛び、肉屋で働き出して今年で2年目の日本人です

突然だが、Ausbildung(アウスビルドゥング)という言葉をご存じだろうか
これはドイツ語で『職業訓練』を意味する言葉である

ドイツには、学校での座学+企業での実務を同時に行いながら資格取得を目指せる職人育成システムがある
職業の種類は、医療系・技術系・サービス系と多岐にわたり、そのうちの一つに肉屋も含まれる
肉屋の場合、3年の訓練期間を経て、最終試験に合格した人だけがゲゼレ(職業訓練制度を修了した人)としての資格を受け取ることが出来る

私はこのドイツの職業訓練制度を利用して肉屋で働いており、今現在、訓練生としては2年目である
そして我々、訓練2年目の後半には特別な中間試験が待ち受けている
肉屋としての実力を測る実技試験と、知識を測る筆記試験の両方があり、この両方の試験を乗り越えた者だけが3年目の最終試験に臨む資格が与えられる
この記事では、今年の3月末に私が受けてきたこの中間試験についての話をしたい

大体、試験の2週間前に家のポストへ招待状が書面で届く
そこに試験番号・日程・会場・試験内容・持ち物などが詳細に記されており、当日はこの招待状を持参するよう指示される
つまり、この招待状が無いと試験を受けることができないのだ

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実際の試験の招待状

招待状には、肉屋の中間試験の試験内容が細かく記載されている
大きく分けて以下の4つに分かれていて、

❶豚の半身の解体
❷調味料/腸の見分け方・腸詰め
❸調理済み製品の製造
❹Rollbratenの製造

それぞれ簡単に説明すると

①豚の半身の解体
これは名前の通り豚の半身の解体である
自分の勤める会社から試験会場まで豚の半身を運搬してもらい、それを私が会場で実際に各17の部位に解体
その様子や仕上がりを見て試験官が正しく捌けているかを採点する試験

②調味料・腸・腸詰めのテスト
調味料は、ソーセージ製造でよく使われる代表的な調味料が数種類机の上に並べられ、それを見た目と匂いのみで名前を当てるテスト
腸は、机に置かれた3種類の腸を見てそれそれがどの動物由来の、何と呼ばれる腸なのかを答えるテスト
腸詰めは、事前に用意された肉だねを腸詰機を使って上手く腸の中に肉を詰めることができるか見るテストである

③調理済み製品の製造
これは先程解体した豚肉の一部を使って肉料理を作る試験
作る料理に決まりは無く、どんな肉料理を作るかは受験生自身が決めなければならない
肉料理を作ると言っても火を通す直前までの調理でOKで、生肉の状態でお皿にデコレーションを共に添えて盛り付けする
その最終的な仕上がりや盛り付けの美しさを審査されるテストである

④Rollbratenの製造
Rollbraten(ロールブラーテン)とは肉を巻いて焼いたドイツ肉屋の定番料理の一種
主に薄く広げた豚肉や牛肉を使い、野菜やチーズなど好みの具材をクルクル巻いて糸で縛ったものを焼いて食べる
見た目はチャーシューに近いが、中に色とりどりの食材が巻かれる事で断面に個性の出る料理である
これも調理済み製品の製造と同様、加熱前の状態まで仕上げてデコレーションと共にお皿に盛り付ける

以上が肉屋中間試験の内容の概要である
この概要は受験者全ての家に直接届く招待状に詳しく記載がある
加えて、この招待状には『試験で必要なものは全て持ってくるように』という指示もある
ここで言う全てとは、本当に全てのことである
例えば、基本的な道具、ナイフ・肉屋が着る鎖で出来た重たいエプロンや手袋・制服から始まり、
調理済み製品を作る為の具材・調味料・Rollbratenに詰める食材・盛り付ける皿・デコレーション用の食品等・そのほか自分で必要だと感じたものetc...
会場にあるのは本当に「場所」だけで、試験で提出すべきものは全て持参しなければならない
故に大変な大荷物となる為、基本的には生徒一人が自力で荷物を持参するのではなく、生徒が働く企業側が車で試験会場まで荷物を運んでくれる流れになっている

