だから何度言えば
2020/2/23発行「痴話喧嘩は他所でやれ!」のブースト御礼だったSSです。
同じく槍弓に巻き込まれるロビンフッド(現パロの姿)がメインになります。藤丸♂もいます。
無駄に行動力のあるエミヤと、学習するロビンフッドと、何だかんだ傍から離れないクー・フーリンと、興味津々の藤丸。
エミヤは一瞬だけ登場しますがクー・フーリンはメッセージのみです。
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昼食の消化が終わり定時を目指す企業戦士たちが睡魔と戦う魔の午後三時。取引先へと持っていく資料を印刷していたロビンに、通りがかったエミヤが「ちょうど良かった」と声をかけた。
「ロビン、今夜は生姜焼きでいいか?」
「了解。あーでも今日は取引先からの直帰なんで20時過ぎますわ」
「そうか、わかった」
では、と自身の所属する経理部の方へと戻っていくエミヤとロビンを、隣で手伝っていたロビンの後輩・藤丸の視線が何度も往復する。
「……どうかしました?」
「え、いや、なんか同棲してるカップルか夫婦みたいな会話だなって……あれ? エミヤって、ランサーと付き合ってるんだよね……?」
経理部の鬼と呼ばれるエミヤと、営業部のエース・ランサーは幼馴染であり恋人関係にある。社内では有名だし二人ともから可愛がられている藤丸も当然知っていたので、その片割れであるエミヤがロビンと交わした会話に困惑の表情を浮かべた。
ロビンは「ああ……」と若干遠い目になりつつ、印刷の終わった資料をホチキスで留める作業に移った。あと30分で作業を終わらせて最終チェックを済ませれば社内の仕事を終わらせてから出ても十分間に合う。
その話は帰りにでもしますよ、と好奇心を隠し切れない藤丸を宥めてロビンは作業を進めた。
◇◆◇
「俺とアイツは学生の時からの知り合いなんですがね、まあアーチェリー部の同期な上に学科が同じだったんで自然と毎日一緒にいたわけですよ」
無事に取引先との打ち合わせを終え、社用車に乗り込んだ瞬間に「で、エミヤとの話なんだけど」と期待に満ちた目を向ける藤丸に苦笑しつつ、ロビンはそう切り出した。
「何でもかんでも自分でやろうとする男なんですが、まあなんだ……慣れてくると結構気安くなるというか遠慮が無くなるんで、彼氏と喧嘩した時なんかはよくうちに転がり込んできたんです」
彼氏がお迎えに来るまでが形式美なんですけど、とロビンはため息を吐く。
「当時は金の無い苦学生だったもんで狭いワンルームマンションに住んでたし、なのにあのでかい図体の男が部屋を我が物顔で占領してるしで……いや、礼として作ってくれる飯は美味いし家事全般やってくれるのは確かに助かりましたけど……まあ、かなりの頻度だったんですよ、家出。じゃあ同棲解消しろよって思いましたね」
ランサーとエミヤは大学進学と同時にランサーの親が所有するマンションで同棲を始めた。元々幼馴染であり、地元を離れる我が子を心配した両家の親はあっさりと同棲を許したそうだ。
「それで、ある日……まあテスト明けで疲れてたってのもあるんですが、一回だけアイツを追い返したことがあるんですよ。夜中だったしこっちは疲れてるし、ちょっと酔ってて。どうせすぐ彼氏が迎えに来るのにうちに来るなって」
「ロビンは悪くないよ……」
藤丸が心底同情の眼差しでロビンを見つめた。
藤丸からすればエミヤもランサーも頼りになるしっかり者の先輩なので想像することしかできないが、同期にしか見せない顔があるというのも理解できる。
「それからどうなったと思います?」
「え? うーん、素直に帰った……訳ないだろうし……あ! 一人でふらふらしてて事故に遭ったとか!?」
「ドラマの見過ぎだな」
ははっと笑ってロビンは首を振った。
「そっから二カ月、音信不通。彼氏と同棲している億ションにも、地方の実家にも帰ってこなくて、結構な騒ぎになりましてねぇ」
「そっちのがドラマより酷くない!?」
いくらガタイのいい男とはいえ、何かの犯罪に巻き込まれた可能性だってある。比較的放任主義の家族が捜索願を出す一歩手前まで行ったのだが、それを止めたのはエミヤの実弟で、「そのうちフラッと帰ってくるって」と当たり前のように言ったのだという。
「ど、どうなったの?」
「二か月後、土産片手に帰ってきましたよ。ちょうど夏休みだったんで、軽井沢でペンションに住み込みアルバイトしてたそうです」
――なんでアルバイト??
