第31話 赤ちゃんできないんです?



 クラリッサさんにそそのかされて、エース姉ちゃんを攻略しようの会、が生まれた。

 会員はクラリッサさんと、ぼく。


 ぼくがエース姉ちゃんと結婚したい願望を持ってる はずなんだけど、ぼくらをくっつけよう、というクラリッサさんの熱意は常軌を逸している。


 何だろう。厄介推しカプ厨なんだろうか。

 クラリッサさん、日本にいたらショタ系のV配信者の異性コラボとかに、ひたすらスパチャを投げてるかも知れない。


 ただ、相談相手ができたのはありがたいので、クラリッサさんがぼく付きのメイドさんなこともあって、ぼくは積極的に相談していた。


「エース姉ちゃんに、領民の前で告白して求婚するって、どう?」


「叱られるだけだと思います。真正面からは、受け止めていただけないでしょう」


 そりゃそうか。

 いい年して子どものたわごとを言うな、って体裁を取られるだろうな。


 ママ、結婚して! って言ってるのと同じだもんな。

 人前だと養子養母の関係が重い。


 なんでこんな発表、早まっちゃったかな。

 ぼくがこの領に来たときにはもう通知されてたから、仕方ないんだけど。


「じゃあ、既成事実を作るしか……ない?」


「現状では、無理だと思います。ご当主様はこの間、避妊魔術を使われておりましたから。……おそらく、ジルベルト様の相手をするときは、黙って使っていると思われます」


 え。そうなの?


「……避妊魔術って、なに? そんなのあるの?」


「あります。女性にしか教えられないですが。野盗や暴漢などに襲われたときに、望まぬ子どもができるのを避けるために、適性のある女子にだけ、教会でこっそり教えられます」


 初めて聞いた。

 小学校で男子には教えられない性教育の話、みたいだ。


 どうも、この魔術適性は多岐にわたって、強化魔術や水魔術、火魔術などでも似たような効果があるので、全部の属性をまとめて避妊魔術と呼んでるらしい。


 なので、結構な割合の女性が使えるんだ、とのこと。


「メイドたちも、からかいながらも避妊はしていると思いますよ? ……半数くらいは、領主夫人になりたくて使ってないかもしれませんが」


 この屋敷に来てからずっと搾り取られてるのに、誰も妊娠してない理由がわかった。

 みんな、それがあるから気軽にぼくを襲ってきてたんだな。


「まぁ、色々な魔術の作用で身を守るんですけど。種が畑に届かないようにしたり、身体の中の種を熱で潰したり。……女にとっては、自分の身を守る、大事な魔術です」


「確かに。それがないと、男は魔術で身体強化して、手籠めにし放題ですもんね」


 道理で、ゴムもないのにみんな平気な顔してるはずだ。

 この世界での出産は、魔術があるから産褥熱による死亡はほとんどないけど。


 みんな、あまりにも子どもができる危機意識がなさすぎたもんな。


「……じゃあ、エース姉ちゃんも、それを使ってるってことですか?」


「はい。この間ご一緒したときは、使われておりましたね。身体強化系で、種を受け付けないようにしていたんだと思います。……今、妊娠すると相手が誰か問われますから」


 あ、はい。そうですね。

 ほぼ女性しかいないこの屋敷で、誰を相手にして子ども作ったんだ、って話ですね。


「……姉ちゃんも、言ってくれたら良いのに……」


「男性に言うと、だいたいがっかりされますので。中にはショックのあまり、結婚を拒まれることも有り得るので。教会から口止めが言い渡されます」


 つまり、女性だけの暗黙の知識なのね。

 まぁ、そんな存在知っちゃったら、いくら襲っても平気だろ、と暴行事件を多発させる男が出るかも知れない。


 男性が知っても不都合、教えられても不都合。

 だから、女性が身を守る手段として、女性にだけ知らされる魔術なのか。


 存在自体を隠した方が良いからね。

 もちろん、夫婦や恋人とかの話し合いで、知ってる男性も多いんだろうけど。


「じゃあ、今までメイドさんたちが『子どもを作る気ですか?』って言ってたのは……?」


「大半ができませんね。もちろん、避妊魔術を使うかどうか……つまり、妊娠する気があるのかどうか、は女性側が決めることですから。妊娠したら、それはそのメイドが望んだこと、と見てまず間違いありません」


 なんてこった。

 完全にからかわれてた。

 良いのかな、と思ってた自分が呑気すぎて、手のひらで遊ばれてたことが恥ずかしい。


「だから、クラリッサさんも毎朝ぼくを襲ってくるんですね」


「いいえ? 私は避妊しておりませんが」


 ちょっと待って。

 ぼくが固まっていると、クラリッサさんはにぃ、とぼくを見下す視線を向けて笑った。


「ジルベルト様のような可愛い方の、種を拒むなんてもったいないではございませんか。私は、いつ孕んでも良いように、毎回受け止めておりますよ……?」


 大変だ。クラリッサさんが妊娠しちゃう。

 今のところその兆候はないみたいだけど、宣言はやばすぎると思います。


「なんでしたら、避妊魔術の感触を確かめてみますか? ……大丈夫です。妊娠しませんから。ね? ……先っちょだけでも、よろしゅうございますよ……?」


 スカートの両側を持ち上げて、脚を見せつけてくるクラリッサさん。

 大丈夫、と口では言ってるけど、怪しいことこの上ない。


 避妊するから、と言いつつもゴムに針で穴を空けられていそうな不安に襲われる。


「今まで避妊魔術の存在を知らなかったんですから、今さらではございませんか?」


「それはそうですね。でだから、これからは控えようと思います」


 今までを反省してそう言うと、クラリッサさんにベッドに押し倒された。

 もしもし?


 クラリッサさんはぼくを押し倒してまたがり、スカートの下のショーツを見せた。

 ぺろり、とくちびるを舐めて舌なめずりをしながら、ぼくを見下ろしてくる。


「逆ではございませんか? 避妊魔術の存在を知ったのですから、これからはむしろ、遠慮なくどばどばとメイドたちに注ぎ込むところでございましょう? ……控える、なんて私は許しませんよ……?」


 そう言ってクラリッサさんはぼくの胸をさわさわとなで回していく。

 た、確かに、理屈としてはクラリッサさんの言うとおりなんだけど。


 避妊とかの現実的な話をするとですね? 倫理観というものが蘇りますよね?

 ということは、クラリッサさんには聞き入れてもらえなかった。


 良いから出せ、とカツアゲされるように、舌なめずりしたクラリッサさんに襲われる。


「だめっ、だめ! クラリッサさん! 赤ちゃんできちゃうからぁっ!」


「ダメではございませんよ、ジルベルト様! もっと気持ちよくおなりなさい! 私が! ママになるのでございますよっ!」


 本当に避妊魔術、使ってますか?


 だめっ、そこは、そこは許して! 赤ちゃんできちゃう!

 そんなこと聞き入れもせずにクラリッサさんはぼくの上で腰を叩きつけ、笑顔でぼくを押し倒した。


「はぁ、はぁ……! 気分はどうです、ジルベルト様……?」


「だ、だめぇ……キモチ良いの、だめなのぉ……!」


 クラリッサさんは深く笑い、身をかがめてぼくの目元の涙を舐め取った。

 そのまま、ぐりぐりと自分から逃さないように、身体を押しつけ続けている。


 気持ち良いんだけど、さっきの話の後だと、ものすごく危なく感じます。



 だめです、クラリッサさん。

 お嫁に取るしかなくなっちゃうように、されちゃいます。


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