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試験用の持ち物を箱に詰めてる様子

私の受験日が月曜日だったので、前の週の金曜日に準備を開始
清掃業務も終えた金曜の午後、同僚が先に帰って行くのを横目に、箱の中に自分の持ち物を一つ一つ確認しながら詰めていく
料理を盛り付ける皿を職場の棚から適当に選んで入れたら、上司に「銀より黒のトレーがいいよ」と勧めてもらったり、
別部署の上司も私が試験の準備をしている様子を見て、職場で一番切れ味のいいピーラーを貸してくれたり、
同僚らも帰り際に「Viel Glück!」「good luck!」と、私に応援の一声をかけて帰って行った

みんなが私の試験を気にかけてくれている まだ試験前なのにもう既に少し緊張が高まって来た
家で作った持ち物リストと箱の中身を見比べながら、忘れ物は無いか確認をする
入念な確認の元、最終的に私の持ち物は箱二ついっぱいに収まり、それを上司に預けこの日は帰宅 

帰宅してからも、招待状の中身を今一度確認する
先生も同僚にも何度も試験に関しての質問を何度もしたが、その度みんなが口をそろえて「招待状に全部書いてあるから!」と私に教えてくれた
だから私は何度も何度も招待状に書かれていることを確認し、とりあえずこれにさえ従っていればOK!と内容を頭に叩き込む

招待状のことを信じていれば大丈夫、私は招待状に書いてあることに従っていればいいんだ
結果、この考えが正しくもあり間違っていた事に気づくのは試験の後のことである

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午前2時の朝食、春雨サラダ

週末はあっという間に過ぎ、とうとう試験当日の月曜日
朝ごはんを食べながら試験のイメトレをする

しかし、どの場面を想像しても様々な不安が浮かび上がってくる
試験官に言われた言葉が理解できなかったらどうしよう
聞き返せればいいのだがそうもいかないタイミングもあるだろうし、何より本当に知らない単語を言われたら詰む
加えて肉屋は刃物を扱う仕事であるが故に、ケガの心配は常である
緊張のあまり手が滑って大けがでもしたらどうしよう
現に私の周りでも、勤務中に機械や刃物による大ケガをして1カ月以上休まざるを得なくなった人を、少なくとも2人は知っている
彼らを思うと、いつも私のお腹の底に重たい氷が溜まったようになるし、次は私だと思わない日は無い

月曜日の早朝、まだ何も始まっていないのに緊張が高まってしまったので、落ち着くためにRentaで和山やま先生のファミレス行こ。の下巻を購入して読んだ
そうして感情をメチャクチャにされた私は、遅刻ギリギリの時間に逃げるように家を飛び出た
まだ空が薄暗い午前6時20分 メンタルが整わないまま電車を乗り継ぎ、1時間以上かかったがなんとか試験会場のある建物に到着することができた

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めんそーれと言う文字列をドイツで初めて見た

受付カウンターで試験会場の場所を訪ねると、親切に道を教えてくれた
辿り着いた更衣室で持参した制服に着替え更衣室を出ると、同級生たちがちらほらと到着し始めていて、軽く挨拶をする

試験をする部屋は広く、まな板の付いた作業台がいくつも並んでいる
まずは手洗い場でハンドソープを使い、肘まで洗ってから両手を消毒する
見回すと部屋には肉屋で使う基本的な機械がずらり揃っており、恐らく後ほど試験で使われるであろう腸詰め機もあった それほど大きく無いが冷蔵室もある
みんな、誰に言われるでもなくなんとなく自分のスペースを陣取り始めていたので、私もなんとなく空いている作業台の前に立ってみる 今日ここで私は豚を捌くのか

しばらくすると試験官がやってきて、各々の企業から荷物や豚の半身が搬入され始める
最後の方に私の荷物の入った赤い箱と豚の半身も届き、早速先ほど陣取った作業台で荷物の整理を始める

私は事前に赤い箱2つ分に今日必要な道具の全てをギチギチに収めておいたのだが、ふと周りの他の生徒たちを見回すと箱4つとか5つ分の荷物を持ってきている
何をそんなに持って来ているのだ もしかして私が何か重大な忘れ物をしてるんじゃないか