――夏休みにランサーと旅行に行く予定だったんだ
――あ、ハイそうですね実家に連れてくつもりだったのにとか何とか言ってましたわ
――そのキャンセル料を稼ごうと思って
キャンセル料を渡して別れるつもりだ、と切なげに視線を落とすエミヤに見えないよう、若きロビンは後ろ手で携帯を操作して未だに行方の知れぬ恋人を探し続けている哀れな色男に連絡を送った。
「…………」
「そんな顔にもなるでしょうよ」
「なんというか……お疲れ様デス……」
「ほっといた方が拗れて面倒になるって学んだんですよ、俺は」
それからは家出してきたエミヤを拒否したことはない。ランサーも同意見らしく、迎えに来るときは何かしらの手土産を持参するようになったのは大きな進歩だろう。
大学を卒業して、このまま厄介事(ケンカップル)とはおさらばか……と安堵したのも束の間、入社式では三人揃って顔を合わせるはめになった時点でロビンは平穏な社会人生活を諦めた。
「今のマンション、アルスターの旦那の知り合いが大家で、相場の半額以下で住まわせてもらってるんですよ。都心で駅近の2LDK。いつアイツが転がり込んできてもいいようにってアルスターの旦那が押し付けてきた物件なんですわ」
「迷惑料的な?」
「っすね」
じゃあ最初から喧嘩するな…と思わずにはいられないが、喧嘩(それ)が彼らにとっては一種のコミュニケーションであるのだと今は理解している。
「でも定期的にエミヤの手料理を食べられるのは羨ましいなぁ」
「まーそれくらいメリットないとやってられないっすよね……」
そうロビンが言った瞬間、ぽきょん、と車内に軽い電子音が響く。ロビンのプライベート端末からだった。
運転しているロビンに視線を送られた藤丸がそれを手に取ると、メッセージがトップに浮かんでいた。
『すまない、今夜急に帰ることになった。生姜焼きは冷蔵庫に入れておく』
『連れて帰る。原材料は冷蔵庫』
エミヤとランサーからほぼ同時に送られたメッセージを読み上げて藤丸は首を傾げる。
エミヤの方はともかく、ランサーの方の後半のメッセージはどういう意味なのだろうか。
「おおかた、途中のスーパーで捕まったんでしょ。で、アイツは一度オレんちに寄って生姜焼き作って冷蔵庫に入れておくつもりだけど旦那の方は一切作らせる気が無いので買った食材をそのまま冷蔵庫に突っ込んでおくな、という意味かと」
「すごい…! プロ翻訳者だ…!」
「なんのプロ?」
「バカップル二人に巻き込まれるプロ」
「…………否定できねぇなぁ」
たっぷりの沈黙の後にそう呟いたロビンに、藤丸はつい噴き出してしまった。その頭を小突きつつ、ロビンは行先の変更を提案する。
「帰っても生の肉があるだけなんでどっかでラーメンでも食ってきません?」
「賛成!」
今日は華の金曜日。明日も明後日も、なんと明々後日も休みの三連休である。
きっと仲直りをした恋人たちは熱い夜を過ごすのだろうが、独り身のロビンには知ったこっちゃない。
せいぜい次の喧嘩は遠い先であるといいなぁ、とぼやいて、美味いと上司が絶賛していた店へと車を走らせるのであった。