うっすらとした不安に襲われる中、私にはまた別の不安もあった
これから始まる豚の半身の解体は、上司や同僚曰く3時間で捌ききらなければならないらしい
私は職場で解体作業をする時はいつもタイムを計っていたのだが、正直3時間で全てをやり切れた事は一度も無かった
解体しておおまかな部位に分けることは出来ても、解体の際に出た余りの豚肉をS1~S12まで分類し等級分けしきる事がどうしても難しかった

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肉の脂肪・鍵の量や、どの部位から取れたかによって豚肉をS1〜12に等級分けして分類する練習した時の写真

幸い、今日は実際の仕事と違って途中で急に話しかけられたり、別の指示を与えられたりして、作業を中断せざるを得なかったりすることは無い
ただ解体だけに集中できるある意味では貴重な機会だ ベストを尽くすしか無い

そんなことを思いながらナイフを作業台の上に並べていたら、試験官の一人が言った

「それでは、豚の半身の解体は7:20開始で終了が9:20とします」

7:20開始で9:20終了か、覚えておこうと思ったその瞬間思考が停止した
2時間しかない???
私の頭は真っ白になった

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試験開始直前、唐突に身体に試験番号を貼られる

混乱する私を置き去りに、無情にも試験は始まった 
そこから何度か試験官が時間について口に出していたが、何度聞いても2時間しかなかった
やばい これは いつものスピードでやっていたら100%間に合わない

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授業で描いた豚の解体方法のポスター的なもの

詳しい解体方法を説明すると長くなるので省くが、まず始めは大体上の画像のように吊るされた状態のまま頭→豚バラ→肩肉+首肉→ヒレ肉→背肉→もも肉という順番で各部位を大まかに切り出していく
ここまで出来たら、残りの作業は全て作業台の上で行う

まな板の上にずらり並べた部位の中から、いつも通りもも肉から着手する
豚の足部分を間接に沿って切り離し、台の上でくるりと回して今度はしっぽの骨を外す
焦らず、でも急いで、しかし気を付けるべき場所には気を配って、集中力を高めながら解体を進める
止めることなく右手を動かし続けながら、私は上司の言葉を思い出していた

「〇〇(←私の名前)、丁寧にやる事はいいことだよ
でも試験では時間が無いから、こう、ざっくり切っちゃっていいんだよ」

そういいながら目の前で、ナイフを肉と骨の間に大胆に差し入れ、そのまま手を素早く引いてあっという間に骨を外してみせた上司
そこには確かに、むしろその方が綺麗かもしれないと思える豚の肩肉があった

今はあれをやるしかない ただでさえ時間が無いのだ
私はあの時の上司の動きを思い出し真似して思い切って切ってみた

ザクッ めちゃくちゃな所にナイフが入ってしまった 慌てて修正に注力する
結局、練習で出来ないことは本番でできる訳ないのである 反省していつものやり方に戻す

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職場で解体練習してた時の写真

試験では豚の半身を頭から後ろ足まで、計17部位に切り分け机に並べる
本当は全ての部位の名前を挙げて、それぞれの解体方法などについて語りたいことが山ほどあるのだが、それを今するとあまりに長すぎてしまうのでここでは割愛

本来、これら17の部位は仕上げる際、「こうした方が見栄えがいい」というような細かなお約束が色々ある
しかし今日はそこまで追ってられない とにかく切り分けて切り分けて、終わらせることが出来なければいけない
もし奇跡的に全て時間内に終えられ、かつ時間的余裕があればそこまで追えるが、恐らく今日の2時間でそれは望めない
とにかく今は切り分け続ける 切って切って切り続けるしか無い
一つの部位を最低限の形だけ整えたら、直ぐに次の部位に取り掛かるの繰り返し
普段職場で捌くよりちょっと雑な仕上がりに「本当はもっときれいにできるのに」と思いながら、次の部位に取り掛かるしかない
とにかく時間が無いのだ 繰り返し繰り返し、時計も見る余裕も無くただただ目の前の肉を捌き続ける

黙々と肉を捌いて、また次の部位を捌く
2時間という時間が、思ったより長いような、いや全然そんなことないような不思議な感覚の中夢中で肉と骨と格闘を続ける
気づけばあっという間に、残り15分という時間になった

目の前には捌ききれてない肉が、まだそれなりにある
17の部位に切り分ける作業は全て済んでおり、後は予想通り、解体の際に出た細かな肉の分類が間に合っていない 急がなければ
残り10分、まだ終わらない
残り5分、あと少しだ あと少しなのに、5分では足りない

そして、あっけなく終了の時間が試験官から告げられ、私はナイフから手を離した
濃厚な2時間が、終わった
最終的に私は、全体の作業を100%で表すなら、92%くらいの作業を終えることが出来た
目の前に残っているのは、豚皮にくっついた脂肪をはがす工程だけだった

2時間の解体作業が終わり、まな板の上の肉を整理していた時、私は私自身に驚いていた
普段なら3時間あっても終えられない作業を、本番では2時間で9割終えることが出来た その結果が目の前にある
職場で何度も練習したが、たった2時間では、絶対にここまで出来ていなかった

作業中は特に特別な感覚は無かったが、いつもより格段に集中できていたのは確かだ 魔法にかかっていたようだった
周りも、みんな時間ギリギリまでナイフを握って捌き続けていた 試験時間の2時間は、結果として丁度いい時間配分なのかもしれない

そこから間を置かず、私は調味料・腸・ソーセージの腸詰めのテストの呼ばれる
同じ部屋の別のテーブルに呼ばれ、試験官3人に囲まれてそれは始まった

まずは机の上に並んだ5つの調味料を見る・嗅ぐをして名前を当てるテスト
私はこのテストの為、肉屋で使われがちな典型的な調味料を一通りスーパーで買って、昨日のうちに見た目の色や香りを頭に叩き込んでいた
それが功を奏し、5つ中4つをかなりスムーズに答えた 残り一つは、どうしてもドイツ語名が出てこずしばらく黙り込んだが奇跡的に名前を思い出せた
30秒くらいの沈黙の後、私の口から「Kümmel…!(※キャラウェイの実)」と出た時の、試験官全員がバッ!と顔を上げた瞬間の光景が忘れられない

次に腸を見てどの動物の腸か当てるテスト
これは簡単である 腸の太さを見て一番細いのが羊、中くらいが豚、一番大きいのが牛と答えればいいだけ
そしてここで思わぬ追加質問 「それぞれ何の製品に使う?」と試験官に尋ねられた
まさかそんな質問が来るとは予想しておらず、一瞬言葉に詰まった
私は脳内で職場と学校の知識を総動員し、そして
「羊腸がウィンナー、豚腸がボックブルスト、牛腸が血のソーセージ」
と、落ち着いて答えることが出来た 正直すごく安心した

そして間を置かずに腸詰のテスト
予め用意された肉だねを使い、腸詰機を操作しながら8本ほど豚腸の中に詰め込んでソーセージの形にしていく

まず1本目で、太さの均一でないソーセージが出来てしまった
試験官の一人に「ganz ruhig(落ち着いて)」と声を掛けられる そうだ落ち着かなければ
機械を使った腸詰は家で練習できない 私は1本目のソーセージの形を指で整えてから次の2本目、3本目の腸詰を進める
幸いにも、前の週に職場で練習させてもらえたおかげで、それ以降はつまづく事も無く、スムーズに詰めることが出来た

そうして腸詰したソーセージを、燻製機用の棒にひっかけてこのフェーズは終わりかと思った

問題はここからだった またしても追加質問が来たのだ

ソーセージをぶら下げる時、ソーセージ同士の間隔を開けなければいけないのはなぜ?
この製品を作るときにPökelsalz(亜硝酸塩)を使う理由は?

私は思いもよらぬ問いに狼狽し、その場で職業学校で習った事や職場での経験を脳フル回転で思い出してみた

「ソーセージ同士がくっつかないように」
「ソーセージの発色のために」

思いつく単語を並べ立て、つたないドイツ語で喋る私に、試験官たちが厳しい視線を向ける
結局、完璧に答えることは出来なかった 単語や知識を思い出そうとして黙る度に、沈黙が苦しかった
こういった招待状には書かれていないが、口頭で周辺知識について質問をされたりすることを全く予想していなかった
私はすっかり招待状に書かれたことが全てだと信じ切って、周辺知識の予習を全くしていなかったのである
「招待状に書かれている事が全て」を鵜呑みにし過ぎてしまった結果である トホホ…

そして腸詰めテストが終わってから1時間の休憩時間が与えられ、一度試験会場を出るよう指示された
食堂で食事してきてもいいよと言われたが、特にお腹もすいてないので基本的に更衣室のベンチに座って時間をつぶす
女子更衣室には私の他にもう一人、今回の試験の参加者でクラスメイトの女の子がいた
なんとなく二人きり沈黙が気まずくて、あまり話したことはないが、私からつたないドイツ語で話しかけてみた

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あまりに暇で撮った床の写真

すると彼女は20歳で既に一人暮らしをしていて、今日の試験会場にも自分の車で来たという
なんならいつもの学校への登校も、電車でなく自分の車で来ていることも教えてくれた
その上Fleischerの職業訓練をする前には、Pflegerという動物のお世話をする別の職業訓練も3年間経験していると言う
そうか、彼女がなんとなく他のクラスメイトと比べて大人びて見えるのは、もう社会人として20歳ながら4年以上のキャリアがあるからなのか
その他にも静かな更衣室でぽつぽつと、お互いのことやドイツ語について話し合った

それでも、1時間をつぶすには私のコミュ力はあまりに低すぎて、最終的に彼女は「カードゲームでも持ってくればよかった」と漏らしていた

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あまりに暇で会場を徘徊してた時に撮った大麻のポスター(訳:大麻?職場ではダメ!)

休憩の途中、更衣室の扉がノックされ、開けると試験官の先生が順番に試験会場に来るように指示してきた
まずは私ではなくもう一人の彼女の方から その約10分後に私が呼ばれた

会場に戻ると、まずは先程捌いた豚肉の17の部位をそれぞれ指差しながら答えるように求められた
その次に「それらの部位を使ってどんな料理が提供できるか」と3度目の思わぬ追加質問がやって来た
例えば豚の背肉を使ってシュニッツェル、腰肉はステーキ肉として販売できるなど、実際にお客さんに売る時どうなっているかを答える質問である

私はここで完全につまづいた 学校や職場で学んだ知識を急いで総動員するが、17部位全ての使い道を完璧に答えることは出来なかった
全く答えられなかったわけではないが、それに答えるための語彙の準備が私の中であまりにできていなかったのだ

周りの人々に「招待状に書かれたことがすべてだから」と言われたことをそのまんま鵜呑みにした呑気な自分に、助走をつけてパイ投げでもしてやりたい気分だ
こんなに口頭質問があるならそう書いておいてくれ、と泣き言が出そうになるが後の祭り
とにかく間違いでも何でも、無回答だけは避けなければいけないと思った
答えなければ確実に0点である、何でもいいから答えなければ

答えがわからなくても解答欄は全て埋める、この精神を某ソシャゲから教わった私は、この日も、とにかく無言だけは可能な限り避け、とにかく口から出る言葉そのままに答え続けた
それがすべて正しい回答だったのかと聞かれたら絶対違うのだが、ボロボロなりに何かを答えることだけは出来た
どうしても無言で黙りこくり床を見つめたり「keine Ahnung(わからない)」で押し通す事だけはしたくなかったのだ

しかし当然ちゃんと答えられるに越したことはないので、もし今後Fleischerの中間試験を受ける人がいたら、どうぞこの記事を踏み台にしてほしい
全く同じ質問が起こるかどうかは保証できないが、この記事が何か少しでもお役に立てることを祈っている

そうして豚の解体に関する質問・採点が全員分終了した頃、各自作業台上の豚肉を片付けるように指示される
私はいつも職場でそうするように、持参した赤い箱に切り分けた肉を並べていく
そこで私はまたまた自分の致命的なミスに気付いた
箱が足りないのである

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※赤い箱です

本来、豚の半身を解体したら最低でもこの赤い箱が4つは必要である
切り分けた17の部位を2つの箱に分けて入れ、もう2つの箱にS1~S12まで分類した肉の切れ端を敷き詰める
しかしどんなにぎゅうぎゅうに詰め込んでも、17の部位を入れるだけで私の持参した2つの箱はパンパン
そうか 他のみんなこの肉を持って帰るときのことを考えて沢山箱を持ち込んでいたのか
この、少し考えればわかるようなことを「招待状に書かれてることが全て」と鵜呑みにし何も考えなかった結果がこれである 今日何回目だよこれもう泣きたいでござる

泣く泣く試験官に「赤い箱ってもう1つくらいありませんかね…」と尋ねたら即答で「無い」と言われ途方に暮れていたら、それを見ていた同級生の一人が「これ使う?」と箱を一つくれた
有難く頂いて計三つの箱を使いギチギチに肉を詰め込んだ

それらを会場の冷蔵室にしまい込んだ後、間もなく次の試験の準備が始める
残る試験、「ロールブラーテンの製造」と「調理済み製品の製造」である
ロールブラーテンはドイツ肉屋の訓練生・中間試験の定番科目
薄く開いた豚肉に好きな具材を入れてグルグル巻きにして、糸で縛ったものをオーブン等でじっくり焼く料理
しかし試験では糸で縛るまでが我々の課題であり、火は通さずにお皿にデコレーションと共に盛り付けるだけ

もう一つの調理済み製品の製造は、「これ!」と決まった料理を作るわけではない
よく肉屋で提供される典型的な肉料理の中から自分で好きなものを選び取り、こちらも火を通す前の状態まで作り上げ皿に盛り付ける
そしてその料理の付け合わせも評価対象になるので、忘れずに準備しておかなければならない
私は、薄く叩いた豚ロース肉の中にチーズとハムを挟んでパン粉を挟み揚げ焼きにするCordon Bleu(コルドン・ブルー)を作ることにしていた
ドイツの定番肉料理の一つでありながら、作業工程がとてもシンプルで全く難しくない
付け合わせである塩茹でじゃがいもとレモンのスライスは前日のうちに家で仕込みタッパに詰めこんだものを持ってきている 準備は万端だ
ちなみに作ったものは原則持ち帰らなければならないので、無料で肉料理が持ち帰れるラッキーイベントでもある

そして試験の後半部分が始まった どちらから始めてもいいのだが、まずは時間のかかるロールブラーテンから
先ほど豚の半身から切り出した筒状の豚の背肉を、巻物を開いていくようにナイフを使って平たく切り開く
そうして長方形になった背肉の片面にたっぷりクリームチーズを塗り、その上にピーラーで薄くしたにんじんと細長く切ったパプリカを敷き詰めていく
具材で埋まった長方形の豚肉を、今度は恵方巻きの要領でグルグル巻いたら、紐を使い中央・両サイドの3点を、形が崩れないようきつく縛る
そこからその間にも紐を結びつけていき、紐同士の感覚が大体1cmくらいになるまで紐を巻き付け、縛る
ここの結び方がゆるかったり、結び目が直線でないと減点の対象になる 何度か結び直してようやくロールブラーテン本体の完成である

実はロールブラーテンの工程中に、先に捌いていた豚肉の回収に上司が会場までやってきた
想像よりずっと早い到着に焦りながらも、冷蔵室に仕舞い込んでいた3箱分の豚肉を渡して作業再開
その為少し作業台を離れたり、紐を結ぶのに手こずったおかげで時間が思ったよりかかってしまった
このフェーズに厳格な時間制限はないのだが、それでも周りと比べてペースが遅れると焦るものである

私は間を置かず、コルドンブルーの製造に取り掛かる
先ほども使った豚の背肉の余りを1cmくらいの厚さに切り落としたら、そこからさらに半分に開く
そこを持参した調理用ハンマーでぶったたき薄くしたら、そこにハムとチーズを一枚ずつ重ねて置いてパタンとたたむ
卵液にひたし、持参した味付きパン粉をまんべんなくまぶして完成!とっても簡単である
ちなみにここでは4人前の料理を作らなくてはいけないので、以上の作業を4回やる
比較的かんたん寄りな工程とはいえ、それなりの手間はある
焦らず、落ち着いて進める事で、なんとか滞りなく4枚分のコルドンブルーが出来上がった
私は職場から持参した皿に、自宅から持参した付け合わせも添えて盛り付ける

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完成したもの

私の料理が出来上がった頃は、周りの生徒たちはほとんど作業を終えて更衣室での休憩に入っていた
ポツポツと残った人の机をちらりと覗き見たら、野菜と豚肉を交互に刺した立派なBBQ串やズッキーニの肉詰め等が出来上がっていた
中にはものすごく凝ったデザインのデコレーションしている生徒もいた
お花の形に飾り切りしたビーツに、葉っぱに見立てたネギを添え、四角いお皿の四隅にそれぞれ異なる飾りを施している
瞬間悔しかった 私はとにかく試験を乗り切ることで頭がいっぱいで、点数を上げるためのもう一歩の工夫が眼中になかった
ロールブラーテンは具材であるパプリカとニンジンのシンプルな飾り
コルドンブルーの付け合わせも、茹でじゃがいもとスライスレモンのみ

定番の飾りだが、定番すぎるが故に見方によってはごく普通すぎて退屈な飾りとも言える
なんとか提出できる形に完成はしたが、他の人と比べた時あらわになった差が少しだけショックだった

こうして全員が料理を作り終え、試験官がそれぞれの食品を採点する間、我々受験生は片付けの準備をしていた
そこで私は更に絶望的な事実に気づくことになる
持って帰るべき荷物が多すぎるのである

まず作った料理のロールブラーテンとコルドンブルーは必ず持ち帰らなければならない
加えて元々は職場から車で運んでもらった鎖でできたエプロンと防水のエプロン、長靴、余った食材、ナイフやナイフ研ぎ用の棒、盛り付けに使った大きいお皿、その他細かな台所用具など
今着ている制服上下も脱いでカバンに詰め込み持ち帰らなければならない

本来、職場から持参したほとんどの荷物は全て肉の回収に来る上司に預けて車で運んでもらうはずだった
しかし、上司が回収に来た時点で調理試験の方が終わっておらず、それ以外渡せるものが何もなかったのである
まさか上司がちょっと早く回収に来すぎてしまったばかりに、試験の後にこんな大荷物が発生するなんて1mmも考えてなかった 今日一番の大誤算である

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なんとなく捨てられず持ち帰った試験番号

全ての試験・採点が終わり、片付けを指示された私は急いで作業台上の肉をラップで包み、全ての荷物を抱え更衣室に駆け込む
目の前には到底一人で運びきれそうもない荷物の山

とにかく出来る所までなんとか対応すべく、持参したリュックに衣服系・エコバッグ(大)に食べ物系・エコバッグ(小)にその他細かな雑品をテトリスのように詰め込んでみた
そしたら、なんとか、本当になんとか全てがギリギリで収まった
チャックが裂けるんじゃないかと思うほど極限まで詰め込んだリュックは、背負うと両肩に重く食い込み、下手したら後ろにコケる
そこに、大きな肉塊を含む食材・調味料等が入った大きなエコバッグが右肩にかかって更に追い打ちをかける
小さなエコバッグは左手の肘にひっかけて持つと、腕肉に食い込んでかなり痛い

更衣室には私と休憩時間に少し話したFleischerの女の子と私の二人だけである
何となく気まずくて、ねえ見て私めっちゃ荷物あるwと話しかけたら、「自分でやりなよ、じゃあね」と言い残し彼女は先に帰って行った
どうやら、少し話してお近づきになれたかもと思っていたのは私だけだったようだ
疲れている時にカタコトの言葉で一方的に話しかけてくる外国人などうっとうしい以外ないだろう
私は落ち込みかけた頭を強制的に切り替えて、急いで荷物をまとめ更衣室を出た

私は大荷物を抱えヨロヨロと会場を後にした
人生でこんな大荷物を一度に運んだ記憶は、手作りのコピー本を詰めた荷物を引きずって参加した同人イベント以来だ
3つの大きなカバンを153cm中肉中背女が抱え、おぼつかない足取りで歩いている 受付の女性に「大丈夫?」と声をかけられた

不運にも外は大粒の雨が降っており、私は小さな折り畳み傘をさして、できるだけ食材の入ったエコバッグの中身を濡らさないよう努め歩く
そして最寄駅まで朝来た道を戻って歩いてるだけなのに、道に迷い、スマホの画面をビショビショに濡らしながら地図を頼りに引き返す
一歩一歩が着々と私の体力を奪っていく
悪いことは重なるもので、ドイツ名物電車の大幅遅延も同時発生
線路前にある屋根のついた待機場は満員で、私は地下通路の中に避難して電車を待った

ようやく来た電車に乗り込み荷物を下ろし椅子に座る
途端、麻酔銃で撃たれたような強烈な眠気
朝から気を張っていた 体力も精神力もちゃんと使った1日だ
私は目を閉じた 目的地でなんとか目覚め、強烈な眠気のまま重い荷物を引きずり、路面電車に乗り換えどうにかこうにか家に着いた

食品は冷蔵庫・冷凍室へ、着替えは洗濯機へ、職場へ返すものは同じ袋にまとめて
家についたけれど、持ち帰った荷物を整理するだけで30分かかった

この日、私の住むシェアハウスの台所では同居人が明るい笑顔で私を労ってくれた
私たちは試験が終わった後、今日作ったコルドンブルーを一緒に食べる約束をしていたのだ
1人でいても失敗や後悔を思い出してしまう、移動中の電車でしこたま寝たおかげで、眠気も晴れていた
コルドンブルーのラップを早速剥がし、油を敷いたフライパンで揚げ焼きにする
お皿に並べ、生まれて初めての自作コルドンブルーを同居人と共に食べた

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同居人が白ワインをお裾分けしてくれた

分厚い豚肉に、スライスチーズとハムが挟まっている
味付きのパン粉が、もうほんとしょっぱくて、一口食べた瞬間、疲れた体と心にギュッと痺れさせる

「今日はご褒美ごはんですね」
そう言う同居人に、私は今日あったこと、感じたことを話した
「今日は始まりから終わりまで色々あったけれど、大きなケガも無く終われたから、いいかなって」
そう漏らす私に「素晴らしい!それだけで100点満点ですよ!」と声を掛けてくれて、私は少し救われた

そうして、1カ月後の5月半ば
試験の結果が自宅ポストに直接届いていた
結果がこの通りである

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〜結果発表〜

豚半身の大まかに切り分ける 82/100
骨を外した肉を基準通り細かく切り分ける 84/100
腸詰め 83/100
Rollbratenの製造 76/100
調理済み製品の製造 95/100

私はこれが届いたとき、平均的に見てこれがいい点数なのかどうか分からず翌日上司や同僚に見せ尋ねた
すると「nicht schlecht(悪くないじゃん)」的な反応が返ってきたので、恐らくまあまあの成績なんだと思う
実技試験の後には筆記試験もあり、その成績も一緒に届いたのだが、そちらはこっちよりもう少し悪かった 悲しい

これは職業学校の先生から聞いた話だが、この試験自体は基本的に人を落とす目的は無く、あくまで参加する事が重要らしい
何故なら訓練生が最終的に欲しい「ゲゼレ」の資格を得るための最終試験への参加条件の一つが「中間試験への参加」だからである
もっと言えば、中間試験には最終試験のリハーサル的な意味合いも含まれている
最終試験は豚の半身ではなく牛の解体 豚より更に大きい肉を扱わなければならない
もう少し採点もシビアで、成績が悪ければ落ちる可能性も十分あるらしい

だから、この試験で感じた沢山の反省を活かして来年の最終試験に臨みたい
私は絶対にドイツでゲゼレの資格をとりたい この資格を取る事が今の私の何よりの目標であり、これまで頑張ってきた自分への最大の贈り物になるのだ
来年の試験まであと1年 この1年で更に自分を磨き、胸を張って資格をとれるように邁進していきたい

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ソーセージ好きな人の不定期noteです
ドイツで肉屋の試験を受けた話|ソーセージ姉さん
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